肝心な自国の真実を伝えない報道各社の体たらくと、何も知ろうとしない国民に平和というものが降って来る訳
先ずはNHKの特集だが、戦後昭和のNHKの特集番組と大きく変わったのは、当時は懸命に戦って戦死をした兵士を取りあげたり、空襲体験談、及び戦後も原子爆弾の人体実験を続けるUSAを取りあげたりし、国民に感銘を与えていた。
ところが、現代の世代になるとUSA側に立っての映像や談義だけであり、おそらく禁句になっている此の国の現状は伝えたくないのだろう。
番組表を見ただけで内容が分かる今の各局の状況には呆れるばかりである。
また、報道番組も同じ事ばかり報道している。
二国の事など・・BSフジ・BSTBS・朝日TV・日本TV等で同じ事ばかりやっているし、まるで将棋の駒を移動するような細かさだが、戦争の経験がない世代にはそういう事が気になるのだろう。
私達は詳しいので見る事は無いし、戦況はそんなに簡単に変わるものでは無いのと、国の大きさや資源等も違い過ぎるので、結果は最初から分かっている。
それより、世界中が巻き込まれ・・と言っても西側諸国・・殊にUSAの経済構造不況は十年以上続く。
且つて此の国に対し残虐殺戮をしたUSAなどの報いが来たようである。バイデンを交代させなければUSAは増々傾いて行くだろう。
過と言い、海軍に女性の大将は明らかな人材不足であり、陸軍でも同じ事が生じている様に世界的な人材不足だと言えるし、現代の世代は戦闘には向いておらず、死ぬよりは都合の良い降参を好む。
小国のマリウポリのあっという間の陥落がその代表的な例であり、あれは他にも応用できるが、それ以外の一部兵器を不使用でも防空システムを無力にする事は容易い。高度を二手に分け一つは兵器以外、他は防空システムが喜ぶ兵器で逆に利用する事が出来る。
それにしても、此の国の兵士は勇敢だったと今更だが思うのは、ドローンや無人機では無く片道燃料しか積んでいない航空機で攻撃した事意外にも・・時代が戦闘も弱小化させている。此れは、実は徳川家康の名言にも現れており、「兵は戦を好まぬ」と記している。
此の国も実は安倍政権からのしわ寄せが現在、不況に繋がっており物価高の勢いは毎日極端すぎる。
まとめ買いをせずに毎日スーパーに行き其の日の食べたいものを購入するので、価格の高騰が頻繁なのがよく分かる。
十円どころでは無く二百円も一挙に上がっている。ガソリンもたった二円安いスタンドに車がじゅつ繋ぎなのが不思議なくらいだ。
国民の半分程度は休みはあっても預貯金が無いのではと思える。そんな世界の声も聞こえぬほど景況は悪化の一途を辿っている。
インフレが無いだけマシだが先は厳しいものがある。
もう一つのスーパーでは午後六時半過ぎに総菜や弁当類が全て半額になる。一部だが鮮魚・肉なども割引になる。
国産の鰻弁当1500円が半額になったり、待ち受けていた客であっという間に全てが売り切れるようだ。
それにしても、TV番組に良いものが何一つ無い事は昭和の時代と全く異なる事だ。
次。
突出しているのはコマーシャルが早朝から深夜まで流し放題で、全くくだらない世になったものだと思わざるを得ない。
悪質なものに「ショップJapan」のコマーシャルが挙げられるが、それ以外にも30分以内に購入を煽るものは信用しない方が良い。
毎日やっているのだから、何も慌てて30分に拘る必要は無いのと、此処のものは更に画面の上部に「後一分」等の駄目出しを表示している。
こういったものは「強迫観念」を煽るものであり慎重に購入する隙を与えようとしない作戦と言える。
本社は名古屋市にあり大手では無いと思われる。此のコマーシャルは見ていて実にレベルの低さを感ぜざるを得ない。
他にも「認知機能を向上させる」という様な売りの台詞のアプリ等には信憑性が無い。
認知症を連想する方もいるだろうが、認知機能についての研究は人類levelでは行き詰まっているのが実情である。
認知機能を司るのは脳の海馬であり、青い惑星でも人類だけに見られ他の動物も人類と同様に老化現象は当然あるが、認知症は人類のみ。
