還暦夫婦のバイクライフ 18
ジニー&リン、コロナ快癒して岡山後楽園に行く
ジニーは夫、リンは妻の、共に還暦を迎えた夫婦である。
5月下旬、バイク屋さんツーリングで高知を走った後、ジニーは発熱した。割れた歯を抜いた後だったので熱が出たんだと本人は言っていたが、念のために発熱外来に行ったら、コロナに感染しているのが判明した。それから自宅療養で1週間部屋に缶詰になり、体温も41度近くまで上がったり喉のひどい痛みに苦しんでいたが、ワクチン4回接種が功を奏したのか重症化もせず、後遺症もなく全治した。ツーリングに一緒に行った人たちは誰も感染していなかったので、どこで拾ったのかはわからない。一緒にいたリンも感染せず、無事クリヤしたと思っていたら1週間後今度はリンが発症した。そこから家は再びコロナ対応に追われ、1週間後にリンが完全復帰した時には6月になっていた。
「ジニーせっかく梅雨前のいい天気だったのに、2週間も動けんかった」
「仕方ないね。次の日曜日からは通常通り動けるよ」
「それならいいけど、そろそろ梅雨入りじゃない?」
「そうか。・・・まあ、行けるんじゃないか?」
ジニーはそう言ったが、その後すぐに梅雨入りして休みの度に家にくぎ付けになってしまい、結局1か月ほどバイクに乗ることができなかった。
6月下旬、梅雨の晴れ間に当たり久々に日曜日が晴れる予報が出た。
「リンさん、今度の休みは動けるみたい」
「そうね。どこ行こうかな~」
「宿毛から四万十市に回って、カツオでもどう?」
「それも捨てがたいけど・・・・残念ジニー、南の方は雨予想ですな。北に行けば雨は降らないみたいよ」
「北かあ。しまなみ?」
「私、岡山の兼六園?じゃないな。何だっけ?」
「後楽園じゃない?」
「それそれ、後楽園。行ったこと無いのよね。結構仕事とかで近所までは行くことあるんだけど」
「僕も無いや。じゃあ行きますか。となれば、明日は5時起きでよろしく」
「あ、高速の定率割も予約しなきゃ」
ジニーとリンは、JH中日本のサイトから二輪車定率割にアクセスして、予約を済ませた。
「じゃあ、僕は寝ます」
ジニーはお休みと言って、寝室に引っ込んだ。
日曜日朝5時過ぎ、目覚ましの音でジニーは起きた。しばらくぼーっとした後、ベッドから降りる。リンをつついて起こし、台所に向かう。外を見ると雲が全体にかかり、あまりいい天気では無かった。スマホで確認すると、曇り時々晴れの予報になっている。
「日照りで暑いよりはましか」
ジニーはコーヒーメーカーをセットしてから準備にかかった。
「お早う」
リンが台所に現れる。
「天気どんな?」
「まあ、悪くはないかな。雨は降らんと思う」
「そうなん」
リンはそう言って洗面所に向かった。ジニーは着替えを済ませて熱いコーヒーを飲む。リンが支度を終えて台所に戻って来た。
「コーヒーあるん?」
「あるよ」
ジニーはカップにコーヒーを注いでリンに渡す。
「ありがと」
リンはカップを両手で持ち、熱いコーヒーをゆっくりと飲んだ。
「ジニー朝ごはんは?」
「入野でなんか食べる」
「オッケー。ガソリンは?いつものスタンドはまだ開いてないよ」
「空港通りのスタンドが24時間営業だから、あそこで入れる」
「わかった。じゃあ支度しよう」
二人は鞄やヘルメットを玄関に持っていく。それからメッシュのジャケットを着て、外に出る。ジニーは2台のバイクを車庫から引っ張り出す。リンは自分のバイクのセッティングを始める。ジニーもバッグをバイクに固定して、ヘルメットを被った。
