斬鬼
恋なしに、人生は成りたたぬ。所詮人生がバカげたものなのだから、恋愛がバカげていても、恋愛のひけめになるところもない。
Ango Sakaguchi(20 October 1906 – 17 February 1955)
まだ、残暑厳しい頃の事である。
其の日山内〈やまのうち〉黒曜は、日頃身の回りの世話をさせている提灯持ちの辰五郎と共に、行きつけの小料理屋『遠江』で活きの良い海鮮料理を酒の肴に、二、三本徳利を空けて良い心持ちで勝手知ったる屋敷迄の道程をトボトボと歩いていた。
時刻は子の刻を迎えるほんのちょっと前。
周囲はしいんと静まり返っており、時折聴こえて来る蟲の音色と、サッと頬を撫でる秋の夜風の音以外には、カツカツと言う両者の下ろし立ての下駄の音しか聴こえて来る音は無かった。
そういやぁ、旦那、巷じゃまたぞろ斬り捨て御免が流行っているそうですぜ。
口に楊枝を咥えた辰五郎が、夜道を照らし乍らボソッと言った。
なんぞえってぇと天下泰平の一言で済ませちまう呑気な世の中だ、腕試しと称して御自慢の刀を抜きたがる輩が雨後の筍よろしく出て来るのも仕方のねぇ話よ。
黒曜はそんな事を言うなり、左手で自身の顎をそっと撫でてみせた。
けっ、御大層な理屈だこって。
そんなら、竹藪の竹でも斬ってりゃ良いモノを。
はっはっは。
世の中の人間が皆んなおめぇみてぇな単純なモノの考え方をしてくれりゃ、有り難き事限りなしなんだがなぁ。
又始まった。
そうやって直ぐ他人〈ひと〉を出汁〈だし〉にして御笑い為さる。
旦那の悪い癖ですぜ。
辰五郎が南瓜〈かぼちゃ〉の様に頬を膨らませ乍ら、そうボヤくと同時に、子の刻を告げる遠寺の鐘が鳴った。
其れと同時に生暖かい風が両者の足元を駆け抜け、道の脇に生えた雑草をゆさゆさと揺らした。
よせやい、こんな刻限に味気ねぇ。
折角の良い心持ちが泡みてぇに弾けちまうじゃねぇか。
尤も、おめぇより無粋なのが此処にはいらっしゃるらしいがな。
辰五郎は黒曜の言葉を聴いた途端、眼の色を変えて下駄を脱ぎ、握っていた提灯を道の脇に投げ棄てると、腰に差していた十手を素早く引き抜くや否や、柳の陰から飛び出して来た侍がえいや、と勢いよく振り下ろして来た白刃をパッと避けた。
そして侍の右の手頸〈くび〉へ容赦なく十手をガンと振り下ろした。
其の際の痛みは強烈なモノで、侍は思わず握っていた刀を地面に落とした。
辰五郎は其の隙を見逃す事無く今一度侍との距離をグッと詰める気合い一発、侍の土手っ腹を十手の持ち手でガンと殴り付けた。
当身を喰らった侍が痛みで身体をよろけさせると辰五郎は、左手を使い、ツラを見せやがれ、と言わんばかりに侍が顔を見られてはなるまいと被っていた朱色の手拭いを乱暴気味に取って、此の野暮天が、と言い乍ら、ギュッと握り締めた拳骨で侍の顔面を二、三発殴った。
ようよう。
兄ィ、其処迄にしときな。
辰五郎が投げ棄てた提灯に、懐から取り出した火打ち石で火を点け直し乍ら、涼しい顔で黒曜が言った。
御言葉ですがね、旦那。
此の野暮天、旦那の事を斬り殺そうとしたんですぜ。
なあに、俺が言いてぇのはな、こんな痩せ馬一匹に拘〈かかず〉らう必要もあるめぇってコトよ。
そう言い乍ら黒曜が右手に握った提灯で侍の姿を照らすと、なる程侍の格好は如何にも貧乏臭い格好をしており、肝心の面構えにしても普段から余り良い物を腹の中に入れている訳では無いらしく、且つ辰五郎に殴り倒された事もあってか、実に不味い面構えをしていた。
へぇ、仰る通り、此奴ぁ確かに痩せ馬だ。
何処の貧乏長屋をてめぇの馬小屋にして嘶〈いなな〉いて「いらっしゃるかぁ」知らねぇが、喧嘩慣れした旦那相手に命知らずな真似をしやがる。
辰五郎はそうつらつらと述べるなり、掴んでいた胸倉を手放し、十手を腰に差し込んだ後に手を払うと、浪人者に刀を手渡した。
浪人者は「そんな気概で良く人を斬ろうとしたな」とついボヤきたくなる程、誠にオドオドとした態度でもって手渡された刀を鞘に納めると、先程迄被っていた手拭いを乱暴気味に懐へ捩じ込んだ。