エーザイの薬品も後発薬品であり、7年以上前に先発薬品の「アリセプト」が登場をした。
双方とも「認知症の治療薬」では無く「認知症の進行を遅らせるに過ぎない」。当時は医師も効果の程がはっきりしないという理由で処方はするが、揃って「認知症は難しい」だった。
医師同士での二つの薬品の評価は「・・ううん・・どちらも似たようなものだが、副作用の点ではアリセプトかな・・?」。
先日日本TVだったか、男性アナウンサーが「・・認知症の原因を取り除く・・」のような発言をしたので、局に厳重注意をした。
遅らせる意味で効果が分かりにくい特徴があり、当時徳洲会の医師が施設に入っている患者に処方を禁止した。
此れが何と、一年経ってから進行が凄く進んでいる事に気が付いたが、時すでに遅しであった。
かと言い、アルツハイマー型認知症は最終的に植物人間状態になったりして終焉を迎えるので、全く回復の期待が持てず、寧ろ家族から見れば苦しまずに最後を迎えれば良いと思うようになる程得体の知れない病と言える。
如何なるコマーシャルも宛にはならず、人類と他の動物とのはっきりした違いに着眼しなければならないのは言うまでもない。
例えば、「イチョウの葉」「アミノ酸」その他あれやこれやと認知機能を改善するとうたうのは明らかな間違いである。
コマーシャルで取り上げられる項目には「人の名前が出て来ない」「忘れ物が多い」「失くしたものが見つからない」など様々なうたい文句で誘うが、実はこれらは動物にも同様に見られる「単なる老化現象」に過ぎず、昔、「老人ボケ」と言われており認知症は「痴呆症」であった。
よくこんな事が。
「・・お母さん俺のメガネが見つからないんだがお前知らないか・・?」
妻が笑いながら。
「・・あらあら・・ボケたのね・・貴方、おでこにかけているじゃない・・」
認知機能は関係していなく、老化が起きるのは加齢と共に仕方が無い事であり、放っておいてもやや不便ではあるが気にする事は無く、寧ろ本当に認知機能を改善できる薬などであれば逆に危険だと言える。
そんなものがあればノーベル賞どころでは無く高額な処方薬となるのは当然だ。記憶の改善方法として例えば、名前であればこんなふうにすると便利である。
「・・今電話したのは立川さんだったな・・」
此れもすぐに忘れてしまうのが老化現象。
そんな時にどうしても重要な相手の名前であれば「・・立川・?中央線の駅の名前だな・・」
この様に連想をさせておけば・・「・・あれなんだっけ?・・うん?ああそうか・・確か中央線だった・・国立か立川か・・いや、立川さんだ・・」
のようになる。
此れは老人ボケのみにあらず何かを覚える際に大いに役に立つ方法であり、入学試験用の勉強などにも応用でき、戦時中は軍隊に入ると覚えなければいけないモノがあったが、或る者はこの方法で難なく人より早く覚えた。
他のコマーシャルでよく見られるものが、「女性の美容・・皺や若返りの化粧品など」であるが、どういう目的でそう欲するのかは男性にはトンと分からない。というのも、独身であればまだしも妻が突然蘇っても、化粧を落とした際に「うわ~こわ~・・」となる。
髪の毛が薄くなるのも加齢により起きるが、気にするかどうかは本人次第。以前は、髪の毛は増えないのでアデランスのような「植毛法」が行われた。
目の下の皺。
業界人である高橋英樹でさえ、目の下に隈があるが平気でTVに出ている。歯が黄色いというものも萩本欽ちゃんだって気にしないようだ。
歯の表面は、若いうちはエナメル質なのだが、余り長年強めに磨いていると「象牙質~その名の通り黄色っぽい」が表面に出て来てしまい、こうなると着色し易くなり、珈琲を飲んだだけで色がついてしまうので、すぐに歯磨きをしなければならない。少し高めだが虫歯予防とステイン(汚れ)を落としやすい歯磨き粉を薬局でよく見てから購入すれば良い。
他にもいろいろ気が付く事が多いのがコマ―シャルであり、安易に飛びつくのは感心しない。
