夫婦星
宇宙でのであい。SFです。
宇宙の旅は、どのような異星人に出会うことができるか、それが究極のたのしみである。宇宙に浮かぶ未知の星では、どのように子どもを残しているのか、地球と同じような二つの性からなる異星人がいるのだろうか、楽しみは尽きない。どこに必ずあるはずである。しかし地球と同じ程度に文化が発達している星はまだみつかっていない。動物のいる星はそれなりにみつかっているが、まだ宇宙旅行どころか、言語も発達していない状態のものが大半で、雄と雌がなく、自分のからだの中で作り出した卵を育児器官で発達させ、産み出すものが多い。生殖嚢では自分の遺伝子をもった細胞から卵を作るので、クローンに近い。まれに、地球と同様二つの性をもつもっていても、多くは両性具有である。
地球でも両性具有の動物がいるわけだが、人間は単一な性の生殖能力しか持たない生き物に進化した。いま文化の進んだ地球人の子供はすべて人工的な環境で生まれ育てられる。二つの性は楽しみの道具になり、金銭的なやりとりで成り立つ社会構造になった。結婚は保存してある精子と卵子を受精させることを意味し、人工子宮の中で育てられる間、二人で費用をまかなう義務が生じる。生まれてからは国が子供を引き取り、教師、すなわち国家公務員である母親と父親によって育てられる。子どもはその子に向いた職業に就くべく育てられ、大人になれば稼いだ金で、自分の配偶子、卵か精子を保存し、結婚相手を待つのである。子どもを一人生ませた、すなわち結婚した男女には国から高額な謝礼金が支払われ、それぞれ次の結婚相手が現れるのを待つ。性の行為は高額な遊びで、求めた方が求められた相手が受け入れた場合にはお金を払う。今、男が女に支払う率は、その逆とほぼ同じである。こうやって地球人の社会は動いている。
私の趣味はセックスではなく旅行である。普段は宇宙船の技師であるが、一人乗り宇宙船の設計図を完成させ、安全性に優れたものだったので、かなりの特許料が払われ、精子バンクに預けた精子から10人が生まれている。特許などを持っている男の精子をほしがる女が多く、私の精子はEIランクなので10回結婚を申し込まれ、国に10人の子どもを提供したことになる。そこでも金が入る。それで、自分がつくった一人乗り宇宙船で、時間のあるときには宇宙を旅するという、はたから見たらちょっと贅沢な遊びができる身分である。
私が設計した宇宙船は、艇内の酸素を無尽蔵に作られる装置をそなえている。これは地球最高の発明である。実は原理がわかる前に偶然にできてしまったのである。
ブラックホールはホールの反対側に、反物質があるとされている。ホールから反物質が我々の宇宙に流れ込むと、ブラックホールの大きさに相当する、我々の宇宙の一部が消滅することになる。しかし、ブラックホールが生じると、ブラックホールの大きさに見合った物質が我々の宇宙に出現し、ホールの反対側には、同じ大きさの半物質の固まりができているので我々の宇宙が消滅することはない。ブラックホールが我々の宇宙内に作り出した、新しくできた物質は星にもなるし、空間に浮遊するだけの粒子類となる。とすれば、小さな小さなブラックホールを造ることができれば、そこに新たな物質を生み出すことができるのではないか、そんなことを考えて、酸素、水素発生器を作っていた町工場の青年がいた。日本の三十世紀後半の頃の話である。その青年は生命科学の大学で植物分子生物学を学んで、父親の町工場を継いだ。
そのころ車の動力は水素だった。水素や酸素を作る機械はどんどん小型化していた。自然界で酸素を作る植物の仕組みを学んだ彼は、空気や水を使わずにそれらの元素を作れないか考えた。全くのアナロジーで、光を吸い込む植物、光を吸い込みとらえるブラックホール、そこに、光と原子の関係を考えた。光をとらえる穴があくと、物質が生まれる。いや、光で小さな穴をあければ向こう側に反物質が生まれ、こちらに物質が生まれる。強い光、レザー光でも足りない。
植物は光を利用してものを作り出す。葉緑体があり、クロロフィルがある。そこで素人はまちがえる。緑色が必要だと思ってしまう。葉は緑の光線を跳ね返しているから緑色なのだ。緑色のエネルギーを使っているわけではない。クロロフィルなどが実際に光の中で利用しているのは、赤であり、赤紫である。植物にあるカロチノイドは青緑の光を利用しているが、真緑はつかわないという。緑はエネルギーが少ないからだと言う話もあるようだが、理由はまだよくわかっていないらしい。