浪人者は普段から汗掻きらしく、周囲には浪人者の身体から発せられる汗臭い匂いが漂い始めていた。
おいおい、せめて武芸に長けた、と言ってくれぇな。
さぁ、ボサっとしねぇでさっさとふん縛〈じば〉っちまいなよ。
でもって番所にでも放り込んで、さっさと寝ようぜ。
俺ぁ、さっきっから眠たくって眠たくって。
人の気も知らねぇで、本当にもう。
辰五郎は懐から取り出した捕縄で先程思い切り痛め付けた浪人者の手頸を手加減無しに縛り上げると、へぇ、日頃ふんぞり返っていなさる旦那が今宵はあっしの提灯持ちか、此奴ぁ、気分が良いや、と言って、其の言葉の通り黒曜に持たせた提灯の明かりを頼りに、浪人者を文字通り引っ立て乍ら番所迄の道をっそのっそと歩き始めた。
おう、邪魔するぜ。
建て替えたばかりの番所の戸を黒曜がガラッと開けると、其処には中々の変わり者で有名な坂本蘇鉄と番太の銑〈せん〉十郎が詰めていた。
こんな時刻に誰かと思えば、黒曜の旦那じゃござんせんか。
銑十郎が客人用の茶碗に、熱めの茶を注ぎ乍ら言った。
夜遊び序でに面白れぇ土産を持って来てやったぜ。
おい、兄ィ、銑十郎にも拝ませてやんな、情けねぇ痩せ馬の面〈つら〉をよ。
へい。
おいこら、大人しくこっちへ来やがれってんだよ、此の野郎。
辰五郎は引っ捕えた浪人者をまるで納屋か土蔵の中に荷物でも放り込む様に、銑十郎と蘇鉄の前へ引き摺り出した。
付け馬なら厭ってぇ程見ているが、此れじゃあ確かに痩せ馬だ、ねぇ、蘇鉄様。
火を消したばかりの提灯を畳み、中へ入って来るなり板の間にどかりと腰掛けた黒曜に茶を出した銑十郎がそんな風にして蘇鉄に対し聲を掛けると、其の昔大店の若旦那と年増の女中が引き起こした心中の死損ないを故あって揉み消した際、其の報酬として貰った正真正銘本物の銀で拵えてある文字通り高級品の煙管を口に咥え、長椅子へと腰掛けた状態で紫色の煙を静かにぷかぷかと吹かしていた蘇鉄は、流し目気味に黒曜を見つめるなり、こんな虱臭そうな食いっ逸れじゃなくて、艶っぽい夜鷹でも連れて来て欲しかったな、どうせなら、と静かにぼやいた。
で、何をやらかしたんだ、此奴。
黒曜に向けていた視線を辰五郎に向けた蘇鉄が言った。
へい、旦那の事を斬ろうとしたんで。
銑十郎に浪人者を引き渡し、黒曜同様に板の間へ腰掛けた辰五郎がそう伝えると、如何にも意地の悪い笑みを浮かべ乍ら蘇鉄は、人を見る眼が無い事限り無したぁ、全く以って此の事だ、おい、銑の字、刀から何から全部没収をして、牢屋の中にぶち込んどけ、と銑十郎に命令をし、吸い終わった紫煙の灰を地面に落とすや否や、線香花火の燃え滓〈かす〉よろしく、地面へポツリと落ちた灰をまるで弱りきった蟲けらに容赦無く止めを刺すが如く、遠慮無しに右脚で踏み潰した。
所で今夜は此処で寝ずの番かい。
半分程茶を啜り終えた黒曜が言った。
まぁ、そんな所だ。
近頃何かと物騒なんでな、況してや俺もお前さんよろしく、襲われねぇとも限らねぇ。
そんなら此処〈こか〉ぁ、陰陽道で言う所の結界か。
序でに魔除けのお札でも貼っときますかい。
早速、牢屋へ「ぶち込んだ」浪人者から没収した所持品を改め乍ら、辰五郎があからさまに巫山戯〈ふざけ〉た口を利くと、すかさず蘇鉄は、稀代の目明かしとして名高けぇ辰五郎親分にお似合いなのは、どちらかと言やぁ質屋の札か富籤〈くじ〉の外れたのじゃねぇかな、とモロに揶揄った。
はっはっは、流石は変わり者〈モン〉、上手めぇ事を言いやがる。
黒曜が蘇鉄の辰五郎に対する揶揄いに対して感心する素振りを見せると、辰五郎は見るからに不貞腐れた口調で、そんな事ばっかり言っていなさるから、何時迄経っても器量良しの御嫁御さんが旦那の所にやって来ねえんですよ、と言い返したのだが、黒曜は涼しい顔のまゝ、ふっ、何を言い出すかと思えば叔父上と叔母上みてぇな事を言いやがる、此れでも此の前引いた御神籤〈みくじ〉にゃあ、良縁のふた文字が踊っていなすったぜ、と、微笑い乍ら言った。