もう一つだけ。
中高齢になっても働いていないとか、運動をしない・・そういう者の悩みに「腹が出る」がある。
確かに運動は良いとしても、此の暑さの中では危険とも言え、ジムに通う女性もいるだろう。
其れは其れで良いがこんな方法もある。
此れはあくまでも医師も進めない方法で、体を使う仕事など、兎に角働いている者にはあてはまらない。
実は、一日きちんと三食取るのが健康ではあるが、或るモデルの場合。
二食・一食でも一日殆ど身体を動かさなければ良い場合がある。
糖分などを気にするのも手ではあるが、バランスの良い食事を心がける。
急に痩せたりするのは良くない。一年で腹囲が5センチ減少したり、血圧が正常になるし、おそらく健康診断上では全て正常と判定されるだろう。
危険が無いように・・医師に相談すればやめておきなさいと言われるが。
睡眠は充分とるといっても・・八時間も寝る必要は無い。加齢で眠れない場合に味の素のグリナ程度でぐっすり眠れるのであれば問題はないのだが。
だが、かなりの人が不眠の際には「睡眠剤」を服用している。
勿論専門医の所見の結果の処方で無ければ薬は手に入らない。最近或る事件で「向精神薬」と大騒ぎをしていた。
此れは極めて大雑把な名称であり、その中に睡眠剤も入るがその種類たるや実に強弱や成分など多種にわたる。
医師の判断で試しに呑み何か不具合でもあればやめれば良いが、長い期間飲んでいると効果が薄くなる事と、同じ成分の他の薬~例えば安定剤~等も効きにくくなる。
弱いレベルから・・最も強いものにベンゾジアン系の薬があり、「依存」しやすいので、その点は要注意である。
若者の様に量を自分で多量にしてしまい、病院で怒られたり、意識がもうろうとしたりするのは明らかに危険と言えるが、芥川竜之介が自殺をした際の睡眠剤とは全く異なり、死ぬことはできない。
ただ、自殺を図ると救急車で病院に運ばれ、胃の洗浄をされるのは言うまでもない。
横道に逸れたが、薬類には充分気を付ける事とコマーシャルに惑わされないようよく考える事が必要と言える。
祭りが流行っているようだが、近隣の秋祭りの際にstageで即興演奏をしようかなど考えているが、予め演奏しておいたものを楽器で再現させても楽で良い。
時間が無くなったので文豪の作品から掲載をする。
ああ、其れと・・中々今のTVでは見られないものとして「特攻の様子」と若しあれば「幻の名投手沢村・・無いだろうな戦前だから」
算盤が恋を語る話
江戸川乱歩
○○造船株式会社会計係のTは今日はどうしたものか、いつになく早くから事務所へやって来ました。そして、会計部の事務室へ入ると、外がいとうと帽子をかたえの壁にかけながら、如何いかにも落ちつかぬ様子で、キョロキョロと室しつの中を見まわすのでした。
出勤時間の九時に大分間がありますので、そこにはまだたれも来ていません。沢山並んだ安物のデスクに白くほこりのつもったのが、まぶしい朝の日光に照し出されているばかりです。
Tはたれもいないのを確めると、自分の席へはつかないで、隣の、彼の助手を勤めている若い女事務員のS子のデスクの前に、そっと腰をかけました。そして何かこう盗みでもする時の様な恰好で、そこの本立ての中に沢山の帳簿と一緒に立ててあった一挺の算盤そろばんを取出すと、デスクの端において、如何にもなれた手つきでその玉をパチパチはじきました。
「十二億四千五百三十二万二千二百二十二円七十二銭なりか。フフ」
彼はそこにおかれた非常に大きな金額を読み上げて、妙な笑い方をしました。そして、その算盤をそのままS子のデスクのなるべく目につき易い場所へおいて、自分の席に帰ると、なにげなくその日の仕事に取かかるのでした。
間もなく、一人の事務員がドアを開けて入って来ました。
「ヤア、馬鹿に早いですね」
彼は驚いた様にTにあいさつしました。
「お早はよう」
Tは内気者らしく、のどへつまった様な声で答えました。普通の事務員同志であったら、ここで何か景気のいい冗談の一つも取交すのでしょうが、Tの真面目な性質を知っている相手は気づまりの様にそのまま黙って自分の席に着くと、バタンバタン音をさせて帳簿などを取出すのでした。
