お粗末な国の行く末についてと文豪作品から掲載する。

お粗末な国の行く末についてと文豪作品から掲載する。


 あまりのlevelDownに改めて納得をした。
 先ずは、広島での原爆会場にて岸田君のコメントのお粗末さには今更では無いが呆れた。
 まあ、記者会見の際に必ずメモを見なければ話せないのだから・・子供でも少し頭の良い子なら暗記してから話すだろう。
 原爆被災についてのみコメントをすれば問題は無かったのだが、「核抑止」と「大国の名」をこれ見よがしにあの短いメッセージに折り込んだのは頭脳ㇾべルの低さと、此の国がついにそこ迄認知機能を低下させたのかが露呈した。
 核抑止というものは、先ずは自らが率先して携わる事から先が見えてくるという事である。
 安部政権から極端な右翼政権に成り下がったが、それ以降唱えていた呪文は何だったのだろう。
 「核の傘」。つまりはUSAの基地があるので核兵器で守って貰える・・或る意味西側諸国は軒並み同じ発想になっており台湾も今のところは同じ身分。
 自民が自ら核兵器に頼っているのに、抑止が出来る訳がない。また、大国だけが核兵器を所有しているのでは無く、USAが二番目の多さで対抗をしている。
 仮に、世界中から核兵器を無くしたいのであれば先ずはUSAが手本を示さざるを得なくなる・・つまり、「人のふり見て我が振り治せ」の言葉がぴったりとあてはまると言える。
 USAその他が核を所有している状況で、青い惑星の核兵器を廃絶しようとは・・子供でも至らない結論であろう。
 要は、最後まで・・負けたくない、というアングロサクソンの性格が丸見えなのだ。
 人類は永久に核兵器に頼りながら、反面、核兵器を怖れる事だろう・・全く非論理的な動物と言える。
 だが現実問題としては、小国を消滅させるのに核は又全く不要である。それどころか、ちょちょいと一時間程も掛からず首都は焦土と化す。
 私たち第三者から言わせても、どうして小国が降伏・・まあ、其れが見栄であれば和解を申し立てればおそらく丸く収まると思われる。
 ゼレンスキーに意地を張らしている原因は、西側諸国の応援に期待をしている事にある。困れば何とかしてくれるだろう・・なのだ。
 だが幾ら期待をしても最早これまでの現状である事に何も変化が生じる訳でもない。
 いいかね。
 小国領土の現状はどうなっているのか?
 報道機関が唱えている経は単なる「失地回復」の課程においてであり、其れさえもにっちもさっちも進まないので、今度は大国領土になど無駄な事と分かっていてもそれ以外に意地を通す・・二の句が継げない。
 クリミアがどうなろうと、所詮は自国領土が回復できないでいるに過ぎない。此の国や西側のマスコミが幾ら応援をしようが、何の役にも立たないだけで、番組表が腐ってしまっている。
 小国が核を使用すれば事態は変わって来るが、其れでもやはり東側諸国が優っている。第三者から見る結末に変更の文字は不要。
 岸田君では無いが、核抑止の意味が見えてこない・・核戦争で勝利に導きたいのか、核廃絶なのか・・此れは自民党内でも結論が出せない問題である。
 大国は今のところ小国首都壊滅には消極的のようだ。既に海軍増強路線に切り替えているのが現状だ。
 ただ、気を付けた方が良いのは、先頃の戦術より遥かに費用が掛からない・・しかも一部兵器を使用しなくとも同じ事~防空システムの自滅・兵器はその為の攻撃目標用の囮として使用する~が可能と分かった。日常見るモノや工業用のモノが代替えになるが、まだ、其れについては未発表。尤も、入れ知恵でも無ければ、異なる文明間で余計な事をするつもりでもない。
 東側諸国の今後の課題として此れが欠かせないと・・事態の先を見ているからだ。
 要するに人類は子供のlevelの文明に過ぎなく、売られた喧嘩は買うが常套手段であり、縮尺版でサッカーの試合や、試合後握手をしない等の、詰まらない抵抗をする程度しか頭が回らなく感情が先に出てしまう。
 同じ国のチーム同士でも其れなのだから、如何に人類の退化が進んでいるのかが如実に表されている。
 北朝鮮の競技参加は好ましい限りであり、そんなちょっとした事から案外、東西の緊張がほぐれていくものだ。
 其れはそうと、女子のサッカーは下手だな・・やはり、女子バレーボールの方が女子には向いている。逆に男子は勝てないが。
 そういう観点からでは無いが、人類のお祭りはいい加減にした方が良く、Paris五輪が行われようと昭和の世代からすれば何等の感慨にも値しなく、万博も然りである・・何も意味は無いよ万博など・・地方自治体が喜ぶに過ぎない。
 まあ、理解が出来ない世代であるから好きなようにすれば良い。