へぇ、旦那みてぇな物心ついた頃かり風まかせ波まかせなお人の所へ良縁がねぇ、御相手様の絵姿も見ねぇもしねぇでこう言っちゃあナンだが、其のお方はよっぽどお気と腕っ節が御強いこったろうよ。
銑十郎はそんな事をべらべらと喋り乍ら、蘇鉄が何時も使っている見るからに安っぽい黄褐色の湯呑み茶碗に茶を注ぐと、注いだばっかりですから呑む際は気をつけて、と言葉を付け加えつゝ蘇鉄に湯呑み茶碗を手渡した。
亀の甲より年の功たぁ、良く言ったモンだ。
ま、どうせなら大飯喰れぇと付け加えておくんなせぇよ。
むくっと立ち上がるなり、先祖代々の位牌でも抱き抱える様、さも大事そうに両手に持っていた空の湯呑み茶碗を銑十郎に返すと、黒曜の手の温もりと仄かに薫る残り香を感じ乍ら銑十郎は、旦那も物好きだな、大飯喰らいが好きだなんて、と呟いた。
俺の作った料理を美味そうにばくばく平らげる女房を肴に酒を呑むのが、まさか天下の御政道に反する訳じゃああるめぇ。
へっ、旦那らしい妙な言い草だ。
ま、旧い人曰く、果報は寝て待て、おやすみなさいませ。
又来るぜ。
辰五郎が言った。
戸締りに気をつけるんだな。
蘇鉄は立ち上がり、銑十郎と二人で黒曜と辰五郎が二人が住んでいる場所の路地へと消えて行くのを見届けると、さて、寝ずの番の続きをするかな、と又番屋の中へ入った。
外は相変わらず雲間から覗き込む針金をグイと曲げた様な、何とも言えぬカタチの新月の光が町全体を冷たく照らし出し、風の方も風の方でべっとりとした生温さが身体全体に付き纏う様であった。
じゃあ旦那、あっしは此れにて。
屋敷の門の手前にて、辰五郎が就寝の挨拶と称して黒曜に対し頭を深々と下げると、黒曜はおう、気ぃ付けて帰んな、と言って辰五郎の背中を見送り、えっちらおっちら屋敷の門の鍵を閉ざした。
そして月明かりを頼りに台所の方へと回ってガラガラと音を立て乍ら井戸水を汲み上げるや否や、暑気払いと酔い醒しも兼ねて其の井戸水で顔を三、四回ざぶんと洗った。
夜遊びをした後はやっぱり此れに限るぜ。
十三の春、自身の事を文字通り玉の様に愛し大事に育ててくれた父母を流行り病で喪って以来、辰五郎にすら滅多に見せる事をしないこゝろの奥底で黒曜はそう呟くと、脱ぎ棄てた下駄もそこそこに青柳色の手拭いで顔を拭きつゝ、夜遊び帰りらしい無遠慮なスタスタと言う足音を響かせ乍ら、ざっと八畳程の広さの寝所へと向かい、張り替えたばかりの襖を左手でピシャリと開けた。
所謂住み込みでは無く、通いで黒曜の身の回りの世話をしている婆やのお兼どんが敷いてくれた布団へ黒曜が近づこうとした其の瞬間〈とき〉、まるで獰猛な獣を頑丈な網で引っ捕えるが如く、天井から女物の着物がバッと降って来て、ほんの数秒乍ら黒曜の視界が奪われた。
其れと同時に右手に脇差を握った一人の人間が天井から襲撃を加えて来た為、黒曜は降り掛かってきた火の粉ならぬ着物をばさりと振り払ったと同時に、突然の出来事で浮かび上がった汗が、まるで手をヌメヌメとした得体の知れぬ生き物よろしく直接肌を這う様に額を伝っていく感触を味わい乍ら、思わず暗闇の中で、味な真似をしやがる、と「真夜中の来訪者」に対して悪態を吐いた。
其れから御守りよろしく着物の帯に差し込んでいた生前の父から譲り受けたる鉄扇をぎゅっと右手に握り締め、所謂応戦の構えを相手に見せた。
距離を詰めれば手傷の一つ位は・・・。
黒曜はそう考え乍ら、どったんばったんと騒いでいるうちに足下に転がっていた枕を素早く手に持つと、おりゃ!、と言う掛け声と共に其れを「来訪者」の顔面へと投げ付けた。
感触からして、寝具と言うより石と呼んだ方が良い程の硬さの枕がガキンと脇差の刃に打つかる音が互いの息遣いと共に二人きりの空間に響き渡る中、庭先から差し込む月光を頼りに相手との距離を一気に詰めた黒曜は、相手の左手には何も握られていない事を確認するなり、此処が弱点と言わんばかりに其の手をグイと捻り、庭先の方へと容赦無く相手の身体を投げ飛ばした。
