星人たちの収集
星への旅行物語
私がその星に到着したのは地球年で五年前のことである。
その頃、中距離旅行用の宇宙挺をレンタルし、5年の旅にでた。航行範囲を限って、半年で行ける距離までいくことにし、途中で気に入った星に出会えば、四年ほどその星で生活をして、戻ってくるつもりだった。一人旅を楽しむ方法は人によって違う。未開の自然の星で、一人だけの生活を満喫する人もいる。もっとも未開の星に降りるには、地球の宇宙局の許可を得る必要がある。住んだあとの痕跡を残してはいけないという国際ルールも守らなければならない。気を使うが、奇妙な現象を楽しむことができて、結構人気はある。
その星に生命がある場合には、まだ発展途上の生き物なら、観察、記録し地球に帰ってから、その星の生き物をまとめ本を出すこともできる。そういう本をだすと、その星の発見者として名が残る。文化の発達した星では、迎え入れてくれれば滞在して、地球の文化を紹介し、その星にある新たな技術の取得、考え方の取得など、文化交流をして、その星の地球の大使になることができる。その際には地球と蜜に連絡を取り、細かな点で指示をうけなければならない。
私がその星を見つけたのは、その恒星系にはいったところで、星から発せられていた電波を受信したからである。内容をコンピュータが解析してくれた結果、恒星系内の惑星同士のコミュニケーションであることがわかった。私の乗った船はその星は気づいていないという結果も出た。ということは、その星の文化は、恒星系内の惑星同士の連絡や移動手段までは発達しているが、恒星間旅行ができるまでには至っていない可能性があるということだ。その辺も確かめた上で接近する必要がある。
電波を発信していた惑星は恒星から二番目の惑星だった。恒星の力が我々の太陽よりすこし小さいことから、二番目の惑星が星人の発達に適していたようだ。二番目の惑星は三番目の惑星と連絡をとりあっているが、二番目の星の生命体が三番目の惑星に移住をしている可能性が考えられる。
まずはどのような惑星かしばらく観察してからコンタクトをとることにした。校正に一番近い、第一惑星に降りてしばらく滞在する。地球には詳細を連絡し、その星に着陸した。恒星に近いのでかなりの暑さを覚悟したのだが、分析結果では、地球人の私にはさほどの暑さを感じるものではなさそうである。地表の温度が摂氏45度ほどでかなり熱いが、宇宙服を着れば問題ない。その惑星の大気には地球人がそのままで生きていられるほど酸素がなかった。どのみち外に出るには宇宙服を着なければならない。第一惑星では、第二惑星の観察が中心の宇宙艇の中での生活となった。
私の船には小型の宇宙艇、フィックススターシップ(FSS)がつんである。それをつかえば、恒星内の移動はたやすくできる。
第一惑星に着陸し、FSSでこの惑星について調査を終え、生活のリズムができたところで、大気圏をでたところにFSSを浮遊させ、第二惑星の観察を始めた。
ところが、観察を始めて三日も経っていなかっただろう、FSSの受信装置が第二惑星から発せられた電波を受信した。明らかに私の船の存在を知っていた。うかつだった、その星の人類の能力はかなり高いものだ。
コンピュータの解析では、目的は何か、何人載っているのか、われわれの星を侵襲つもりがないのなら、歓待したいという趣旨のものだった
私は一人観光旅中で、平和を重んじる星より飛来した。もし迷惑ならすぐ立ち去るが、できれば話したい、ということを、この恒星を中心とした宇宙地図上で、地球の位置を示した。この星から光の早さで、三ヶ月の位置にあることも示し、地球の画像、自分の画像、も電波にのせて第二惑星に向けて発信した。
返事はすぐにきた。この星はドマルと呼ばれ、意味はわれわれと同じ、地の球だという。送られてきたドマル星人の姿は、頭が一つで、二本の手足を持っていて、地球人とほぼ同じ形であった。しかし顔の造作が違った。目は一つで、口や鼻や耳はなかった。送られてきた文面では目の位置にあるものは見て聞いて嗅ぐ総合感覚器で、総合感覚器官の奥に発生装置があり、振動波により会話をおこなうということだった。栄養や必要な物質の摂取は空気中から全身の皮膚でおこなっているという。地球の植物の気孔のようなものらしい。大気組成は地球人でも宇宙服がなくても暮らせるものである。
