古書屋敷殺人事件【二次創作】
注意事項
これはボーカロイドの『古書屋敷殺人事件』の二次創作です。
この作品は原曲様の意味の深い歌詞と作者自身の想像でできています。
突然、小説を書く為に必要だったオリジナルキャラが出てきます。
少々暴力的な表現が含まれる可能性があります。
序章
―――――ひばり
『ひばり、ちゃん』
小さな部屋。雨が降っているせいか、部屋の中は少し薄暗かった。
部屋の真ん中には白い布団が敷いてあり、薄暗い部屋の中では、その白さが一段と輝いてみえる。
布団には色素の薄い、伸びきってしまったのか、なだらかな長髪の男が寝そべっている。
その男の親族らか、布団を囲む様に、十人程大人がいる。
中には、すすり泣きをしている者や、諦めた様に俯いている者が多かった。
男の顔は寝ている布団の様に白く、手は痩せて、こつばっている。
男の痩せた手は、傍に座りこんだ、少女の小さな手にのびる。
「叔父さん……」
蚊の鳴く様な声で少女は呟く。少女は男の痩せた手を小さな手で握り、そのまま黙って、声を出さずに俯いたまま、泣いた。
男の手は氷の様に冷たかった。少女にも、男にも、もう時間は
無い事が分かっていた。
『いいかい……もし……辛くなったら、彼奴に、頼るんだよ……』
男も、小さな声で振り絞る様に、少女に云った。
それを見ていた大人達は、涙を流している者が多かった。
少女は涙で濡れた顔を上げ、男のか細い、今にもぷつんと切れそうな声を聞き、しゃくり上げた。
少女は、何か云おうと口を開けたが、男の手が力無くだらりと下がり、息が聞こえなくなった為、大きな声で泣いた。
部屋が小さい為か、少女の泣き声は部屋中に響き渡った。
帝都、東京の何処か。
雨が降っているせいか、部屋の中は少し薄暗かった。
第一章-染ミ食イ書店員-
6月だからか、雨が降って、じめじめした日が続いている。
この季節は、外に出られないから本が読める。それはありがたいのだが、夜は寒いし、何より、紙が湿って本が読みにくい。
女学生、花本ひばりは6月という月が誰よりも鬱陶しい季節だと思っていた。
「何か、面白い事でも起こらないかなぁ……」
ひばりは、ぽつりと呟いた。
最近は雨ばかり降っていて、こちらの頭の中までじめじめしそうだ。
時計に目をやると、長い針は9を、短い針は、長い針の4分の1の6を指していた。
もうそろそろ、行かなければならない。
ひばりはちゃぶ台の前から立ち上がり、出掛ける準備をした。
*
外に出ると、やはり雨が降っていた。
ひばりは傘を差し、表通りに向かった。
帝都、東京。神田の神保町は、日本屈指の古書店街だ。
ひばりの家の向かいも、小さな古書店で、ひばりが生まれる前、五十年程前から、同じ店主が切り盛りしている。
表通りに出ると、雨が降っているのにも関わらず、多くの人が往来していた。
ひばりはその表通りを向かいに渡り、交差点も向かいに渡る。
表通りを進み、最後の角を曲がってすぐの古書店に入った。
「ひばりちゃん。いらっしゃい」
見渡す限り本ばかりだが、店の奥、小さなカウンターに、男が座っている。
「雪次郎さん。こんにちは」
この古書店は行きつけの店で、毎日の様に通っている。
その店員、雪次郎とは、知り合いなのだ。
「はい。注文されていた本だよ」
雪次郎は引き出しの中から小さな、新書程の紙袋を取り出し、ひばりに渡す。
「ありがとうございます!」
ひばりは笑顔で、嬉しそうにそれを受け取った。
「これから、行くのかい?」
「はい。どうせまだ寝てるだろうけど」
「ははは。頑張って」
雪次郎はひばりに、にこやかに右手をひらひらと振る。
「ありがとうございました」
古書店を出て、表通りの横丁に入る。
ここから十分程の所に、目標の家がある。
ひばりの本当の目的は、その家だ。
横丁を進んで、住宅街に入る。ここいらは、平屋が多く余り大きな豪邸の様な家は無に等しい。
云うとすれば、神保町の南にある、有名な―――……
そうこうしているうちに、目的地の平屋に着いた。
木製の塀の中に、平屋が建っている。
引き戸の横にある小さな黒い表札には、白く『久堂』の文字が縦に彫られている。
ひばりは何故か緊張気味だった。
引き戸に手をかけて、右にスライドさせる。
ひばりは、いつもこの、ガラガラと云う引き戸の音で緊張してしまう。
玄関を入ると、右には便所、左に襖がある。客間だ。
便所の横の戸の中には洗面所があり、浴室がその奥にある。
玄関を進んで行くと居間があり、目の前には三帖の寝部屋、左には五帖の書斎がある。
ごく普通の平屋の間取りだ。
だが、問題は家の扱い方なのだ。
居間は特に酷い。真ん中に置いてある長方形で木製の短い脚の小さなテーブルは古書やら小説雑誌、新聞やらで溢れ、ソファの脚下も本で溢れていて、どこから片付けていけばいいのか分からない位だった。
恐らく、この人物は、徹夜をしたのだろう。
ひばりは、怒りが込み上げてきた。
その怒りは、その人物がいつまで寝ていると云う事に向けてなのか、それともこの本で溢れかえった居間に向けてなのか、ひばり自身、分からなかった。
「い、いつまで寝てるんですか、久堂先生!」
ひばりの怒りは頂点に達し、大声を出した。
その男――久堂――は、徹夜のせいかソファで寝そべっていて、無造作に毛布がかかっている。
「勿論、眠気が無くなるまでだよ。ひばりちゃん」
「前にそんな事云ってほったらかしてたら、先生、何時まで寝てたと思います?午後6時迄寝てましたよ!?」
「その時はその時。今は今だよ」
久堂はソファから起き上がり、座り直した。
「また屁理屈云って。そんなんだから友人が少ないんですよ」
ひばりは、わざと皮肉のように云った。
しかし、彼には通じなかったらしい。
「ふん。そういうことばかり云う君も、どうせ友人なんかいないんだろう?まあ、別に私は友人がいなくても生きていけるからな」
ダメだ。今日も負けだ。
ひばりは諦めて、台所に向かい朝食の準備をした。
久堂は、ひばりがついでに持ってきた新聞を読んでいる。
朝食が済んだあと、久堂は書斎の方へ入っていってしまった。
することのなくなったひばりは、先刻まで久堂が座っていたソファに座り、先程雪次郎のもとで買った本を開いた。
古書屋敷殺人事件【二次創作】
少し話を変えてもう一度製作中。