彼は、町工場で水素酸素発生装置を作るかたわら、自作の装置で、そのような考えをもって物理実験をおこなっていた。やっぱり赤や紫などエネルギーの強いものが重要なのだと思い、赤などの光と原子の関係などを考え、赤色光を真空状態を作る容器の中にあて、真空に何か変化があるかみた。波長を細かく変えて見たが、全く反応はなかった。あるとき、光を出す装置のメモリを180度間違えた。緑色の光をあてた。もちろんそのときはなにも起きず、元の赤に戻したが、ガラスの真空容器中に何かいつもとは違う雰囲気を感じた。そこで、彼は緑色の波長を細かく変え、あててみた。するとある波長の緑色の光をあてたとき、緑色の光が真ん中で消えていた。真ん中まで細い緑の筋ができ、その前にはすすすまなかった。緑色の光線の先をガラスの容器のわきからルーペで拡大してみた。
針先よりも小さな黒いものが浮いていた。
5分ほど見ていたら、急にガラスの容器の中に水蒸気が立ちこめた。てっきり、真空がきれたのだとおもったが、ポンプは正常に回っていた。それはポンプが排出しきれないほどの水素と酸素が真空容器中にあることを意味していた。
緑色の光線を止めると、水蒸気は容器の黒い点のところに吸い込まれていき、黒い点とともになくなってしまった。
次の日、ふたたび実験を行う前に、真空容器の中のあの小さな黒い粒が小さなブラックホールだったらどうだろう。水蒸気が吸い込まれていったじゃないか。
そう思って、黒い点が現れたときの波長の光線を真空中にごく細いビームで流した。すると、その先に黒い粒があいた。超拡大能力のある小型カメラをそこに向けると、コンピュータ上のその粒は黒くもやもやとうごめいており、その先に酸素水素の雲が現れ手いることが示されていた。ブラックホールが酸素水素を真宮中に放出したのだ。とすると、黒い粒の反対側には反粒子でできた酸素と水素が存在するに違いなかった。どうして黒い粒が生じたのか原理はまったくわからなかった。偶然の産物である。
それを彼は、まず製品にした。頑丈な鉛の箱の中を真空にし、そこに緑のある波長のビームを当てると、箱の中に我々の宇宙の原子、分子が現れる。箱いっぱいにそれが充満したらそれを利用する。同じ箱をいくつも作っておけば絶えず、原子分子が供給される。原理の探求がなされたが、専門家の誰しもがさじを投げ出した。しかし、その装置は実際に酸素水素を作り出す。国は彼に特許を認めた。
それが、ブラックホール形成装置である。下町の男が考えついた装置は進化し、特に宇宙船につけるのは真空装置を必要としないので、楽である。宇宙船の服側壁に装置が組み込まれており、真空にするときには装置の小さな穴のハッチが開き、複数の緑色のビームが装置内に発射され、ブラックホールがたくさんできて、物質が満たされると、集められ、酸素、水素などそれぞれ分けて濃縮されて、貯蔵タンクに蓄えられる。
発明した男は下町の黒い太陽とよばれ、いまも英雄である。名前は草片五郎といって、遠い私の祖先である。私の名も草片雅人という。
彼の発明の前に、反重力物質が同定され、超光速の宇宙船が開発されていた。ただ艇内の酸素など物質の供給装置がとてつもなく大きく、宇宙船そのものが大きくなければならなかった。自分用のものを持つのは難しく、一般人は団体で太陽系内の旅行ができるていどで、研究者たちが恒星間旅行にいくにしても、大きな船にもかかわらず、操縦クルーが二十人、研究者も十人ほどしか乗れなかった。
それが、黒い太陽のおかげで、宇宙艇が小型化して、宇宙への探索が容易になっていた。すでに宇宙局は何艘もの船をとばし、いくつもの生命体のある星をみつけている。
