「帰郷」
川を眺めても
城を見上げても
庭に遊んで
山を望んでも
わたくしの故郷は見えない
わたくしは鳥でない
わたくしは羽を持てない
現実を遠くに押しやったって
恋しくなるだけ
泣けども水滴の音は
哀しい唄は
誰一人目の前に連れて来られない
なんたる寂しさ!
わたくしは胸のぬくもりを初めて感じた
氷を両手で懸命に掻きわけて
莟の夢を覚ますぬくもりだ
そのぬくもりは
いつもあんなに近くあったではないか
父よ
母よ
兄よ
そして
幽明をともに生きる詩人の兄よ
わたくしは結局
皆んなを心が欲していた
ひとりたりとも欠けてはならなかった
わたくしは例え震えようが悲しもうが
皆んなを捨てる事は出来なかった
だって こんなにも 雨が降る
たとえ排気ガスに塗れていようと
どんなに人々の息を吹きつけられようと
雨は必死に土を潤おそうとしているのだと感じていてください
どうかそれを、望んでいてください
わたくしは
もうすぐ帰ります
「帰郷」