が、其処は百戦錬磨の兵、且つ千軍万馬の手練れである。
見せ物で御馴染みの軽業師よろしく上手く受身を取って体勢を立て直すと、縁側から庭へ飛び降りて来たばかりの黒曜に対し、隙だらけだと「指南」せんばかりに左右の脇腹眼がけ、強烈な回し蹴りを喰らわせ距離を詰める事にあっさりと成功すると、今度は膝頭を腹の部分にぶち当て、痛みに耐えかねた黒曜が握り締めていた鉄扇を落とした途端、両頬に相撲取り顔負けの張り手をかました。
普通の人間様であれば、もう此処で意識を飛ばすか、何なら「くたばる」かの二つに一つであるが、此の世にオギャアと喧しさすら感じさせる程の産聲を上げて此の方、熊と相撲を取る程の剛力無双を誇ったとされる足柄山の金時ばりに頑丈に育って来た黒曜、寧ろ張り手が良い刺激になった様で、戸でも打ち毀すが如く、華奢な様でいてしなやかで柔らかな肉体の持ち主らしい「来訪者」の身体をドンと突き飛ばすと、足跡だらけの地面へ向けて鉄の味のする唾をプッと掃き捨て、鋭い眼付きで相手をギラリと睨み付けた。
何処の何方か存じませんが、秋の夜長の退屈凌ぎと称して人殺したぁ、結構な御趣味で。
慇懃無礼極まれりな言い回しで挑発する素振りを見せた黒曜であったが、見廻りをしていたらしい者達の鳴らす呼子がピーッ、ピーッと闇夜を切り裂く勢いで聴こえて来た途端に「来訪者」は、如何にも邪魔者が入ったと言わんばかりの苦虫を潰した様な顔を黒曜に見せた後、軽々と塀を飛び越え、足早に闇の中へと消え去った。
其れと同時にドカドカと屋敷内へ飛び込んで来たのは、見廻りを担当していた同心である中岡銀星と其の配下の岡っ引である七之助と数名の捕方、そして辰五郎、銑十郎、蘇鉄の三人であった。
おやおや、門の鍵は締めた筈なんだがなぁ。
黒曜が微笑い乍ら面々に「御挨拶」をするや否や、辰五郎は十手片手に、寝言は寝て言ってくだせぇや旦那ぁ、そんな事より命に別状はねぇでしょうね、旦那に若しもの事があったら今は亡き御父上様と御母上様に申し訳ねぇったらありゃしねぇってのに、と勢い良く捲し立てた。
ねぇ親分っ!、親分ったらっ!。
青息吐息の旦那を眼の前にして、盛りのついた鶏みてぇにそう喚き散らすのは、旦那の身体に毒ですぜ。
辰五郎よりもふた周りも歳の若い七之助が張りたくもない身体を張って、辰五郎の「御喋り」を止めに入ると、またぞろ芝居か講談の読み本で憶えた文句だろうが、気の利く台詞をありがとよ、七之助、と黒曜は屈託無き笑顔と言い回しで七之助の「頑張り」を褒めてみせた。
宴の最中申し訳ねぇが、相手に心当たりは?。
紫色の煙が風にゆらゆらと揺れる中、煙管を咥えた蘇鉄が言った。
事件の現場だろうと直接の上司である与力の前であろうと、文字通り所構わず紫煙を吸うのは此の男の癖であり、習慣であった。
其れの良し惡しは兎も角として。
生憎と何でも御見通しの御釈迦様じゃあないんでね、一向に皆目がつかねぇが、身のこなしの軽さと良い、足捌きの巧さといい、武術と舞踊を嗜んでいる事だけは確かだな。
黒曜は身体全体にびっしょりと汗を掻いた状態で縁側に腰掛けると、鉄扇でパタパタと上半身を扇ぎ始めた。
おい辰五郎、見ての通りだ。
おめぇの旦那、おつむの方も大丈夫そうだぜ。
へっ、莫迦莫迦しいったらありゃしねぇ。
辰五郎が額に浮かんだ汗を左肘で拭うと同時に、捕方達と共に周囲を探索していた銀星が姿を現した。
駄目だな、見ての通り手掛かりと言えば此の着物位なモンさ。
困ったと言わんばかりに頸〈うなじ〉の部分を左手でピシャリと銀星が叩くと、畳んだ着物を手に持っていた銑十郎が自身の獅子鼻をひくひくさせつつ、銀星の旦那、そうとも言えませんぜ、此の着物から匂ってくる木蓮の香りにしたって、突き詰めりゃあ何かの足しにはなる筈でさぁ、とやけに軽い口調で呟いた。
おい、銑さん、おめぇさん、今木蓮って言ったかい。
銑十郎の呟きに薄ぼんやりと耳を傾けていた黒曜が、ハッと顔色を変え大きな聲で銑十郎に問うと、木蓮に何かお心当たりでもあるんですか、と、銑十郎は眼の色を変えた。
