作品集
#1
あるいは、とあなたは差しこむものでしょう、そうすること、そうあることの疑いもなくあなたは範唱されることでありましょう、踏みつけられたいくつかの背表紙のいくつめかが焼かれたと記憶している、そのようにおっしゃいましたか、あたたかさのきざしひとつきりさえ知らぬていを通しましたのにこちらは、だのに、すべてはふいに、もう還ることはない、二度とはかえらない
肺呼吸の演繹的漂化に浸透率の錯視的無限的極性を架空したのです
一回性の真実でしたら野の花のように鏤められて其処此処に在るでしょう
おさがしなさい
気取られてはならない
魔法に近似の共同幻想の正常性の視認境界と輻輳された伽藍核及び種種雑駁に関する二、三の錐形論文を預かっております
往時の被随意性囲繞抗体群を可視化し『絃』の可読律上へと散置しております
透過症例の階配写本後項に掲げられた釈はその過半が散佚しましたがいまだ認知の埒外を浮動するとされる頁の存在も目されております
『夜』の攪拌束の漸減著しく復元の目処も立たぬ有様です
#2
月ふるまひるの揺籃ふれる鍵はふれる水はふれるあふれる
鶸に詩雨に青みちかけたちうる碧碧透化症かげはまだき
架空空の際際謬性おりふれ無限律の過過のむかひか
#3
地平のいくつかひかりのあわあわ水源、とうめい、透明わたしのとうめい綴りの寝台みずみずかぞえないでひらめく、ひらめくみたいな深呼吸の夏のとおくつめたさって鍵のついたままでだってひずむの、あなたはわたしのてのひらしずけさためらいことばをうらやむしのばすあなたはわたしのかたどるまもないからっぽきどりをうらやむしりたいしられたくもないの好きとかってわらって、おはなだってきれいですとわたしたちはわらって、そんなんなんでもなかったみたいにならべられた窓のむこう彗星を描いて、わらって、隣室のくらぐら、想像したがる果ての果ての果てのずっとここでふたりで
#4
ひかりの落ちれば寝台づたいに永遠観測できたふうなくちぶりっておかしい
感覚されたいわたしはあなたは遠くとおく咲いて記憶なんか知らない
あやふやのあやふやってかわいいって世界中に吐きたい
真実にちかい隣接するかぎりなさの透明感をこそ紙面に投下したい、ですか
追随する言語間の白と白でなさの淡く滲む程度には軽薄と非合理と無神経とを往き来したい
だれかにちかしいだれかのゆびさき剝れかけた春のまんなかに似せられ
想像しようのないものばかりをしまって見ないの器官たどたどしいから嫌いになんかはならないよなれない
水果ての朝に忘れるって約束をしました(されたさって忘れるってできなさとわかちがたくないとか
ほほえむくらいに握りしめて肺臓鉱石っぽさのからからと箱詰めはいつまで
きれいなふうです地表ぶったどこか地図のうえのうらの記さないで燈して
つじつまあわせのがらすのあわいにわたしだけがいらない
いらないばかりのことばのあなたにわたしだけはいわない
#5
琥珀状の永遠のいくばくかが此岸に配されたという認識で在りました 言語体間の親密なまじわりは果てしなく移行は遷延するばかり 私たちはわたしたちのどうにもならなさってものをゆびさきに玩んでねむるようすでおりましただってしようのなかったものだからほかにしようがなかったしんぱいなんかはしなくていい? くすくすみていてあたしのがらすはそれだからかわいい かわいいって憂鬱? ねえききたい? ききたい? そんなんならべてせかいだって言いたいだけなのどうせならってききたい? 言いたさの根源ってふつふつするみたくわかんなくてもてあまします知りたい知りたさ刺しとおせないで空欄置いてく恒久回路界隈の可塑性がらみのあれこれぜんぶも置いてくって報告ついでだっておこらないでねこがそこでないてる だから 再演さんざめいてしうしうってしてるの ひとりで まひるにうかんで線と春と水面とらえがたくかってだってうるさい うるさい ねえ わたしがきらいでわたしにならない粒子群の可読性だけを蒐め点綴し収蔵してくださらない 魔法的でいいよねってしったふうにわめいて 夜のなかのひかりの ひとつだってすきだよ さめるくらいつめたい あますくらいとかして そうして寝室の半分程度の螺学的空洞をつうじてあちらがわをのぞきこむことのかなうのです(ようやくです) わたしのかけらのだれかの月の しらべてみたっていらないだけじゃない 写本の一節なぞってみたってどこにだってふれないきりじゃない
#6
拾ったあなたは式のなか、つらつらとしたやかましさを湛えやがて潰えました
痕跡は曖昧で、夜の淡く地表を輪郭するさまを思わせました
「ごめんね」
もっと、はやくに来ていたら、そしたら何処にもなくなるみたいにあなたを忘れるきょうなどありはしなかったのに
わたしは〈月〉を綴じ、硝子越し、みっつの篝がぼんやりとした音階を奏でる系を観測するのでした
ひかりのとりどり、いくばくか、さいはてまがいの永遠が時間を濡らしはじめました
世界はいくどめかの終焉を迎えつつあるのでした
わたしは花岸のただなかに、いつしかたたずみすべてのあなたにさよならをくりかえしていました
「むかえにゆくよ」
わたしは約束したのでした
わたしはあなたをあつめはじめました
あなたはあなたの記憶の記録なのでした
あなたはそのほとんどが透明にちかいすがたをしていました
あなたはわたしのからっぽをたやすくとおりぬけてしまうのでした
わたしはあなたをあつめはじめました
ばかみたいな時間、きっとそうしていたのでした
#7
風の名ひとつとどめがたくゆきざりに夜を解いては
束ねられたふうなひかりひもとけに聲形つつみこんで
深化症わたしきりをためらうままでも
わたしはわたしのかけらのかすかもかすめないできょうのあすのあなたばかりを見つけて
#8
昨日空だったもののくるくると振れるようなかたちでわたしについてくる
月の石の城の配架の脈絡のなさと回遊性に似たところがある
虚構についての切れ切れの語則に通ずるふうでもある
ふたつおりのひかりがまだ見られた過去の二三は床材に縫いこまれている
色調はとらえがたく淡い粘性を帯びた夜の大気にまがえられてつらなる
いくつかの観測を持参した尖晶石内奥にとどめる約束だった
たしかめることはゆるされていない
窓辺に時のみちることはなくだから音だけをすきでいられました
機構は嘯きにもとづいて削りだされました
架空の元素に依った星の精製過程が想起されたそうです
なぞらえられても世界は世界でかわらないじゃない
あの子は風を信じておりました
真実以外の無数の組みあわせからなるわたしであったことでしょう
作品集