やがて次から次へと、事務員達が入って来ました。そして、その中にはもち論Tの助手のS子もまじっていたのです。彼女は隣席のTの方へ丁寧にあいさつしておいて、自分のデスクに着きました。
Tは一生懸命に仕事をしている様な顔をして、そっと彼女の動作に注意していました。
「彼女は机の上の算盤に気がつくだろうか」
彼はヒヤヒヤしながら、横目でそれを見ていたのです。ところが、Tの失望したことには、彼女はそこに算盤が出ていることを少しも怪しまないで、さっさとそれを脇へのけると、背皮に金文字で、「原価計算簿」と記した大きな帳簿を取出して、机の上に拡げるのでした。それを見たTはがっかりして了いました。彼の計画はまんまと失敗に帰したのです。
「だが、一度位失敗したって失望することはない。S子が気づくまで何度だって繰返せばいいのだ」
Tは心の中でそう思って、やっと気をとり直しました。そして、いつもの様に真面目くさって、与えられた仕事にいそしむのでした。
外の事務員達は、てんでに冗談をいいあったり、不平をこぼしあったり、一日ざわざわ騒いでいるのに、T丈だけはその仲間に加わらないで、退出時間が来るまでは、むっつりとして、こつこつ仕事をしていました。
「十二億四千五百三十二万二千二百二十二円七十二銭」
Tはその翌日も、S子の算盤に同じ金額を弾いて、机の上の目につく場所へおきました。そして昨日と同じ様に、S子が出勤して席につく時の様子を熱心に見まもっていました。すると、彼女はやっぱり何の気もつかないで、その算盤を脇へのけてしまうのです。
その次の日もまた次の日も、五日の間同じことが繰返されました。そして、六日目の朝のことです。
その日はどうかしてS子がいつもより早く出勤して来ました。それは丁度例の金額を、S子の算盤において、やっと自分の席へ戻ったばかりの所だったものですからTは少からずうろたえました。若もしや、今算盤をおいている所を見られはしなかったか。彼はビクビクしながらS子の顔を見ました。しかし、仕合せにも、彼女は何も知らぬ様にいつもの丁寧なあいさつをして自席に着きました。
事務室にはTとS子ただ二人切りでした。
「今度の××丸はもうやがてボイラーを取つける時分ですが、製造原価の方も大分かさみましたろうね」
Tはてれ隠しの様にこんなことを問いかけました。臆病者の彼はこうした絶好の機会にも、とても仕事以外のことは口がきけないのです。
「ええ、工賃をまぜるともう八十万円を越しましたわ」
S子はちらっとTの顔を見て真面目な口調で答えました。
「そうですか。今度のは大分大仕事ですね。でもうまいもんですよ。そいつを倍にも売りつけるんですからね」
ああ、おれは飛んでもない下品なことをいってしまった。Tはそれに気づくと思わず顔を赤くしました。この普通の人々には何でもない様なことがTには非常に気になるのです。そして、その赤面した所を相手に見られたという意識が、彼のほおを一層ほてらします。彼は変な空せきをしながら、あらぬ方を向いてそれをごまかそうとしました。しかし、S子は、この立派な口ひげをはやした上役のTが、まさかそんなことで狼狽していようとは気づきませんから、何気なく彼の言葉に合づちを打つのでした。
そうして二言三言話しあっている内に、ふとS子は机の上の例の算盤に目をつけました。Tは思わずハッとして、彼女の目つきに注意しましたが、彼女は、ただ一寸ちょっとの間、その馬鹿馬鹿しく大きな金額を不審相そうに見たばかりで、すぐ目を上げて会話を続けるのです。Tはまたしても失望を繰返さねばなりませんでした。
それからまた数日の間、同じことが執拗に続けられました。Tは毎朝S子の席に着く時をおそろしい様な楽しい様な気持で待ちました。でも二日三日とたつ内には、S子も帰る時には本立へかたづけて行く算盤が、朝来て見ると必ず机の真中にキチンとおいてあるのを、どうやら不審がっている様子でした。そこにいつも同じ数字が示されているのにも気がついた様です。ある時などは、声を出してその十二億四千うんぬんの金額を読んでいた位です。