あぁ、誠に僅かばかりだがな。
だがもう流石に皆んな草臥たろうよ、此の続きは又今度にしようぜ。
黒曜は講釈師よろしく、物憂げな空気感を断ち切る様に、広げていた鉄扇をぱちりと畳んだ。
此の続きは又今度、か。
銀星の旦那、じゃあ御言葉に甘えて戻りましょうや。
腕組みをしていた七之助が言った。
そうだな。
黒曜、出張って来たにも拘わらず何の力添えも出来ずに申し訳ない。
なぁに、芝居の文句じゃあるめぇが、命あっての物種だ、五体満足で夜明けを迎えられるだけで俺は十分だよ。
少ねぇ額だが、今日出張ってくれた他の連中への酒代だと思って受け取ってくんねぇ。
黒曜は懐に入れていた胴巻きの中から山吹色の小判を三枚取り出すと、其れを銀星に手渡した。
銀星はひと言、忝〈かたじけな〉いと黒曜に頭を下げると、側にいた七之助に、後で皆んなに配ってやんな、と受け取ったばかりの小判を預け、では、御免、と七之助共々、再度深々とお辞儀をしてから、七之助そして門の外で蟠〈とぐろ〉を巻いている捕方達と共に屋敷を去って行った。
さあてと、そろそろ俺達も引き揚げるか。
待たしてある町内の若い衆が心配するといけねぇ。
茅色の紫煙入れに煙管をしまい込み、其れを懐に収めた蘇鉄がそう呟くと同時に、ではあっしらも此れで、と銑十郎が其の後をひょこひょこと追いかけた。
夜明け前のしいんとした空気が再び伽藍堂と化した屋敷内を包み込み、白粉を塗りたくった女郎の様な真っ白い月が空にぽっかりと浮かび上がる中、辰五郎は深い溜息と共に大きく背伸びをすると、いけねぇ、もうそろそろ嬶〈かかあ〉が飯を炊き始める頃だ、手伝ってやんなきゃ、と気の抜けた独り言を言ったので、其れを耳にした黒曜は、帰〈けぇ〉ってやんなよ、お藤さんとお茂坊がおめぇの帰りを待ってるぜ、と欠伸を噛み殺し乍ら辰五郎に帰宅を促した。
旦那、其いじゃ、あっしも此れで。
お兼どんがやって来たのは辰五郎が屋敷を立ち去ってから数分後の事で、生傷だらけの黒曜の「御尊顔」を拝るや否や、今度の厄介ごとは何処の何方に唆〈そそのか〉されて首を突っ込んだんです、と呆れ顔で言った。
なあに、「向こう」の方から舞い込んで来たのさ。
早え話が芝居やなんかで御馴染みの『百夜通い』って所よ。
台所の板の間に腰掛け、紫煙盆を脇に置いた状態で煙管の先から紫色の煙をぽくぽくと吹かしていた黒曜が、実に黒曜らしい冗談半分な口調でそう呟くと、慣れた手付きで米を研いでいたお兼さんは、随分とあべこべな筋立ての『百夜通い』もあったモンで、と笑い聲を響かせた。
御芝居で思い出したが、此処最近売り出し始めた役者の源氏名に、木蓮ってのがあったろう。
お兼どん、何か知らねぇかい。
お兼どんと其の旦那の庸三郎はそもそも芝居小屋で裏方として働いていた人間で、お兼さんは身の回りの世話をしてくれる人間を探していた先先代の山之内家の当主即ち黒曜からすれば父方の祖父に当たる人物から、「気が利きそうだから」と言う理由で此の屋敷に雇われた人間であり、其の方面には大層明るいのだった。
えぇ、ありゃ確か伊勢の生まれで、何処ぞの巫女上がりの役者って仲間内から聞きましたけどねぇ。
何でも数年前迄は旅回り中心だったそうですが、役者の世界じゃ大層な芝居狂いで有名なさる大店の御夫婦が後援者として名乗り出て以降は、此の町を中心に大層稼いでいなさるのだとか。
へぇ、こりゃ面白い事を聞く事が出来た。
今夜辺り、麗しき其の役者の御尊顔を拝謁するとするかな。
例の如く左手を顎にやり、黒曜が思案顔を浮かべていると、一人で話を進めるのは結構ですけれど、折角面白い話を旦那にして差し上げたんですからね、其の御駄賃、しっかりと御支払願いますよ、とお兼どんが釘を刺す様な口調で言ったので、黒曜は微笑い乍ら立ち上がるなり、分かった、分かった、此れで何か美味いモンでもおとぼけ面〈づら〉の古亭主と喰いねぇや、とお兼どんに一両と二分支払った。
毎度あり。
お兼どんは両の手でしっかりと受け取った高額の御駄賃を、まるで守り袋をしまう年寄りの様に其の懐へ仕舞い込むと、又作業に取り掛かった。
