私の小説の書き方って変ですか?

エッセイ集『カクガクシカジカ』より。
改訂前の本を出版する際に書き下ろした作品です。
2021/8/20 執筆。

『私の小説の書き方って変ですか?』

 私が周りにこんなことを聞き始めたのはおそらく中編オムニバス作品を書くようになった頃。

 本を出し始めてから一年半かそこら経った頃からでしょうか。同人活動を始めて一年半にしては私はたくさんの本を出しました。たくさんの人の手に本を取ってもらうことができました。本当に皆様には感謝がつきません。ありがとうございます。
 こんな駆け出しの、小説の書き方のイロハもわかっていない人間に対して皆様はなんてお優しいんでしょう。お褒めの言葉をいただくことも増えてきました。そこで、よく聞かれることが二つありました。
 一つ目は『どこで小説の書き方を勉強したんですか?』

 はい、先ほども書いた通り、私は小説の『し』の字もわかっていない人間でして……ようするに独学でございます。『小説の書き方』なんていう大仰な本を読んだことなどありません。

 ただ、毎日毎日少しずつ執筆作業を楽しんでいただけです。それしかしていません。でも不思議なもので、一年半前に書いた小説より今書いた小説の方が格段にパワーアップしているのです。やはりスポーツや音楽と同じように文字を書くことも練習なのでしょうか。

 二つ目は『どうやってプロットを書いているのですか?』

 んん? 待って、待って。プロットって何ですか? 漫画家でいうところのネーム……のようなものでしょうか。お恥ずかしながら書いておりません。ワードに直書きです。というのも、私はキャラクターが自分に憑依するタイプの物書きでして、スイッチが入るとキャラクターが勝手におしゃべりしてくれるんです。それをパソコンという媒体を使って打ち出している、とでも言いましょうか。

 もちろん、物語の筋は軽く考えてはいるんですよ。でも、ラストシーンが決まっていなかったり、プロローグが決まっていなかったり。
 ときにはキャラクターが私が考えた物語という枠を壊して勝手に動き回ってしまうため、展開をキャラのために変えたり、全部没にしたりとか。
 この辺まで話すと相手が混乱し始めます。『え、ラストシーンも決めてから書かないんですか?』とか。それはそのときによりますね。ラストだけ決まっていたり、中盤だけ決まっていたり。そこで、私がとっている方法は秘技『書きたいところから書く戦法』! 起承転結の転から書いたり、その後に起に戻ってみたりとか。これを言うと口をそろえて言われることがあります。

『頭、混乱しませんか?』

 しません。むしろ手が止まらずに書くことができるので私には向いているんです。私の友達が小説を書いているところを配信しているところを見たことがあるのですが、最初からきっちり書いていたのでとても驚いた記憶があります。
 驚くも何も、それが普通だと思うのですが、当時の私にはその光景は信じられないものでした。逆に私にはその方法で書くことはできません。もし、ここがパソコンのない時代だったら私はきっと小説もエッセイも書いていなかったことでしょう。あっちからもこっちからも書くことができる。これはパソコンの大きな強みです。そういえば、私は昔から原稿用紙が苦手でした。見るだけでため息がでるほど嫌いなんです。もし、頭の部分に付け足したい文章を思いついたらどうするの? 全部消して書き直しです。それを思うと頭が痛くなるのです。

ケース①『ギャグとシリアス反復横跳び』

 それは私が初めてのオムニバス小説作品を執筆していたときのことです。私にはどうしてもやりたいことがありました。それは全く同じテーマで真逆の作品を書くこと。今回書きたいテーマは『逃走』。生死を賭けた逃走ゲームに参加させられた青年のお話と、溜まった仕事から命を賭けて(?)逃げ回るとある国の帝王のお話です。

 さて、この全くテンションの違う二つの話ですが、どのように書いていたかというと、例のごとく思いついたところから書いていたのですが、それに加えてその日のテンションに合わせて二つのお話を反復横跳びで書いていました。

 今日はなんだか愉快な話を書きたいからギャグパートね。今日はなんだか気持ちが沈みがちだからシリアスな方の話ね。酷いときは午前中にギャグパート、午後にシリアスパート、という風に一日の中でも反復横跳び状態。