 次。
 此の国の政党にも昭和に較べるとかなりlevel低下がみられるようになってしまった。
 民主主義の政治には「与党と野党の見解が其々存在しなくてはならない。」という人類には不可欠の法則がある。
 USAでは同じ与党同士で争っているに過ぎない。其れにしては、国の秩序が乱れすぎているのは自由主義という看板が原因。経済の構造不況などに関しては、長期間手を施しようもない。
 欧州も同じ白人社会では似たような事が見られ、且つてNazisで失敗をした三国同盟であるGermany・ITALYなどが再び誤った路線を進み始めているが、仕方が無い事だろう。
 さて、時間も無いので此の国の政治がおかしくなってしまった件に付き。
 先頃の選挙だったか・・維新や国民党などの姿が見えた。
 国民党の代表者が、共産党を除く野党共闘・・は有り得ない。其れで無くても此の国で万年野党である自民以外は同じ道を選んでいる。
 ところが、維新とやら・・大阪人は常に東京都を意識する傾向にある。タイガースは良いのだが、道頓堀に飛び込んだりするのは、熱狂的な巨人ファンと同じだ。
 其れについては後程。
 維新の代表者が「第二の自民党だ」は、みっともなくて開いた口が塞がらない。自民というのは、此の国で唯一広域暴力団と変わらない右翼組織である。
 従い、その伝統は根付いており、揺るがないのが此の国の政治なのだ。
 ところが、先の選挙では国民の意思が揺らいできた。余りに自民自体のlevelが極悪非道levelから単なる低能levelに変わって来た事もある。
 何とかカードも然り・・やること成す事お粗末過ぎ、流石の白痴化国民の中にも動揺が見られるようになった。
 だが、いざ投票の段になり「・・ううん?自民は良くないが・・かと言って投票をする政党がいない・・どうしよう・・?」
 此の国では以前の世代は又考え方が異なった。例えば京都は共産党が圧倒的に強いところだった。
 社会党の委員長が国会に向かう際、鞄で無く風呂敷だったのは有名だった。要は真面目なのだが、一般受けをしない・・が、当時は労働組合が強かったので、社会党や民社党が人気があった。
 先日、珍しく西武・そごうの労組がマスコミに登場をしが、且つての組合は強かった。
 今は時代が違い国民も漫画animation世代になってしまった。
 そんな国民が考えたのが自民・・困ったな・・だった。
 つまり、自民以外に良い政党がいないと考えるのが今の世代であり、そうなると極端に組合など知らない世代だから、極右翼自民で無く・・でも・・やはり・・・と考えた結果・・維新が躍進をした。
 謂わば自民であってはならなかったのだ。
 だが、維新の代表者が「第二の自民だ」・・此れでは有権者の思惑と期待外れになってしまったと言える。
 第二の自民であれば・・何も自民を敬遠した意味が無くなってしまう・・公約敬遠?大谷だね・・ブーイングに値してしまう。
 以前、この記事でこんな予言をした。
「自公の東京での候補者応援の食い違いにじょうして・・維新が合流するよ・・国民党も同じだ」
 其の通りでしょう。
 だが、自民は極悪の伝統があり此の国では根強い広域暴力団という組織。同じ自民が二つはいらない。
 其処が維新の代表者の頭の悪いところ。
 同じなら・・自民に投票するよ・・となってしまう。
 其のうち維新は衰退していく・・国民等も同じ轍を踏む。
 与党なら与党・・野党なら野党で無ければ此の国の議会制民主主義は馴染めない。
 野党共闘で与党に立ち向かうのであれば、やれ、何処の政党は嫌だ・・では、子供のlevel以下。立憲の泉という代表者もその意味では辞職した方が良い。
 此の国には左翼政党は存続できないというおきてが存在する。China共産党と此の国の共産党は名称は似ているが全く関係がないどころか、互いが議論をしたら逆に大喧嘩になるだろう。
 其れで、以前、北朝鮮に、行方不明者の便りを聞きに行くのなら、立憲の議員と二人で行けば・・と言った・・のは、共産党では大喧嘩になってしまうから。
 また、創価学会の新聞には強制的な面があり好まれないという事情があるが、実は、共産党の資金源である「赤旗新聞」をとって下さい・・は逆効果になる。
 此れはやめた方が良く、名称も少しVersionupをしたら・・。
 其処で、結論だが・・維新は大阪だけなら何とかなるだろうが・・全国版では落ちていく。通天閣のようなもので、大阪人の気は引くが、所詮東京タワーには敵わず・・横浜のマリンタワーのような美しさや周囲の景色の素晴らしさが無い・・大阪というところは言葉もおかしいが・・人口が多いだけに過ぎない二番せんじが得意な所・・だから、歌舞伎も落語も大阪版があり其れらは良いのだが、お笑いのやすしの様にやり過ぎてしまい転落してしまう傾向にある。
 主張には癖があるのだが・・維新の様に意味も無いのに都合よく考えては元も子もなくなる。
 国民党も立件の泉も其処のところ・・宜しく・・。
 
