旧作品の再々放送と文豪作品から、ペロー Perrault作「灰だらけ姫」またの名「ガラスの上ぐつ」を
promesa de la floristerí 邦題 花屋の約束
地下街に以前から物色していたテナント物件を運良く見つける事が出来た。
開店してからまだ一年程だが、駅からそう遠くないせいで人の流れは先ず先ず良い方だ。
今日は雨。
其れで地下街を通る人々は多く窺えるが、今のところ店に立ち寄る人の姿は見られない。
客足が悪いのは通勤の時間帯のせいだろう。其れに花の包みで手が塞がれては邪魔になる。
暇で何もやる事が無いからと、店の奥の小さな椅子に腰を掛けバッグから取り出した本に目を遣り頁を捲る。
ちょっとした短編推理小説で、サラリーマンの悲喜こもごもをモデルにした作品。
男女の駆け引きを絡ませたもので、或る女性が主人公なのだが、社内でも評判の美人と。
多田郁恵は、社では並み居る男性社員の憧れの的となっているが、女優をやめた後に入社。
では、彼女のお眼鏡に叶う男性は?となりそうだが、現在は此れといった相手等いない。
郁恵が秘書室のデスクで専務の秘書をやっているせいなのか、他の部署の社員と話す機会は殆ど無い。
だからでは無いのだが、昼食も社員食堂で済ませず、表のカフェなどを利用する事が多い。
秘書の日課は、朝、出勤してからの掃除に専務から依頼された書類の処理など。
其れに専務から買い物を頼まれ外出する事もある。気分転換には丁度良く専務も承知の上。
外出は貴重な時間を過ごす事になり、当然乍ら、一番楽しく感じる。
そうで無ければ一日中社内での業務。専務が在席している時には二人。
専務不在の折は秘書室長の元、一人で黙々と仕事をこなす事になる。
通路やトイレでは他の社員と顔を会わせる事もあるが、親しくしている者等はいない。
其れで、共通の話題等は無いのだから話に花が咲くなどという事も無い。
其の偶の時間に会う男性社員から声を掛けられる事等は無い。
当然、自分に対する他人の評価などを聞く事は無いし、聞いたところでどうとも感じない。
定時で社を退出し、駅に向かい歩いている時にふと思う。
毎日同じ通勤経路ばかりでは詰まらないからと、大通りにある本屋に寄ってみる事にした。
特に此れといい読んでみたいと思うものがあったのではない。
一人で何もする事が無いのも詰まらないからと、ジャンル別に並べられている両側の棚を見ながら店内の通路を歩き、彼是と物色を。
ファッション雑誌や旅行雑誌などの前を通り過ぎ、文庫本のコーナーで足が止まる。
目についたものを手に取り表紙裏の粗筋を読んでは元に戻し、又次の本を手に取る。
推理ものだが、まあこれなら飽きずに読めるかなど思いレジに並んだ。
店を出、早速読んでみたくなったのだが、ラッシュの車内で読む姿を想像するが・・。
其れで辺りのカフェで適当に時間をずらし帰る事にした。
カフェは仕事がひけた帰りの人達で混んでいたが、窓際のテーブルが空いている。
周りのtableには二人連れの姿が多く見られ、男女や女性同士で話をしている。
珈琲を頼んでからソファに凭れ、本を読み始める。
最近の作家のものは推理ものが多く、最初から何かが起きるまでのストーリーが展開する。 中には次々に登場人物を変えるものもあるが、この作品は登場人物が少ないから頭に入りやすい。
主人公の女性は自分と同じような会社勤めで、しかも役員の秘書。
何かと自分の姿とだぶらせながら読み始めている。
女性秘書は容姿に優れているようで、社員達の憧れの存在の様だ。
不意に社の通路でよく会う男性から声を掛けられた。確か一回だけ飲みに行った事が。
其の男性は二枚目の様なのか、結構モテるのか、其の時の社の女性と交際との話題を記憶している。
郁恵は其の男性には全く興味は無かったのだが、社内で或る女性とすれ違った時の事。
どういう訳なのか、其の女性の自分を見る目が険しくなっているような気がした。
更に、女性から昼休みに少し時間を割(さ)いてくれないかと言われ、社から少し離れたところにあるカフェに同行した。
女性がいきなり切り出したのは、
「・・彼と別れてくれないでしょうか?」
との事。
真剣な顔つきにただならぬものを感じた。すると続く話が。
「・・妊娠をしている・・」
其処まで聞いた時、郁恵は、女性は何か勘違いをしていると思った。
其れで、
「あの・・私は其の男性の事には全く関心がある訳でも何でも無いですから・・でも、そういう事情が有るのでしたら私は其の男性と会わないようにします・・」
と約束をした。
其れからは、詰まらない濡れ衣を着せられたのだからと、その後社内で彼から誘いがあった時、
「・・忙しいので・・残念ですが・・」
と断る事にした。
急に郁恵の態度が変わったと感じたのか、男性は根掘り葉掘りい自分にその理由を聞き出そうとするのだが・・郁恵にとっては降って湧いたような出来事であり、何も言わず彼女との約束を守ったのは当然だ。
ところが、男性は、
「・・どうしても話があるから会ってくれないだろうか?」
と一層しつこくなってきた。
其処で、郁恵はやむを得ず一度くらいなら仕方が無いかと・・。
同行先の居酒屋の個室で、彼の話題は彼女の事。
だが、親しくも無い男性から一方的にプライベートの大事な事まで聞いたところで・・あの女性の顔が浮かぶだけ。
其れに、女性との関係を恥じらいも見せず他人に話す神経を疑うと同時に、其の冷酷さには驚ろかされた。
「・・実は彼女妊娠しているんだ。其れで、結婚話まで出ているんだが・・僕は君の事が忘れられないし、誰よりも愛していると思っている・・其れで、彼女には申し訳無いが・・君ともう一度・・?」
彼の話によれば、社内での郁恵の美貌は評判との事だが、
「・・自分も案外モテる方だからもし良かったら・・二人はお似合いだと言われるのじゃないだろうか?其れは言い過ぎかもしれないが、兎に角・・考え直して貰えないだろうか?」
何か随分乱暴な話だと思うし、自分のおかれている存在を勝手な作り事で決め付けている。
