ゴーストライター

エッセイ集『たから箱庭』より。
pictSQUARE 2020/10/31開催のイベントにて頒布

 皆様、小さい頃に習い事ってやっていましたでしょうか? 私はスイミングとピアノをやっていました。どちらも物心つく頃からやっていて、スイミングの方はからっきし駄目だったのですが、ピアノの方は自分で言うのもなんですが才能がありました。絶対音感ってありますでしょう? 私にも絶対音感がありまして、『はい、この音は何の音?』という課題は私、外したことありません。

 今回はこのピアノのお話をしようと思います。確か、ピアノは幼稚園に入る前からやっていた記憶があります。ピアノ教室に通う前は、わたくし、ものすっごく音痴でした。めちゃくちゃ音痴なのに楽しそうにひな祭りの歌を歌っている映像がビデオに残っていて、今でも親に茶化されます。 
 それが、ピアノ教室に通うようになってからはどうでしょう。あまりにも急に上手くなって、ビデオを見ていた私は吹き出してしまいました。

 親いわく『耳がいい子供』でした。先生からも一目置かれるくらいには教室で一番上手かったのは私でした。小学校に上がるときには私はピアノの専門コースでピアノを習うようになりました。この専門のピアノ教室、先生がとても厳しい人で、私とは馬が合わずにだいぶ苦労したのですが、それは今回のお話の中心ではありません。このお話のタイトルは『ゴーストライター』です。さてさて、誰がどうゴーストライターになっていくのか……? それを今からお話しようと思います。
 このピアノ教室、一年に何度か発表会があるのですが、毎年ある課題が『自分で作曲した曲を披露する』というクソみたいな――ごほん、難しいものでした。それは小学一年生にも漏れずに課され、さすがにまだ作曲の『さ』の字も知らないような幼女に全部を作曲するのは難しい、という温情だったのでしょう。『来週までにスモールモチーフを作ってきなさい』という課題がいきなり与えられました。
 さて、いきなりメロディーを作れと言われてもどうすればいいのかなんてわかりません。よくコード進行から曲を作ると簡単、なんて言われていますが私達はまだコードだってよくわかりません。そんなひよっこに作曲しろなんて、なんて無謀な……!
 でも、泣いたり喚いたりしながら私はやりとげました。しかもモチーフではなくて一曲作りあげたのです。それはほんの楽譜二段あまりの短い曲でしたが、採譜までしたんですよ。これだけできれば十分じゃないですか。 
 タイトルはー、忘れましたが、『ぴょんぴょんウサギさん』的なかわいいタイトルだったと思います。しかし、先生はこの短さに不満だったのでしょう。私に言いました。
「もう一曲作ってきて」
 と。また来週までにスモールモチーフとやらを作れというのです。そんなのってないよ!

 今回は本当に難産でした。もうモチーフとも言えないような不完全なものです。でも、それしかないのだし、それを提出するしかありませんでした。私がおそるおそるモチーフを披露すると、先生はそこからメロディーを広げて綺麗なメロディーを作ってくれました。なんだ、これでいいの? タイトルは『そらをとぶ白鳥』です。というか、これ、私が作ったんじゃなくない? まぁ一年生だしこんなものか。でも何か釈然としないまま、私は黙っていました。

時は過ぎ、一年後の同じ頃。やはり作曲の課題が出されました。またスモールモチーフを作ってこいという悪魔の課題が! やはり絞り出すようにして泣いたり喚いたりしてモチーフを作り、先生がその先を作り……という手法でなんとか曲のようなものができてきました。しかし、今度は二年生ですから少し難しいことをしなければなりません。
「別の展開を考えてきて。全然違うメロディーをくっつけて一つの曲にしましょう」
 先生は言いました。これには本当にまいりました。確か、この課題至上最高に泣いたんじゃないかしら。母親も巻き込んで、騒ぎに騒いだことをうっすらと覚えています。
 
 しびれを切らした母が私をピアノから引きずり降ろし、言いました。
「例えば! こういうのとか!」

 母が適当にピアノを弾きます。わお、わかんないけどすごい名曲っぽい! もう、これでいいんじゃない? 私はもうすっかりやる気を失ってしまいました。
 結局どうしたかって? それをそのまま先生に提出したんです。とっても好評ですごく褒められたので、またまた複雑な気持ちになりました。

 一体、この曲の何%に私の成分が含まれているのでしょう……? 当時の私は課題をやりきって安心していましたが、今思い返してみるとなんだかほろ苦い思い出だなぁと思うのです。だってこれってまさに『ゴーストライター』でしょう?

『そもそも、音楽ってもっと楽しくて、自由でいいんじゃない?』

 そう気がついたのは高校生になってからでした。編曲や作曲に興味を持ち始めたのは本当に数年前から。あまりにも遅すぎる気づきでした。
 たぶんですが、私には長い曲を作るのは向いていないのです。小説でも同じ手法を何度もとっていますが、短い物語を集めたオムニバス作品。これが非常に多い。音楽でも同じことが言えるのではないかな、と思います。そして私はゲーム音楽に見られる『テーマ曲が形を変えて別の曲で何度も何度も出てくる』手法が大好きです。

 一番の理想はアンダーテールで有名なトビー・フォックス氏の音楽。あれが私が本当に作りたかった音楽なのではないかな? と最近よく思うのです。キャラクター一人につき一つの短い音楽。いわゆるテーマ曲、となるものです。そのテーマ曲が例えば最終決戦、例えばエンディングテーマで絡み合うのがとても好きなんです。
 では今の私がもし作曲をしたら。どんな曲を作るか。そうですねぇ。

 私はハムスターが大好きなので、ハムスターの曲ですかね。それもキンクマちゃんに強い憧れを抱いているのでキンクマちゃんの曲がいいですねぇ。ぽてぽて走るのがかわいいですね。それにやっぱり組曲形式がいいな。それで、最後の章で今までの章に出てきたモチーフが全部出てくるの。うふふ。なんだかすごく面白い曲ができそう。

第一章 おねんね(途中あくびと伸びの演出あり)
第二章 ごはん
第三章 おさんぽ
終章 よなかのだいぼうそう
 みたいな。あぁ、これくらい自由なことをあのときにできたら! え、今からでもできる? 物事に遅すぎることはないって?

 えぇぇー……またあれをやるの? 私は……音楽はまだまだ聞き専でいいかな。

ゴーストライター

ゴーストライター

エッセイ集『たから箱庭』に収録。 『作曲と幼かった頃の私について』

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-08-20

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