リフレクション
ワープ
どんなに手が大きくても
一握の砂は一握
あなたは海の見える生活をする
わたしは海へ逃げる空想をする
どの現実に生きていても
いつか目覚める時が来る
音楽が途切れるから解る
一握でも砂は砂
枯れた花が挿さった花瓶に入れておいて
死に際に一粒ひとつぶを眺めよう
その頃には海を見る準備ができているから
どの海もわたしを迎えてくれるだろうから
遊具
恋をしているのはお前だけ
街中でぽつんと揺れるターザンロープ
シーソーが消えた公園で
恋をしているのはお前だけ
本当は夏に匂いなんてない
夢に匂いがないのと同じで
言葉のあやにしがみついて
恋をしているのはお前だけ
秋が来たら
稲穂の海を歩こうよ
アメリカで見たトウモロコシ畑よりも窮屈
鬱々とした黄金の中でふたりきり
息ができるのはあなただけ
息もできないのはお前だけ
ターザンロープから地面へと
子どもが軽やかに飛び降りる
はやく全部捨てろよ
気持ちを確かめる術はそもそも持っていないけど
はやく恋を捨てろよ
僕だけがあなたの幻想を抱いて
夏に沈む
いい子で待たないもん
光れない蛍がいつもそばにいて酸いも甘いも苦いも見てた
肩が触れるくらい近くにいたこともメロンソーダの泡なんじゃない?
稲妻はたしかめられない思い出を取り出すときの頭痛に似てる
ニューロンに都合の良すぎる夢ばかり詰めた分だけ伸びる朝顔
足指の爪に塗り込む天の川君に見せない笑顔はないよ
浴衣着の人が誰かを待つ駅で暗記シートを落として拾う
さみしいと言えばいいのにぶらんこを漕ぐのが得意なだけのおこちゃま
掻き傷のような夕立ち本当は飛んでいきたいくらい大好き
黄鶴楼
思い出す時にはもう
ゆがんでいる
水に波紋が広がったように
すべて見えなくなる朝
写真でしか見たことがない
砂漠の国よりも
ありふれた日本の田舎の土地に
あなたが立っているところを
想像する方がむつかしい
ここではない場所で生まれたから
ここではない場所で死ぬのだろう
日本ではどの街並みもたいして変わらない
農村には農村の
都会には都会の
普遍的なイメージの中で
大半は死ぬことができる
けれど確かに違うものなのだ
日本人が住んでいる土地と
わたしが住んでいた土地と
あなたの住んでいた土地は
どうせならベッドの上ではなく
土に伏して死ぬのがいい
あなたのそばで死にたいなどという贅沢は言わない
そんな願いはもう
地の果てに棄ててきた
リフレクション