12 - 1 - 増減する断片的で整合性のない物々。

明確に音が減った世界で、それでも女々しく名前も知らない音楽を聴いていた。
ひとりでいる静寂に耐えきれなくて。
創作や芸術は、頼るものがなくなった人にとっての最後の蜘蛛の糸なのではないかと思ったまま、結局私は無機物に頼ることすら上手く出来なかった。
かつての日々は微妙な均衡だった。
許されることなく死にゆく。



どちらか、或いはどれか、今この時によりしっくりくる方を選ぶだけで、私は本当にそう思っているわけではないんだ。
そう言い聞かせて、記憶に言い訳を付与しておく。
須く時系列の情報に欠けていく。



今ならどうして君が飛びたかったのかわかる。
今ならわかるのに。
今なら。今なら。わかるのに。
どうしてあの時私はここまで落ちていなかった。
どうしてあの時に君のことをわかってあげられなかった。
いつか壊れることは決まっていたのだから、あの時に全て、何もかもどうしようもなくなっていたかった!
どうしていつも遅いんだろう。
どうして何も間に合わないんだろう。
何一つこたえられなかった。
何一つ。
人生なんていらない。



楽しい暇つぶしをした後に訪れるべき罪悪や、笑った後にくる空虚な気持ちも上手く感じられない。
こうなっていくことも、最初からわかってた。



右目からしか泣けないことをずっと恨んでた。
私の代わりに謝らせてしまった方達への償いも出来ない人間だった。
架空の手紙を書くことほど苦しいことはない。本当にない。



でもだって、課題をわからないままに提出することは出来ないでしょう?



妄想という言葉にまさしい妄想の話。
(そば)えの魔法を期待し、紺珠を掴んだ感覚を妄想する。
藍色が好きだった理由を思い出せない。



苦しい時にも歌えることもあるのですが、そういう時に録ったのって大体酷い声で、結局はテイク整理する時に元気な時に録った方を採用してしまうので、もう本当に歌えないんです。私の喉は駄目なんです。違う、間違えました。私の精神が駄目なんです。頭が駄目なんです。心というものがあるのなら、それがもう本当に駄目なんです。
最後くらい、歌わないとと思ったのですけれどね。



笑えもしない。笑う。



お前が為した悪行を忘れるな。決して忘れるな。
必ず思い出すのだ。
そして全て拒むのだ。
見ることを拒み、光を拒むのだ。
これ以上苦しくなることすら拒みたい。
ここ以上に楽な道はない。
早く死のう?
死んでくれ。



何も書けない。
上手く言えない。言うことがないんだ。
中途半端な嘔吐物を見詰めたくなどない。
言い続けて生き続けて、けれど私は詩も書けない。
私は創作が出来ない。
それなのに見栄だけずっと張っている。
早く早く早く逃げ終わりたい。



増えない。

なんで。



自分の嘘に騙されないことは難しく、記憶の欠落には予兆がないなどという戯言に私は毎日踊らされている。
ひとり踊り続ける。息を求めている。



思い出すことが減って、そのことに無性に焦燥を感じる。
何もかもへの執着が消えていって、いつか言葉すら選べなくなる気がする。
死もまた、停止という建前に隠された後退、逃走、つまりは歩みである。
どこにも行かないことは不可能なのだ。
不変とは、望むべくもない架空の言葉なのだ。



詩は整音作業と似ている気がした。
懐かしい感情は嫌いだ。
それなのに存在しない望郷には敬礼する。
憧れだった。



君は望める世界にいるだろうか。
それがとても難しいだろうことは、これだけ離れてから知った。
神様にさえ反抗してばかりだから、きっと願いなど叶わないけれど、
それでも、何かが、少しでも上手くいくことを祈っている。
何も出来ない場所で祈っている。
永く、途切れることなく祈っている。



どうすれば良いのだろうか。
そんなのはとうにわかり切っていて、本当に、ずっとずっとずっと前から、最初からわかっていて、わかっていて、わかっていて、わかっていて、



あんなに自動的で連鎖的な反芻思考を恨んでいたのに、今はもう一行ずつでしか思い出せない。



不誠実な思い出語り。



言葉ひとつひとつを指差して、嘘吐き、嘘吐き、と言って回る。



決め事を破るのは苦しい。
破らなかったことに誇りでも抱いているのか。
こんなに破ってきているのに?



涙じゃ何も痛まない。



私に言葉を教えて欲しい。



貴方にとって、悲しいという感情は綺麗なものなのでしょうか。



謂れのない恐怖などなかった。
ただ、理由を忘れていくだけ。



全てが余りにも度し難く、後からいくら貶そうが嗤おうが笑おうが、全くもって何の慰めにもならなかった。



楽な道で幸せな思いはしたくない。



なんで死にたいと思ってはいけなかったのか忘れた。
記憶装置を落とした。この世の何処か。



昨日のお前に劣等感を感じる。
明日のお前に劣等感を感じる。



理由と結果が直結出来る内にと願った私に、何と弁明すればいい。



私は貴方の友達になりたかった訳ではない。
拙かろうと不要だろうと、貴方の避難所でいたかった。
私に頼らずに済むようになったら離れて行って欲しいとずっと思っていた。
今まで出逢った全員に思っていた。



靡かない貴方ではないと知っているから。
形に出来ない弱い心は、星に願うの。



いつか消えるとわかっていても、何かをせずにはいられない。
手を伸ばした先を願わずにはいられない。
そうなのだとしたら、長く生きることは幸せなのかもしれない。



一番大事なのは、今日、今すぐから始めること。
後戻りの出来ないようにすること。



「私の理想は相互主義なのかな。」
そうだった。



全部私の我が儘でひとり善がり。
痛々しい。



代わりがないと言えば聞こえはいいのかもしれないけれど、どう換言しても言い繕ってみても、執着でしかなかった。



眩しくて見れないものを、温かくて破り捨ててしまうものを、焦がれるようにやつすように望んでしまった。



何一つ選ばずに書き残すという行為は、書き残した全てを受け入れていることになってしまうのだろうか。



正解は確かめられる内に確かめておくのだよ。
終えられなかった問題を、時間が解決することなどないのだから。

12 - 1 - 増減する断片的で整合性のない物々。

12 - 1 - 増減する断片的で整合性のない物々。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-12

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