しかし、一人で動かせる、小型で高性能の恒星間宇宙艇はなかった。私が一人乗りの宇宙船の開発ができたのも、先祖の草平五郎の酸素発生装置をさらに小さくする事ができたこと、機能も改良し、酸素水素だけではなく、他の分子を合成することができるようになったことから、地球上の多くの物質をつくることに成功したからである。新しく開発された黒い太陽は、旅行中にいつでも食物など必要なものをつくることができるのである。この発明は、宇宙船だけではなく、地球上でも、永久に物質の枯渇をなくすことになるもので、大昔から続く、ノーベル物理学賞を授与されるにいたった。ちょっとした有名人になったわけである。
そういうこともあり、私には比較的自由な宇宙の旅が許されており、今回も、さらに改良した個人用宇宙船の性能テストのため、三ヶ月の宇宙旅行にでた。
新型船は半年ほどの旅が可能である。銀河系の中心に向かって片道一月でいけるところまで行って、一月ほどぶらぶらして地球にもどるつもりででかけた。途中でおもしろそうな星があれば、しばらくそこに滞在して帰ってくる。
銀河系は渦状の星雲で、直径は十万光年あると言われている。真ん中の厚いところは直径が1.5万光年、地球からだと射手座方面に中心がある。
準備を整えた私は、新型の小型宇宙船で銀河の中心に向かって出発した。一人で登場していても、地球とは絶えず交信ができ、それだけで、地球上に張り巡らしてある通信網にアクセスできることから、知り合いとも自由に話ができるし、SNS上でニュースや映画を楽しむこともできる。地球にいて生活しているのとほとんど変わらない。新しい出会いという楽しみを前にしてもいるので、退屈などする暇がないのである。
地球年の一月経て到達したのは、3万光年先までである、1日で約1000光年ほどであるから、時速40光年以上、実に光の40倍の早さである。
地球のある区域に比べる、星の密度が高く、恒星に出会う確立が高い。ちょうど30日目に船を止めた近くに、一つの恒星があった。しばらくその星でも探索して、地球に帰るという予定をたてた。船を光の距離で8分ほど離れているところに停止させた。距離にすると1億5千万キロ、ちょうど地球と太陽ほどである。
その恒星は、同じ周期で自転している二つの惑星を持っていた。観察をしていると、二つの惑星がそれぞれ反対周りで恒星を回っていることがわかった。データからコンピュータが導き出した結論は、恒星は太陽タイプで、二つの惑星はほとんど同じ軌道で、ちょっとずれているだけである。したがって地球年で言うところの年12回ほどすれ違うことになり、すれ違うときに千キロほど離れているだけという、恐ろしく近いところを通る。互いの引力で引き合って衝突する距離なのだが、衝突していないというのは、何か他の因子があるのだろう。軌道計算をした結果、私の滞在中に、その接近があることが示唆された。しかも数日後にはじまる。とても面白い現象をみることができるわけだ。
自分の船をすれ違う場所見ることのできる位置にとめた。宇宙艇を、光速で1分ほど、地球から月ほどの距離だ。これならばもっと細かに解析ができる。地上の様子もある程度わかる距離だ。
宇宙艇の大きなモニターに、一つの惑星が正面に見える。次第に大きく見えるようになってきた。もう一つの惑星の後姿がある。画像を解析データに書けたものに切り替え、大気の状態をモニターした。お互いの引力で大気がどのような形になるか見てみたいと思ったからだ。すると、二つの惑星の大気がお互いの星の引力でひかれ、大気が均一ではなくなり、相手の惑星側が厚くなり、だんだん伸びていった。再接近まで数日後となったとき、お互いの大気がつながったのだ。
分析コンピュータが、二つの惑星の大気の組成は同じで、窒素、酸素が主である。地球に似ているが、地球では窒素が70%ほどだがこの星は50%であることを示してくれた。地表は珪素、すなわち地球と同じように土でできており、水もある。生命体の存在も示しているが、どの程度発達した生き物かわからない。
惑星同士の大気のベルトができたときである。それぞれの星の惑星から、たくさんの箱のような形のうえにプロペラがついている大きな飛行機と小さな飛行機が大気のベルトに飛び出した。片方は赤いライトをつけ、もう一つは青いライトだった。モニターを見ていると、半数の飛行機は相手方の星におりていったがすぐに、半数はまた自分の惑星にもどっていった。
かなり科学の進んだ生命体がいる星だった。これは地球初めてのそれなりに文化の発達した異星人との遭遇である。
