TL【打ち切り?】炎帝に跪く

カレシ持ちヒロイン/マザコン狂人美少年/姉ガチ恋美青年弟/横柄カレシ/不気味美少年双子弟(未登場)/近親相姦/

1 【打ち切り?】


 夢の中で神社にいた。小規模なところで、社(やしろ)の奥に空き地があり、枯葉や枯木の積もった陰に朽ちた井戸がひっそりと佇む。
 少し離れたところでその井戸を眺めていた。閑散とした空間だった。
 後ろに誰か立っている気がした。振り返る。



―そこで目を覚ました。クーラーの作る冷気が肌を撫でていく。扇風機も回っていた。ベッドの端には恋人が座っていた。背中に引っ掻き傷が走っている。誰がつけたものなのか、霞織(かおり)には自覚がなかった。しかし他の人の影があるようには思われない。
 自宅の駐車場に車が入ってくる音がした。恋人の雹太郎(ひょうたろう)が窓のほうへ首を向ける。
「弟が帰ってきたんぢゃね?」
 膝の上に置かれた指の忙しなさからすると、煙草が吸いたいらしかった。彼は茶金髪と地毛の黒髪の混ざった、素行不良児がそのまま大人になったような男だった。耳にはゴールドのピアスが光っている。
「帰るわ。掃除フェラだけして」
 雹太郎が立ち上がった。彼は支配者のような男で、霞織は言われるがまま、口淫のために身を伏せた。そこでインターホンが鳴る。弟の車の音のように思われたが、どうやら違ったらしい。弟はインターホンなど押さない。
「かおり姉(ねえ)」
 下の階から声が聞こえる。近所の子供だ。恋人は子供が嫌いだった。
「い~や。自分でシコる」
 霞織は脱ぎ捨てた服を身に纏い、急いで階段を下りた。玄関には近所の雨宮(あまみや)家の長男、祷(いのり)が笊に野菜を持って立っていた。暑いため中に入っていろ、というようなことを以前言ったが、それをよく守っている。
「野菜持ってきた」
 祷は来年中学生になる、三白眼の男児だった。よく日に焼けている。黒髪も日差しで茶色く傷んでいた。少し異様なところがあるとすると、この子供は怪我が多い。虐待を疑われるほどだった。だが実際に虐待をしていた母親は家から出ていき、今は祖母と暮らしているはずだった。
「ありがとう。でも祷くん、おでこ怪我してるよ。おいで、手当てするから」
 そして今日もまた、額に擦り傷がある。これを人為的にどう作るのかは、彼女にも分からなかった。
 祷が式台に上がったとき、玄関扉が開いた。弟が入ってきて、一瞬止まった。
「おかえりなさい」
 弟の霊季(たまき)は今年大学生になったばかりだった。背が高く、色白で、筋肉は程良くついているようだが何故か痩身に見えてしまうのは頭の小ささのためかもしれない。地域でも噂になるような美男子だが、口数が少なく、愛想のない人物だ。案の定、にこりともせず、霞織と祷の傍を通り過ぎていく。
「今日も怒ってんのか?」
 三白眼が霞織を見上げた。この子供も人を睨むような目付きばかりで、縹緻(きりょう)こそ今のところそう悪くなかったが、人相がいいというわけでもなかった。しかしそこには、幼くして受けたこの男児の苦渋が色濃く刻まれているようでもある。
「いつもあんな感じでしょ」
 祷を居間へと促し、生傷の処置をする。
「かおり姉」
「うん?」
「誰か来てんの?」
「お姉ちゃんのお友達」
 するとこの男児は目を泳がせる。
「男の人?」
 答え向こうからやって来た。階段から遠慮のない足音が落ちてくる。雹太郎だ。
「うぃ~、帰るわ。じゃ!」
 彼は居間に首を突っ込み、霞織を捉え、それから少年を一瞥した。ぱちくりとした動作は、どこか人を喰っている。
「雹ちゃん」
「見送りは要らねぇ。ガキの世話(せっちょう)しててくれ」
 霞織は一切こちらに構うことのない独尊的な背中を玄関まで追う。しかし彼は顧みることもなく帰っていった。怒っているのだろうか。いいや、これが常であった。顔を合わせ、身体を重ね、別れる。恋人関係にあるはずが、性欲処理の間柄になってしまっている。そして彼女は戸惑いを覚えるが、何に戸惑っているかといえば、他者の機嫌を損ねた点についてであった。つまりこの破綻しかけている関係についてではなかった。おそらくどちらかが切り出せば、簡単に、すぱりと終われる相関図なのであった。だが惰性によってそれを選ばないのである。選択肢が己にあることすら忘れていそうだった。
「ヤンキーじゃん」
「うん、そうね」
 額に大判の絆創膏を貼った祷も彼女を追って玄関へ戻ってきた。 
「ジュースでも飲んでいきなさい。倒れちゃうから」
 彼女は野菜を笊から下ろして男児へ返す。それから菓子と飲物を用意した。
「別にヘーきなのに」
