「古里」

 無人駅の待合室にて
 切符を買う小銭の音
 嬌声
 歓声
 そして悲鳴
 甲高くほとばしる
 硬貨の箱に入れられる音
 静けさのふくれた腹に
 音は 呑み込まれる
 音たてし者は
 椅子に座れる無言の存在たちに
 眼玉をぎょろり向けられる
 暗がりの中
 眼玉がぎょろぎょろ動いてやあがる
 ヒソ、とも
 コソ、とも言わないで
 音を立てるを罪でもあるかのように…
 嗚呼人がいないとはこういうことか
 何処までも哀しき現実の露呈
 かつては人有り栄えし処が
 古い記憶を悪にして
 何を狙っているのだろう
 ここは夜の待合室
 みんな何を待つのだろう

 出発のブザーの轟き
 遠くなる駅のカンテラ闇夜に火灯り
 一縷の燈が流れる
 いつかは願いを込めたであろう、その炎にだれかが…
 まだ誰かの願い吹き消えぬか
 はたまたなにものかが暖をとるためか
 無人駅は今日も在る
 ものをも言わず 寒風に佇んで

「古里」

「古里」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-28

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