そして、ある日とうとうTの計画が成功しました。それは最初から二週間もたった時分でしたが、その朝はS子がいつもより長い間例の算盤を見つめていました。小首を傾けて何か考え込んでいるのです。Tはもう胸をドキドキさせながら、彼女の表情を、どんな些細ささいな変化も見逃すまいと、異常な熱心さでじっと見まもっていました。息づまる様な数分間でした。が、しばらくすると、突然、何かハッとした様子で、S子が彼の方をふり向きました。そして、二人の目がパッタリ出逢って終しまったのです。
Tは、その瞬間彼女が何もかも悟ったに相違ないと感じました。というのは、彼女はTの意味あり気な凝視に気づくと、いきなり真赤になってあちらを向いて終ったからです。最も、とり様によっては、彼女はただ、男から見つめられていたのに気づいて、その恥かしさで赤面したのかも知れないのですが、のぼせ上ったその時のTには、そこまで考える余裕はありません。彼は自分も赤くなりながら、しかし非常な満足を以もって、紅の様に染まった彼女の美しい耳たぶを、気もそぞろに眺めたことです。
ここで一寸、Tのこの不思議な行為について説明しておかねばなりません。
読む人は既に推察されたことと思いますが、Tは世にも内気な男でした。そして、それが女に対しては一層ひどいのです。彼は学校を出てまだ間もないのではありますけれど、それにしても三十近い今日まで、なんと、一度も恋をしたことがない、いやろくろく若い女と口を利いたことすらないのです。無論機会がなかった訳ではありません。一寸想像も出来ない程臆病な彼の性質が禍わざわいしたのです。それは一つは彼が自分の容貌に自信を持ち得ないからでもありました。うっかり恋を打あけて、もしはねつけられたら、それがこわいのでした。臆病でいながら人一倍自尊心の強い彼は、そうして恋を拒絶せられた場合の、気まずさはずかしさが、何よりも恐ろしく感じられたのです。「あんないけすかない人っちゃないわ」そういったゾッとする様な言葉が、容貌に自信のない彼の耳許みみもとで絶えず聞えていました。
ところが、さしもの彼も今度ばかりは辛抱し切れなかったと見えます。S子はそれ程彼の心を捕えたのです。しかし、彼にはそれを正面から堂々と訴える丈けの勇気は勿論ありませんでした。何とかして、拒絶された場合にも、少しも恥しくない様な方法はないものかしら。卑怯にも彼はそんなことを考える様になりました。そして、こうした男に特有の異常な執拗しつようさを以もって、種々な方法を考えては打消し、考えては打消しするのでした。
彼は会社で当のS子と席を並べて事務をとりながらも、そして彼女とはさりげなく仕事の上の会話を取交しながらも、絶えずそのことばかり考えていました。帳簿をつける時も、算盤を弾く時も、少しも忘れる暇はないのです。するとある日のことでした。彼は算盤を弾きながらふと妙なことを考えつきました。
「少し分りにくいかも知れぬが、これなら申分もうしぶんがないな」
彼はニヤリと会心の笑みを浮べたことです。彼の会社では、数千人の職工達に毎月二回に分けて賃銀を支払うことになっていて、会計部は、その都度つど工場から廻されるタイムカードによって、各職工の賃銀を計算し、一人一人の賃銀袋にそれを入れて、各部の職長に手渡すまでの仕事をやるのでした。その為には、数名の賃銀計算係というものがいるのですけれど、非常に忙しい仕事だものですから、多くの場合には、会計部の手すきのものが総出で、読み合せから何から手伝うことになっていました。