 このオムニバス小説を読ませた方にこの事実を伝えると目を丸くして驚かれるのです。
「あの話だよね? よく頭おかしくならなかったね?」
 と。いやだって……甘いものを食べたあとは辛いもの食べたくならないですか? それと同じですよ……え、同じじゃないって?
 えーとですね、私はギャグを書くのが苦手なのです。読むのは大好きなのですが、書こうとするとどうも……メタネタに走りがちだったり、うーん。どうもうまくいきません。 

 逆にシリアスを書くのはとても得意なのですが。ずっとギャグを書いているのはしんどい。だからこんなことになったのかな? と今では分析していますが……私も私の頭の中がどうなっているのかはよくわかりません。

 これは例えば、ギャグじゃなくても一緒です。ほのぼのとしたお話だったとしても、しっかり向き合った後ではどうしてもシリアスが書きたくなるのです。
 もちろんシリアスとしっかり向き合ったあとではほのぼのとした話やギャグが書きたくなります。ずっとシリアスな話を書き続けることはできないし、ほのぼのでもギャグでも同じです。

ケース② 『あとで書いてね』戦法

 あるとき私は長編小説にチャレンジしていました。今まで書いていたのはオムニバス小説や短編など。私は長い物語を書くのは得意ではないのです。でも、思いついてしまった物語は長編もの。始めた物語はきちんと完結させてあげなければなりません。そう思った私は執筆を始めましたが、これがなかなかに難しい!

 こっそり大きな声で言いますが、この話、実は年齢指定ものな上にベーコンレタストマトサンドのトマト抜きでして。ほかにも人を選ぶ要素が。ごにょごにょ。こんなに尖った作品を書くのはワタクシ、初めてでございます。いつもは森に住む女の子が出てくるほんわかした話を書いたり、ハムスターに狂ったりしている話を書いているため、ギアを完全に切り替えないと書けないのですよ。そこで、友達に編集担当者になってもらい、あぁだこうだと口を出してもらったり、相談に乗ってもらったりしました。その友達には毎日、進捗を送りつけていたのですが……私は何度も言った通り途中から書いたり、また戻ったり、フリーダムな書き方をしている人間です。でも、これは進捗報告用ですから、流れがわかりづらいのは困ります。なので、頭をひねった結果、まだ書けていない部分に『???』をくっつけて、ここは後で書くよ、アピールをしていました。

 一番酷かったのは、アレですね。このお話は全四章になる予定で書いていたのですが、書いているうちにエピローグをくっつけたくなったのです。そうするとプロローグを合わせて書かなくてはいけない。確かそのとき、私は二章か三章を書いていたと思うのですが、プロローグに何を書こうか思いつかなかったのです。厳密に言えば、書くネタがたくさんありすぎて、何を書いたらこのお話にしっくりくるのかを迷っていたのです。そこで、例の編集担当者の友達に相談をしました。

「ねえ、プロローグって何を書いたらいいと思う?」
「は? 今更プロローグの話?」

 そりゃそうなりますよねぇ。

 そんなこんなでだんだんと『???』の部分が減って話と話が繋がり始めました。それを見た友達は言いました。
「あぁ! ここはこういう風に繋がってたのね! 確かに読んだことはあるんだけど、やっぱり続けて読むと感動度が違うよ!」

 ありがとうございます。

「それにしてもよくこんな書き方してて混乱しなかったね。ネリさんの書き方、やっぱりおかしいと思う!」

 あぁ、やっぱり?

 もちろん彼女は貶しているのではなくて、ユニークだね、という褒め言葉です。彼女とはそういう間柄なので。

 なので、私は小説の書き方を聞かれると、必ず『私の書き方は本当に特殊だから、真似しないでね!』と念を押すようになりました。真似するとたぶん教えた方の物語が崩壊してしまうと思うのです。
 というか、『真似しようとしても真似できない』の方が正しいのかもしれませんが。

 あなた様がこの本を読んでいる今日もネリは変な書き方で文章を書いているのでしょう。そうでないと私は物語を紡ぐことができないのですから。

私の小説の書き方って変ですか?

私の小説の書き方って変ですか?

エッセイ集『カクガクシカジカ』に収録。 『「やっぱりあなたの小説の書き方、おかしいと思う!」と言われる私の話』

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-08-21

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  2. ケース①『ギャグとシリアス反復横跳び』
  3. ケース② 『あとで書いてね』戦法