月と金星
暗い空に紫煙を送って、助けてくださいと言った。俺は月と金星のハーフ。休憩が終わり、交信は途切れる。
なんでいつもそんななの。
言われてもねぇ。こうなる前のことは自分でも思い出せない。何考えてたのか。どうやって生きてきたのか。
忘れたよ。帰路も前世もママの顔も。
「ここ行こうや」
送られてきたそば屋の住所。天ぷらが絶品とのこと。
「なんでこんなおいしいんやろ」
「全然重くない」
「きっと油がいんやろね」
こうなる前のことは自分でも思い出せない。どう出会ったのか。その時何を話したのか。
かぼちゃはお前が食べるといい。俺の一番大切なものだから。
「長野行ったときもくれたよなぁ」
「そうだっけ?」
自転車飛ばして帰る時も、風の中から聞こえてくる。
なんでこうなったの?――月に聞いて。
いつまでこうなの?――金星に聞いて。
本当は自分が一番よく分かっているはずなのに。
曇天にテレパシーを送って、白い息を吐いた。――ここにいてもいいのでしょうか。
受信する。
「長野じゃなくて伊勢やったかもしれん」
月と金星