創作記念日
エッセイ集『たから箱庭』より。
突発的ネットプリント配信 2020/7/6 発行
2019年7月6日。この日は私にとって特別な日です。初めて同人誌を発行した日。あの日から1年が経ちました。長かったような、短かったような、夢のような時間。あの日から私の全てが変わりだしました。これは大げさな話ではありません。『音葉ネリ』という一人の創作者が経験した全てです。
私は、今でもとある精神疾患により仕事ができない状態にあります。今でこそ、少しずつ減薬をすることができるようになりましたが、一年と少し前、私はひどい状態でした。そのきっかけは今までお世話になってきた病院の先生が診療所をやめることになってしまったことにあります。精神疾患患者には『先生が変わる』というのはゆゆしき問題です。そこで、先生が転院された病院を追いかけ、そこに通院することになったのですが。その病院は私が前に勤めていた病院だったのです! しかも私の精神疾患発症のせいで多大なご迷惑をかけてしまった病院! そんなところにこれから通院するの……? 私の精神状態はひどく荒れました。ただでさえ、病状が思わしくないのに、こんなひどい偶然ってある!?
そんなこんなで私は泣いてばかりいました。そして、一つの決断をします。
その病院に通うのを諦め、遠くの病院に通うことにしました。もう、手間が~とか、ガソリン代が~とか言っていられませんでした。いわくつきの病院に通院するのをやめたこと、ちょうど変更した薬が効いてきたことでなんとなく、『何かをやってみたい』という気持ちがようやく芽生えてきました。そして、急に、本当に急に思い立ったのです。『本を作ってみたい』と。
実は、そのときちょうど自分のオリジナルキャラの生活についてワードでまとめたり、本やネットで調べ物をしたりしていたのです。そのキャラは森で動物と一緒に生活をしている子です。
『どんな風に生活しているんだろう?』
作者自身が一番疑問に思っていました。この検索結果をパソコンの中にファイルとして仕舞っておくのはもったいない。これ、論文風にして本にしたらおもしろそう。そんな軽い考えで、私の創作活動は始まったのでした。
それからの日々はリハビリを兼ねて、毎日毎日図書館に行って調べ物をしました。近くの海に行って写真を撮ったり、漂流物を調べたり、フィールドワークをしました。そうして、完成したのが『森に生きる』。初めてのコピー本でした。
ここで問題が発生します。今でさえ、たくさんの創作仲間に恵まれている私ですが当時は近くに友達もおらず、本当に一人きりでした。なので、
『表紙ってどうやって作るの?』
『できたはいいけど、どうやってホチキス止めするの?』
など、様々な壁が私を阻みます。そうして、今から考えたらめちゃくちゃな方法でそれを解決していったのでした。写真紙に表紙を印刷してみたり、本の背表紙にキリで穴を開けてそこにホッチキスを通したり。
そうして、本自体は完成したのですが、最後の問題が私を待っていました。
『ペンネームが決まらない!』
『ネリ』というハンドルネームは前からネットで使っていたものでした。これは私のオリジナルキャラの名前を決めたときの没ネームです。『ネリネ』という花の名前からとったものです。ちなみに、そのオリキャラは『シオン』という名前になったので、もしかしたら私は『シオン』を名乗っていた可能性もあるのです。
と、いうわけで下の名前は『ネリ』でよさそうです。しかし、小説書きさんは基本苗字があるもの、という認識だったので苗字をつけたかったのです。もう早く本が出したくて出したくてたまらなかった私は、自分で考えることを放棄しました。私には名付けのセンスがないのです。そうして、友達に出してもらった候補の中から一番しっくりきたのが『音葉』だったのです。その瞬間から私は『音葉ネリ』になったのでした。
このとき、私の苗字を考えてくれた友達には今でも感謝がつきません。本当にありがとうございました。この場を借りてお礼を言わせていただきます。
音葉ネリとなった私はその後、『今度は印刷所に依頼して本を作ってみたい!』と思い立ちました。しかし、この人は小説すら書いたことないのに何を言っているのでしょう。そもそも私は小説どころか文章を書くこと自体がものすごく苦手です。小学校の読書感想文では毎年泣いていました。そんな私ですが、幸いなことに妄想力だけはありました。そして、一つの案を思いつきました。
『小説ではなくて、誰かに手記として語らせよう』
手記や日記ならば私にも書けそうだ。そう思い立って、一つの物語を考えました。それが『とある研究員の手記』です。一人の少女の失われた過去をとある研究員が手記として語る、そんな物語です。初めてきちんとした物語を作ったしては上出来です。
というか、私、この話大好き。自画自賛と言われてもいい、読み返すといつも同じところで泣いちゃうんだから。
さぁ、印刷所に提出だ! しかし、ここで最大の壁が音葉ネリに立ちはだかったのです。それは、表紙作り! そもそも、私はイラストが全く描けないために文字方向に進んだのに、何故私はデザインに苦労しているのだ!?
落ち着くのだ、ネリ。ふむふむ、テンプレートをダウンロードして、無料のイラストソフトを使えばいいのか。写真を貼って、タイトルをうてばいいのね? ついでに四角で囲えば良い感じになるかしら?
あの、そもそもレイヤーって何ですか? 何故、貼った写真を動かすことができないのでしょう? 四角! さっきから描いてるってば! なんで表示できないんだよぉ! あれ、できた。
とりあえず、保存! 四苦八苦、七転八倒とはまさにこのことです。こうして、ネリの初めての印刷所での本作りはよくわからないまま終わりました。
その後、私は創作仲間と出会い、切磋琢磨しながら本を出していくことになるのでした。教えてもらいながら作る本作りはとてもとても楽しいもので、気がついたら、一年経っていました。みんな、これからもよろしくね。
創作記念日