 ああ、それから・・またNHKのお得意の誤魔化しが出た。
 原爆を翌日に控えた昨晩のNHK教育TVの遅くに・・何で「ミッドウエイ」などやるのかな?最初は戦争反対で始まって、最後の落ちが、「政権やUAS賛美」で落としたら馬鹿もほどどというもの・・原爆はUSAが人体実験とUSSRに先を越されない為に行った「とんでもない残虐な行為」であるのだから・・特攻のUSA軍艦に果敢に挑戦する映像ならまだしも・・あれは拙すぎる・・。

 ああ、もう一つ・・何処かの放送局でやってみろよ・・巨人軍の永久欠番であるベイブルースを三振に打ち取り当時としてはずば抜けた功績を残した名投手沢村が、無残にも手りゅう弾を投げてはオーバースローからサイドスロー更にアンダースローで・・最後はUSAの潜水艦シーデビルに撃沈され海の藻屑と消えた・・此れやったら涙腺が緩む視聴者がいるのは間違いがない・・尤も、遺族がそっぽを向いていたので・・遺影などの許可が下りないので不可能だろうが・・大谷ばかり脳も無しに何処の局でも報道するのではなく・・頭を回転させてみる事も大事だ・・仮に大谷やイチローが沢村の話を聞いたらきっと、其れなりの反応をすると思うが・・王・長嶋選手にしても一流は一流が分かるものである・・。

 