次の日は、それぞれの惑星から、こんどはもっと小型の飛行機がお互いの地上から飛び立ち、大気ベルトの中ほどで停止した。やがて赤と青のライトをつけた宇宙船がドッキングしてそこに浮遊した。その晩、宇宙船はドッキングしてそのままだった。
朝になると、ドッキングしていた小さな飛行艇は離れて、青っぽい方の惑星に戻り、残されたドッキングをした宇宙艇は、赤っぽい惑星からきた、超大型の飛行艇に収容されてもどっていった。まだ星人の姿は確認していない。いずれはっきりさせよう。
ともかくおもしろい惑星である。しばらく停泊して二つの惑星の住人を調べ、場合によってはコンタクトをとって地球に戻ろう。それなりに科学をもった星を発見したことは、地球に連絡してある。地球の宇宙局の担当者ももう少しはっきりしたら、マスコミにもニュースを流すということだ。またもや私の大手柄になる。これもこの一人乗りの宇宙船を完成させることができたからだ。
私の宇宙船をもっと近づけてもいいのだが、宇宙で異星人と遭遇したときは。相手を驚かしてはいけないことになっており、離れて見ているしかない。もし、問題ないと判断できたときはコンタクトの準備をする。
見ていると、惑星が離れていくので、だんだん大気のベルトが引き延ばされ、計算上は地球の5日ほどで元の大気に戻ることになるだろう。三日目になると、ドッキングしていた船がはなれ、それぞれの惑星に帰ると、大気のベルトは切れ、お互いの星に収まった。衝突しないのも不思議だが、どちらかの星に大気が吸い取られないというのはお互いほぼ同じ引力を持っているということなのだろうか。このような現象は太陽系の星とは違った物理的な性質を持っていることから引き起こされるのかもしれない。
二つの惑星の住人たちは同じ星人たちなのだろうか。それともそれぞれの惑星で独立して進化した人達なのか。ともかく不思議な光景だった。二つの惑星の住人は、惑星が接近したとき大気の道ができる事を利用して、お互いが交流をするという文化をもっている。
この二つの星の住人の姿を想像したが今のところまだわからない。
惑星まで光速で1分ほどのところにいるが、地球であったら、地球の上から十分自分の船の存在が知られていることだろう。この二つの惑星からは電波などが私の船に向かって発射されたことは確認できない。この小さな私の宇宙艇は惑星の地表面から光学的な望遠鏡では見ることができないだろう。ということは、相手は私の存在に気づいていない。
そういう意味では地球ほど科学が進んではいないようだ。大気を利用してプロペラ機で相手の星に行くことができるレベルのようだ。
しばらく停留して、詳しく惑星を観察することにした。気がつかれないように、それぞれの惑星にもう少し近づいて、地表のものがある程度、この船に備わっている望遠鏡で見えるようなところに進めることにしよう。さらに詳しく調べるには超小型の偵察用無人ドローンをつかう。どのような生命体で、どのようなコミュニケーション方法をとるか。そのあたりを見極めるためには、彼らの生活を知らなければならない。
恒星にはまだ名前が付いていなかった。番号だけである。初めて行った者が命名する権利がある。そこで自分の名字をとって草片星となづけた。双子のような惑星には少し赤っぽく見える方を赤球、青っぽく見える方を青球とした。
草片星からほんの少しだが遠い赤い惑星を観察すると、地表は陸が多く占め、水のあるところが少ない。それでも湖のようなものを取り囲むようにして、町のようなものがつくられていて、石造りの高い建物がならんでいた。
一方、草片星に近い青球は水が多く見られた。山もあり、川もある。ただ、地球における木や植物に相当するものは見られない。
青い星の地表には、丘や川、湖が転々とあり、地球の海のような大きなものはなかった。川や湖のわきに、町があり、中心には昔の地球にあったような石造りの建物がつらなり、その周りには、やはり石造りの個人の家と思われるものが、集まっている。点在している。地球の千年以上前の様相をしている。
どちらの惑星にも箱型の乗り物が空を飛んでいる。地上を走る車というものはみえない。空を利用する生活が発達しているようだ。個人用なのではないだろうか。かなりの文明の発達はみられるが、宇宙に飛び出すような前の地球のような感じを受ける。
