私のネギ食べてくれる人、いませんか?(泣)

エッセイ集『カクガクシカジカ』より。
折り本フェアにて配信
2020/10/3 発行

 皆さんには嫌いな食べ物ってありますでしょうか? ピーマン? しいたけ? チーズ? それともウニ? なるほど。私はレバーに生のタマネギ。それにネギ。そうです、このネギがくせ者なんです! これだけはどうしても、どうしても食べられない! あちこちの料理に乗っかって出てきやがって! あのー、私のネギを食べてくれる人いますか? あーよかった。本当に一口も食べられないんです。ネギも好きな人に食べてもらえる方が幸せですからね。

 どこが嫌いかって? まずは匂いですね。あのくっさい匂いが台所で切ってるとそれだけで飛んでくるんです。やめてくれぇ! 生物兵器だ! あとですね、食感もだめです。あの食感を思い出しただけで……吐き気がしてきます。
 現に、この折り本を作るために、ネギの画像をたくさん探したり、頑張ってロゴを作ってたんですが、なんだかそれだけで気分が悪くなってきました。それくらい、私のネギ嫌いは筋金入りなのです。

 いつからでしょうか。全くもって覚えていないのですが、物心つく頃から私はネギが食べられませんでした。レバーとかだったら食べる機会もあまりないですよね。だから破壊力は少ないのですが、ネギって薬味じゃないですか。さっきも言った通り、あっちこちの料理に乗っかって出てくるんですよ! 特に私の大好きなラーメン! 毎回、
「ネギ抜きで」
と注文しなければならないこちらの身にもなって欲しいですね。

 この世から消えてなくなればいいのに!

 もちろん克服しようとはしました。その度に台所の三角コーナーに直行です。意味は、わかりますよね? お食事中の方がいたら申し訳ございません。

 いつだったか、母が『これではいけない』と思ったのか、ただおいしいものを食べさせたかったのかしつこく下仁田ネギを食べさせようとしてきたことがありました。下仁田ってどこですか? 群馬県です。群馬県ってどこですか? 関東のど真ん中の鶴の形した県ですね。え、群馬って東北じゃないんですか!? これ何回言えばいいんですか! 群馬は関東です。そして私の出身県です。

『ねぎとこんにゃく 下仁田名産』

 群馬県の人なら誰でも知っている上毛カルタの一節です。群馬県はこんにゃくで有名ですが、実はネギでも有名なのです。この有名なネギ――茹でて、なんかのタレをかけたもの――を母が食卓に出したのです。いやいや、そんな。ネギが食べられない人にいきなり茹でた丸のままのを出すって。素人にいきなり大車輪させるようなものでしょう。無理に決まってます。しかし、何故か今日の母は引き下がりません。これは食べるまで許してくれなそうです。私は鼻をつまんで無理矢理それを咀嚼して飲み込もうとしましたが……
「おえっ……ヴエッ……ゲフッゴホッ」
 やっぱり三角コーナーに直行。下仁田ネギとはいえ、おいしくなかった。無理なものは無理です。 

 結局、私のネギ嫌いはさらに悪化することとなりました。少量でも駄目なんです。
 万能ネギをこまかーく切ったやつでも駄目。お弁当とか、うどんとか買うと勝手に上に乗っているあいつらを箸でちまちま取ってから、
「はー……なんでわざわざおいしくないトッピングをするんだろう……」
とため息をつくまでがデフォルトです。

さっきからネギ嫌いネギ嫌いと連呼している私ですが、インスタントの味噌汁とかに入っている乾燥ネギなら食べられるんですよ。あれはもうネギじゃないですから。食感もない、匂いもしない。なので大丈夫。あとは『ネギ風味』の食べ物はかろうじて大丈夫なレベルですね。

 一番勘弁して欲しいのが忘年会などの飲み会のとき! 必ずと言っていいほぼネギのトッピングがあるのですよ。ほら、鍋が出たら必ず後は雑炊。雑炊には間違いなくネギがかかっているのです。生のタマネギの上にメインのレバ刺し、その上からネギのトッピングがついている料理が出てきたときは思わず笑ってしまったっけ。なんで私の食べられないもの全部一度に出してくるの? これは一体なんのいじめなの?

 今年(去年?)は久しぶりに仲間うちで忘年会をしたのですが、そのときもネギがすごかったなぁ。しゃぶしゃぶ用のお肉の上に山盛りのネギ! ひぃぃいぃ! 考えただけで気持ち悪くなる……という話をしていたら、
「対ネリさん兵器ですね!」
 とまで言われてしまったこの料理。あ、うどん来た。この流れは締めのうどんにネギを入れて食べなさいってことですね? あぁぁ、ネギ嫌いのせいでこんなに美味しそうなお肉もうどんも食べられないってどういうことなの?
みんな気を利かせて私の分のお肉とうどんを先に茹でてくれました。かたじけない!

 この事件ですっかり私はネギ嫌いの人として認識されました。でも、不思議ですよね。何故ネギの類いだけはいつまでたっても食べることができないのでしょう。私は偏食が少ない方です。しかし、誰にでも昔は食べられないものはあったでしょう。私の場合はウニに牡蠣、ゴーヤにカリフラワー。これらは今は食べられますし、もはや牡蠣は好物と言ってもいいくらいの好きな食べ物です。この現象がまたおきないか、という一縷の望みをかけてたまに、
「挑戦してみたら食べれるかも……」
とラーメンをそのまま頼むことがあるんです。

 でも、駄目なんです。どうしても匂いがきつくて、スープにネギの味がしみ出してきて。せっかくのラーメンが台無しです。
「あぁ、やっぱり今回も駄目だった……」
とネギをきれーいに取り分けてネギ風味になったラーメンをすするのです。その取り分けたネギを横から友達が食べてくれます。

 友達と一緒にお店に行ったときはいいんです。あなたはネギが大好きなの私も知ってるから。でも、問題はそうでないとき。例えば、会社の飲み会で。ネギが出てきたとき。

「私のネギ、食べてくれる人いませんか?」

 お決まりの台詞が飛び出すのです。

私のネギ食べてくれる人、いませんか?(泣)

私のネギ食べてくれる人、いませんか?(泣)

エッセイ集『カクガクシカジカ』収録。 『ネギが絶対に食べられない私の話』

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-08-21

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