13 - 1 - 小心翼々。

貴方は与り知らないでしょう。
私の絶望も優越も罪悪も哄笑も劣等も切望も沈黙も。
身勝手に全てを投げ捨てているというのに、貴方を嫌悪していたのかもしれない、この醜悪も。
言いませんでしたから。
貴方とは、音と言葉のように、言葉とその意味のように、根底から違うのです。
たとえ貴方がどう感じていようと、わかりあうと錯覚することすら私には出来なかったのです。
私は、貴方の青天に霹靂など落とさない。
そんなことを(さと)られないように、訊かれたことには概ね答え、手の感触に一切の反応をしないようただただ空を見詰め、その時間をやり過ごしました。

私には貴方の動機がわかりません。
まかり間違えば、私は貴方に対して軽蔑や怒気を感じてしまうでしょう。
うっかり糾弾してしまうでしょう。
一体何故なのか、と。
自分は破綻者の代弁をしているのだと、何故その嘘を明かしたのか。
むき出しのまま誤謬を恐れず、何故その言葉を使うのか。
その危うさ軽々しさに躊躇(ためら)う言葉を口にしないまま、何故その質問をするのか。
間髪入れず繋げたその意味と意味とを、貴方は本当は解していないのではないか。
貴方のことがわからない。
きっと貴方も私のことがわからない。
だから貴方は口付けを願い、顔を寄せるのだ。
肩に寄りかかり、腰を抱き、手を握り、体を撫で、私の髪を触る。
軋むように体温の差を感じ、全てが冷えていく心地がしました。
自分の鼓動すら感じられない程に、心は白々しく凪いでいました。
私には、貴方の言動が度し難いことのように思えてしまうのです。
貴方のことを、そういうものなのだと納得し、懐疑なく心落ち着かせることが出来ません。
そして挙句の果てには、貴方に対して口にした言葉の数々を憐れみたくなってしまう。
戯言だけを口に出来ていたのなら。
―――許されない糾弾を、今してしまいました。

貴方を傷付けない沈黙を守ることが出来たのは、常識的な想像と判断の下でしか、嫌悪する選択をも考えられない人間だからです。
私はその感想も、必要とあらば外して行動することが出来るからです。
あのままどこまでも犯され殺されていたのだとしても、本性だけは(さと)られたくなかった。
代替は可能なのか、そうあるべきなのかという議論ではありません。
それを礼儀だと思ってしまう保身と小心故に、私は偽ったのです。
ただただ、貴方と私は別の人間だと感じるだけのことなのです。

13 - 1 - 小心翼々。

13 - 1 - 小心翼々。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-17

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