テスト隠蔽大作戦
エッセイ集『カクガクシカジカ』より。
自主企画 ツキイチ! 10月号 2020/10/1 発行
やってしまった。またきちんと確かめをしなかった。これはものすごい凡ミスだ。まずい、お母さんに怒られる! と、とりあえず今日は怒られたくない気分だし、見せるのはやめておこう……
さっきから何の話をしてるのかって? テストの話ですよ、テスト! え? 何テストごときでそんなに慌てているのかって? うちはですね、母が厳しいんですよ。特にお勉強のことに関しては。見せられるのは90点までですね。80点でもとろうものなら、ずっと続く説教タイムとやりなおしのお勉強タイムが待っています。文字にするとこれ、馬鹿みたいですよねぇ。80点で悪い点扱いって!
『私なんていっつも60点とれるかとれないかなんだけど。馬鹿にしてるの!?』
『うちはテストのことは何も言われなかったけど……』
はいはい、言いたいことがある人は廊下に立ってなさい。今は私の話をしているのです。ヨソはヨソ。ウチはウチ。とにかく私が中途半端にお勉強ができたせいで母も私に期待を寄せたのだと思います。
あれは確か私が小学三年生の頃でした。あの頃の私は……なんていうかスランプでした。というのも担任の先生との相性が悪く、友達ともいろいろと――ここに書けないようなごたごたがあったので、ずっと落ち込んでいました。落ち込みというものはとかくテストに影響するのですね。その年のテストは悪い点が特に多い年でした。もう、かくまいきれないほどにその量は膨れ上がっていました。そのランドセルでかくまいきれなくなったテストを私は自分の部屋の机の裏につっこんで隠していました。え? 何故捨ててしまわなかったのかって? 小学生のときのテスト用紙ってすごくカラフルじゃありませんでした? あんな紙がゴミ袋に入っていたらすぐに母に気づかれるじゃないですか。当時、ゴミの片付けをしていたのは母でしたから、急に
「今日は私がゴミを片付けるよ!」
とか急に言い出したら怪しまれるに決まってる。そうでなくても母は聡い人でしたから、私がいつもと違う行動をしたら何かあるとすぐにバレてしまいます。
そんなこんなでマイ机の裏にはテスト用紙がどんどんとたまっていきました。悪い点を取るたびにそこに放り込んでいたので、中は魔窟だったと思います。でももう考えたくない現実逃避の極み。それくらい私は母に怒られることが嫌でした。
しかし、ある日のこと。ついにテスト隠しがバレました。当然雷が落ちました。もう、めちゃくちゃに怒られたあげく反省文も書かされました。反省文まで書かせる家庭ってなかなかないと思うのですが。いやぁ、あれはやばかったです。
とはいえ、テストがなくならない限り私もテスト隠しをやめるわけにはいきません。今度は家に持って帰るのをやめました。終業式の日、しれっと忘れたふりをして隠したテストでぱんぱんになった手提げ袋をわざと学校においてきました。帰る途中、後ろからクラスメイトが追いかけてきて、
「これネリちゃんのでしょ? 忘れてるよ!」
と超親切に持ってきてくれました。はは、ありがとう……
当然母には怒られましたし、これはいい方法ではなかったということがわかっただけでした。
では、学校の机の引き出しを二重底にしたらどうだろう? テストを丁寧に折りたたんで隠しテストエリアを作り、その上に教科書を乗せるのです。これなら一応なんとなく見えない……かな?
しかし、それも所詮小学生五年生の浅知恵でしかありません。とあることがきっかけで担任の先生にバレていることが判明。そのテストは持って帰らざるをえませんでした。おかしいなぁ。私の中では完璧な作戦だったのに……
はい、ここまで書いたところで当時の反省文を書いた日記帳を発見しました。なんだ、学校からのお便りも隠してたのか、私。なになに? 音楽発表会でピアノを弾きたかったのにじゃんけんに負けて弾けなかったからそのお便りを隠した? だんだん隠すものが増えているし、全然反省してないぞ、こいつ……文章ばっかりうまくなりやがって……
ここまでくると、母もテストがなかなか返ってこないと私がテストを隠していると疑うようになってきました。自業自得といえば自業自得ですが。もうこれは最後の決戦です。私は頭を絞りました。
小学六年生のとき。ある日の掃除の時間。私は学校の焼却炉近くの庭が担当だったので、その部分を掃除していました。ふと、私の目にゴミ袋がつまれたさびれた焼却ボックスが飛び込んできました。当時、ゴミ管理がゆるゆるだった時代です。鍵付きの焼却ボックスなんていうものもありません。これだ! と思いました。
私はいらないお便りをたくさん用意し、テストをぎゅーっと圧縮して小さくしました。そしてこれらを一緒にゴミ袋に詰めました。そしてそれを学校から帰るときに焼灼ボックスの中にポイ! と入れてきました。その後、どうなったかって?
何もおきなかったのです。テストは一般ゴミと一緒に燃やされたのでしょう。こうして、ようやく私とテスト隠しの熱くて長い戦いは幕を下ろしたのでした。
ただ、これは私が小学生の頃のお話。
テストのことで本当に四苦八苦することになるのはまた別のお話なのです。
テスト隠蔽大作戦