死んで貴女の涙を知る

加月りよ

 貴女をずっと見ていたよ。
 僕が緊急入院しそのまま死んで、葬儀を終えるまで。
 貴女は気丈に振る舞い、泣くことはなかったね。強い人だから、決して涙を見せないことは知っていた。突然すぎる僕との別れを、しっかり受け止めていた。
 見ている僕が寂しかったよ。泣いてくれると思っていたから。
 だけどね、死んでから知ったんだ、貴女の涙を。
 貴女は独りになった時に、泣くんだね。
 人知れず涙を流す。
 そうやってきたことを、死んでから知ったんだ。
 僕は貴女の気丈さを、誇りに思っていた。
 ただの愚か者の視点だった。
 貴女に弱さだってあるし、悲しくないわけがないんだ。
 何十年と一緒にいて、貴女の何を見ていたんだろうか。

 貴女は日常に戻り、僕のいない食卓に普段のように料理を作った。
 一人分の食事を並べ、それを見た貴女の肩が震えた。小さく唇をかみしめ、一気にあふれる涙を両腕で覆う。
 そうして、僕の名前を何度も呼ぶ。

「ここにいるよ」

 そう答えて、抱きしめてあげられたら、どんなにいいだろう。
 貴女は確かに強い人でもあるんだ。人知れず流す涙は生きる糧となる。
 僕がいなくても大丈夫。どうか貴女らしく生きてほしい。次に会う時まで、ずっと待っているよ。

死んで貴女の涙を知る

死んで貴女の涙を知る

死んだ夫視点 気丈な妻の弱さ 人知れず涙を流す

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-19

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