ハイリ ハイリホ(19)(20)
一―十 パパ・二―十 僕
一―十 パパ
大きな返事のあと、子どもが家に向かって走り出す。俺の動きがスローモーションならば、子供の足は、高速回転だ。俺の一歩が、子供の全速力の数十歩。どちらが一所懸命なのだろうか。象は象で、ネズミはネズミで、自分の生きるリズムがある。比較しても意味がない。世界でひとつだけの俺の生き方。それは、どこ。
間もなくして、竜介が竜介なりの方法で、俺の足下に帰ってきた。体の身長ほどもある網にしがみついているかのように見える竜介。彼から網を受け取り、ひとさし指と薬指の間に蠢いている物体に網を被せる。
びびびびーと音がしたかと思うと、指に奇妙な感触が流れた。
やられた。蝉には逃げられるし、おしっこはかけられる始末。相手より高くなったところで、蝉が簡単に捕まえられるものではない。相手を見下せば、かえって相手に見下される。とんだ有様だ。そして、無様な姿を子供に見せてしまった。
二―十 僕
せっかくファーストステージをクリアできたかと思ったのに、残念。でも、大丈夫。もう一度やり直せばいいんだ。ゲームは何回でも繰り返すことができる。時間がある限り、生きるエネルギーがある限り。時には、ゲーマーがいなくても、機械自身がゲームをやり続けることもある。そこでは、人間はいらない。だから、パパ、頑張って。
「パパ、逃げられたの?」
ハイリ ハイリホ(19)(20)