たから箱庭
エッセイ集『たから箱庭』より。
ペーパーウェル04 お題『文房具』
2020/6/6より頒布
今日は私の子供時代のお話をしたいと思います。今回のテーマは『文房具』ということなので、子供時代×文房具のお話です。
みなさんはいかがでしょう? 子供のときの文房具といえば、バトルえんぴつ? それとも練り消し? この二つは私の周りでとっても流行っていたのですが、私はどちらにも興味がありませんでした。
私にとって、文房具といえばあれです。消しゴム! それもただの消しゴムではありません。
ケーキの形をしていたり、ホットドッグの形をしているあのパズルみたいな消しゴムです。名前をなんていうのかわかりませんが、昔から私はあの消しゴムが大好きでした。
物心ついたときからあのパズルな消しゴムがうちにたくさんありました。お菓子にケーキにハンバーガー、ホットドッグにアイス! たくさん種類があって見ているだけでわくわくしてきます。
私は小さな物が大好きです。なので、ミニチュア的なものを見ていると心が躍るのです。食玩やチョコエッグのミニフィギュア。物欲が少なく、親にあまりものをねだった思い出がない私もこれらはよく、こっそり買い物カゴに放り込んでいました。あの消しゴムを好きになるのは、もう必然と言っていいでしょう。
話は変わりますが、私の子供時代は今とは違う場所に住んでいました。両親の仕事の関係で、親戚たちとは随分と離れた関東のとある県に住んでいたのですが、夏休みになると毎年、両親の実家に飛行機を使って帰省していました。
私は毎年それを楽しみにしていました。だって、普段は学校に通うだけで県から出ることなんてほとんどありません。それが飛行機まで使って大冒険!
ある年の夏、いつものようにそうやって飛行機を使っておばあちゃんのところに行ったときのことです。私は近くの遊園地に連れて行ってもらいました。
そこで私が、『こういう消しゴムが好き!』と自ら主張したのか、両親が教えたのかもう覚えていませんが、おばあちゃんに食べ物消しゴムの詰め合わせを買ってもらったのです。私は大喜び。全く遊園地の乗り物に乗った思い出はないのに、この消しゴムを買ってもらったことだけはよく覚えているのです。確か、本当にこの消しゴムの詰め合わせ、気に入ってしまってお弁当よろしくハンカチに包んでどこかに出かけるときは持って行っていたっけ……それくらい、食べ物消しゴムは私にとって宝物だったのです。
ところで、この食べ物消しゴム、消しゴムとしての機能はイマイチです。文字を消そうとしても、周りが黒くなってしまい、ろくに消すことができないのです。どんなに食べ物消しゴムが好きでも、真面目は私は学校には普通の消しゴムを持っていっていました。消しゴムとはいえ、もっぱらこの食べ物消しゴム、私のおままごとの道具として使われていました。
そんなある日のことです。学校から帰るとその宝物の食べ物消しゴムたちが机の上から全て消えていたのです。私はびっくり仰天。すぐに母のところにすっ飛んで行って、
「私の食べ物消しゴムがない!」
とわめきちらしました。母は、一言。
「捨てたよ。もういらないでしょ?」
と発言。当時私はもう小学校5年生くらいの年齢。親としてはもう一人おままごとやぬいぐるみのような幼女趣味は卒業して欲しかったのかもしれません。それか、純粋に汚いと思ったのか……わかりませんが、私としては大ショックで、今でもあのときの衝撃と床が抜けたような絶望感は忘れられません。
もし、この文章を読んでいる親御さんがいらっしゃったら、子供のコレクションは勝手に捨てないであげてください。子供は思った以上にショックを受けるし、引きずるものです。私がそうです。大人になっても、引きずっています。最近、母に
「昔さぁ、私の集めてた食べ物消しゴム、勝手に捨てたじゃん? あれ、すごくショックだったんだけど、なんで捨てたの?」
と詰め寄ったことがあります。しかし、
「忘れたなぁ……そんなことあったっけ?」
と言われてしまいました。とほほ。あんなに引きずったのに、忘れたとは。なんだか気が抜けてしまいました。
今でも私はこっそりと食べ物消しゴムを集めているのですが、やっぱり子供のときの感覚とは違うなぁ、と思います。あのときは、例え100均で買った消しゴムでもすごくキラキラ輝いて見えた物です。なんせ、うちにはお小遣い制度というものがなかった(必要なものがあるときだけもらえる)ので、余計にお金というものが貴重だったのです。
今では、100均に行けば色とりどりの食べ物消しゴムが売っています。私の手持ちのお金ならば『大人買い』だってできます。でも、そうではないのです。
なんだろう、あのときの感覚って……
子供のときならではのあの感覚。大人にとってはゴミかもしれないけど、子供にとってみれば大切な宝物。すべてのものが宝物に見えたあの頃。
今はもうあの頃に戻ることはできないけれど、私は不思議ともう『戻りたい』とは思わないんですよね。それは人によりけりだと思いますが……
と、消しゴム一つで私の昔話を長々としてしまいましたが、みなさん楽しんでいただけたでしょうか。もし、楽しんでいただけたら幸いです。
たから箱庭