当然ながら・・そこ迄乱暴なのならもう一度はっきりするしかないと、
「・・申し訳ありませんが・・随分勘違いをされている様ですが・・?」
そう言ったきり、男性の顔も見ずに店を後にした。
その後、その女性と社の近くのカフェで会ったのだが、彼女は郁恵に。
「有難う御座います。お陰様で彼は私を大事にしてくれるて言っています。此れは、私からの気持ちばかりの・・お礼のつもりの物として・・」
そう言った彼女の掌(てのひら)には少し変わったブローチの様なものが握られている。
彼女は郁恵の掌に握らせるようにしながら、真剣な表情で郁恵の瞳を覗く。
ブローチは裏側に蓋のようなものがついていて、細かいものなら小物入れとしても使えそうだが・・蓋は容易に開かない仕組みのようでもある。
彼女は、其れは彼から貰った物で、其処に大事な物を入れていたと言った。
其れでは・・と、譲り受けたのだが・・やはり、彼女が可哀想だと思う・・。
其れから、暫くした頃の事。
彼女の姿が何時の間にか見られなくなった。 そして、役員から話し掛けられた事が・・。
「ああ、君は知らないだろうが・・社内でちょっと拙い事があってね。ある女性が亡くなったらしいんだが・・其れが・・電車に飛び込んだとか・・物騒な事で・・会社としても問題になっているんだが・・困ったものだな、最近の若い者は・・何を考えているのか・・?」
郁恵は其の話を聞いた時に、すぐに其れが誰の事なのか、そして、事の次第が分かるような気がした。
其れから暫くし、郁恵が家への帰り道の途中にあるホテル街の近くを歩いている時。
ホテル街から出てきた男女のカップルを見た時にすぐに気が付いた。
女性は社内でよく見掛ける女性であり、男性は・・あの・。
更に暫くした頃の事。
郁恵が休暇で家にいる時にチャイムが鳴った。マイクにどちらさんですかと話し掛けたのだが、
「済みません・・南署の者ですが・・お尋ねしたい事がありまして・・」
手帳を見せた刑事の話は・・例の彼女が電車に飛び込んだという事故の事。
「偶々その現場近くを通りかかった高齢者の男性が言うには、女性と一緒に並んで立っていた男性がいたようだ・・」
と言うんです。
目撃者の男性は、酒を飲んでの帰りだとの事で大分酔っていた様だが、
『詳しい事は分からないが、踏切の赤ランプの点滅と共にシグナルが鳴っていた。電車が近付いてきた事は分かったが、電車の通過音の直前に女性の悲鳴が聞こえたような気がしたが・・その場を見た訳でもないですから詳しい状況は分からないですが・・』
と、更に。
「電車の乗客からは車内の灯りでその場の様子が見えたかもしれないのですが・・なにせ、暗がりだし電車はスピードが出ていたから、急ブレーキを踏んだ瞬間に乗客は重なるように倒れたらしいんで、外の様子まで見ている余裕は無かったのかも」
という事だけで、其の乗客を探しだすのはまず難しいとの事。
「・・其れで、貴女が同じ会社で、社内で彼女とお二人で話をしているところを見かけたという方がいましたので、何か心当たりがあるのでは・・?と。関係無いとは思いますが、一応仕事なので・・」
刑事が返って行く後ろ姿を見てから暫くした頃、スマフォが振動し。
あの男性からだった。
「ああ、悪いけれど、刑事が来て、交際相手として僕の名が挙がっているから、何か心当たりが無いかと・・。
其れと、事故当時何処にいたのか参考に聞かせてくれってね。いや、僕は全く関係無いから一人で家にいたと言ったんだが。
面倒だから・・若し、刑事でも来たら、悪いけれど・・当日、僕と一緒に何処かの公園にいたという事にしておいて貰えないかな?
本当に、僕は彼女の話を聞いて、寧ろ、驚いたくらいなんだ。全く、警察もしつこいから、彼女とは別れた後だったからね。頼むよ・・?」
郁恵は、一つ返事で・・も胸の中では全く別の考えが・・。
「分かった。誰かに聞かれたらそう言っとくわ、心配しないで・・じゃ、お休みなさい。
ああ、そう言えば、彼女が亡くなった日の翌日の・・時頃、貴方によく似た男性が女性とホテルから出て来るのを見たんだけれど、まさか、貴方という事は無いでしょう?」
郁恵は美しい頬を歪めるように・・笑みを浮かべ、呟く。
「あの女性、会社の女性だった・・其れに・・男の方は、間違い無いでしょうに・・あの女性が亡くなった翌日とは・・?」
其れから、彼女は社を辞め、花屋を開いた。
開店するのに十分過ぎる程の貯蓄があった。
郁恵が読み始めていた推理物の主役の名は、偶然・・?多田郁恵・・。
其れも頷ける。
郁恵の職業は現在、花屋の主人だけではない。
作家として活動を初め、本になったものも幾つかある。
実話を元にしたものも・・そう・・今、手にしているのはそのうちの一つ。
タイトルは・・「約束」。
暇な店に、客が訪れた。
「・・いらっしゃいませ・・あら・・お久し振りね?お元気そうで何より・・」
あの、男性。
社に勤めている時に、しつこく掛けて来た電話番号をスマフォの連絡先に保存しておいた。
先日、その番号に電話をし、会えないかしら?と話しを。
予定通りの時間に彼。
相変わらず無粋な二枚目気取りの笑みを浮かべながら来店。
「・・やはり、僕の事が忘れられなかったのかな・・?社でも二枚目で通っているから、忙しくて・・?でも・・他ならぬ美しい君からの誘いであれば、僕としても望むところ。其れで、再び・・付き合いを始めようと言う事かな・・?」
郁恵は男性の微笑んだ目に応える様に。
「ええ、そう・・そんなところよ・・やはり、思った通りのクールな二枚目は相変わらずなのね・・?」
あの彼女との約束は未だ果たしていない。
男性に珈琲を淹れてあげながら・・話し出す。
「貴方にピッタリのプレゼントがあるの?貴方、綺麗なものが好きだって言ってたわね?」
男性は頷くと。
「・・君のような美しい女性なら・・」
郁恵は店の奥から手にしてきた可憐な黄色い花を・・。
「此れ、綺麗でしょ?花だって生き物なんだから。でも、少し変わった花なの、人によって役に立ったり・・或いはそうで無かったり・・。
貴方はどうかな?良かったら・・持って帰ってくれる?」
