11 - 1 - 創作。

「昔好きだった音楽を聴く 泣き方も知らんまま」という歌詞の曲を聴けなくなって少し経つ。
もうこれと言ってやりたいことも欲しいものもないけれど、もしも落ち切る前に努力出来ていて、何か技術を持っていたのなら、私は創作という手段を取ることが出来ていたのかもしれない、などとたらればばかりの毎日だ。
許し難い毒でしかないこれらを、誰かに観せられるように形を整え、簡単には見透かされないように奥深くへ落とし込むこと。
それが創作なのではないかと思った。
苦し紛れの思想を物語に昇華させられるなら、まだ私は生きようと思っていたのだろうか。
少なくとも延命にはなる。
なっていたんだ。
夢を見ただけで、それは私を生かしてくれていた。
歌を歌うだけで、それは私に「同じだね」と言ってくれていた。
ひとりじゃない気がしていた。
違う。
ずっと勝手に、誰かの大切な作品を捻じ曲げていた。
無理やり自分に添わせていた。
間違うことは恥で、汚すことは罪だ。
正しく感受する方法を忘れ、離別を選ぶしかなかった。
再生ボタンを押す前から罪悪が先行する音楽を、どう壊さずに聴けるというのか。
歌う前から未完成を謳う喉で、どう汚さずに歌えるというのか。
句読点と改行の度に別のことを考えなくてはならない頭で、どう物語を読むというのか。
誠実に生きるなんてとうに出来ていないけれど、かつての道程で身に付けた手段だけが消えないんだ。
それに縋るしかもう、何もないんだ。
物語、本、音楽、言葉に、私はそぐえなかった。
創作は夢中へ捨てた。
一度諦めたものを再び手にすることを私は許さない。
そうすることでしか生きれないことに、搔き暮れうずくまり絶望し、そしてそのまま死にゆくことを選んだ。


どうだろう。
これらが全て創作なら、ただ只管に滑稽だ、と私は綺麗に笑うのだろうか。

11 - 1 - 創作。

11 - 1 - 創作。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-11

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