ただ、夏の枯れ花を

ただ、夏の枯れ花を

ただ、夏の枯れ花を

未来のことを考えると死にたくなる。
今のことを考えると虚無感ばかり。
認知的不協和はばかりで育った心根は屑以下で。弱者だって笑われて貶されていることも気づかないふり。もうそんな日々は嫌だからと変化を望んでも、心根は簡単には変われない。報われない。劣等感は燃え続けるばかりだ。そんな日々だからこそ、死にたい。そして、底辺の人間が夢を見て描く言葉に価値なんてない。ただ、そこにあるのは虚しい現実。金も愛も実力も学力も、何もない人がいるだけだ。
もう、いいかな。こんな思いを繰り返して生きても前に進めていない。だからさ、一度くらい過ちを犯したっていいじゃないか。困るやつは誰もいない。最善の解決策。
「自殺さ。」

 自己紹介は先ほど終わらせた。無力な二十歳の僕である。本当は叫んでやりたかった。愛情に命と青春を乗せたのに報われないこの人生を。
「夏が終わって清々さ。恋とか、愛とか鬱陶しくて仕方がない。」
 ビル風に仰がれることもなく、ただ立ち竦むビルの頂上。夜景がきれいだ。極彩色の灯が水平線を崩す。影に隠れることを知らない影たちが群れる。雑踏の一つも、クラクションに掻き消される。音が響く間に下界の光は揺らぐ、水紋のよう。
そう、こんな景色を誰かに教えてやりたいのだが生憎教えてあげられるほどの仲のいい奴なんていない。始めから分かり切っていたことなのかもしれない。教室の隅でカーテンに隠された影はいずれ孤独に死んでいくのだと。そんな決まりごとがこの世の中には知らず知らずの内に構成されていたのかもしれない。
 右腕に飾られた腕時計を眺める。
「8月31日。20:32」
 深呼吸を一つ。この街に爆弾を落とす前ように。火炎瓶を知らぬ家に投げ捨てるように。流星如きをテニスラケットで止めるように。スーパーヒーロー気取りか、大悪党気取りか。
「お前らなんかにこの人生をみさせてたまるものか。」
 唾を吐きつける。ビルの隙間を透明な隕石のように下りだす。地面に触れた瞬間なんて見えていないけれども、間違いなくぐしゃぐしゃだ。
「ああ、いいね。これが俺の最後だ。」
 雲丹の棘を一本ずつハサミで切り落とす。そうして出来上がった醜く黒く歪な球体が僕だ。それを君の下に降らす。悲しみだけを、絶望の淵に立った者だけがみられる景色をここに書きとめるよ。
「さらば」

 ~終わる~

ただ、夏の枯れ花を

ただ、夏の枯れ花を

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-08-31

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