「リンさん、聞こえる?」
「聞こえるよ」
「じゃあ、出発します」
6時10分、ほぼ予定通りに出発した。空港通りのスタンドまで行き、ハイオク満タンにする。それから松山I.C目指して走り始めた。この時間はさすがに車も少ない。
「止まると熱いー。下からの熱気がすごいわー」
「足元でガソリンストーブ焚いてるからね。SSはカウルがあるから特に熱いやろ」
「ジニーのは熱くないん?」
「あんまりはね。ネイキッドで風通し良いから」
「いいなあ」
「でも、冬は暖かいだろ?」
「多少はね」
信号が青になり、走り始める。
「あ~涼しい。汗が冷えて寒いくらい」
「さて、高速乗りますよ」
「冷えすぎて寒くない?」
「汗が乾いたら寒く無くなるって」
松山I.Cから松山道に入り、快適に走る。1時間たらず走って、入野P.Aに止まる。いつもの駐輪場に止めて、ヘルメットを脱ぐ。
「リンさん、インカム充電忘れてた」
「はい?」
「バッテリー残量20%って言ってる。ケーブル持って来てたっけ」
「無いよ。それ一日持たんよね。どうするかな」
「コンビニでケーブル探す」
二人はP.Aのコンビニに寄って、ケーブルを探す。
「あった。けど、余計なものがついてる」
ジニーは緊急用の乾電池使用のバッテリーを手に取った。ほかにケーブルが無いので、それを持ってレジに向かう。
「ついでにこれ買って」
そう言ってリンが出したのは、羊羹だった。
「ようかん!」
ジニーはまとめて会計を済ませた。一度バイクに戻って、バッグに電池パックをしまう。かわりにモバイルバッテリーを取り出して、調達したケーブルをつなぐ。さらにインカムをつないでまとめてバッグに入れる。
「ジニー朝ごはん行くよ」
「うん」
二人は食堂に行き、朝定食を注文した。ご飯と豚バラ生姜焼き、冷奴とみそ汁、生卵とおしんこつきだ。朝からコーヒーしか胃に収まっていないので、二人とも一言もしゃべらずひたすら食べる。ジニーは片っ端からすごい勢いでさらえていく。すべて食べ終えて、最後にお茶をすする。
「早!もう食べた?」
「うん」
リンはまだ半分しか食べていない。
「少しあげるよ」
「わあ、ありがとう」
ジニーはリンから分けてもらって、嬉々として平らげた。
朝食が済んで少し休憩してから、8時丁度に入野を出発した。
「リンさん、近いけど鴻ノ池S.Aで止まるよ」
「かまんけど、どしたん?」
「ちょっとね。岡山入ってからの後楽園までの道のりを、よく見ておきたい。イマイチよくわからん」
「ナビ様呼べばいいのに」
「いやあ、ナビ様声が聞き取りづらいし、画面は老眼でぼやけて見えんし、あまり役に立たん」
「ふーん。わざわざ見れるようにしたのにね」
「年寄りには使いにくかった」
そんなことを話ながら、二人は松山道から高松道、そして坂出JCTから瀬戸中央道へと乗り換え、橋を渡ってすぐの所にある鴻ノ池S.Aへ入る。駐輪場にバイクを止め、ヘルメットを脱いでジニーはインカムを外す。再び充電をするのだ。
「どのくらい充電できとったん?」
「80%くらいかな」
「意外と早いね」
「ここでフル充電できるだろう」
ジニーはモバイルバッテリーをつないだインカムを、鞄の中に収めた。
外のベンチに座った二人は、スマホで地図を確認する。
「ジニー、ナビ様のお告げでは山陽道に乗り換えて岡山I.Cで降りて、後楽園まで走れって」
「う~ん。それって遠回りじゃないかな?早島で降りて、R2を行くルートは?」
「ちょっと待ってよ。・・・・そうね、時間的にはあまり変わらないかな」
「そうか。どっち行くかなぁ」
