確立されない詩。

あさい寝床

夕空は相容らずとも受け入れて、コントラストを引かずに溶けた。
過ぎたればあさい私も辿り着くのに。

濃淡は移り変わり続ける。
言い表せるほど確立された心象風景もなければ、
自分で塗った色すらもわからない。
手を伸ばした先に(しるべ)はなく、
刻んでくれる座標軸もない。
故にここが何処にあるのかわからない。
何処であるのかわからない。
誰にだって切り抜けられる安楽な道は、
場所を選ばず存在出来てしまうのだろうか。


わからなかったから選ぶようになったのか。
選んでいたからわからなくなったのか。

情動に優先順位を付けること。
醜さを創って類うこと。
計算高い優しさ。
感情を精査すること。
言葉の不一致に悲しんだこと。
強がって抉り続けること。
不和を好んで課したこと。
無差別な投影。
矛先を選ばない良心。
生活は壊れていなければならないこと。
理由と行動が結びつかないこと。

須く時系列の情報を持たない記憶たち。

少しずつ欠けていく。
緩やかに落ちていく。
歩む(ごと)に零れていく。
水玉を細い矢で貫き続けるが如く、
感知出来ない速度の破綻劇。


言葉から真実の境界線へ、
倒錯した手が伸ばされる。
虚構すら昏く拡げる今際の陽。
抗わない縁が解け、重なり合い、
引き剝がすように明滅する。
濁してわからなくなった意味を求めて、
零して足りなくなった中身を求めて、
影たちは手を取り合うように侵し合う。
いつしかそれは際限なく繋がり、
温かい闇に隙間なく満たされる。
その僅かな温もりは、
かつて陽光の下にいた言葉があるせい。
もう揺らぐことはない。
どこを見渡せど何も見えなくなり、
暗闇となった影たちは各々の消息を絶ち、
やがて私は全てを忘れる。
そうして言葉すら選べなくなった亡者を、
私は予め殺しておきたい。
既に死に題名を欠いていようと。
どうか、過ぎたる前に確立して欲しい。


詩の終わりは思考の終わりではなく、
どこにも届かず、誰とも向き合わず、何ひとつから過ぎ去れないまま、
朝が夜にならずともひとり回り続ける。

確立されない詩。

確立されない詩。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-19

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