電波によるコンタクトをとっていいか、地球の宇宙局に情報を送り、きいた。
答えはノーであった。確かに航空機は発達しているが、大気圏外への旅行手段をもっていない。そのために、恒星系外からいきなり降りると、その星の住人は疑心暗鬼にかられ、いくら友好的な星人でも、侵入の不安にかられるだろうと言うものだった。確かにそうである。
コンタクトをとる前に、何年か電波による通信をおこなった上で、理解を得られた後に、行うべきということだった。
小型の探索ドローンをとばすことに関しては許可が下りた。ドローンという名前は大昔に使われた大気圏内で飛ばすプロペラ式の浮遊機械だ。それはこの惑星の箱型乗り物がドローンに似ているといわれるかもしれない。しかし、今の地球のドローンは反重力装置を備え、大きさは親指ほどである。石の形をしており、星の生命体に見つかったときには、地表に落とし、内部装置も瞬時に溶け石のようになってしまうものである。このドローンはわれわれ宇宙旅行者の身を守るのにも重要なことから、どのような宇宙船にも積む義務がある。
私はドローンをまず星人たちが暮らしやすいと思われる青球にとばした。ドローンといえ、光速で宇宙空間をとばすことができる。ドローンはすぐに青球の大気圏にはいり、めぼしをつけておいた町の上空にいった。町には石でできている建物が並んでいる中心地があり、その周りには一戸建てらしい家が立ち並んでいる。どれも広い庭をもち、庭の一角には自家用とおぼしき箱型の飛行機がおいてある。垂直上昇のできる飛行機で、地球の車ほどの大きさである。これが二つの惑星が接近してできた大気のベルトの中を飛んでいたわけである。
個人の家らしきところからは、背の高い星人がでてきて、町の中心地にはいっていく。ドローンで追いかけ、ドローンを建物のひとつの屋根に停止させ観察した。
まず青球の星人たちの様子である。
青球住人たちは、およそ180センチの背の高さがあり、頭と胴、手足が二本ある。地球人とよく似ている。顔には人間と似た目が、左右に二つある。瞼もある。おでこのところに小さな穴がいくつもあいている。ほんの5ミリほどのものだろう。耳と鼻がないところをみると、嗅覚と聴覚はおでこの小穴がその感覚装置かもしれない。口はやはり人間のものによく似ている。
頭はつるつるである。洋服を着ており、帽子をかぶっているものもいる。だれもがだぼんとしたワンピースのようなものを身につけている。昔のエジプトのガラベーヤという衣服に似ている。
背の高さが120センチほどの小さな個体がいる。さらに小さく50センチほどの個体をつれている星人もいる。子供のようだ。
しばらくみていたが、星人たちはドローンには気づいていない。星の文化はその星人の興味の方向により、発達の仕方が違うものである。この惑星の星人たちは、警備ということには気をはらっていないようである。星の文化の発達の中には、必ず争いがあり、戦争があり、領土の取り合いがあり、といった歴史があるものだが、そのような形跡が見られない不思議な平和な町である。
家から出たこどもづれの星人は歩いて、町の中心部にむかった。袋のようなものを肩に掛けているのは買い物でもするのだろうか。子どもたちもついて行く。
その星人は町の商店とおぼしき中に入り、店の中をドローンで見ていたら、店には背丈が30センチほどのあまりにも小さな星人がいて、その星人から買ったものを180センチの星人がかがんで受け取っている。また別の店にはいった。子どもたちは地球人の子どもたちと同じで、あちこちみながら親らしき星人についていく。
どの店にも、極端に小さな星人が店番をしている。小さな星人の顔のつくりは大きな星人と同じで耳と鼻がない。
やがて、買い物をした星人たちは中心地から離れると、自分の家にもどっていった。飛行機はあまり使わないようだ。
ある家から、飛行機が飛び立った。追いかけたら郊外の湖のふちに降りると、子どもの星人と一緒に地球人のように、お弁当らしきものを広げていた。
青球の町の人たちを観察し、次の日は赤球にドローンをとばした。