男性は笑みを浮かべ。
「そりゃ、君からのプレゼントなら、是非とも戴くよ。嬉しいね。ところで、此れからの予定はどうしようか?うん?ああそう?今日は忙しいから無理か。じゃあ、近いうちにまた電話して・・忘れられない番号に・・?」
美女優であった郁恵は其れを見・・久し振りに演技・・。
「言っとくけれど・・其の美しい花、見た目美しいだけでなく、食用だから・・美味しいわよ・・きっと。今晩でも・・良い匂いを嗅ぎながら・・私だと思って・・ああ、其れから、此れ、見た覚えがあるでしょう?」
ブローチを取り出すと男性に見せる。
男性は顔を横に振ると。
「いいや。一向に見た事は無いね。どうせ、何処かの安物でしょう?」
其れから・・数日後の新聞に小さな記事が載っている・・。
「・・住まいの男性が・・食中毒らしき症状が昂じて・・孤独死か・・?」
郁恵は、あの女性の事故から暫くした頃。なかなか開かなかったブローチの裏ブタをやっと外す事が出来た。
中に入っていた物。
たたんで入れてあった、綺麗な小さな真四角の折り紙に書いてあった事。
「貴方から貰った此の綺麗なブローチ、大事にするわ。産まれて来る子供の為にも、記念にしなくちゃね・・」
「そんな大事な物を、どうして私にくれたのかしら?何が言いたかったの・・?でも・・貴女の敵(かたき)は取ったから・・。私は二枚目の女たらしは好きでは無いのよ?貴女の運は良くなかったけれど・・此れで何もかも無くなった。けれど、此のブローチは一生捨てはしないわ。私は・・二枚目の男とは違うからね・・」
郁恵の執筆は此れからもまだまだ続くだろうが・・其の作品は、亡くなった彼女を偲んだような、男女の真実を書いたものばかり。
因みに花の名は「++++」なのだが・・。 あまりに危険なので・・言わず・・としておく・・。
(登場する花は実際に毒があり致死量まで服用すれば死に至る。身近にある花だが其の事はあまり知られていない。事故に繋がると拙いので、敢えて名称等は省略。トリカブトでは無く、もっと身近にある花。葉の部分と花粉にも毒がある。綺麗な花には毒がある・・と覚えておいた方が宜しいかな?実は、同じ様な花の内、此れは14番目のランク。戦時中に食料が無く、何でも食べなければいけなかった。其のうち、よく知られているものの一つに「彼岸花」がある。球根の部分の毒を取り除き、貴重な蛋白質げんとして食べた。)
Garante Actriz 邦題 保証人の女優
社での昼休み休憩はたいてい一人という事が多い。
近くのカフェで食事をしたり外出先のレストランでなどであるから。
今日は午後から外出するからと珍しく部員と一緒に食事をとる。
カフェでオーダーするものは大方何時も同じで神谷功の好物のよう。
食事中に部員からあまり興味がない事を聞かれた。
「宇宙に他の生命体がいるのだろうか?」
という話なのだが、若者はこういう事に興味を持つのだろう。
たいていは確率的にこの広大な宇宙空間に生命体が存在しない方がおかしいというとことで終わるのだが異なる意見のものも当然いるだろう。
当然ながら宇宙空間を移動した訳でも無ければ・・大体五感で感じる事しか出来そうもないのだから仕方がないという意見も少なくはない。
彼等が学んだ青い惑星の科学では、太陽系の幾つかの惑星に関する見解はあるのだが、実際に辿り着いた惑星は数えるほどなのだから後は仮説になる。
今から30年程前の理論物理の量子力学では三次元から四次元の玉を見るとした場合、玉の右側と左側では時間の速度が違うから団子の串刺し状態に見えると大学では教えられている。
また、相対性理論のEinsteinが行き詰まった事とし、こんな事も言われていたようだ。
【「特異点」は、人工知能や人文科学などの研究分野の中にも出てくる言葉で、物理学者が宇宙を論じる際に出てくる場合は、「宇宙を理解するのに使う数式が誤作動する場所」を指す。例えば、「1/X」を含む方程式でXの値がゼロになると、方程式の値が無限大になってしまい、理論が成り立たなくなる。通常の場合、理論が成り立たなくなるのは方程式に何かが不足している時や、そんなことが起きるのは物理的にあり得ないケースだが、物理学にはそれで片付けることができない特異点がいくつかある。そのうち最も有名なのが、重力場が無限大になる「重力の特異点」。
重力の特異点は、「これまでで最もうまく重力について説明している理論」と言われているアインシュタインの一般相対性理論に登場するもの。
一般相対性理論を元にブラックホールを発見した物理学者のカール・シュワルツシルトは、まず一般相対性理論を普通の星のような球状の質量を持つシンプルな天体に当てはめてみた。すると、天体の中心からシュワルツシルト半径の距離だけ離れた位置に特異点、つまり一般相対性理論が成り立たなくなる場所があるという計算結果が出た。
この特異点は、一般相対性理論を破綻させかねないものとして長い間議論の種となっていたが、研究が進むにつれ「シュワルツシルト半径より星の半径の方が大きければ問題ない」ことが分かる。例えば、太陽のシュワルツシルト半径は3kmなのに対して太陽の半径は約70万kmもあるので、太陽は一般相対性理論で十分に説明可能です。この特異点は、場所によっては特異点にならないことから「座標特異点」という。
しかし、星の半径がシュワルツシルト半径を下回った場合の問題は解決されません。しかも、現実にある天体がシュワルツシルト半径より小さくなるほど強く圧縮されるとブラックホールになり、その中心では強力な重力で物体が無限に小さな点に押しつぶされてしまう。この点が「真の特異点」であり、また重力が無限大になることから「重力の特異点」と呼ばれることもある。
宇宙検閲官仮説と「裸の特異点」
特異点の問題が解決できないのでやはり一般相対性理論は破綻しているかというと、実はそうではない。なぜなら、光さえ脱出できないブラックホールの内側からは何も出てこられず、ブラックホールの内側を観測することもできないので、ある意味では「ブラックホールの中心にどんな特異点があろうと無かろうとどんな状況であろうが、現実の事象とは何ら関係はない」とも言えそうだ。】