其れから凡そ月日にして一ヶ月、黒曜は辰五郎と一緒に芝居見物に明け暮れた。
辰五郎も最初の頃こそ又、旦那の気まぐれが始まった、と言わんばかりの何処か不貞腐れた様な態度でお供をしていたが、矢張り根っからの遊び人気質故か、数日の内に贔屓の役者を作り、厄除けと称して其の役者の浮世絵を猫の額程の広さの家の壁へと飾る様になった。
黒曜は高い料金を支払った者だけが腰掛ける事の出来る芝居小屋の二階席から、舞台上に於いて大した役者っぷりを魅せている木蓮へ向かって熱い視線を注ぐ傍ら、あの晩暗闇の中で朧げ乍らに見た所作の答え合わせをしていた。
あの役者にはひとごろしの才がある。
そしてこゝろの奥底に、鬼を一匹住まわせている。
芝居小屋の席にて、縁日で買って来た古惚けた徳利から同じく古惚けた茶碗へと酒を注ぎ乍ら、黒曜がそんな答えを導き出した頃、季節は初秋から中秋へと移り変わろうとしており、お兼どんが倅の六兵衛、其の嫁のお吉と一緒に忙しなく庭掃除をする姿が、黒曜の住む屋敷の毎朝の風景となりつゝあった。
そして巷に於いても、奉行所の威信を賭けた厳しい詮議の影響もあってか疫病の様に横行していた『斬り捨て御免』の行為もすっかり雲散霧消してしまい、夜の街にも賑わいが戻って来た。
そんな或る日の夜明け前の事、黒曜は腰に名刀『濡れ燕』を差し、異様な迄の駆け足でとある場所へと向かった。
其の場所とは、妙林寺と言うもう何年も前からひと気の薄れた古寺で、土地に古くから住む人間は別にして、滅多に人の寄り付かない場所と化していた。
そして其の古寺こそ、『斬り捨て御免』の凶行に及んでいた者達の巣窟であった。
各々方、御承知の通り当初あれだけ居た筈の同志達は此処数十日の間に皆捕縛され、そして其の大半が晒し首と相成った。
とは言え、死んだ者達の事を悔やんだ所で仕方もあるまい。
此処に凡そ八百両の小判がある。
一人百両ずつもあれば、どうとでもなろう。
そして再挙の機会が来た時、今一度此の場所へと集まろうと思うが、如何かな。
屈強な七人の侍達の前で芝居っ気たっぷりにそう語ったのは、かの大坂夏の陣にて命を散らした豊臣恩顧の忠臣を先祖に持ち、物心ついた頃より徳川家には勿論の事、天下其の物に対して呪詛の念を抱いて今日迄生きて来たと言っても過言では無い百々地与惣右衛門なる人物で、自身同様、豊臣方に何らかの形で縁を持っている七人の侍達を通じ、喰いっ逸れた浪人達を片っ端から唆していたのも此の男であった。
此処に居る者、皆異存は御座らぬ。
さ、早く金子を。
侍達の中心人物であり乍ら、まだ弱冠二十三歳と言う若さの弥彦眞三郎が与惣右衛門に金子の催促をした途端、背後の扉がバタンと開いた。
驚いた一同が其方へ視線を注ぐと、三本の手裏剣が三人の侍の喉笛にぐさりと刺さり、絶叫と共に侍達は其の場に斃れた。
そして手裏剣を放った「襲撃者」は堂内に飛び込むや否や、まるで稲を刈り取る様に白刃を振るうなり、斬りかかろうとして来た二人の侍を容赦なく斬殺した為、古びた御堂の床はあっという間に血の海と化した。
実に見事な腕前だ。
だが此処に居る我々だけが其の方の敵に在らず。
方々、出ませい…!。
与惣右衛門の掛け声と共に姿を現したのは眞三郎が道場主を務めるさる剣術道場の門下生達の中でも文字通り腕利きの十三名達で、誰も彼も人を殺めた事が窺える狂犬の様な鋭い目付きをしていた。
ほう、歯応えのありそうなのがやっと出て来た。
懐から取り出した真っ新な紙で刀にべっとりと纏わりついた血糊を拭き取りつゝ、呟く様に言ってのけたのは、表の顔は人気の役者であり、裏の顔は闇の稼業の世界に於いて、剣の鬼として名を馳せる千代塚木蓮であった。
何人の敵に囲まれようと、斬り殺してしまえば良いだけの話。
其の様な思想信条が或る意味骨の髄迄染み込んだ木蓮は、臆する事無く今一度白刃を振るうと、手始めとばかりに二人を斬った。