 さて、時間が無くなったので文豪の作品から・・。
 



 軍艦金剛航海記

 芥川龍之介


 一

 暑いフロックを夏の背廣に着換へて外の連中と一しよに上甲板へ出てゐると、年の若い機關少尉が三人やつて來て、いろんな話をしてくれた。僕は新米だから三人とも初對面だが、外の連中は皆、教室で一度は講義を聞かせた事のある間柄である。だから、僕は圈外に立つておとなしく諸君子の話を聞いてゐた。すると其少尉の一人が横須賀でSとSの細君と二人で散歩してゐるのに遇つたら、よくよく中てられたと見えて、其晩から腹が下つたと云ふ話をした。外の連中はそれを聞くと、あははと大きな聲を出した。唯新婚後間のないSだけはその仲間にはいらなかつた。これは嬉しさうに、にやにや笑つたのである。自分は、夕日の光を一ぱいに浴びた軍港を眺めながら、新らしい細君を家に殘して來たSに對して憐憫に近い同情を感じた。さうしたら、何故か急に旅らしい心細い氣もちになつた。
 標的を曳いてゐる艦は、さつきから二隻の小蒸汽に艦尾を曳かれて、方向を右に轉じようとしてゐる。素人眼には、小蒸汽の艫に推進機スクリユーが起してゐる、白い泡を見ても、どれほどその爲にこの二萬九千噸の巡洋艦が動いてゐるかわからない。先に錨をあげた榛名は既に煙を吐き乍ら徐に港口を西に向つて、離れようとしてゐる。それがまた、梅雨晴れの空の下に起伏してゐる山々の鮮な緑と、眩ゆく日の光を反射してゐる水銀のやうな海面とを背景にして、美しいパノラミックな景色をつくつてゐる。この光景を眺めた僕には、金剛の容易に出航しさうもないのが聊かもどかしく思はれた。そこで、又外の連中の話に加はつて、このもどかしさを紛らせようとした。
 すると、すぐ側のハツチの下でぢやんぢやんと、夕飯を知らせる銅鑼の音がした。その音は軍艦の中とは思はれない程、古めかしいものであつた。僕はそれを聞くと同時に長谷にある古道具屋を思ひ出した。そこには朱塗の棒と一緒に、怪しげな銅鑼が一つ、萬年青の鉢か何かの上にぶら下つてゐる。僕は急に軍艦の銅鑼が見たくなつたから、ほかの連中より先にハツチを下りて、それを叩いて行く水兵に追ひついた。所が追ひついて見るとぢやんぢやんの正體は銅鑼と云ふ名を與へるのが僭越な程、平凡なうすべつたい、けちな金盥にすぎなかつた。僕は滑稽な失望を感じて、すごすご士官室ウアドルームの海老茶色のカアテンをくぐつた。
 士官室では大きな扇風器が幾つも頭の上でまはつてゐた。その下に白いテーブル掛をかけた長い食卓が二側にならんで、つきあたりの、鏡を入れた大きなカツプボオドには、銀の花瓶が二つ置いてあつた。食卓につくと、すぐにボイが食事を持つて來てくれる。さうして靜に、しかも敏活に、給仕をしてくれる。僕は生鮭の皿を突つきながら、Sに「軍艦のボイは氣が利いてますね」と云つた。Sは「ええ」とか何とか氣のない返事をした。事によると、これは軍艦のボイより、細君の方が氣が利いてゐると思つたからかも知れない。外の連中は皆同じ食卓についた八田機關長を相手にして、小林法雲の氣合術の事なんぞを話してゐた。
 元來この士官室なるものへは、副長以下大尉以上の將校が皆な來て、飯を食ふ。そこで僕はこの際、いろんな人の顏を覺えた。さうしてそれと同時にシイメンの顏には、一種のタイプがある事を發見した。

 夕飯をしまつた後で、上甲板から最上甲板へ上ると、どこかから男ぶりの好い少尉が一人やつて來て、僕たちを前部艦橋へつれて行つてくれた。軍艦の中で艦首から艦尾を一目に見渡す所と云ふと、先づここの外にない。僕たちは司令塔の外に立つて何時か航行を始め出した艦の前後に眼を落した。眼分量にして、凡そ十五六呎の高さにゐるのだから、甲板の上にゐる水兵や將校も、可成小さく見える。僕にはその小さな水兵の一人が、測鉛臺の上に立つて青い海に向ひながら、長い綱の先につけた分銅を、水の中へ投げこんでゐるのが殊に面白かつた。投げこんでゐると云ふだけでは、甚だ振はないが、實はまるで昔の武藝者が鎖鎌でも使ふやうな調子で、その分銅のついた長い綱をびゆうびゆう頭の上でふり※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)しながら、艦の進むのに從つて出來る丈け遠くへ勢ひよく抛りこむのである。上から見てゐると、抛りこむ度にその細い綱が生きもののやうに海の上でうねくつた。その先につけてある分銅が、まだ殘つてゐる日脚に光つて、魚の跳ねるやうに白く見えた。僕はへえ危いねと思ひながら、暫の間は感心して、そればかり眺めてゐた。
 それから司令塔の内部や海圖室を見て、又中甲板へひき返した。すると、狹い通路にはもうハムモツクを釣つて、眠つてゐる水兵が大勢ある。中にはその中で、うす暗い電燈の光をたよりに、本を讀んでゐるものも二三人あつた。僕たちは皆な背をかがめてそのハムモツクの下を這ふやうにして歩いた。その時僕は痛切に「軍艦の臭ひ」を嗅いだ。これはペンキの臭ひでもなければ、炊事場の流しの臭ひでもない。さうかと云つて又機械の油の臭ひでもなければ、人間の汗の臭ひでもない。恐らくそれらのすべてが混合した、――要するにまあ「軍艦の臭ひ」である。これは決して高等な臭ひではない。こんな事を考へながらふと頭をあげると、一人の水兵の讀んでゐる本の表紙が、突然僕の鼻の先へ出た。それには、「天地有情」と云ふ字が書いてある。――僕は一瞬の間、「軍艦の臭ひ」を忘れた。さうして妙に小説めいた心持になつた。
 それでもハムモツクの下を通りぬけたあとで、バスにはいつたら、生れかはつたやうな氣になつた。バスは海水で沸かしてある。それが白い陶器の湯槽の中で、明礬のやうに青く見えた。Tの語を借りると、「躯が染まりさうな氣がする位青い。」僕は湯槽の中で手足をのばしながら、Tに京都の湯屋の講釋を聞いた。それからこつちでは淺草の蛇骨湯の話をしてやつた。――それ程僕たちのバスのはいり心は泰平なものだつたのである。
 湯から上ると副長の巡見がすんでゐたから、浴衣に着かへて、又士官室へ行つた。軍艦では夕飯の外に、もう一つ晩飯がある。その晩はそれが索麪さうめんだつた。僕はそこで酒をすすめられた。元來下戸だから、酒の善惡は更にわからない。が、二三杯飮むとすぐ顏が熱くなつた。すると僕の隣へ來て、「二十年前の日本と今日の日本とは非常な相違です」と云ふ人がある。その人はシイメンのタイプに屬さない、甚だ感じの好い顏をしてゐた。さうしてその顏がまつ赤になつてゐた。何でも國防計畫か何かを論じてゐるらしい。