その際に、記帳の都合上、いつも何千というカードを、職工の姓名の頭字かしらじで(いろは)順に仕訳しわけをする必要があるのです。始めの内は机をとりのけて広くした場所へそれをただ「いろは」順に並べて行くことにしていましたが、それでは手間取るというので、一度アカサタナハマヤラワと分類して、そのおのおのを更にアイウエオなりカキクケコなりに仕訳る方法をとることにしました。それを始終やっているものですから、会計部のものはアイウエオ五十音の位置を、もう空そらんじているのです。たとえば「野崎」といえば五行目(ナ行)の第五番という風にすぐ頭に浮ぶのです。
Tはこれを逆に応用して、算盤に表わした数字によって簡単な暗号通信をやろうとしたのです。つまり、ノの字を現わす為には五十五と算盤をおけばよいのです。それがのべつに続いていては一寸分りにくいかも知れませんけれど、よく見ている内には、日頃おなじみの数ですから、いつか気づく時があるに相違ありません。
では彼はS子にどういう言葉を通信したか、試みにそれを解いて見ましょうか。
十二億は一行目(ア行)の第二字という意味ですからイです。四千五百は四行目(タ行)の第五字ですからトです。同様にして三十二万はシ、二千二百はキ、二十二円もキ、七十二銭はミです。即すなわち「いとしききみ」となります。
「愛しき君」若しこれを口にしたり、文章に書くのでしたら、Tには恥しくてとても出来なかったでしょうが、こういう風に算盤におくのなれば平気です。他のものに悟られた場合には、ナニ偶然算盤の玉がそんな風に並んでいたんだといい抜けることが出来ます。第一手紙などと違って証拠の残る憂うれいがないのです。実に万全の策といわねばなりません。幸さいわいにしてS子がこれを解読して受入れて呉れればよし、万一そうでなかったとしても、彼女には、言葉や手紙で訴えたのと違って、あらわに拒絶することも出来なければ、それを人に吹聴ふいちょうする訳にも行かないのです。さてこの方法はどうやら成功したらしく思われます。
「あのS子のそぶりでは、先ず十中八九は失望を見ないで済むだろう」これならいよいよ大丈夫だと思ったTは、今度は少し金額をかえて、
「六十二万五千五百八十一円七十一銭」
とおきました。それをまた数日の間続けたのです。これも前と同じ方法であてはめて見ればすぐわかるのですが、「ヒノヤマ」となります。樋の山というのは、会社から余り遠くない小山の上にある、その町の小さな遊園地でした。Tはこうしてあい引の場所まで通信し始めたのです。
そのある日のことでした。もう十分暗黙の了解が成立っていると確信していたにも拘かかわらず、Tはまだ仕事以外の言葉を話しかける勇気がなく、相変らず帳簿のことなぞを話題にしてS子と話していました。すると、一寸会話の途切れたあとで、S子はTの顔をジロジロ見ながら、その可愛い口許くちもとに一寸笑えみを浮べてこんなことをいうのです。
「ここへ算盤をお出しになるの、あなたでしょ。もう先せんからね。あたしどういう訳だろうと思っていましたわ」
Tはギックリしましたが、ここでそれを否定しては折角せっかくの苦心が水のあわだと思ったものですから、満身の勇気をふるい起してこう答えました。
「ええ、僕ですよ」
だがなさけないことに、その声はおびただしくふるえていました。
「あら、やっぱりそうでしたの。ホホ……」
そうして彼女はすぐ外の話題に話しをそらしてしまったことですが、Tにはその時のS子の言葉がいつまでも忘れられないのでした。彼女はどういう訳であんなことをいったのでしょう。肯定こうていの様にもとれます。そうかと思えばまた、まるで無邪気に何事も気づいていない様でもあります。
「女の心持なんて、おれにはとても分らない」
彼は今更の様にたん息するのでした。
「だが、ともあれ最後までやって見よう。たとえすっかり感づいていても、彼女もやっぱり恥かしいのだ」
彼にはそれが満更うぬぼれの為ばかりだとも考えられぬのでした。そこで、その翌日、今度は思い切って、
「二十四億六千三百二十一万六千四百九十二円五十二銭」
とおきました。「ケフカヘリニ」即ち「今日帰りに」という意味です。これで一か八かかたがつこうというものです。今日社の帰りに彼女が樋の山遊園地へ来ればよし、若し来なければ今度の計画は全然失敗なのです。
