水波にかき消えて
群青色に穿たれた天蓋
しんとしずまった夜空のような
ささやかな
ささやかな清む水のたまりが足元にありまして
ぼくはその不安な波うちに
冷然で優美にたゆたう水のおもてに
嘗ての恋人がいるとみまがって、
いとおしげに 絹触れるごとく繊細にゆびで圧す
昔の恋のperfumeの光──
一条落ちるのは 剥がれた恋だけであって
薫りの想起は音楽の裡に浮びません
詩は光と音楽の共同舞踏──昔の恋は独舞踊
あのひとの黒髪ははや砂のダイヤの硬き印象…
いって了った恋人の幻影は今宵群青の天に張る
否──彼女は天空そのものであるのです
後ろ髪ひかれる性情がぼくを詩へ剥ぐとは口惜しい──
*
舞踊っていなさい
舞踊っていなさい
犬死詩人よ
わが孤独 嗤え その孤独を 撲れ
ひらひらひらと虚空に照らされ
無き月硝子城へ焦がれる自己を愛していなさい
閃き 千切れ 裂かれたら──
最後に名前を呼んであげるわ──
水波にかき消えて