 僕はいい加減に「さうでせう」とか何とか尤もらしい返事をした。「さうです。それは僕がですな、僕が確に保證します。いいですか、確にですな。」と、その人は、醉はない者にはわからない熱心さを以て、僕の杯と自分の杯とに代る代る酒をつぎながら、大分獨りで氣焔をあげた。が、生憎僕もさつきから、醉はない者には解らない眠氣に襲はれてゐた所だから、聞いてゐる中にだんだん返事も怪しくなつて來た。それがどうにか、かうにか、會話らしい體裁を備へて進行したのは、全く僕がイエスともノオともつかない返事をして、巧に先方の耳目を瞞著したおかげである。その瞞著した相手の憂國家が、山本大尉とわかつた今になつて見ると、默つてゐるのも可笑しいから、白状してしまふが、僕には、二十年以前の日本と今日の日本と、何がどうちがふんだか、實は少しも分らなかつた。尤もこれは山本大尉自身も醉がさめた後になつて見ると、あんまりよくは分らなかつたかも知れない。
 そこで好い加減に話を切りあげて、僕は外の連中と一しよに、士官室をひき上げた。さうしてMと二人で又上甲板へ出て見た。外では暗い空と海との間に榛名の探照燈が彗星のやうな光芒をうす白く流してゐる。艦は多分相模灘を航行してゐるのであらう。僕はハンドレエルにつかまつて、遙か下の海面を覗込んだ。が、微かに青く浪が光る丈で、何も見えない。「かうやつて下を見てゐると、ちよいと飛込みたくなるぜ。」僕はかう聲をかけた。するとMはそれに答へないで、近眼鏡をかけた顏を僕の側へ持つて來ながら、「おい、俳句が一つ出來た」と云つた。「どんな句が出來た?」「遠流びと舟に泣く夜や子規。と云ふんだ。S君の事をよんだんだがね。」二人は低い聲で笑つた。さうしてもう一度海を見て空を見て、それから靜にケビンへ寢に下りて行つた。
 エレヴエタアが止つたと思ふと、先へ來てゐた八田機關長が外から戸を開けてくれた。その開いた戸の間から汽罐室の中を見た時に、僕が先づ思ひ出したのは「パラダイス・ロスト」の始めの一章である。かう云ふと誇張の樣に聞えるかも知れないが、決してさうではない。眼の前には恐しく大きな罐ボイラアが幾つも、噴火山の樣な音を立てて並んでゐる。罐の前の通路は、甚だ狹い。その狹い所に、煤煙でまつ黒になつた機關兵が色硝子をはめた眼鏡を頸へかけながら忙しさうに動いてゐる。或る者はシヨヴルで、罐の中へ石炭を抛りこむ。或者は石炭桝へ石炭を積んで押して來る。それが皆罐の口からさす灼熱した光を浴びて、恐ろしいシルエツトを描いてゐる。しかも、エレヴエタアを出た僕たちの顏には、絶えず石炭の粉がふりかかつた。其上暑い事も亦一通りではない。僕は半ば呆氣にとられて、この人間とは思はれない、すさまじい勞働の光景を見渡した。
 その中に機關兵の一人が、僕にその色硝子の眼鏡を借してくれた。それを眼にあてて、罐の口を覗いて見ると、硝子の緑色の向うには、太陽がとろけて落ちたやうな火の塊が、嵐のやうな勢で燃え立つてゐる。それでも重油の燃えるのと、石炭の燃えるのとが素人眼にも區別がついた。唯、如何にもやり切れないのは、火氣である。ここで働いてゐる機關兵が、三時間の交代時間中に、各々何升かの水を飮むと云ふのも更に無理はない。

