お財布とバレンタイン

一月が行くと直ぐに二月のイベント、バレンタインがやってきます。正月が明けると直ぐにその商戦は始まっていて、スーパーやお菓子屋さんの店先には綺麗なチョコのチラシが置かれています。そのバレンタインというと思い出があります、今から遡ること40年ほど前の話ですけど。

それは長崎の宿での話し

 中学の修学旅行のおみやげを部活の後輩の女の子に頼まれたので、私は長崎の宿舎で夜その子のお土産を探していました。今思えばそのお土産にカステラでも買えばよかったのに、何を思ったのか女の子に似合うものはと思ってピンクの小さな「におい袋」というのを買ったわけです。「におい袋」なるもの自体、この時始めて知ったんですけどね。それを買っているとき、直ぐ隣に同級生のY子さんがいて、私がそれを買うのを見ていたようなんですね。
このY子さん、ちょっとポチャッとしているけど性格は明るく可愛くて、勉強も出来るので学年でも人気者の女の子だったのです。とてもしっかりした子で学級委員や生徒会活動もしていました。寒い日の朝、セーラー服の裾から両手を突っ込みおなかの所で手を温めながら「おはよう」と挨拶されたのを覚えています。
そうしたらそのY子さん「それどうするの」ってニコニコしながら聞いてきたのです。
まあ私には似合わないそんなものを買っているので興味でも湧いたのでしょう
「これ後輩のお土産にと思って・・・」と答えました。
それを聞いたY子さん
「いいなあ、私も欲しいな」って言ったんですよ。
だから私「そう!?じゃあ買ってあげようかって」言ったのですね。そしたらその子、目をくりくりっとした嬉しそうな顔して
「本当にいいの」って聞きましたが、まさかと思ったんでしょうね「いいよいいよ」と直ぐ断るから、もう一度
「いいよ、どれがいい??」って聞いたら、赤いがま口、小銭入れを指して
「あのお財布がいい」っていったのですが、まあY子さんも引っ込みがつかなくなったからだろうな。
だからそれを買ってプレゼントしたのです。
「本当にいいの」と一瞬驚いたようであったけど
「ありがとう」と言ってくれたのまでは、はっきり覚えている。
赤くてちょっと金糸、銀糸で刺繍が入った小さながま口が透明のプラスティックケースに入ったもの。勿論安いものなんですよ、当時の中学生、お金なんて無いしね。

 部屋に帰ったY子さん、嬉しかったし驚いたのでしょうね、きっと。
当時の事だし、男の子から直接そうやってプレゼントされたの初めてだったのかもしれませんね。そのことを同級生に言ったのでしょう「○○君にプレゼントされた」って・・・
さあ、そうしたら、これを聞いた周りの女子が蜂の巣つついたように騒ぎ出し、何人か私のところへ来て「あなたY子のことどう思っているのよ!彼女には○○君がいるんだから」と怖そうな顔で言うわけ、
自分のことではないのにね。でもそういう子いましたよね。
私は訳が分からなくて・・・
「どうって・・・Y子さんが欲しいっていうからプレゼントしたんだけど」って答えるしかないし
それにその通りだし、別段下心ないしね。

 Y子さんも気になったのか気まずかったのか翌日やってきて「これ返そうか」って言うから、あなたにプレゼントしたから、いいよって断りましたよ、返されてもしかたないし。修学旅行はそのまま続き、無事帰った。私は別段気にもしなかったけど、まあ被害者意識?は少しあったな。まあ裏では色々言われてたんだろうな。

 それから1,2ヶ月が経った頃かな、隣の席になったY子さんに「あのお財布使っている?」って聞くと
「うんん、使ってない」って言ってたのは覚えています。いつも返そうとを思って使わないのかなと思いましたがそれ以上は言いませんでした。

