奈落
いつかは来ないよ
きみが待っているそのいつかは
言葉はくるしくて
記憶はうすらいで
視界はゆらめいて
僕は何もかも失う
手摺のない橋を命綱なしで進むことを日々と呼んでいた
それはなけなしの約束に縋る惨めな延命にすぎなくて
それを手摺に見立てても強く握れば砕けてしまいそうで
罰のように橋は果てしなくつづいている
(声が出なくなり、歩けなくなり、手さえ伸ばせなくなった僕には、あなたをただ想いつづけることでしかあなたの名前を呼ぶことができなくなってしまった)
果てのない橋を無闇に歩くという僕のこの莫迦げた行為の目標は
僕が吐きつづける世界への呪詛にあなたに寄り添う力を授けること、ただそれだけだ。
奈落