 すると、機關長が僕たちの側へ來て、「これが炭庫です」と云つた。さうしてさう云ふかと思ふと、急にどこかへ見えなくなつてしまつた。よく見ると、側面の鐵の板に、人一人がやつと這ひこめる位な穴が明いてゐる。そこで僕たちは皆一人づつ、床を嘗めないばかりにして、その穴から中へもぐりこんだ。中は高い所に電燈が一つともつてゐるだけだから、殆ど夜のやうな暗さである。まづ坑山の竪坑の底に立つてゐるやうな心もちだと思へば間違ひない。僕はごろごろする石炭を踏んで、その高い所にある電燈を見上げた。ぼんやりした光の輪の中に、蟲のやうなものが紛々と黒く動いてゐる。雪の降る日に空を見ると、雪が灰をまくやうに黒く見える――あれのやうな具合である。僕はすぐに、それが宙に舞つてゐる石炭の粉だと云ふ事に氣がついた。此中で働いてゐる機關兵の事を考へると殆ど僕と同じ肉體を持つてゐる人間だとは思はれない。
 現にその時も二三人、その暗い炭庫の中で、石炭をシヨヴルで下してゐる機關兵の姿が見えた。彼等は皆默々として運命のやうに働いてゐる。外に海があつて、風が吹いて、日があたつてゐる事も知らない人間のやうに働いてゐる。僕は妙に不安になつた。さうして、誰よりも先きに、元の入口をボイラアの前へ這ひ出した。が、ここでもやはり、すさまじい勞働が、鐵と石炭との火氣の中に、未練未釋なく續けられてゐる。海の上の生活は、陸の上の生活に變りなく苦しい。
 エレヴエタアで艦の底から天上して中甲板の自分のケビンへ歸つて、カアキイ色の作業服を脱いだら、漸くもとの人間になつたやうな心もちがした。今日は朝から、ぐるぐる艦の中ばかり歩いてゐる。砲塔、水雷室、無線電信室、機械室、汽罐室――勘定するばかりでも、容易な事ではない。それがどこへ行つても、空氣が息苦しい位生暖かくつて、いろんな機械が猛烈に動いてゐて、鐵の床や手すりが油でぴかぴか光つてゐて、僕のやうな勞働に縁の遠いものは、五分とそこにゐると、神經にこたへてしまふ。が、その間に絶えず或る考へが僕の頭にこびりついてゐた。それは歐洲の戰爭が始まつて以來、僕位の年齡のものが大抵考へるやうになつた、或る理想的な考へである。今このケビンの寢臺の上にころがつて、くたびれた足をのばしながら、持つて來たオオベルマンの頁をはぐつてゐる間もやはりその考へは、僕をはなれない。
 これは其の後の事だが、夕飯をすませて、士官室の諸君と話してゐると、上甲板でわあと云ふ聲が聞こえた事がある。何だらうと思つて、ハツチを上つて見ると、第四砲塔のうしろに艦中の水兵が黒山のやうに集まつてゐた。さうしてそれが皆、大きな口をあいて、「勇敢なる水兵」の軍歌を唱つてゐた。ケエプスタンの上に、甲板士官がのつてゐるのは、音頭をとつてゐるのであらう。こつちから見ると、その士官と艦尾の軍艦旗とが、千人あまりの水兵の頭の上に、曇りながら夕燒けのした空を切りぬいて、墨を塗つたやうに黒く見えた。下では皆が、鹽辛い聲をあげて、「煙も見えず雲もなく」とうたつてゐる。僕はこの時も亦、その或る考へに襲はれた。勇ましかる可き軍歌の聲が、僕には寧ろ、凄壯な調子を帶びて聞えたからである。
 僕はオオベルマンを抛り出して眼を閉つた。艦は少し搖れ始めたらしい。