地球言語の原理をドマル星におくり、ドマル語の原理がおくられてきて、お互いのAIトランスレーターに組み込んだ。簡単な会話ならハンドトランスレーターででききる。こうして直接会っても問題がないことがわかった。
私は地球にこの星のデータを送り、すでに交信していることから、コンタクトの許可を宇宙局にもとめた。すぐに許可はおりた。
しばらくすると、その星から招待の連絡があった。
当日、案内の小型の球形の宇宙挺が第一惑星の近くまでやってきて、私はFSSでその後を付いていった。
ドマルの星の惑星間シップ空港に降り立った。地球のスペース空港に似ていて、違和感をもつことはなかった。
FSSからでると、迎えに来た船の人たちが手を上げて私を取り囲んだ。私も手を上げて、眼しかない顔の星人たちにハンドトランスレーターをつかって、あいさつをした。かれらについて空港の一室に入ると、ドマル星の宇宙局の人たちが待っており、そこでも丁重な挨拶を受けた。
ドマル星人は親切で穏和な人たちで、地求人より平和を好む人たちであることが、感じられた。これは私にとって最も嬉しいことであった。
ドマル星人は私が滞在することを歓待してくれ、私は数日、宇宙局の人の案内で、地球時間で、一週間ほどドマル星を見て回り、第一惑星にもどると地球の宇宙局から、ドマル星滞在の許可をもらった。そのあと、私の恒星間宇宙艇で、ドマル星に降り立ったわけである。
私は宇宙局長秘書であるドマル星人の家で三年くらした。
ドマル星には地球と同じような、役所組織や会社組織があり、もちろん教育組織、研究組織があってドマル星人はどこかで働いて、一生を終わらせる。
男女があり、家庭をつくりもするが、ドマル星の家庭というのは、男女複数、または単数で形成される社会の最小単位であった。
私の滞在した宇宙局の局長秘書、アビカは女性だが、一人で暮らしており、外惑星から来た客のもてなしは初めてだということだ。ドマル星の高官たちのための大きな官舎に住んでいた。
家の構造も地球と似ている。私は広い客間をあてがわれ、手伝いロボットがいた。
家には自由に出入りでき、地図も渡されフリーパスの乗り物券でどこにでもいけた。
この星には地球の植物に相当する生物があって、やはり大気に酸素を供給しており、家の外では自由に繁茂していた。
陸上の生物はドマル星人以外のほ乳類はおらず、昆虫に相当する生き物が植物の間をうじゃうじゃ飛び交っているが、爬虫類と両生類は少なかった。海や川の中にも生き物がいる野は地球と同じだが、魚しかみられず、軟体動物や棘皮動物はいなかった。陸の上の生物も水の中の生物もみな皮膚呼吸である。植物には昆虫の抜け殻がいたるところに見られ、海や川の水の表面には、魚の抜け殻が浮いているのをずいぶん目にした。地球と進化系は似ているようだが、は虫類からいきなり星人に進化したとすると、地球の人間に至る進化過程はだいぶ違う。
細菌類やウイルス類はいない。原生動物がいるということは、いきなり細胞系が現れたことになる。この星の生物進化を地球の生物と比較研究するのは面白いだろう。
大事なことを書き忘れている。ドマル星人は裸である。それは皮膚から全てを摂取していることかららしい。より効率よく酸素や栄養素を空中からとりいれるのに、帰物はじゃまになるということであった。強力な体温調節機構を備えているようだ。
地球人の私が口から大気を吸い、二酸化炭素をはき、液体や固形物を口から入れ、栄養分を採るところを見て、ドマル星人はずいぶん面倒なことをしますねと笑っていた。彼らは笑うことのできる生き物だった。高度な文明を持った星の生命体でも笑うことのできるのは少ないと、恒星間旅行の参考書に書いてあった。
ドマル星に関してはすべてアビカが話してくれたことだ。子どもを作ることも詳しく聞かせてくれた。もちろん地球の地球人のことも隠さずに話した。ドマル星人は人間と同じように、交接により卵子と精子をやりとりして、子どもは女の体の中で三年育ち、生まれてくるという。地球の時間に直すと三ヶ月である。生殖年齢は百二十歳から240年間、地球で言うと十歳から30歳頃までということになる