「今日帰りに」その意味を悟った時、うぶな少女は一方ひとかたならず胸騒ぎを覚えたに相違ありません。だが、あのとりすました平気らしい様子はどうしたことでしょう。ああ、吉か兇か、何というもどかしさだ。Tはその日に限って退社時間が待遠しくて仕方がありませんでした。仕事なんか殆ど手につかないのです。
でもやがて、待ちに待った退社時間の四時が来ました。事務室のそこここにバタンバタンと帳簿などをかたづける音がして、気の早い連中はもう外套を着ています。Tはじっとはやる心を押えて、S子の様子を注意していました。若し彼女が彼の指図に従って指定の場所に来るつもりなら、如何に平気を装っていても、帰りのあいさつをする時には、どこか態度にそれが現れぬはずはないと考えたのです。
しかし、ああ、やっぱり駄目なのかな。彼女がTにいつもと同じ丁寧なあいさつを残して、そこの壁にかけてあったえり巻を取り、ドアを開て事務室を出て行って終うまで、彼女の表情や態度からは常に変った何ものをも見出みいだすことが出来ないのでした。
思惑おもいまどったTは、ぼんやりと彼女のあとを見送ったまま、席を立とうともしませんでした。
「ざまを見ろ。お前の様な男は、年が年中、こつこつと仕事さえしていればいいのだ。恋なんか柄にないのだ」
彼は我と我身をのろわないではいられませんでした。そして、光を失った悲しげな目で、じっと一つ所を見つめたまま、いつまでもいつまでも甲斐ない物思いにふけるのでした。
ところがしばらくそうしている内に、彼はふとあるものを発見しました。今まで少しも気づかないでいた、S子のきれいにかたづけられた机の上に、これはどうしたというのでしょう。彼が毎朝やる通りに、あの算盤がチャンとおいてあるではありませんか。
思いがけぬ喜びが、ハッと彼の胸を躍らせました。彼はいきなりその側へ寄って、そこに示された数字を読んで見ました。
「八十三万二千二百七十一円三十三銭」
スーッと熱いものが、彼の頭の中に拡がりました。そして、にわかに早まった動悸どうきが、耳許で早鐘はやがねの様に鳴り響きました。その算盤には彼のと同じ暗号で「ゆきます」とおかれてあったのです。S子が彼に残して行った返事でなくてなんでしょう。
彼は矢庭に外套と帽子をとると、机の上をかたづけることさえ忘れて終しまって、いきなり事務室を飛び出しました。そして、そこにじっとたたずんで彼の来るのをまちわびているS子の姿を想像しながら、息せき切って樋の山遊園地へと駈けつけました。
そこは遊園地といっても、小山の頂に一寸した広場があって、一二軒の茶店が出ている切りの、見はらしがよいという外ほかには取柄とりえのない場所なのですが、見れば、もうその茶店も店を閉じて終ってガランとした広場には、暮れるに間のない赤茶けた日光が、樹立の影を長々と地上に印しているばかりで、人っ子一人いないではありませんか。
「じゃ、きっと彼女は着物でも着換る為に、一度家に帰ったのだろう。なる程、考えて見れば、あの古い海老茶の袴はかまをはいた事務員姿では、まさか来られまいからな」
算盤の返事に安心し切った彼は、そこにほうり出してあった茶店の床几しょうぎに腰かけて、煙草をふかしながら、この生れて初めての待つ身のつらさを、どうして、つらいどころか、甚はなはだ甘い気持で味わうのでした。
しかし、S子はなかなかやって来ないのです。あたりは段々薄暗くなって来ます。悲しげなからす共の鳴き声や、間近の停車場から聞えて来る汽笛の音などが、広場の真ん中に一人ぼつねんと腰をかけているTの心にさびしく響いて来ます。
やがて夜が来ました。広場のところどころに立てられた電燈が寒く光り始めます。こうなると、さすがのTも不安を感じないではいられませんでした。
「ひょっとしたら、家の首尾が悪くて出られないのかも知れない」
今では、それが唯一の望みでした。
「それともまた、おれの思い違いではないかしら。あれは暗号でもなんでもなかったのかも知れない」
