去った女

しゃなり しゃなりと、
紗の香水の音を曳き きぬずれに似た
  沓音で、
かの女も──部屋の壁から去りました。

ぼくは独りで 喫煙いたし、
邪な気持 タールで黄ばむを俟つのです。

しゃなり しゃなりと、
紗の香水の光をいきれし、神経の水面から
  頸のばし、
かの女も──壁をすりぬけ消えました。

ぼくは飾るシモーヌの画をば眺めて、
机の灰をてのひらで拭く、紅さながらに唇に曳く。

  しゃなり しゃなりと
  綺麗なみぶりで 女のひとは屡々消える、
  熱なき不在の美 風景に穿たれる
  とび出る熱の淋しさ余す 男の性情の憐れなことよ。
   

  *

去って了った、女のひとは
ぼくには金属と想えます──
はや 水波のようでもございます。
穿たれた不在 青い空 硝子の虚空 後ろ髪。…

去った女

去った女

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-01

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