赤球の地上を拡大してみると、高層のビル街上を、いくつもの飛行機が多く飛んでおり、飛行機は青球の個人の家にあったものの十数倍も大きいもので、明らかに運搬用のものである。ビル街の地上には人通りがなく、関さんとしている。
建物の屋上に飛行機が降り立った。ドローンを見つからないように飛行機の周りにとばした。飛行機の中から屋上に降りてきたのは、これまた、小さな星人だった。30センチほどだ。青球の店で物を売っていた星人と同じだ。いろいろなところに望遠鏡をむけてみたが、やはり小さな星人しかいない。青球にいる大きな星人は見られない。
赤球の高層ビルの下の方の階を窓から覗いてみた。あるビルでは、工場のようで、小さな星人がはたらいていた。上の方は小さな部屋がたくさんあり、ほとんど部屋はだれもいなかった。夜になり、工場がおわると、小さな星人が部屋にはいってきた。一つのビルの上のほうは住居で、下が工場のようだ。どのビルもそういった工場と個人住宅でなりたっていた。
少し郊外にドローンを飛ばすと、景色が違った。丘や、湖の縁にきれいな建物が並び、そこには青星で見た子どもたちがいた。朝になると大きな建物にあつまり、勉強をしている。学校のようだ。背の高さが4ー50センチの子どもと、120センチ以上の子どもが、30センチほどの先生らしい人に何かを教わっている。そこには青星にいた180センチほどの大きな星人もいた。やはり先生のようだ。
赤球には背丈20-30センチの小さな星人が主に住んでいて、工場があり、学校がある。学校には青球の子どもたちが勉強している。青球には背丈180センチ星人がおもにすんでいて、子どもと暮らしている。居住の為の環境が整えられている状態だ。
二つの惑星の星人は背丈は違っているが、顔の造作は同じだ。別々に進化したのだろうか。地球人からは想像ができない生活形態のようだ。直接に会って話さないと理解できないだろう。
私はそこにとどまって、予備のドローンも投入し、青球と赤球を詳しく観察した。
次第にわかってきたことは、青球の大きな星人は必ず、大小の二人の子どもと暮らしているということだ。これを家庭と呼んでおく。必ず子どものうちの一人はとても小さい。ただ一人暮らしの大きな星人もちらほらいて、子供を持っている星人と同様のそれなりの大きさの家に住んでいる。青球では働いているのは、ごく小さな星人で、家庭における小さい方の子どもと似ているが、もっと小さいが、振る舞いは明らかに大人である。赤球の小さな大人が青球で仕事をしていると考えられる。青球の小さな星人はドローンで観察した結果、商店の上の部屋で暮らしていた。
赤球では青球と違ってほとんどが小さな星人で、工場で働いている。飛行機の工場もあるし、家を造る材料を造っている工場もあった。一方、郊外にある学校には主に子どもたちがいて、その建物で暮らしている。子どもたちの教育をしているのは、青球の大きな星人と赤球の小さな星人である。
どちらも依存しあっているということは、大きな星人も小さな星人もそれぞれの星で進化したのではなく、どちらかの惑星で進化して、もう一方の惑星を利用して、人口をふやしていったと考えるのが妥当かもしれない。
二つの惑星の観察を始めて一月近くになる、もうすぐ、また惑星同士の接近の日がくる。それを再び観察した後に地球に戻る予定だ。それを地球の宇宙局に連絡したところ、進化した異星人の発見に感謝され、いずれ調査団を派遣したい旨を伝えてきた。
また二つの惑星の大気の結合がおこり、大量の飛行艇が行き来することになるだろう。そのとき二台のドローンをとばしどのようなことをしているのか観察する。どのようなドラマがあるのか待ち遠しかった。
その日がやってきた。第一日目、青球と赤球の大気がふれあい、大気のベルトができた。その日、赤球の青球に面した町の大きな飛行機製造工場の屋上に、いろいろな形の飛行機が整列し、小さな星人たちがのりこんだ。ドローンで追いかけると、空に舞い上がり、かなりのスピードで、赤球から青球の大気圏にはいった。一台の小型の飛行機をおいかけていくと、やはり赤球に面した町の住宅地に来て、一軒の家の庭先におりたった。家からは大きな星人がでてきて、赤球からきた小さな星人と話をしている。音声も録音されているが、まだ、この星の言語の解析はすすんでいないので意味はわからない。こういった情報はすべて地球に送っている。
