去った女
しゃなり しゃなりと、
紗の香水の音を曳き きぬずれに似た
沓音で、
かの女も──部屋の壁から去りました。
ぼくは独りで 喫煙いたし、
邪な気持 タールで黄ばむを俟つのです。
しゃなり しゃなりと、
紗の香水の光をいきれし、神経の水面から
頸のばし、
かの女も──壁をすりぬけ消えました。
ぼくは飾るシモーヌの画をば眺めて、
机の灰をてのひらで拭く、紅さながらに唇に曳く。
しゃなり しゃなりと
綺麗なみぶりで 女のひとは屡々消える、
熱なき不在の美 風景に穿たれる
とび出る熱の淋しさ余す 男の性情の憐れなことよ。
*
去って了った、女のひとは
ぼくには金属と想えます──
はや 水波のようでもございます。
穿たれた不在 青い空 硝子の虚空 後ろ髪。…
去った女