功は審査案件で契約先を回った際、最後の家で保全に若干問題がある事に気が付いている。
つい先頃起きたバブルの崩壊による不動産価値の減少で、根抵当権(継続的なリース契約などの場合の担保権)を設定してある不動産では担保能力が不足と。
契約後なので出来れば保全を強化したいところだ。ところが世間では予測していなかった事が起きたのだから仕方ないと考える人もいる。
地震の場合の保険などはあっても、好景気が続いていた時期にいきなり起こったバブルの崩壊は想定外で、簡単に保全を取るという事は出来ない。
契約者には責任が無いと言えるが、大抵の場合よっぽど不動産を幾つも持っているなどで無ければ物的担保とし容易に保全出来るものではない。
では、人的担保はとなると家族や親族にそういうものを補填できる者がいるのか、且つその者に相応の収入や資産があるのかが問題にされる。
要は保証人になれる人間がいるのか?なのだが、契約者は頭を抱えた末に、芸能人の親族がいると言い出したのだが。
契約者からは其の保証人からは最近親族になったようであるからあまり頼みたくはないというような表情が窺える。
最近とは・・つい最近の事で、親族が養女にした女性で親族自身は亡くなったようだ。
取り敢えず住所を聞いておく。
養女なら法的には立派な子であり相続権もある者と言える。詳しい事情は分からないが。
功はTVや映画は見ない方で業界など詳しくは知らない。其れでも妻が女優だから尋ねればある程度分かるかも知れず。
契約者の話では最近業界入りした女性で名を煌美沙というが、其れは芸名の様で香川が正しい姓のようだ。
此れが契約者に延滞や大きなネガ情報でもあれば急がなくてはならないが今のところ問題はない。
其れでもその準備くらいはしておかないとと思う。個人情報とは、銀行系・信販系・消費者金融系の三つからの情報が取得でき、例えば、消費者金融会社の何処店又はATMで何時何分何秒に幾ら借りようとし、残額が幾らで延滞があるかどうか等も即座に分かる。
社内でも個人情報取り扱い主任などの資格を持っていないと情報を社内のパソコンで見る事が出来ない。
功は契約者には又来ますからと言いおき契約者宅を出る。
帰りに最寄り駅の途中にある公園のベンチに座りながら社にTEL。
担当者にその旨を話す。担当者から折り返しのスマフォが振動する。
「そういう名の人の情報は全国で二十五件該当しました。ところが住所が違うので・・」
その人間の情報が取れない事になる。
考えられるのは、美沙は一切の取引を何処ともしていない。
つまり、現金取引しかしていないとか、クレジットカードを持っていないという事なのか。
今の時代にはクレジットカードを全く持ち合わせないなどは珍しいケース。
只、其れだけでは与信とし判断はできない。
新しい保証人に資産があるかどうかを聞かなくてはならないし、クレジットカードの件なども同様。
至急では無いから、契約者を通してでなく、功が直(じか)に調べる事にする。
先ずは、女優である妻の裕子にメールをし、その人物に関しての知っている限りの情報を教えて貰う。
陽が西に傾きオレンジ色の光が照らしていたビルの壁伝いにゆっくりと下がっていく頃返信が来た。
「其の女優は新人で、つい最近業界でも名が知れだしたようよ?恐ろしく美しい女性で年齢は三十代。マネージャーと所属事務所は分かるわ。私と個人的な交際は無いので詳しい事は分からないけれど、おそらくマネージャーと一緒に此れから帰宅するかも知れないわね?」
社には直帰と告げ取り敢えず住所からあたってみる事にした。
至急では無いのだから其処まで急がなくともと思うのだが、気になるというのが何か分からないものに引き寄せられるような・・。
其処からそれ程遠くは無い成城学園前が最寄りの駅であり帰り道のようだ。
成城学園といえば高級住宅街であるから養子縁組した父は金持ちなのかも知れない。
マネージャーはおそらく車で送るだろうから、このままなら電車の方が先に着くだろう。
其れで簡単に寄って行こうと考えていた。成城学園前駅は帰宅の人達で賑わっている。
駅の南寄りに住所地がある筈。スマフォの地図を頼りに歩く事十五分掛かるかどうかの邸宅が其処だ。
門には香川の表札。まあ大きな邸宅だが家族は他にもいないのかと思う。
ご時世で個人情報に厳しくなっているから近所に聞く訳にもいかず、何か方法は?と思ったがやはり無理か。
その一帯がお屋敷町のようでマンションと違い調べ様がないが、敷地の大きさを見ておく事にする。
駅前に不動産屋があったようだから帰りに寄れば良い。後は社にある公示価や路線価などで確認するつもりだ。
塀に沿い大きさを目分量程度に計る。
「何か御用事でも?」
驚いた。
近所の人のようだが、まあ家の周りをぶらぶらしている者がいれば何かと思うのは当然、増してやお屋敷では。
何気なく、
「妻と同じ職場なので・・」
と、話をしてみた。
「何方(どちら)さんの事?お嬢さん?貴方、奥さんと同じ職場って何方からいらしたの?何の用件?何処の方?」
立て続けに聞かれる。
全て事実を答えたが、契約者に許可を得ずに来たので会社名は言わず、同じ職場の人間という事でとおした。
「へえ、芸能界ねえ。何ていうお方ですか?ああ、存じてますよ有名じゃないですか、ねえ?其れで、貴方はマネージャー?」
「ええ、まあそんなところで。丁度、家が此処から近いものですから帰りに通っただけです」
これ以上他人に何やかやと聞く訳にはいかない。其処に車のライトが此方に近づいてくる。
其れでは失礼。と言っておき場所を変える事にした。 先程の人がいなくなってから少し遠くの電柱の陰に立っていると。
車が止まりお礼の挨拶の後女性が降りてくる。妻から聞いた通りの美人のように見えたが・・その日は気が付かれる前に駅まで歩く事にした。
ふと振り返ると、女性が此方を見ている。何か挙同不審者とでも思われたのか?