赤球からきた小型の飛行機は、その家の飛行機とほぼ同じか阿智をしていた。小さな星人は大きな星人に、乗ってきた飛行機を指差して何かを行った。大きな星人がうなずいている。そのあと、小さな星人はその家にあった飛行機に乗ると飛びたち、そのまま赤球に戻って、出発した工場の屋上におりた。ほかのところからも、ぞくぞくと、青球から飛行機がもどってきた。
ドローンで見ていると、青球から運ばれた飛行機は工場内へと入れられ、解体されていく。新しい車を運び、古い車を回収してきたということらしい。大気が繋がったことを利用して、商売をしたわけである。
他にもたくさんの飛行機が赤球から青球にとんでいき、荷物を下ろして戻ってきた。青球で必要なものを赤球でつくり、一月に一度の接近の際に、赤球に運んでいるようだ。
一方で、青球から飛び立った飛行機は少ない。その飛行機は赤球にいって、戻ってきた。何をしてきたかよくわからなかった。
次の日、太い大気の連続ができた。すると、青球の個人の家から飛行機がとびたち、二つの惑星の大気のまじりあった中間地あたりで空中停車をした。同じように赤球からも飛行機がやってきて、中間地で停止した。青球からきた飛行機は屋根に青い回転灯を出し、光をつけた。赤球から来た飛行機は青い回転灯を出して点灯した。最初の大気の連結のときに赤い光と青い光の飛行機がドッキングしていたことを思い出した。
ドローンを近づけてみると、青球から来た飛行機の中では大きな星人が、フロントのディスプレーに向かって話をしている。ディスプレーには赤球から来た飛行機の中の小さな星人が補助椅子にすわってうつっている。向き合った赤球と青球の飛行機同士で会話をしているわけである。
大気のベルトの中間地点では朝から暗くなるときまで、赤い光と青い光がまわっていた。
あ、っと思ったとき、すべての飛行機が動き出し。右左上下と移動して、青い飛行機の脇に赤い車が近づいていきドッキングした。ドローンの映像では、ドッキングすると、飛行機の脇に穴ができた。赤球の小さな星人は、青球の大きな星人に穴から引っ張り出され、青球の飛行機にはいった。小さな星人は大きな星人に抱き抱えられ、膝のうえに乗せられて話をしている。
日没になっても、飛行機は星球に帰ることなく大気のベルトの中に浮かんでいた。すでにライトが消され、ドッキングした二つの飛行機はシルエットのようにしか見えない。
ドローンがドッキングした青球の飛行機の中を窓からの映像を送ってきた。
飛行機の中の成人たちを見て、あっと思わず目をそむけた。
生殖行為の最中だった。
地球だったら、寝室で密やかに行われる行為である。その昔、人間の男性の性欲と行動に関しての理解が乏しく、男がそういった場面をのぞこうとして、処罰をされていた。本能を押さえ切れない男性もたくさんいたからである。しかし今では、精神面、言うなれば大脳新皮質の発達がさらにすすみ、自分の行動を意識のもとにかなりコントロールできるようになり、さらに、男の性的過剰行動を正常化する薬の発達もあいまって、男性たちに、他人の性的行為をのぞくようなことはみられなくなっている。
この映像は当然、地球の宇宙局にも行っている。やはり宇宙局から連絡が入った。
そのまま録画を続けるようにとのことだった。これはこの二つの惑星の星人たちの体と生活を知る大事なデータだということだった。ただ、私個人がこの映像を勝手に使うことは禁じられた。しかし、よく観察し、感じたことを含め報告せよとのことだ。
私は画面にもう一度目を向けた。
淡々と行われていたこの惑星の星人たちの行為をのべておこう。
飛行機の中で、青球の大きな星人の膝のうえに乗せられていた赤球の小さな星人は、大きな星人の手で、来ているものを脱がされた。裸になった背の高さ30センチほどの星人は、胸と胴がとても細く、頭が大きかった。人間のように股間に生殖器のようなものは見られず、つるんとしていた。色は白く地球で言うシルクのような感じである。
大きな星人は裸になった小さな星人を隣の助手席におくと、自ら着ているものをぬいだ。人間と代わりがない体型で、やはり股間になにもなかった。人間のように、乳というものもなく、へそもなかった。