「いいから。熱中症で倒れちゃった子、いっぱいいるみたいだよ?」
 居間のテレビを点けると、ちょうど熱中症について専門家が言及していた。遠方の地域の中学校で、集団で熱中症になったらしい。
「かおり姉は心配性だ」
「大人は子供に少し心配性なんです」
 祷は露骨に嫌そうな顔をした。
「は、早く食べちゃいなさい。帰りが遅いと、おばあちゃん心配するから」
 子供扱いをこの子供は嫌がる。だがそれを、子供として扱われなかった反動として霞織は見ていた。つまり母親の愛情を知らず、子供としての振る舞い方に抵抗があるのだと推測した。
 菓子を食い終わらせると、彼女はこの子供を送っていくことにした。
「いいって!いつも一人で帰ってるんだから!」
「一人にならずに済むなら一人にならないほうがいいの」
 祷は年齢の割に大人びていた。背伸びをしている。家庭環境、事情を知っているだけに、彼女はそこにも影を感じた。子供扱いを嫌がるからといって、この子供を子供として扱わずにいられない。
 玄関を出ると、膨らんだような柔らかな温気(うんき)に包まれる。庭に雹太郎の車はすでになかった。屋根付きの車庫に弟の車が停まっている。その下で野良猫が伸びながらもこちらを睨んでいる。あれは懐かないし捕まらない。
「暑いね」
 日差しが落ち着いた時間ではあるけれども、気温も湿度も高かった。日傘を差し、子供の肩を抱き寄せる。
「くっつくと暑いだろ」
「じゃあ君が持ちなさい」
 日焼けしても滑らかな皮膚を保つ若い腕をとって日傘を握らせた。反抗的だが聞き分けのいい児童だった。
 祷の祖母の家へはすぐに行けたが、彼女は蜂の巣を発見した。遠回りをすることに、子供は素直に承知した。そして鄙(ひな)びた神社が遠めに見えたとき、霞織はそこで立ち止まってしまった。彼女は夢の中の神社を知っていた。それがあの神社だった。1台か2台停めることのできる舗装されていない駐車場には桜の木が青々としているが、妙なくねりが不気味で、どこか柳の木に似ている。
「どした?」
「ううん。懐かしいなって」
 小学校に入りたての頃、父親と叔父にそこに連れていってもらったことがある。それ以外は見かけるのみで、中に入ったことはない。
「懐かしいって何」 
「昔のことが急に甦って、幸せなんだけど、ちょっとだけ切なくなる感覚。祷くんにはちょっと早いかな?」
 子供は振り返って彼女を睨んだ。
「そういうことじゃなくて!」
「昔ここで遊んだの。君が生まれるずっと前だよ」
 彼女はこの子供に、いかに自身が子供であるのか知らしめたかった。幼少期に幼少期として当然のものを与えられなかったこの子供に。
 祷は顔を背けてしまった。だがいつものことだった。この子供は常に拗ねている。
 まだいくらか神社が気になりはしたが、彼女は子供の背を押した。しっとりと汗ばんでいる。
「帰ったらすぐお風呂入ったほうがいいかもね。汗疹になっちゃう」
 畑でまだ作業をしていた祷の祖母に挨拶をして、すぐ近くの家へ送り届けた。雨宮宅を後にすると、彼女はあの神社が見える道で立ち止まった。所詮は夢である。そこに意味はない。時折、それはまったく脈絡のないものを記憶の底から引っ張ってくる。
 だが懐かしかった。その足は神社のほうへ引き寄せられていく。
 田舎の風景は、近いようでいて遠い。都会と違って景色が変わらないからだろう。目印がなければ、距離を詰めている実感もない。時の流れは嘘を吐かないかもしれないが、感覚は嘘を吐くこともある。
 思ったより歩いた。途中でやはり引き返そうかとも思った。早々と帰り、冷房の点いた空間で休むのがよい。先程まで、散々身体を動かしていたのだから。いいや、雹太郎に好き放題されていた。揺さぶられるから揺れていた。恋人のセックスであっただろうか。それはセックスフレンドというものよりも粗雑なもののような気がした。
 彼は幼馴染だった。幼馴染のまま恋仲となり、隠し事は無いほど近い関係であった。そこに恋人と名を付けたの誤りであったのかもしれない。勘違いであったのかも知れぬ。急ぎすぎ、焦りすぎたのかも今となっては分からない。
 物思いに耽って歩いていると、神社へと着いた。カーブミラーが錆びついて不気味だった。鳥居の奥には枯れた木が社までの道を作る。そこを逸れると、社の横には道があり、空き地へと通じるのだった。屋台でも出して祭でもやれそうであるが、人の多く集まるような場所ではなかった。
 彼女は境内に入っていった。虫のいる季節である。そう長居をするつもりはなかった。ただ、夢の中で見た井戸が実際に存在するものなのか、ふと気になった。あの夢の再現度はどれほどなのか、単純な疑問、好奇心である。