濡れ燕を腰に差した黒曜が飛び込んで来たのは、此の様な凄惨な場面が繰り広げられている瞬間の事で、「応対」して来た侍三名を黒曜は一気に斬り捨てると、木蓮と背中合わせになり乍ら、ケロッとした顔で、探し回った甲斐があったぜ、と木蓮に言った。
木蓮はあの晩同様、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべると、洒落臭い真似をするとお前迄殺すからな、と言って、黒曜の側を素早く離れるなり、今一度侍達へ斬り込んだ。
もうこうなれば金も名誉も一切関係無く、兎に角自分達の眼の前に現れた此の二人の人物を殺す事に対して侍達は血眼になったものの一人、又一人と散り、結局最後は眞三郎と与惣右衛門の二人になったのだが、眞三郎は金子を独り占めしようと最初から企んでいた与惣右衛門に背後から斬りつけられ、無念、のひと言を述べる暇〈いとま〉もせずに冷たい骸〈むくろ〉と化した。
与惣右衛門は何とかして此の場を乗り切ろうとしたが、握っていた刀を黒曜にあっさりと弾き飛ばされるや否や、気合いの入った黒曜の掛け聲と共に斬り捨てられた。
額をざっくり。
文字通り一撃だった。
其の際、与惣右衛門が左手に抱え込んでいた箱の中から八百両の金子がじゃらじゃらと音を立てて勢いよく転がり落ち、そして床に散らばった。
此の金、生き残った者が総取りと行こうじゃないか。
木蓮が言った。
涼しい顔して、案外がめついんだな。
肩で息をしていた筈の黒曜はそう言ってのけるなり木蓮との距離を詰め、此処からが本気とばかりにバッと濡れ燕を横に振った。
若し此の瞬間、木蓮が濡れ燕の刃を避け損なっていれば命は無かった訳だが、木蓮は間一髪、刃を避け、足元に何も転がっていないと言う意味でも広い場所の方が有利であると言わんばかりに脱兎の如く外へ飛び出した。
そして同じ様に外へやって来た黒曜眼掛けて突っ込むと、たった今左の頬を傷付けられた事へのお返しとばかりに黒曜の左頬へ刃を当てた。
此れでおあいこだな。
激しい鍔迫り合いをし乍ら、木蓮が叫ぶ様に黒曜を挑発すると、黒曜は左の頬から真っ赤な血をだらだらと垂らしつゝ、へっ、利いた風な事を、と吐き棄てた。
此れが木蓮の怒りに火を点けたのであろう。木蓮は其の力を何処に隠し持っていたのかと思う様な物凄い腕力で黒曜との鍔迫り合いを制した途端、左手で作った拳骨で黒曜の顔面を三、四発殴り飛ばした。
此の猛攻には堪らず黒曜も耐え切れず濡れ燕を手から落とし、そして其の場にぐにゃりと倒れそうになった・・・筈だったのだが、木蓮は悪鬼羅刹の様な表情を浮かべつゝ黒曜の胸倉を掴むと、黒曜の唇を齧り付く様にして奪った。
其の瞬間、木蓮の口の中に於いて鉄の味がした事は言う迄もなく、唾を掃き棄てると同時にドンと黒曜の巨躯を突き放した。
植えられた竹林が風でわさわさと揺れた。
最後の最後迄、痛え真似をしやがる。
突き飛ばされた黒曜は、二日酔いをした際をした時の様な気持ち悪さを感じつゝ、懐紙で濡れ燕の刃を拭き取ると、八百両、其処の仏様に全部くれてやろうぜ、此れじゃ命が幾らあっても足りやしねぇ、と諦めの表情を浮かべた。
気前が良いのは一向に構わんが、後で吠え面かくなよ。
男に二言はねぇよ。
そんな風なやり取りをした二人の顔を、登ったばかりの中秋の朝陽が照らし出す中、二人は互いの顔を見合わせ乍ら、ニヤッと笑ってお互い、別々の道を駆け抜けた。
二人が手放した八百両は結局、寺の再建費にあっという間に消え、同時に集団達の死体も事を穏便に済ませたいと言う思惑が動いたお陰もあってか、寺の片隅に「無縁仏」として葬られた。
此の出来事から二十日ばかりの間、黒曜は夜遊びを控えるどころか屋敷から一歩も出る事はせず、木蓮も長休みと称し、芝居小屋にも盛場にも姿を現さず、「ご同業」の人間達の手によって営まれている温泉宿に其の身を隠して傷を癒す事に専念し、傷が八割方治ってからは厭な事を忘れるが如く、舞台へ復帰する為の踊りと芝居の稽古がてら、身体を鍛え直した。
よっ!。
待ってました。
頃は晩秋。