裸になった大きな星人が助手席のものも含め座席を後ろに倒し、その上によこになった。小さな星人が、大きな星人の頭を小さな手でもみ始めた。大きな星人が気持ちよさそうに目をつむった。小さな星人は小さな手の平で、大きな星人の身体を首から胸から腹へと押していった。白かった大きな星人の身体がほんのりと赤っぽくなってきた。
小さな星人が足の付け根を手で押すと、大きな星人の両足が開かれた。小さな星人は一生懸命に両足の付け根を押しつづけた。
両足の間に割れ目ができた。
小さな星人は、自分の頭をその割れ目にねじ込んだ。両腕を細い胴にぴったりとくっつけると、回転し始め、小さな星人は大きな星人の股間から、体の中にはいっていく。
股間の割れ目に小さな星人の両足が吸い込まれた。
割れ目は閉じられ、またもと皮膚でおおわれつるんとなった。
大きな星人の腹がだんだん膨れてきて動いる。中で小さな星人が何かをしているのか。
大きな星人はつむっていた目をあけた。
自分の膨らんだ腹を手でなでさすった。腹のなかで蠢いていたものが静かになった。
大きな星人は着物を身につけると、赤球から来た星人のぬいだ衣服をきちんとたたむと、座席をもとにもどし、飛行機の明かりのスイッチをおした。
周りのドッキングしていた飛行機にもあかりがついた。
青球からきた飛行機は、ドッキングしていた赤球の飛行機を切り離し、動きはじめた。
ドローンで追跡すると青球の町に向かって飛行機はおりていった。
映像を撮った飛行機は一軒の家の庭に降り立った。夜中である。大きな星人がおりてきた。お腹がぽっこりふくれている。そのまま家に入っていった。
ドローンで後を付けさせると、小さな星人が身体にはいった大きな星人は、地球の浴槽のようなものに液体をいれ、そこに身体をしずめた。そのまま寝てしまった。
私もすでに数日間、あまり眠らず観察を続けたので疲れていた。撮影を続けているドローンの映像が映るモニターを前に居眠りをしていたようだ。ふっと目覚めて、今見ていた夢に自分でもほほえんでしまった。こんな夢だ。
「こびとは彼女のスカートの中に潜り込み、膣に頭をつっこむと、子宮の中にはいっていく。それが、彼女の亭主である。この星では、男は女の子宮に入っている、女がねている間、子宮の粘膜をなでさすり、心地よい眠りを与える。
朝日が当たると、亭主は子宮から外に出てくる。まだ目覚めない自分の妻の乳首から、朝のミルクをたらふく飲み仕事に出かける。
仕事は、運転手だったり、政治家だったり、警察官だったりする。農業を営む者もいた」
朝ドローンの映像をみると、大気のベルトに残された赤球の飛行機は、大きな飛行機が回収している。今日中に大気のベルトが消えていくだろう。
地球から連絡がきた。貴重な映像で、感謝するという前置きがあり、地球の生命科学者が解析した結果、大きな星人は女性で、小さな星人は男性だろうとうということだった。男性は女性の体の中にはいると、精子を放出し、卵子に合体させ、その卵は大きな星人、すなわち女性になると考えられるそうだ。体の中に入った小さな星人は、身体が再構築され、あらたにまた男としてうまれるのだろうというものだった。
もっと観察を続けたい、と宇宙局に連絡したのだが、そこまでにして戻るようにいわれてしまった。
宇宙局としては、今後、草平太陽系の惑星である青球と赤球には電波をとばし、地球の存在を知ってもらってから、徐々にコンタクトをとれる状態にしたいということであった。電波だと到達に相当時間がかかるが、偵察用度ドローンを草片星と惑星の間にうかべておけば、そこまでは時空の隙間で連絡をし、それを電波に変えて惑星に送れるとのことだった。
青球と赤球が偵察用ドローンから電波が発せられているのに気がつくのに、あと数百年はかかるだろうということである。地球からも年に一度ほどは専門家をのせた宇宙艇が青球と赤球にいくという。私も乗せてもらえるようだ。
この星の人たちと話ができるようになるのは、私がいなくなってからだが、草平系と言う名前は永久に残る。青球、赤球と私がなづけた惑星の名前は住人たちの使っている名前になるという。
赤球と青球はその星人たちはなんとよんでいるのだろうか。夫婦星、ふと、そんな名前が私の頭の中に浮かんだ。
夫婦星