彼はいらいらしながら、その辺をあちらこちらと歩き廻るのでした。心の中がまるで空っぽになってしまって、ただ頭だけがカッカとほてるのです。S子の色々の姿態が、表情が、言葉が、それからそれへと目先に浮んで来ます。
「きっと、彼女も家うちでくよくよおれのことを心配しているのだ」
そう思う時には、彼の心臓は熱病の様に烈はげしく鳴るのです。しかし、またある時は身も世もあらぬ焦燥が襲って来ます。そして、この寒空に来ぬ人を待っていつまでも、こんな所にうろついている我身が、腹立たしい程愚おろかに思われるのです。
二時間以上も空むなしく待ったでしょうか。もう辛抱し切れなくなった彼は、やがてとぼとぼと力ない足どりで山を下り始めました。
そして山の半なかば程降りた時です、彼はハッとした様にそこへ立ちすくみました。ふと飛んでもない考えが彼の頭に浮んだのです。
「だが、果してそんなことがあり得るだろうか」
彼はその馬鹿馬鹿しい考えを一笑に付して終おうとしました。しかし、一度浮んだ疑いは容易に消し去るべくもありません。彼はもう、それを確めて見ないではじっとしていられないのでした。
彼は大急ぎで会社へ引返しました。そして、小使に会計部の事務室のドアを開かせると、やにわにS子の机の前へ行って、そこの本立てに立ててあった原価計算簿を取出し、××丸の製造原価を記入した部分を開きました。
「八十三万二千二百七十一円三十三銭」
これはまあ何という奇蹟でしょう。その帳尻の締高は偶然にも「ゆきます」というあの暗号に一致していたではありませんか。今日S子はその締高しめだかを計算したまま算盤をかたづけるのを忘れて帰ったというに過ぎないのです。そして、それは決して恋の通信などではなくて、ただ魂のない数字の羅列られつだったのです。
余りのことにあっけにとられた彼は、一種異様な顔つきで、ボンヤリとそののろわしい数字を眺めていました。総ての思考力を失った彼の頭の中には、彼の十数日にわたる惨憺さんたんたる焦慮しょうりょなどには少しも気づかないで、あの快活な笑い声を立てながら、暖かい家庭で無邪気に談笑しているS子の姿がまざまざと浮んで来るのでした。
沢村についてのYouTubeを幾つか挙げてみる。YouTubeで検索してみて。
沢村栄治の球速は?
https://youtu.be/gIwvdPdxtZI
1943年の沢村栄治の成績をご覧ください【読売ジャイアンツ】【巨人】【なんJ、2ch、5ch反応】
https://youtu.be/ANOw3TB4E3I
沢村栄治
https://youtu.be/BgrVei6DAms
次に此の国唯一の特攻の模様
【特攻隊】最後のピアノ演奏会
https://youtu.be/aS8_cKrHmFA
特攻とはー。「南九州、特攻の地から」
https://youtu.be/xk_mzvi5rsQ
神風特別攻撃隊 記録映像 ③
https://youtu.be/C7ftsCQMwXY
零戦で米軍機202機を撃墜…異次元の空戦技術を持った日本海軍最強の撃墜王・岩本徹三/零戦虎徹
https://youtu.be/PqyC3_IBlbk
ひめゆり看護婦
https://youtu.be/EbzqSrqCvQY
「君、弱い事を言ってはいけない。僕も弱い男だが、弱いなりに死ぬまでやるのである。夏目漱石」
「我々の生活に必要な思想は、三千年前に尽きたかもしれない。我々は唯古い薪に、新しい炎を加えるだけであろう。芥川竜之介」
「幸福というものは受けるべきもので、求めるべき性質のものではない。求めて得られるものは幸福にあらずして快楽なり。志賀直哉」
「天下は天下の人の天下にして、我一人の天下と思うべからず。徳川家康」
「時の流れがわからなければ、寛大であろうと、厳しくしようと、政治はすべて失敗する。軍師諸葛亮孔明」
「by europe123 」
https://youtu.be/TibQnxeGdPc
肝心な自国の真実を伝えない報道各社の体たらくと、何も知ろうとしない国民に平和というものが降って来る訳