憂鬱 〜冷やして食べる〜
水月が自販機でシークワーサーソーダなる飲み物を買う。
さっきスーパーに寄ったのに。そこではたくさんの清涼飲料水が74円で売られていたというのに。
「家までがまんすれば74円けちれる」
しかし、結局割高な自販機でお金を使っている。これだから僕たちはだめなんだ。
ナナ、ナナ、ナナ…ハチ。はずれ。
「あー、じゃあお前のは無しだ」
そう僕に言う水月。
「うそうそ、どれがいい?」
「いいよ、いらない」
歩き出す僕。なんだよー、と跳ねるような走り方で水月は追う。足が痛そうだ。
件のソーダはロング缶だった。思ったよりでかい。隣で水月が口の端からこぼれるのも気にせずそれを飲んでいる。ちょっともらおうと思ってたけどやめといた。変なこと言うけど、なんか、水月より似合う自信がなかったから。
白い首すじをソーダが伝っていく。
「好きな子ができた」
唐突に話し出す水月。
「どんな子」
「新しい靴買ったからって、最近下ばっか見て歩いてる子」
「へぇ…」
水月はいつも、ラムネのビー玉をカラカラ眺めるような恋をする。
「僕の知ってる人?」
「いや、たぶん知らないと思う」
実は俺もよく知らないんだよね。前にも聞いたような気がする台詞を言いながら、水月は缶を高く持ち上げて裏を見た。何が書いてあるんだろう。
死ぬほど暑い。しかし水月は涼しげな顔をしている。滝のような汗をかいて、長い前髪をびしょびしょに濡らしているのに、そこからのぞく眼は透き通っている。薄い唇を閉じて鼻呼吸をしている。
「汗は反応で出てるだけ」
そう水月の声で再生されて、僕はまた無駄に苛つく。
ある街路樹の影の中で水月は立ち止まり、上を向いて「あ〜」と無意味な声をあげた。木洩れ日が水月に降り注いでいる。僕は水月を綺麗だと思った。
この並木道は諸岡の家につづいている。サプライズで奴の誕生日を祝うのだ。発案者は水月。(ほんとはただ諸岡んちではしゃぎたいだけじゃない?)僕の左手にはケーキ屋の箱がぶら下がっている。フルーツケーキ。冷やして食べる。
憂鬱 〜冷やして食べる〜