子どもができると、政府が子育てロボットを貸与してくれる。五人の子供がいれば五体の子育てロボットが家の中で、それぞれ担当の子どもを育てるためうろうろしている。星人型ロボットは子どもが生殖年齢になると、市の担当箇所が集めにきて、子どもは社会にでる。子育てに関してはずいぶん地球より進んでいる。参考にする必要があるだろう。
親は子どもをかわいがるだけである。一緒に寝たり、一緒に遊びに行ったりするが、親がそうしたいときだけそうする。こどもはいつもロボットと遊び、学校に送ってもらい、勉強を教わり、育っていく。もちろん子どもにあった食事をそれぞれのロボットが用意する。
ロボットの開発が進んだのは、ドマル星人以外に同じからだの仕組みを持つ動物、いうなればほ乳類に相当する動物がいないおかげかもしれないと、アビカが言っていた。ドマル星人にとって架空の生き物がロボットでつくりだされ、山の中に放たれ、山歩きすると、木の実をつんでいるロボット動物が、どうですと、摘んだ実をさしだしてくれることがある。どの動物もドマル星人とおなじに二本足である。
ロボットに関してはさらに面白いことがある。この星の住人の趣味は自分が会ってみたいという生き物のロボットを設計し、働いて得た金でロボット会社に作ってもらう。他人がそれをほしいと言うときには、その会社が作って売り、特許料が考えた星人に与えられる。
アビカに地球のヒト意外の動物の写真をみせ、このような四本足の動物ロボットはいないのかと聞いたら、うなずいて、誰も考えたことがないという。このようなロボットを作ったら売れるかなと聞いたところ、ちょっとことばに詰まったようで、眼の動きでわかったのだが、無理のようだった。むしろ、四本足で歩くなど気味が悪いと思っているようだ。
ドマル星人たちは歌が好きで、アビカもよく口ずさんでいるし歌手のコンサートに、家族連れ立って聞きに行く。私もアビカに連れられて聞きにいったが、メロディーがわからず、リズムにものれず、ちょっと苦痛だった。
すでに述べたことだが、この星の人たちは洋服という物を着る必要がない。いや、きてしまうと、皮膚の重要な働きを阻害してしまう。それで町を歩くドマルの人はみな裸同然なのだが、どの人も同じような体系である。アビカは女性であるが乳房はない。どうも女性でも母乳の生産能力は持っていないようである。地球人と同じように交接により子供を産むことを聞いたが、生殖器は外からは全く見えないので、男女がわからない。人間のように両足の間にあるのではなさそうだ、そのことに関してはあとあとわかることになった。
アビカが自分で女と言ったから、おんなだと思ったにすぎなかった。声の調子にしても男と女はわからなかった。
さて、ドマル星人のあらましを話したが、彼らの生活の重要なイベントでもある出来事を話さなければ彼らの生活を知ることはできない。
私がこの星につれられてきて、すぐに大統領に会い、話をしたあとに、アビカの家にいったわけである。
ドマル星の木によってたてられている大きな物だ。まず、地球の個人の家と同じように、玄関にはいる。アビカは靴も履いていないので、そのまま上に上がったが、自分は靴をぬいた。
アビカは靴を珍しそうに見た。翻訳機で何かと聞くので、靴の役割を教えた。われわれの星ではいらないと言ってくれたので、それ以来、自分は靴下も靴もはかなかった。外を歩いていて、落ちている石を踏んででも、石は静かに土にめり込み、足の裏には地球のあの痛い石の感覚はなかった。
玄関にあがり、アビカについて廊下を歩き始めたとき、ぎょっとした、アビカが壁にずらっとかかっていたのだ。私が立ち止まってみていると、アビカが「わたしの一歳からのヌガスだと言った。自動翻訳機では、影とでた。私が「これは影ですか、影ってなんですか」と地球の言語で聞くと、彼女の翻訳機は「影ではありません、からだのからです」と言った。「抜け殻ですか」と地球語で言うと、翻訳機をみて、アビカがそうですとうなずいた。「ヌガス」は抜け殻のことで、ドマル星では「影」と言う意味だったわけである。
この星の住人は脱皮をして成長することがこれでわかった。皮膚にある気孔のような物質摂取器官の維持のためにも必要なことだということだった。陸の上海の中のすべての動物たちも脱皮をすることを私は見ていた。ドマル星は脱皮の星と言ってもいいのである。