 主計長の案内で吃水線下二十何呎の倉庫へはいつたり、軍醫長の案内で蒸し暑い戰時治療室を見たりしたら、大分足がくたびれた。そこで上甲板へ出て、水兵の柔道を見てゐると、機關長が氣合術をやつて見せるから來いと云つて人をよこした。
 その後で、士官次室ガンルームへ招待されて皆で出かけたら、浴衣がけで、ソフアにゐた連中が皆立つて、僕たちの健康とSの結婚とを祝してくれた。このケビンにゐるのは、中少尉ばかりである。だから、甚だ元氣が好い。中でも、色の黒い、眼の大きい、鼻のつんと高い關西辯の先生の如きは、赤木桁平君を想起するやうな勢ひで、盛んにメートルをあげた。僕に自來也と云ふ渾名をつけたのも、この先生である。これは僕の髮の毛が百日鬘の樣だからださうだが、もし夫れ人相に至つては、夫子自身の方が遙かによく自來也の俤を備へてゐた。これは決して、僕のひが眼ぢやない。鏡にさへ向へば、先生自身にもすぐにわかる事である。
 この先生は、僕にハムだのパインアツプルだの色んな物を呉れた。さうしてその合ひ間には、「自來也はん」とか何とか云つて、僕のコツプへ無暗にビールを注いだ。「今日靴下一つになつて、檣樓トツプへ上つたのはあんたですか。」「僕ですよ。僕と此の人です。」僕はUを指さした。彼と僕とは今朝雨の晴れ間を見て、前部艦橋からマストを攀のぼつて、檣樓トツプへ上つて來たのである。「はあ。あんたですか。靴下一つは面白い。やつぱり自來也はんや。」――先こんな調子である。僕はこの先生とこんな話をしながら、ニコチンとアルコオルとをちやんぽんに使つた。さうしたら、しくしく胃が痛くなり始めた。
 所が、その痛みは士官次室を失敬した後でも、まだ執拗く水おちの下に盤桓してゐる。そこで僕はTに仁丹を貰つて、それを噛みながらケビンのベツドの上へ這ひ上つた。さうして寢た。僕が檣マストの上へ帽子をかぶつてゐる軍艦の夢を見たのは、その晩だつたやうに記憶する。
 明くる朝、飯も食はずに上甲板へ出て見たら、海の色がまるで變つてゐるのに驚いた。昨日までは濃い藍色をしてゐたのが、今朝はどこを見ても美しい緑青色になつてゐる。そこへ一面に淡い靄が下りて、其靄の中から、圓い山の形が茶碗を伏せたやうに浮き上つてゐる。僕は丁度來合せた機關長に聞いて、艦が既に豐後水道を瀬戸内海へはいつた事を知つた。して見ると遲くも午後の二時か三時には山口縣下の由宇の碇泊地へ入るのに相違ない。
 僕は妙に氣が輕くなつた。僅か何日かの海上生活が、僕に退屈だつたと云ふのではない。が、陸に近いと云ふ事は何となく愉快である。僕は砲塔の近所で、機關長と法華經の話をした。
 やがて、何氣なく眼を上げると、眼の前にある十四吋砲の砲身に、黄いろい褄黒蝶が一つとまつてゐる。僕は文字通りはつと思つた。驚いたやうな、嬉しいやうな妙な心もちではつと思つた。が、それが人に通じる筈はない。機關長は相變らずしきりにむづかしい經義の話をした。僕は――唯だ、蝶を見てゐたと云つたのでは、云ひ足りない。陸を、畠を、人間を、町を、さうして又それらの上にある初夏を蝶と共に懷しく、思ひやつてゐたのである。。
 



「by europe123 」
https://youtu.be/K2baVzlE3to 
 
 

お粗末な国の行く末についてと文豪作品から掲載する。

お粗末な国の行く末についてと文豪作品から掲載する。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-08-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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