実のところは分かろう筈も無いのに、など思いながらももう一回振り返る。
瞳が光っているように見えたのは街燈の灯り反射のせいなのだろう。
駅前の不動産屋で辺りの実勢価格を聞くが何というお宅?と聞かれたので適当に近くの番地を話す。
敷地の形状と特徴さえ分かれば、例えば東側六メートル道路に面し百坪ほどの長方形、両側民家に接しなど。
大体の実勢価も分かった事だしと帰途の車内の人になる。乗っている急行の次に止まる駅が住まいだ。
丁度家に着く頃車のライトが近付いてきマンションの前で止まった。妻はマネージャーと一緒なのだろう。
「お帰り・・」
ほぼ同時に二人でentranceに入りポストの中の郵便物などをバッグに詰め込んでからElevatorに。
「今日の女性・・何か?」
家に入るや妻は居間のテーブルの上にスーパーで買ってきた食べ物を袋から出し並べている。
「いや、契約先の保証人になるかも知れないんで、まあ、心配する様な状況ではないけれど、此のバブルの崩壊で経済界も大きく変わった事だから、〆ていかないと」
共稼ぎの夫婦が仕事の日には簡単に調理を済ませ、間も無く食卓を賑わす様に皿が並ぶ。
食事をしながら聞いてみる。
「確かに美人だったようだ。最近って言ったよね?どんな女性なの?」
「見て来たんだ?何か新人にしては以前から役者をやっていた様な、演技は上手いし人気にしてもstudio内外でかなりのようよ。まるきし素人の女性ではないのかも知れないね?」
妻が言うのなら間違いは無いだろう。
「staffなど業界で?外とはファンの事?内は局でもという事か?」
何か妻の評価に従えば満点娘のようだが。
妻が食事中にスマフォの画像を見せてくれた。いきなり人気がある連続ドラマの主役に決まり上手くこなしているようだ。
「役者ってそんなにあっという間にトップに躍り出るものなの?昔は、役者も苦労してという者もいたようだけれどって、其れは君の方がよく知っているよね?」
妻の話の中に、
「何か何時もスマフォを持っていると思っていたら何か違うようなの?」
画面に数字から幾何模様など綺麗なものまでがいろいろな色に輝いたりしているという事。
新型なのかも知れない?と妻は言うが、功はそのスマフォもどきに何か引っ掛かるようなものを感じる。
其の晩は結局そんな話で終わり今度見に来ればという事で締めくくられる。
翌日の社内。功が昨日信用情報を聞いた時に話した名前の事で結構盛り上がっているようだ。
今の若いものには情報が伝わるのが早いようで人気者を見逃さないようだ。
昨日の信用情報の担当者が。
「神谷さん。あの名前の人ですけれど、マジで現金取引だけなのかも知れないですね?クレジットにしてもひょっとしたら誰かの他人名義のカードの家族会員とか?其れにしても、情報には載る筈なんだけれど不思議ですね?まあ、問題は全く無さそうというしか無いですけれど」
担当者がそう言うのだからそれ程外れてはいないだろうが、何処まで満点娘なのだろうと思う。
社内では毎日と言っても良い程で、彼女の名前が出ない日は無かった。
というのも、彼女は次々に主演を務めTVだけでなく映画にまで出演する様になった。
オールマイティーであるかのように、歌を歌えば楽器も弾き踊りも上手のようだ。
所属事務所やバックダンサーの中からも感嘆と憧れの声が上がっているという。
何れ先日の契約の担当者に任せるのだが、その担当者多田光枝と共に契約先、ついでに妻に言われた通り実物を拝みに行く事にした。
契約先に付いては功の方から光枝にデータはすべて開示してあったので、彼女から契約者に話を詰めて貰う事にした。
要は・・。
「この度の件ですけれど、若し、保証人が其方の仰る方でしたら当方とし全く異存はありません」
其れで契約者はその線で話を進めるという。此れでこの契約は盤石のものとなるだろう。
保証人の資産価値・余剰・其れに役者としての収入は相当のモノだと思われる。
保証人宅を出てから妻に連絡をし、部下と二人で見学に行くから宜しくと話す。
ゆりかもめでフジTV局studioに。
妻が前以て二人の見学を局に告げてくれてあったからすんなりと見学ができた。
光枝は目の前で彼女を見るのは初めてだと感激をしているようだ。
studioで収録が始まる前に打ち合わせをしている。
妻が言っていたのだが、キュー(動きや台詞の合図)も彼女の場合は全く必要が無いというのかまるで先に気が付いている様で恰も何度も読みつくした台本のようだ。
此れでは脚本家に監督やstaffも感心をする訳だ。パみる(立ち位置を通常はマーク)するのが普通なのだが、そんな事は必要無いとでも言いたげの様子だ。
ランスルー(本番と同じセットや機材、進行で行うリハーサル)も必要無い程、とは言っても主役だけ理解していても収録は出来ないのだが彼女はぶっつけ(ぶっつけ本番)同然の待遇であった様。
流石の妻も笑みを通り越し呆れ顔の様だった。
本番中の演技は言うまでも無く最高。
そうなると周囲の役者も其れに合わせ易くすんなりと収録が行われる事が多い。
休憩中に、監督が笑顔で彼女に。
「君、まるで宇宙人だね?Einsteinも驚くんじゃない?」
上機嫌のstaffや脚本家もそれにつられる様に。
「何かMagicでも見ているかのようだな。とんでもない天才が現れたものだ。美空(ひばり)の再来、いやそれ以上。何かやってよ美沙君?」
其の言葉が終わるか終わらないうちに美沙の独演場となる。
何と、カメラマンが振り回されている。つまり、カメラが移動するより早く、美沙がまるでカメラを磁石で自らに引き寄せているが如く。
演技が気持ちよく演じられているという事になる。
功が光枝と妻に囁く。
「あの子、やはり、此の惑星の・・でなく・・そんな気が・・」
美沙がLastsceneを終えようとしている。
一瞬ライトで良く見えなかったが、動きに目が追い付いていけなく無い?まるで光の速度で移動している様に立ち位置を変えれば周囲も其れに合わせる。
当然ながらカメラは目一杯張り切り彼等の動きを収録している事になる。
けつかっちん(丁度・・ピッタリに終了する)でstudioは笑顔に包まれていた。
其の日の晩は、衛星がギリギリまで青い惑星に接近したかのように異常に大きく見え、夜空に花火の打ち上げが行われた様に星々も様々に色を変え煌めいている。
まるで自分達の王女の活躍を称賛している様なおかしな情景だ。
美沙のスマフォのようなMachineの画面には、相も変らず訳の分からない文字や絵模様が流れているようだ・・。
文豪の作品から。
灰だらけ姫
またの名「ガラスの上ぐつ」
ペロー Perrault
楠山正雄訳
一
むかしむかし、あるところに、なに不自由なく、くらしている紳士しんしがありました。ところが、その二どめにもらったおくさんというのは、それはそれは、ふたりとない、こうまんでわがままな、いばりやでした。まえのご主人とのなかに、ふたりもこどもがあって、つれ子をしておよめに来たのですが、そのむすめたちというのが、やはり、なにから、なにまでおかあさんにそっくりな、いけないわがままむすめでした。
