8 - 1 - 何も言いたくない。
傷付かないと優しくなれないというのなら、誰も優しくなくていいでしょう?
だって最後にはこうなるしかない。
何度君が死ぬ妄想をしただろう。
薄情とか穢しているとか、そういうのも全部飛び越してしまったようだ。
君が死んで泣けることに安心をしている。
静穏ではない、空虚だ。
智恵に影が増えることも。
何もかも消えて尚残る感情があることを、どうして静かという言葉で表すのだ?
そうだ、所詮私達は凪いだ水面しか見詰められない。
微かな揺らぎすら影の影を映し込んだだけだった。
俯瞰で追い誤魔化して、月裏に隠して、一体何になる?
無駄なことをこれ以上言いたくなどないのに。
何もかも不毛だとわかっていて、どうしてまだ言わなくてはならない?
何も言いたくない、何もわからないということをわかったのだ。
夢ですら、終わり際しか覚えていないのだ。
整頓しようとした頭は必要なものばかりを捨てていく。
句読点だって不要だ。
それなのにどうしてまだ何かを言わなくてはならない気になるのだろう。
これが苦しいという感情の真実の姿だろうか。
いらないよ。
せめて何も残さず、全部の私を殺してくれ、全てを攫ってくれ。
私は今すぐに消え去りたいのだ。
8 - 1 - 何も言いたくない。