古来




慣れない麗句を焚き付けて、
真っ白に焦がした視界。
匂いを頼りに探す、
それは只の埋もれた史事で。
声は、熱き爛れか。



足元をさらえない背丈の草。
微笑みより弱い風。
醒めない暗夜の流れはがらり、
白々しくも虚な姿と
深まらない、
朝を齎そうとする。


それを道理で笑える、
と吐き捨てられなかった。
そう木霊する言い訳が、
命のように
雨霰と降ってきては
肌に落ち着き、
諾々と首は弱くなり
あるいは


風にはためく髪として。
鼠の色から死んだと謂われ、
からからと浮かべる世の果てで、
欠片は綺麗に失われず。
灰はそこかしこから舞い
真っ青な顔を隠した。
そこに射す光。


何もかもが遅れて、次第に走り出す遠浅の事。



いつしか、
覚めるものから覚めて
ぼんやりと
抜け殻を落とし、
吹き抜けるものに痛みを覚えて、
初めての涙を、
滔々と、流したらしく。


あるいは
思い思いに動く手と、指と
無知は
葉擦れに揺れる辺りを見回し、
その両の目に
少しだけ、別々の恐れを見せては
好奇心に負ける、笑う。
歯車に似た仕掛けとして
それが、
近くで鳴く鳥の、興味を引き。


または、
その身を拐う危険にしがみつき
終わりへと向かう、
そのもの。
死ぬ、を食み
獰猛な意思になったつもりで
ぱかっと開いた口の中にある、
赤いもので噛み切る、
白い力のあの、鉄の味。
暗い気配を漂わせ、
纏わりつく、
陽光の主(ぬし)。
その名に似合わぬ
その足元を掬われ、て。


それとも。
樹木の足元からどうにか這い出て、立ち、
出会い直した出会いから
より人らしく、
もしくは
天上から産み落とされた様に
どすんと強く、痛々しく
呻きながら。
その、
ただ一つの失敗を。
互いに持ち寄り、
不格好にぶつけ合い。


そうして、
手櫛で漉く髪からは
いくつもの命が見過ごされ、
拾え合えた、
唸り声。
芽生えるものは無く
嘆きを知らず、
棚引いた命。
何も動かせなくなって
何の必要もなくなった、
その時。


湿った土の上。
跳ねる心の臓。


「  しはあなたの、
あなたは  しを」


言い淀む、
何某かの硬さを覚えさせる、
石のようで。
槍のような、
切先に宿る、
その美しさを消せない。
汚せない。



有り難いのは
勝手に醒めて始まる世。
それぞれが
それぞれに。
それぞれの
それぞれを、進める道。
あの月と
似て非なるもの。


離れ難く、
代え難く。


思うより先に動く
この手を、
真っ直ぐに翳しても。
遮られるものはもう、
何一つ。
影ですら道を開けて
真っ直ぐに
希望を呼び寄せる。
この瞼で、
何度でも、
開け閉めできる。
だから止める。
ずっと、仰ぎ見る。
未だ去らない日。
いつかの死に場所。


枯れ果てぬ喉に外から触れて、
それを鳴らし、確かめた所在。


異形のものを、
何ひとつ生やせなかった。
こんな背中を押す
無慈悲な優しさと、冷酷な暁は
なだらかな坂。
躓けるものなど何も無い、
下り切れる、
明日。


いま一度、
なんて言葉。


握り締めて、解き放つ。


ただの光景。
ただの光景。

古来

古来

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-20

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