さて、この紳士しんしには、まえのおくさんから生まれた、もうひとりの若いむすめがありましたが、それは気だてなら、心がけなら、とてもいいひとだった亡なくなった母親そっくりで、このうえないすなおな、やさしい子でした。
結婚けっこんの儀式ぎしきがすむとまもなく、こんどのおかあさんは、さっそくいじわるの本性ほんしょうをさらけ出しました。このおかあさんにとっては、腹ちがいのむすめが、心がけがよくて、そのため、よけいじぶんの生んだこどもたちのあらの見えるのが、なによりもがまんできないことでした。そこで、ままむすめを台所だいどころにさげて、女中のするしごとに追いつかいました。お皿を洗ったり、おぜんごしらえをしたり、おくさまのおへやのそうじから、おじょうさまたちのお居間のそうじまで、させられました。そうして、じぶんは、うちのてっぺんの、屋根うらの、くもの巣だらけなすみで、わらのねどこに、犬のようにまるくなって眠らなければなりませんでした。そのくせ、ふたりのきょうだいたちは、うつくしいモザイクでゆかをしきつめた、あたたかい、きれいなおへやの中で、りっぱなかざりのついたねだいに眠って、そこには、頭から足のつまさきまでうつる、大きなすがたみもありました。
かわいそうなむすめは、なにもかもじっとこらえていました。父親は、すっかり母親にまるめられていて、いっしょになって、こごとをいうばかりでしたから、むすめはなにも話しませんでした。それで、いいつかったしごとをすませると、いつも、かまどの前にかがんで、消炭けしずみや灰の中にうずくまっていましたから、ままむすめの姉と妹は、からかい半分、サンドリヨン(シンデレラ)というあだ名をつけました。これは灰のかたまりとか、消炭とかいうことで、つまり、それは、「灰だらけ娘」とでもいうことになりましょう。
それにしても、サンドリヨンは、どんなに、きたない身なりはしていても、美しく着かざったふたりのきょうだいたちにくらべては、百そうばいもきれいでしたし、まして心のうつくしさは、くらべものになりませんでした。
二
さてあるとき、その国の王様の王子が、さかんなぶとう会をもよおして、おおぜい身分のいい人たちを、ダンスにおまねきになったことがありました。サンドリヨンのふたりのきょうだいも、はばのきくおとうさんのむすめたちでしたから、やはり、ぶとう会におまねきをうけていました。
ふたりは、おまねきをうけてから、それはおかしいように、のぼせあがって、上着うわぎよ、がいとうよ、ずきんよと、まい日えりこのみに、うき身をやつしておりました。おかげで、サンドリヨンには、新しいやっかいしごとがひとつふえました。なぜというに、きょうだいたちの着物に火のしをかけたり、袖口そでぐちにかざりぬいしたりするのは、みんなサンドリヨンのしごとだったからです。ふたりは朝から晩まで、おめかしの話ばかりしていました。
「わたしは、イギリスかざりのついた、赤いビロードの着物にしようとおもうのよ。」と、姉はいいました。
「じゃあ、わたしは、いつものスカートにしておくわ。けれど、そのかわり、金の花もようのマントを着るわ。そうして、ダイヤモンドの帯おびをするわ。あれは世間せけんにめったにない品物なんだもの。」
ふたりは、そのじぶん、上手じょうずでひょうばんの美容師びようしをよんで、頭のかざりから足のくつ先まで、一分ぶのすきもなしに、すっかり、流行りゅうこうのしたくをととのえさせました。
サンドリヨンも、やはりそういうことのそうだんに、いちいち使われていました。なにしろ、このむすめは、もののよしあしのよく分かる子でしたから、ふたりのために、いっしょうけんめい、くふうしてやって、おまけに、おけしょうまで手つだってやりました。サンドリヨンに髪かみをあげてもらいながら、ふたりは、
「サンドリヨン、おまえさんも、ぶとう会に行きたいとはおもわないかい。」といいました。
「まあ、おねえさまたちは、わたしをからかっていらっしゃるのね。わたしのようなものが、どうして行かれるものですか。」
「そうだとも、灰だらけ娘のくせに、ぶとう会なんぞに出かけて行ったら、みんなさぞ笑うだろうよ。」と、ふたりはいいました。
こんなことをいわれて、これがサンドリヨンでなかったら、ふたりの髪かみをひんまげてもやりたいとおもうところでしょうが、このむすめは、それは人のいい子でしたから、あくまでたのまれたとおり、りっぱにおけしょうをしあげてやりました。ふたりのきょうだいたちは、もう、むやみとうれしくて、ふつかのあいだ、ろくろく物もたべないくらいでした。そのうえ、でぶでぶしたからだを、ほっそりしなやかに見せようとおもって、一ダースもレースをからだにまきつけました。そうして、ひまさえあれば、すがたみの前に立っていました。
やがて、待ちに待った、たのしい日になりました。ふたりは庭におりて、出かけるしたくをしていました。サンドリヨンは、そのあとから、じっと見送れるだけ見送っていました。いよいよすがたが見えなくなってしまうと、いきなりそこに泣きふしてしまいました。
そのとき、ふと、サンドリヨンの洗礼式せんれいしきに立ち合った、名づけ親の教母きょうぼが出て来て、むすめが泣きふしているのを見ると、どうしたのだといって、たずねました。
「わたし、行きたいのです。――行きたいのです。――」こういいかけて、あとは涙で声がつまって、口がきけなくなりました。
このサンドリヨンの教母というのは、やはり妖女ようじょでした。それで、
「あなたは、ぶとう会に行きたいのでしょう。そうじゃないの。」と聞きました。
「ええ。」と、サンドリヨンはさけんで、大きなため息をひとつしました。
「よしよし、いい子だからね、あなたも行かれるように、わたしがしてあげるから。」と、妖女はいいました。そうして、サンドリヨンの手を引いて、そのへやへつれて行きました。
「裏うらの畠へ行って、かぼちゃをひとつ、もぎとっておいで。」
サンドリヨンは、さっそく行って、なかでもいちばんいいかぼちゃをよって、妖女のところへ持ってかえりました。けれども、このかぼちゃで、どうして、ぶとう会へ行けるのか、さっぱり考えがつきませんでした。
かぼちゃを受けとると、妖女は、そのしんをのこらずくり抜いて、皮だけのこしました。それから妖女ようじょは、手に持ったつえで、こつ、こつ、こつと、三どたたくと、かぼちゃは、みるみる、金ぬりの、りっぱな馬車にかわりました。
妖女は、それから、台所だいどころのねずみおとしをのぞきに行きました。するとそこに、はつかねずみが六ぴき、まだぴんぴん生きていました。
妖女は、サンドリヨンにいいつけて、ねずみおとしの戸をすこしあげさせますと、ねずみたちが、うれしがって、ちょろ、ちょろ、かけ出すところを、つえでさわりますと、ねずみはすぐと、りっぱな馬にかわって、ねずみ色の馬車馬が六とう、そこにできました。けれども、まだ御者ぎょしゃがありませんでした。