アビカが言うには、この星の人々はおとなになっても、一年に一度脱皮するそうである。ただ、ここの一年は地球の一月ほどである。寿命は1200歳、ということは地球では100歳ということになる。抜け殻を全部とっておくと、1200体近く集まることになる。
この星の誰でもがやることは自分や他の人の脱皮の殻を集めることだそうであった。ロボットや歌うことも趣味のうちだが、脱皮の殻の収集がドマル星人の一番の趣味だそうである。
半透明の自分の脱皮した殻を年代順にとっておく人がいる反面、多くの人は売りに出す。人によって脱皮の色が虹色に輝いたり、金色に光ったりするものもあり、そういった変わりもののコレクションがはやっているそうだ。偉い人の脱皮の殻をあつめる人もいれば、映画スターの抜け殻を集めている人もいるという。
抜け殻は本人のものなのだが、希に脱いだあと捨ててしまう人もいるらしい。ゴミ箱や道に放置されている抜け殻は見つけた人や、捨ててあった場所の権利者のものになるそうだ。おかしさを感じたことは、彼女や、彼氏をかえるたびに、殻を集めておく人がいるということだ。それにはちょっとしたわけがあった。ドマル星人は脱皮をしたときだけ交接できるのだということだった。脱皮直後は交接器官が体表に現れ、一日だけ、子供作りが可能だそうだ。一日たつと生殖器は体の中に吸収されてしまう。だから、周期のあった彼氏や彼女とあうと、子どもを作り、たいがいはそのまま家庭を続けるのだが、性格や仕事の関係で別れるカップルもでてくる。その場合、思い出として抜け殻をとっとく人もいれば、子どもに親を見せることができるのでとっておく人もいる。相手の抜け殻を集めるために、一度脱皮をすると、別れてすぐ次の人とカップルになる若い人もいるというので、これまた大変な趣味だ。
それでは子どもを作るのが大変ですねとたずねると、人工授精による子作りの仕組みもあり、人口の調整はうまくいっているということだった。
ドマル星に滞在中、何軒もの家に招待され、ごちそうになったりしたが、玄関には必ず、家族のぬけがらがかざってあった。それをみると、家族構成がよくわかる。
国会議事堂にはアビカとともに何度か行った。ドマル星大統領と地球について話を聞かせるためである。国会の議場には歴代大統領、首相の影、抜け殻が額に入れられ飾ってあった。大統領と首相の任期は五十年、従って、任期中に五十の脱皮の殻がでるわけだが、最終年度のものが議事堂に残される。
私が滞在したときの、ドマル星の大統領は男であった。首相は女性だった。
最初のドマル星に下りたときの様子である。
「はじめまして、大統領をたのまれているゴラリです。地球のみなさんはよく外星旅行をなさるのですか」
と最初にきいてきた。
「そうですね、修学旅行は恒星系内の惑星への旅です、おとなになってからは、旅行業社の団体旅行をたのしみますけど、働いているときは、休みがながくとれないので、せいぜい二週間ほどの恒星系外の旅行ですね、もっとも、自分の宇宙艇を持っている人は、いろいろなところにいきます、私は退職をした記念に、宇宙艇をレンタルして5年の旅にでました、地球から、半年のところに、ドマル星があったのでよってみたわけです、ここで4年間ほどお世話になります、よろしくお願いします」
「こちらこそ、他の星から初めてのお客様です、教えていただきたいこともたくさんあります」
「ドマル星の方は宇宙旅行をしませんか」
「まだ一般的ではありませんが惑星間旅行はします、隣の第三惑星には生き物がいないので、惑星に我々が作ったホテルにとまって、自然のままの地形を楽しむのです、恒星系外への宇宙艇は何艘かありますが、みな研究用です。一般旅行客用は建造中で、速度がまだは遅く、遠くまではいけません、それで、できたら、地球の新しい知識を与えてはもらえませんでしょうか」
「はい、地球の宇宙規約があります、それにのっとって、書類をととのえていただき、許可おりれば、地球の宇宙局で、質問におこたえするでしょう」
太陽系外宇宙で、宇宙人に会ったときの対処の仕方がかかれたものがあり、宇宙艇操縦免許はそういった知識の試験もあった。
他星人に地球の技術を教えるには、相互の平和条約の締結が必要である。宇宙の人にあったら、そのむね、地球の宇宙局に連絡をし、宇宙局とその星人と直接やりとりをしてもらうことになっている。