そうして翌年卒業間近の2月14日になるんですね、 ようやく来ました。

なんでか放課後教室に行った・・・呼ばれたのかな?なぜ教室へ行ったのか覚えていないです。そしたら机の下の物入れに箱があって、何だろうと開けると透明のプラスティック製でハートの形した、そうねえ15cmくらいの容器に赤や緑の鮮やかに包装されたアラカルトのチョコが入っていたんです。
ん??ってそれ見ていると・・・偶然?Y子さんが入っていて
「それあの時のお返し」って一言、そのケースに入ったチョコはY子さんからだったんですね。
つまり今で言う義理チョコだったんでしょう。私、これでギブアンドテークが漸く完了と思ったんです。「あの時のお返し」ってまあ本当にお返しでしょうね。
しっかりした子だったから、お返し済むまで使わずにいたのも知れないなって今になって思いますね。
Y子さんはその後一流高校 国立大  今はどこかで国語の先生でもしているのかな?
その話を先日同級生の友人夫婦と嫁さんに話ししたら、女性2人が
「その子あなたが好きだったんでしょうね」って
「お~い!!それかよ!!」  驚きやったな・・・そういわれたの
私ずっと被害者だと思っていたけど、女心ってそんなものなの???じゃあY子さんは一年間おいらのこと好きだったのかあ???
それはないと思うなあ、彼女と私ではレベル違いすぎだしそれに私は当時から煙たがられていたし。
たまたま言葉の流れでそうなって、Y子さんとしてもバツ悪かったんじゃないのかな?

中学卒業し、高校時代は通学列車も一緒で顔を合わせてもほとんど話もしてなかったです。
うちの嫁さんと付き合っている時、嫁さんの親友がそのY子さんと高校の同級生で知っていたのも驚きでしたね。

今一度会って聞いてみたいなって思うな、あの時のこと。
もっとも覚えてるとも思えないけどね。

未だに女心は良く分からないです。

友人と居酒屋へ

成人した私はある日友人と友人の行きつけの居酒屋に飲みに行ったのです
そこ、私は始めての店でね
「こんばんは」と暖簾をくぐるとおかみさんが一人でやっていて
「いらっしゃい」といったあと、私を見て、少し間があって
「あなた○○君よね」というではないですか。初めて訪れたお店のおかみさんから突然名前を告げられるとそりゃ驚きます。
「はい・・・どうして名前を?」って答えるとニコニコしながら
「中学三年のとき、あなたクラブ活動の女の子にお土産買わなかった?」っていうわけです。こちらとしては遠い昔のちょっとした思い出程度でした。
「はあ??・・・買いましたけど」
なんでそんなこと知ってるのと不思議になりますよね。
「そのお土産渡したの○村っていう子だったでしょう」
?????なんで??とクエッチョンマークが飛び交うわけですよ
「あの子うちの娘なの」
「へ~~そうですが」
驚きましたよ。もう随分時間たってたんですよ、中学からですからね。
「あの時、娘が男の子からお土産貰ったっていうから、私、気になってどうしたらいいか学校の先生に相談にいったのよ」って今なら、なんでやねん!って突っ込みいれますけど。
だとするとY子さんも親に話したら怒られたのかもしれませんね。
「そんなもの貰って!返してきなさい」って・・・そうだったら悪かったなって今になって思います。

6年も7年も前に貰った小さな小さなお土産を覚えているって凄いでしょ!?
それに私そのおかみさんとは面識無いのですから、部活の写真を子供と一緒に見て私を知っているのか何かの時に見たのだったんでしょうか??
ぱっと見て直ぐ気づく、…刑事になれますわ、そのおかみさん
反対に私は指名手配などされたら即日逮捕ですね。

いやー古きよき時代ですなあ。たった一個の安いお土産貰って学校に相談行くってね。
今先輩から携帯ストラップ貰って相談行かないでしょう?第一そんなもので喜ばないですものね。それからすると今の子供、若者たちって可哀想だなって思えて来て。
物が溢れて何でも満足できない、特にバブル以降のブランド嗜好だし、今やそれでも満足できなくなったようだしね。もっともみんながみんなではなくて、気持ちのこもった花一輪でも喜んでくれる人は大勢いるでしょうけど。

当時はこんなささやかな物でも満足してたんですからね。貧乏人にもチャンスがあったということでしょうか?それに出会いなんて特別なものでもなくて、どこにでもあってその代わり、この場合のように、どこかで誰かと繋がっていて・・・お前何でここにいるの!!ってことも何度かありましたけど。

物があって情報が溢れると、それに流されて
直ぐ目の前にある大事なものが見えなくなるんですよね。
まあそれだけ歳をとった!ということですわ。
よき時代に青春を送ってきたということにしましょう。

お財布とバレンタイン

お財布とバレンタイン

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-06

Copyrighted
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  1. それは長崎の宿での話し
  2. 友人と居酒屋へ