「わたし行って、見て来ましょう。大ねずみが、まだ一ぴきかかっているかもしれませんから。それを御者にしてやりましょう。」
「それがいいわ。行ってごらん。」と、妖女はいいました。
サンドリヨンは行って、ねずみおとしを持って来ましたが、そのなかに、三びき、大ねずみがいました。妖女は三びきのうちで、いちばんひげのりっぱな大ねずみをより出して、つえでさわって、ふとった、元気のいい御者にかえました。それはめったに見られない、ぴんとした、りっぱな口ひげをはやしていました。それがすむと、妖女ようじょは、サンドリヨンにむかって、
「もういちど、裏うらのお庭へ行って、じょろのうしろにかくれているとかげを六ぴき、見つけていらっしゃい。」といいました。
サンドリヨンは、いいつけられたとおり、とかげをとってかえりますと、妖女はすぐ、それを六人のべっとうにかえてしまいました。それは、金や銀のぬいはくのある、ぴかぴかの制服せいふくを着て、馬車のうしろの台だいにのりました。そうして、そこに、ぺったりへばりついたなり、押しっくらしていました。そのとき、妖女は、サンドリヨンにいいました。
「ほら、これでダンスに行くお供ぞろいができたでしょう。どう、気に入って。」
「ええ、ええ、気に入りましたとも。」と、サンドリヨンは、うれしそうにさけびました。「けれどわたし、こんなきたないぼろを、着て行かなければならないでしょうか。」
妖女はそこで、ほんのわずか、つえの先で、サンドリヨンのからだにさわったとおもうと、みるみる、つぎはぎだらけの着物は、宝石ほうせきをちりばめた金と銀の着物にかわってしまいました。それがすむと、妖女はサンドリヨンに、それはそれは美しいリスの皮の上うわぐつ(ガラスの上ぐつだともいいます。)を、一そくくれました。
こうして、のこらずしたくができあがって、いよいよサンドリヨンが馬車にのろうとしたとき、妖女ようじょはあらためて、サンドリヨンにむかって、なにはおいても、夜なか十二時すぎまで、ぶとう会にいてはならないと、きびしくいいわたしました。十二時から一分でもおくれると、馬車はまたかぼちゃになるし、馬は小ねずみになるし、御者ぎょしゃは大ねずみになるし、べっとうはとかげになるし、着ている着物も、もとのとおりのぼろになるのだから、といってきかせました。
サンドリヨンは、妖女に、けっして夜なかすぎまで、ぶとう会にはいませんという、かたいやくそくをしました。そうして、もうはち切れそうなうれしさを、おさえることができないようなふうで、馬車にのりました。
三
さて、王子は、その晩、たれも知らない、どこぞのりっぱな王女が、いましがた馬車にのって、ぶとう会についたという知らせを聞いて、わざわざ迎えに出て来ました。王子は、王女が馬車からおりると、その手をとって広間の、みんなおおぜい居る中へ案内あんないして来ました。すると、広間の中はたちまち、しんと静まりかえって、みんなダンスをやめました。バイオリンの音ねもしなくなりました。それは、このめずらしいお客さまの美しさに、たれもかれも気をとられて、ぼんやりしてしまったからでした。そのなかで、ただかすかに、こそこそ、ささやく声がして、
「ほう、きれいだなあ。ほう、きれいだなあ。」とばかり、いっていました。
王様も、もうお年はとっておいででしたけれど、そのときは、おもわずサンドリヨンの顔を、じっとながめずにはいられませんでした。そうして、そっとお妃の耳もとにささやいて、
「こんなきれいな、かわいらしいむすめを見るのは、久しぶりだ。」と、いっておいでになりました。
貴婦人きふじんたちは、貴婦人たちで、みんなじろじろと、サンドリヨンの着物から、頭のかざりものをしらべてみて、まあ、まあ、あれだけのりっぱな材料ざいりょうと、それをこしらえるりっぱな職人しょくにんとさえあれば、あしたにもさっそく、この型かたで、じぶんもこしらえさせてみよう、と考えていました。
王子は、サンドリヨンを、そのなかでいちばん名誉めいよの上席じょうせきへ案内あんないして、それからまた、つれ出して、いっしょにダンスをはじめました。
サンドリヨンは、それはそれは、しとやかにおどったので、みんなは、いよいよびっくりしてしまいました。さて、けっこうなごちそうが、まもなく出ましたが、若い王子は、サンドリヨンの顔ばかりながめていて、ひとつものどにはとおりませんでした。
サンドリヨンはやがて、じぶんのきょうだいたちのいるところへ出かけて行って、そのそばに腰をかけて、王子からもらったオレンジや、レモンを分けてやったりして、それは、いろいろやさしいそぶりをみせました。けれど、ふたりは、それがたれだか分からなかったものですから、ただもうびっくりして、目ばかりくるくるさせていました。サンドリヨンは、こうしてきょうだいたちのごきげんをとっているうちに、時計が十二時十五分前を打ちました。するといきなり、サンドリヨンは、ほかのお客たちに、ていねいにあいさつをして、ふいと出て行ってしまいました。
四
さて、うちへかえると、サンドリヨンは、そこに待っていた妖女ようじょにあって、たくさんお礼をいったのち、あしたもまた、ぜひぶとう会へやってくださいといってたのみました。それは、王子の熱心ねっしんなおのぞみであったからです。
こうして、サンドリヨンが、ぶとう会であったことを、妖女にせっせと話をしていますと、やがて、ふたりのきょうだいがかえって来て、こつ、こつ、戸をたたきました。サンドリヨンは、かけて行って、戸をあけてやりました。
「まあ、ずいぶん長く行っていらしったのね。」と、サンドリヨンはさけんで、あくびをして、目をこすって、のびをしました。それは、うたたねをしていて、たった今、目がさめたというようなふうでした。けれど、じつはふたりが出て行ってから、サンドリヨンは、まるっきりねたくもねられない気持だったのです。
「おまえさん、ダンスに行ったら、それはたいくつなんぞしなかったろうよ。なにしろ、あそこへは、まあ、世の中に、こんなきれいな人があるかと思うほど、美しいお姫ひめさまが来なすったのだよ。その方が、わたしたちに、いろいろとやさしいことをおっしゃって、ごらん、こんなにレモンだの、オレンジだのをくださったのだよ。」と、きょうだいのひとりがいいました。
サンドリヨンは、そんなことには、いっこうむとんじゃくなようすでした。もっとも、きょうだいたちに、そのお姫さまの名をたずねましたが、ふたりは、それは知らないといいました。そうして、王子様がそのことで、たいそうむちゅうにおなりになって、その名を、とても知りたがって、みんなにたずねておいでだったという話をしました。そう聞くと、サンドリヨンはにっこりして、
「まあ、その方、どんなにお美しいでしょうね。ねえさまたち、いらしって、ほんとうによかったのね。わたし、その方見られないかしら。まあねえ、ジャボットねえさま、あなたのまい日着ていらっしゃる、黄いろい着物を、わたしにかしてくださらないこと。」といいました。
