デート・ア・ライブ 2023年琴里お誕生日記念

今年も迎えたお誕生日

 今年も夏が来た。セミは木々で合唱し、人々はその下をせわしなく歩いていく。
 士道もご多分に漏れず、スーツ姿で通りを歩いている。彼は今年の春に大学を卒業し、絶賛就活中である。
「まさか、こんなに苦労するとは思ってなかったぜ……」
そう呟くと、照り付ける太陽を恨めし気に見ながら汗を拭う。
「文句言っていてもしゃあねえし、頑張ろう」
そのまま天宮市のハローワークに向かうのであった。

 家に帰る事が出来たのは夕方になってからだった。リビングでは、琴里がバラエティー番組を見ながら腹を抱えて笑っている。
士道は、その背後に抜き足差し足で忍び寄り、大きな声を出す。
「がおおおお!!」
「うひゃあああああああああああああああああ?!」
するとどうだろう、琴里はソファから転げ落ちるように逃げたあと、部屋のドアの後ろに隠れてしまう。しかし、驚かせた本人が兄である事に安堵して、ほっと胸を撫で下ろす。
「なんだおにーちゃんか……驚かせないでよ」
「あはは、ごめんな。お前は昔から怖いのは変わらないよな」
士道はそう言って琴里の頭を撫でる。
「いつだったか、琴里の誕生日に二人っきりになったことあったけど、あの時は大変だったよな」
「――――!?」
 その瞬間琴里の顔は真っ赤に染まり、ぽかぽかと士道の胸あたりをひとしきり叩いた後、物凄い勢いでリビングを出ていった。
どたどたと階段を駆け上がる音が聞こえ、やがて扉の閉まる音が響いた。
「……ちょっとやりすぎたかな」
妹に悪い事をしたな、と思いつつ、士道は自室で着替えてから夕食の準備を始めるのだった。

 深夜十二時、日付が変わった。
 士道はそれを確認すると、とある物を携え、琴里の部屋に向かった。軽くノックすると中から、やや不機嫌そうな声で「どうぞ」と応答があった。
「入るぞ」
兄妹とはいえ、親しき仲にも礼儀あり、彼はそういったところはきちんと守るタイプだ。
 さて、琴里の元まで歩み寄った士道はというと。
「さっきはごめんな」
 彼が謝罪の意を示した。
「何が……?」
 むすっと頬を膨らませながら上目遣いに士道を見上げる琴里。
「さっきの、過去の琴里の誕生日に大変な事があったよな、って話。本当にごめん」
士道が頭を下げると、彼女はおかしいというように笑いだす。
「なんだそんなことか。おにーちゃんは心配性だね」
「いや、だって、さっきは物凄い剣幕だったぞ?」
「いやいやいや。あれはただ単に恥ずかしくなっただけだから。私が怒るのなんて、おにーちゃんが対精霊のミッションでヘマやらかしたときくらいだよ?」
「う……」
ちょっとした仕返しが成功したおかげか、ばつの悪そうな顔をする士道を見てふふーんと胸を張る琴里。
 そういった仲直りを経て、二人は夜空を見上げる。夕方までは重たい雲に覆われていて今にも雨が降りそうな天候だったが、それが嘘のように晴れ渡っている。今では、月明かりが街じゅうを照らしているくらいだ。
「晴れて良かったね。何せ、今日は私の誕生日だから」
 士道が琴里の方を見る。精霊化した琴里を公園で助けたあの日より、確実に成長している彼女に愛おしさえ感じて、士道は感無量だった。
「そうだな」
そう言って彼はおもむろにポケットから箱を取り出し、それを琴里に差し出す。
「ふえ? これはなに、おにーちゃん?」
 琴里が目をまんまるに見開く。
「開けてみな」
彼女は丁寧にリボンをほどき、包み紙を外し、箱を開ける。
――中に収められていたのは真っ白なリボンと、手紙だった。
「お前はもう好きな物を買える年齢だけど、昔からこうやってあげてるし、それ以外の物が思いつかなくてさ……」
 士道は、困ったような、恥ずかしいようなといった表情で告げる。
「全く問題無いぞー! これは何か気合入れたい時に付けさせてもらうね」
 と、おもむろに琴里はつま先立ちになり――そして、士道からちょっと離れた。
「愛してるぞ、おにーちゃん……!」
 不意打ちを喰らった士道が見た琴里の表情に見とれてしまい、何も言葉を発せない士道であった。
 
 その後、士道の就職先が決まり、海外出張中の竜雄と遥子が帰ってきて盛大なお祝いパーティーが開かれた。
 そして、海外に行っている間により深まった兄妹仲を見せつけられて、竜雄が落ち込む事になるのだが、それはまた別の話である。

デート・ア・ライブ 2023年琴里お誕生日記念

デート・ア・ライブ 2023年琴里お誕生日記念

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-08-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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