その後、ともかくドマル星の科学技術は高く、星人の倫理観念の高さ、精神活動も高いもので、地球とともに宇宙を守るのに適していると判断された。自分の恒星間宇宙艇を彼らに公開した。そういうこともあり、ドモル星での待遇はすばらしいものだった。担当のアビカもいつか地球にきてみたいと、どんな希望でも叶えてくれた。
宇宙にはいろいろな星人がいて、身体の仕組みが違うこともあり、病に対する対処の仕方がそれぞれあるが、ドモル星人は地球人とかなり似ている。そういうこともあり、彼らの薬は地球人にも効果がありそうだ。宇宙局からはドモル星の薬の知識を教えてもらうように言われた。そういう役割をはたすと、その宇宙旅行にかかった費用分を宇宙局が払ってくれる。もう一度、旅行にでることができるので、私は大いに、ドモル星の医療機関に出入りして教わった。
皮膚呼吸なので、その手入れが第一のようで、皮膚に対する薬が発達している。彼らの身体の皮膚には地球における植物の気孔のような穴が無数にあるのだが、そのメンテナンスの薬がいろいろあった。それらを自分の皮膚につけると、皮膚の状態が心地よくなる。地球人の皮膚の表面にも直接酸素を取り入れる仕組みがあり、それにもいい効果をもつようだ。自分の宇宙挺に入れてきた観葉植物の葉に塗ったところ、幹がぐんぐん太くなり、丈夫になった。
私はその薬の成分などを教わり、地球に帰って宇宙局の援助で皮膚の薬を作る会社を興した。
さらに、すごい薬を手に入れた。ただ、この薬は市販するのを禁止された。
ドモル星での生活があと一年となったときである。アビカが影の治療病院につれていってくれた。それは、ドモル星の周りを回る衛星の一つの上につくられていた。ドモル星では三つある衛星の一つを、生命関係の研究所とそれに付随した病院専用など、ドモル星人の医療のための施設がつくられていた。他の一つは工業用、もう一つは避難用である。ドモル星になにかおきたときに、星に住むすべての人がその衛星に移り住むことができるような施設が衛星の地下に作られている。宇宙から攻められたときの用心である。地球よりその点はすぐれている。
地球のたった一つの月は移住用となっていて、地球の延長のような使い方をしているが、ドモル星では役目を決め、その中にはスペアーとしての機能をもたせたわけである。
とても理にかなった衛星の利用の仕方だった。
そこの一つの健康球と呼ばれていた衛星の「影」の病院、抜け殻の病院を訪ねたのである。
そこの院長は、
「ドマル星人の中には、先天的に影を形成することができない人がいます、時には病気により影形成が妨げられたりします、ここではそういった影形成不能症候群の研究をしています。入院施設には重症の脱皮不能症候群の人たちが療養して、遺伝子手術をまっています」
そういって、病院内を案内してくれた。
ホテルのような明るい診療施設で、ドマル星人が椅子に腰掛けて、自分が呼ばれるのを待っていた。
私が通ると、誰もが柔和な一つ目を私に向けて軽く会釈をした。ドモル星人の顔には目しかないが、表情筋が発達しているようで、口がないのだが口の脇のあたりにへこみ、すなわち笑窪ができて、微笑んでいることがわかる。険しい顔をするのを見たことがないが、緊張しているとわかる顔をすることはよくあった。
院長室で、院長は壁に設置されているスクリーンに映し出される、現在進行中の治療や、手術について説明をしてくれた。いくつもある診察室手術室の様子が院長室に映し出される。院長は必要に応じて執刀医や診察医の質問に答えるそうだ。影形成不全の幅広い知識を持っていないと院長はつとまらない。
私は「影がうまくできないのをどのようになおすのですか」と聞いた。
「これをご覧ください」
院長が一つのスクリーンに脱皮の様子を映し出してくれた。
「右が正常、左が形成不全です」
右側に映し出されたドマル人は後ろ向きに立っていた。やがて、頭の先から背中の真ん中に割れ目が生じパカット開いた。ドマル人はかがむと、ズボンから足を出すように引き抜き、下半身を影の背中の割れ目からだすと、今度は上着の袖から手を出すようにして、上半身を影からだした。あっという間にそのドマル人は自分の影を手に抱えていた。