「まあ、あきれた。」と、ジャボットはさけびました。「わたしの着物を、おまえさんのようなきたならしい、灰のかたまりなんかに、かしてやられるもんか。ひとをばかにしているよ。」
サンドリヨンは、いずれそんな返事だろうとおもっていました。それで、そのとおりにことわられたのを、かえってありがたくおもっていました。なぜといって、きょうだいが、じょうだんをいったのを真まにうけて、着物をかしてくれたら、どんなになさけなくおもったでしょう。
五
さて、そのあくる日も、ふたりのきょうだいは、ぶとう会へ出かけて行きました。サンドリヨンもやはり、こんどは、もっとりっぱに着かざって、出かけて行きました。王子は、しじゅうサンドリヨンのそばにつきっきりで、ありったけのおせじや、やさしいことばをかけていました。それがサンドリヨンには、うるさいどころではありませんでしたから、ついうかうか、妖女ようじょにいましめられていたことも忘れていました。それですから、まだまだ時計が十一時だと思ったのに、十二も打ったのでびっくりして、ついと立ちあがって、めじかのようにはしっこくかけ出しました。王子もすぐあとを追いかけましたが、とうとう追いつきませんでした。けれど、サンドリヨンも、あわてたまぎれに、金の上うわぐつを片足落しました。それを王子は大事にしまっておきました。サンドリヨンは、うちにかえりはかえりましたが、すっかり息を切らしてしまいました。もう馬車も、べっとうもなくて、また、いつもの古着のぼろにくるまったなり、ただ片足だけはいてかえった、金の上ぐつを持っていました。
さて、サンドリヨンが出て行ったあとで、王様のお城の番小屋へ、おたずねがありました。
「お姫ひめさまが、ひとり、門を出て行くところを見なかったか。」
ところが、番兵の返事は、
「はい、見たのはただひとり、ひどくみすぼらしいなりをした若いむすめでした。それは貴婦人きふじんどころか、ただのいなかむすめとしか、おもわれないふうをしていました。」というのでした。
さて、ふたりのきょうだいが、ぶとう会からかえってくると、サンドリヨンは、こういって聞きました。
「たんとおもしろいことがありましたか。きれいなお姫さまは、きょうも来ましたか。」
ふたりがいうには、
「ああ、けれども、その人ったら、十二時を打つといっしょに、あわてて逃げだしたよ。あんまりあわてたものだから、金の上うわぐつを、片足落して行ったのさ。その上ぐつの、かわいらしいことといってはないものだから、王子は、それをしまっておきなさった。王子はぶとう会でも、しじゅうお姫ひめさまのほうばかり見ていらしった。きっと、王子は、金の上ぐつをはいているきれいなひとを、すいていらっしゃるにちがいないよ。」
六
なるほど、ふたりのいったとおりにちがいはありませんでした。それから二三日すると、王子はラッパを吹いておふれをまわして、その金の上ぐつの、しっくり足にはまるむすめをさがして、お妃にするといわせました。そうして、王子は、家来けらいたちに、その金の上ぐつを持たせて、王女たちから貴族きぞくのお姫さまたち、それから御殿じゅう、のこらずの足をためさせてみましたが、みんなだめでした。
さて、とうとうまわりまわって、金の上ぐつは、いじのわるい、ふたりのきょうだいたちのところにまわって来ましたから、ふたりとも赤くなって、むりに足をつっこもうとしましたが、どうして、どうして、それはみんな、気のどくな、むだな骨おりでした。
サンドリヨンは、そのとき、わきで見ていますと、それはなんのこと、じぶんの半分おとしてきた上うわぐつでしたから、ついわらい出してしまって、
「かしてくださらない。わたしの足にだってあうかもしれないから。」といいました。
すると、ふたりのきょうだいは、ぷっと吹き出して、サンドリヨンをからかったり、あざけったり、いじわるく追いだそうとかかりました。けれど、金の上ぐつを持ったお役人は、じっとサンドリヨンの顔を見て、これはめずらしく美しいむすめだとおもいましたから、たとえ、たれでも、ためすだけは、ためしてみなければならない、それが王子様のおいいつけだといいました。
そこで、サンドリヨンに腰をかけさせて、上ぐつを、その足にはかせますと、それはするりと、ぐあいよくはいって、まるでろうでかためたように、ぴったりくっついてしまいました。ふたりのきょうだいは、そのとき、どんなにびっくりしたでしょう。どうして、それどころか、サンドリヨンは、かくしの中から、もう片かたの上ぐつを出して見せました。ちょうどそのとき、サンドリヨンの教母きょうぼの妖女ようじょがすぐあらわれて、杖で、サンドリヨンの着物にさわりますと、こんどは、まえよりもまた、いっそう美しい、りっぱな着物にかわりました。
それで、ふたりのきょうだいには、あのぶとう会で見た美しいお姫ひめさまが、サンドリヨンであったことが分かりました。ふたりは、サンドリヨンの足もとにつっぷして、これまでひどい目にあわせた罪つみをわびました。サンドリヨンは、ふたりの手をとっておこして、やさしくだきしめました。そして、これまでふたりのしたことは、なんともおもわない。そのかわり、これからは、やさしくしてくれるようにといいました。
サンドリヨンは、りっぱな着物を着たまま、王子の前へつれて行かれました。王子は、それで、いよいよサンドリヨンがすきになって、それから四、五日して、めでたくご婚礼こんれいの式しきをあげました。
サンドリヨンは、顔が美しいように、心のやさしいむすめでしたから、ふたりのきょうだいをも、お城へ引きとってやって、ご婚礼のその日に、やはり、ふたりの貴族きぞくにめあわせることにしました。
顔とすがたの美しいことは、男にも女にも、とうといたからです。でも、やさしく、しおらしい心こそ、妖女のこの上ないおくりものだということを知らなくてはなりません。
「金を作るにも三角術を使わなくちゃいけないというのさ。義理をかく、人情をかく、恥をかく、これで三角になるそうだ。夏目漱石」
「人間は時として、満たされるか満たされないかわからない欲望のために一生を捧げてしまう。その愚を笑う人は、つまるところ、人生に対する路傍の人に過ぎない。芥川竜之介」
「大地を一歩一歩踏みつけて、手を振って、いい気分で、進まねばならぬ。急がずに、休まずに。志賀直哉」
「愚かなことを言う者があっても、最後まで聴いてやらねばならない。
でなければ、聴くに値することを言う者までもが、発言をしなくなる。徳川家康」
「内部の守りを固めずに、外部を攻めるのは愚策である。軍師諸葛亮孔明」
「必须敢于正视、这才可望敢想、敢说、敢做、敢当。物事に正面から取り組んでこそ目標に到達できるという意味の魯迅の言葉」
「by europe123 」
https://youtu.be/EhOGSIwM9hI
旧作品の再々放送と文豪作品から、ペロー Perrault作「灰だらけ姫」またの名「ガラスの上ぐつ」を