掛け声そして万雷の拍手と共に舞台袖から颯爽と鮮やかな着物姿で現れたのは、長休みに浸かった湯の効能か、其れとも腹一杯飯と料理を喰ったお陰か、兎にも角にもすっかり傷の癒えた木蓮で、以前と変わらぬ激しく且つ切れのある立ち回りを演じたのち、花火よろしく広げてみせた朱色の番傘片手に大見得を切ってみせるや否や、観客達は日頃の憂さを晴らすが如く、文字通り誉めそやす勢いで拍手を行った。
へぇ、相変わらずの千両萬両役者っぷりですね、旦那。
例の古惚けた徳利を持って、空になったばかりの黒曜の茶碗へ酒を注ぎ乍ら、黒曜と一緒に芝居を見ていた辰五郎が感嘆の聲を漏らすと、黒曜はひと言、あゝ、と呟いた後、一気に注がれたばかりの酒をぐいと煽ると、全く以って此の世は天下泰平だよ、と誰に言うともなくそっと言って、辰五郎に茶碗を差し出した。
辰五郎は黒曜のこゝろのうちを察してか、黙って酒を茶碗へ注いだ。
そして自分の茶碗にも酒を注ぎ、憂いを一気に呑み干す勢いで酒を流し込んだ。
美味い酒は五臓六腑によく沁みるとは上手い事を言うもので、何やらホッとひと息吐いた辰五郎は茶碗の酒を呑み干すなり、又芝居に集中し始めた。
暫くして、拍子木と共に幕が降り、お有難う御座います、と言う若手の役者達の掛け聲と共にぞろぞろと外へ出て行く人々に混じって黒曜と辰五郎も外へ出た。
何気無しに黒曜が空を見上げると、空には幾千幾万の星が輝いており、傷が漸く癒えたばかりの両頬を晩秋の冷え冷えとした夜風がサッと撫でた。
おぉ、こりゃ冷てえや。
さっさと家へ帰らなくちゃ。
旦那の方は如何します?。
木戸番の親父から借りた火で提灯に火を点けたばかりの辰五郎が黒曜に聲を掛けると、俺は女の子を引っ掛けた後に、其の娘と一緒に蕎麦屋にでも寄って熱い蕎麦でも手繰るとするかな、と言った。
珍しい事もあるモンですね、旦那が自分の口から女の子と如何の斯うのだなんて。
まぁ、良いや。
邪魔者はさっさと退散しまさぁ。
徳利と茶碗の入った風呂敷包みを背中に背負った辰五郎は、そう言って辰五郎に別れの挨拶を述べると、人混みの中へと駆け出した。
其の姿を黙って見送った黒曜は、一人静かに芝居小屋の裏口に迄足を運ぶと、裏方の男に一分金を掴ませるなり、木蓮さんに会いてぇから、連れて来てくんな、と言った。
思わぬところで今夜の酒代を手に入れたと思った裏方の男は二つ返事で其れを承諾したものの、所でお客さん、どうせ訳ありだから名前は言えねぇとして、如何言うに御呼びいたしやしょう、と黒曜に質問をすると、黒曜はほんの数秒思案したのち、背の高いぼんやりとした顔の男が来たと言いな、直ぐに分かって「くださる」筈だぜ、ともう一枚程一分金を裏方の男へ手渡した。
合点承知。
裏方の男は黒曜から受け取った二分金を懐へグッと捩じ込むと、なるたけ急足で木蓮を呼び出した。
暫くして、木蓮が姿を現した。
化粧を落とし終えたばかりらしく、化粧の香りが黒曜の鼻腔を軽く擽る中、木蓮は物憂げな聲色でひと言、よう色男、と聲を掛けた。
相変わらずの言いっぷりだなぁ。
薄暗がりの中、柱に凭れ掛かって紫煙を吸っていた黒曜が微笑い乍ら言った。
よう、おめえさえ良けりゃ今から蕎麦でも啜りに行かねぇか、呑み食いの銭、俺が支払うからよ。
分かった。
ちょっと待っていろ。
楽屋から戻って来た木蓮は、紫色の半纏を羽織り乍ら黒曜の前に姿を現し、寒い、手を繋げと言って、二度に亘り黒曜を殴った左手を差し出した。
へいへい。
黒曜は軽い口調で返事をすると、木蓮が差し出した左手を右手でぎゅっと握り締め、蕎麦屋迄の川沿いの道をゆっくりと歩き始めた。
道中、もう待ち切れぬとばかりに互いの腹が蟲が鳴った。
其れと同時にお互いがお互いの事を笑った。
蕎麦屋の暖簾を潜ると、いらっしゃい、お二人さん、御夫婦かい、と白髪頭の蕎麦屋の亭主が挨拶がてら二人に質問をした。
あゝ、そんなモンだ。
えぇ、そんな所。
そう答えた二人の顔は、憑き物でも落ちたかの様に実にさっぱりとしていた。〈終〉
斬鬼