左側の映像のドマル人は、頭から背中にかけてできた筋が開くことがないため、手を後ろに回し頭や背中を左右に引っ張り裂け目を広げようとしていた。しかし、全く切れ目ができず、はさみをもった医者らしき人が現れて、影の背中を切り開いた。それでその患者は影から抜けでることができた。
「これが一番多い、軽い症状の人です。影の形成ができても、背中側に身体を出す切れ目が生じない体質です」
そのあと、いろいろな影形成不全の映像を見せられた。影を作る遺伝子がおかしい状態の子どもは生まれてからある程度まで大きくなるが、その後、成長がとまってしまう。
「影形成遺伝子の欠如の人はどうするのですか」
「遺伝子治療によって影をつくれるようにします、そのためには一年の入院が必要です」
「遺伝子治療をすればそのあと影は問題なく作れるのですか」
「はい、実はもうすぐ実用段階になるのですが、影形成遺伝子を体の中に生じさせる薬が開発されています。それは、入院などいらず、飲むだけで影形成遺伝子ができるようになります」
「それはすばらしいですね」
「はい、それだけではありません、その薬を影形成遺伝子が正常の人が飲むと、一時間以内に影形成が始まるという効果があります、影形成促進剤になるのです、大変すばらしい薬です」
それはどのような役に立つのか、私にはすぐには理解できなかった。わからない顔をしていたのだろう。院長は
「われわれは一定周期で影が形成され、その周期は個人個人によって違います、子供を作ることができるのは同じ周期をもつ男女だけに限られます、この薬を飲めば周期がちがっても、いつでも脱皮することができるので、どのような相手とも子供が作れます、われわれの星にとって、とてつもなくすばらしい薬なのです」
その医療の衛星を尋ねて半年後にその薬が完成した。影形成促進薬は幸福薬とよばれ、ドマル星人は一月もの間お祝い気分だった。
私はそういった中で、帰途につくことになった。
地球に戻った私は宇宙局から感謝状が贈られた。地球の使節団が、私が戻った半年後にドマル星に向かった。友好協定を結ぶためにである。さらに、ドマル星人用の観光ターミナルの建設が始まり、数年後の開設をめざしている。そこには宇宙艇の発着場、ホテルはもちろん、地球人のためにドモル星博物館も開館する。
私は今回の旅行費用の数倍の感謝金をもらうことができて、自分の恒星間宇宙艇を注文した。それに、ドモル星での生活記録を本にすることになった。
今、執筆をしているところであるが、実はもっと大変な実験をしている。
ドモル星を発つときできたての幸福薬をもらった。これはドモル星の影の研究所長に、地球人にも効くかどうかためしてみたいといって、一瓶もらってきたのだ。結果はもちろん報告することにしている。
地球の宇宙局の医学部門にも、そのことを話してある。危険かどうか未知の部分が多いが、自己責任でということで使う許可が下りた。
それで、昨日、寝る前に一錠飲んで、裸で寝たのだ。
朝起きたら、身体がむずむずしていたが、特に大きな変化がなかった。
裸のまま朝食を食べおえ、書斎でドモル星滞在記を書いていた。
いきなり、目の前に膜が掛かった。周りが薄茶色に見えてきた。茶色がかった半透明の紙を通して回りを見るような感じだ。
立ち上がってみると、なんだかかさかさしたものが身体を覆っている。影ができたのか。歩くことはできたので、鏡の前に立った。
ぼんやりと、茶色のものに包まれた自分がうつっている。
明らかに影ができている。
ぺりっと音がして、頭の上から背中にかけて涼しい風があたった。手を回してみると、裂け目がある。ドマル星の衛星の一つ医療星で見たことを思い出し、脚から外にでて、上半身もだした。
目の前のものがはっきりと見えるようになった。腕に自分の抜け殻がかかっているのがわかった。
広げてみると、茶色の半透明の自分の形をしている。股間にも男のものがぶらさがっている。
自分の抜け殻が手には入ったわけである。
脱皮をしたあと、肌はすべすべしていて、気分壮快である。悪いものも一緒に脱皮の殻にくっついて出ていった感じである。
「だけどなー、地球人はこれを他の人にみせられないなー」
私は自分の抜け殻を見て、独り言を言った。
なにしろ、私の抜け殻の股間には男の逸物がふにゃっとくっついていたからだ。
星人たちの収集