 古びた社の脇を通り、夏場だというのに枯葉の積もった空き地へ入った。サンダルが木の枝か木の実を踏んだらしい。小気味良い音がする。
 随分と昔に倒れたらしき木がまず見えた。その上に木だの篠だのが重なり、枯葉や朽葉は消え失せず堆積し、その脇の翳りに―
 真後ろから音がした。霞織は咄嗟に振り返る。
「ママ……?」
 気配もなかった。少年が立っている。夏の気温で溶けてしまいそうなほど、色の白い、儚げな雰囲気だった。小さな頭、小さな顔に、大きな鼈甲飴を嵌め込んだような目が印象的だった。汗に濡れたことのなさそうなさらさらとした亜麻色の髪も不思議な感じがした。実在するのを疑う美少年なのである。不気味であった。夏という汚れやすい季節に見合わない清爽な感じのこの人物を、彼女は知らない。
「お母さんを、探しているの?」
 霞織は一瞬たじろいだが、すぐにそれが人違いだと悟った。
「ママ」
 祷よりもいくらか年上のようだった。中学生くらいだろうか。高校生と判ずるにはまた体格が未熟であった。
「迷子?引っ越してきたばかりなのかな」
 霞織の問いに答えはなかった。少年はきゅるるんとした目で彼女を見上げた。まだ背丈は少年のほうが低いようだった。霞織は少し背が高めなのだった。
「ママ、やっと会えた」
 可憐な顔が柔和に綻び、彼女はたじろいだ。正気の人間ではないのかも知れない。理知的な外貌をしていたが、所詮、見かけの話である。少年は霞織に抱きつく。彼女は戦慄した。この子供は尋常な状態ではない。これが尋常であるのだとしたら、一人道に放っておいていい性質の子ではない。
「放して……放して、おうちはどこ?お母さん、きっと心配してるよ………」
 細い腕だった。同年代の女子のほうがまだしっかりしていそうなものだった。だが巻き付く腕は強い。
「ママ………」
 自身より年少で小柄であろうと、彼女は恐怖した。この子供が女の子であればまた話は変わったのであろう。しかし異性の、この年頃となれば、途端に本能的な忌避感も湧く。この子供への嫌悪と、顔も知らぬこの子供の親に恨みが湧いた。目に見えぬ苦労と複雑な事情もあろう。だからといって、野に放り、このようなことを起こしても許されるのか?霞織は躊躇いがちな、罪悪感の否めない、怒りと、おそらく世間はそれを許容し強要するであろう窮屈さを覚えた。つまり己の被害者性と向き合えば、非物理的な加害者になり得る不安と後ろめたさを。
 少年は無遠慮に霞織へ抱き付いて、匂いをつけるように頭を擦り寄せた。彼女はそこに直立したまま動けなかった。境内の外を真っ直ぐ凝らし、誰か来ないものか、いいや、それすら浮かばず頭を真っ白にしていた。夕方とはいえ暑い季節で、地上はまだまだ昼間の熱が籠っている。だが彼女は寒かった。
「ママ……」
 物凄い力が霞織を脇にある社の、縁側のように突き出ている甲板へ押しやった。
「ああ!」
 シャツを捲られ、胸元まで捲り上がられる。彼女はこのときに限ってキャミソールを着ていなかった。素肌と紺色のブラジャーが露わになる。
「や………め…………」
「ママ!ママ!会いにきてくれたんだ、ママ!」
 詰め寄り、迫る美少年の、栗の蜜煮みたいな眼も、軽快に弾む薄い桜唇も、理知的に見えた。だがあまりにも奇行だった。
 ブラジャーが上へとずらされる。豊満な乳房が溢れ落ちた。先程、恋人の股ぐらで滾っていたものを挟んでいたものだった。
「ママ……!」
 そんなことは、この少年が知る由(よし)もない。散々恋人が吸った胸の突起に口を付ける。
「ゃ……っ!やめて!放して………」
「ママのおっぱい。ママ……」
 己の目を潰さねば、あらゆることを赦してしまうような美少年だった。秩序を乱す美貌だった。悪辣な可憐さであった。行き過ぎた美は罪であると知らしめられる美少年だった。そして見た目にそぐわぬ怪力だった。氷柱みたいな腕からは想像もつかなかった。
 恐ろしい美少年は、霞織に母性を求めるようなことを口にしておきながら、その舌使いは雌の番いに施すものだった。
「は、な………して………」

【打ち切り?】

TL【打ち切り?】炎帝に跪く

TL【打ち切り?】炎帝に跪く

頭のおかしい絶世の美少年に執着されるカレシ持ち女の話。

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更新日
登録日
2023-08-06

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