ジニーはしばらく地図を見ていた。
「R2行こう。途中でR30に乗り換えて、後は標識だよりで」
「わかった。ちょっと危なっかしいけど。ジニーの脳内ナビ故障中だし」
「信用無いなあ」
「無いない」
そう言ってリンはくすっと笑った。
40分ほど休憩する間に、ジニーのインカムもフル充電になった。鴻ノ池S.Aを9時30分に出発して、後楽園を目指す。早島I.Cで高速を降り、R2へ乗り換える。
「思ったより空いてるわねー」
「予定より早く着きそうだ」
ジニーはそう言いながら、標識に意識を向ける。所々に標識があり、岡山城、後楽園直進となっているのを確認する。
「ん?今、R30左折だったな。でも岡山城、後楽園直進になってる」
「ジニー大丈夫?R30に乗るんじゃなかったっけ?」
「その筈なんだけど、案内が直進になってる」
「ふ~ん、まあいいけど」
さらにR2を走ってゆくと、左折の案内が出てきた。二人はそれに従う。
「リンさん、これ多分、東側から入るんだと思う」
「でしょ~。でも、たいして回り道じゃないし、いいんじゃない?」
そこからも案内板通りに走ってゆくと、岡山城が見えてきた。そこからさらに路地裏に迷い込み右往左往したが、10時15分、後楽園駐輪場にたどりついた。
「やっぱりジニーのナビは、ポンコツだったねえ」
「自分でもそう思う」
ジニーはあっさりと認めた。
「さて、まずは博物館に行こう」
二人は後楽園正面入り口に向かい、チケットを購入してから岡山県立博物館に入館した。
展示をゆっくりと見て回る。岡山の歴史と文化を展示してあり、なかなか興味深い。すべてを見終わって、12時丁度博物館を出た。
「ジニーおなかすいた」
「後楽園の中に何かあるかな?」
パンフレットを見ながら入園する。
「リンさん、後楽園って、芝生広場なんだ」
「ジニー、ここは昔からそうみたい。いわゆる日本庭園みたいなのは、最初から無いようね。半分以上水田だったみたい」
リンはパンフレットを見ながら、ジニーに説明する。
「そうか、こういう庭園もあるんだな」
「それより茶店しかないわね。しばらく我慢か」
広い庭園を歩き回って疲れた二人は、自動販売機を見つけ、麦茶を買った。すぐそばにあるベンチに腰を下ろして、休憩する。
「これ、半分ずつね」
「あ、ようかんだ」
リンは朝買った羊羹を半分にして、ジニーに渡す。
「とりあえずむし押さえね」
羊羹を食べて麦茶を飲んで、二人はベンチから立つ。
「次は岡山城だ」
再び庭園を歩き、裏口から出る。旭川にかかる月見橋を渡り、岡山城に向かう。
「岡山城、おおきいなあ。さすが要所にあるお城だ」
ジニーはしばらく外から眺めて、感心する。それから入り口に向かい、チケットを購入する。
「JAF会員2割引きだって」
ジニーは会員証を提示して、二人分割り引いてもらう。
「へー、中は普通のビルみたいだ。冷房が良くきいてる」
「ジニー、エレベーターで上まで行ってから見て回るのが、おすすめだって」
二人はエレベーターで上がり、そこから階段で最上階に向かう。そこから360°の展望を満喫して、中の展示を見る。歴代城主の歴史を詳細に紹介している。階段を下りながら各フロアのパネルを見てゆく。あまりにも多い情報量に、目と頭が追いつかない。
「リンさん、足が痛くなった。おなかも空いた」
「ジニー、カフェがある。休憩しましょ」
二人はよろけるようにカフェに向かった。受付でパフェとホットコーヒーとホットドッグを調達する。
「んま~。パフェ最高!」
リンが顔をほころばせる。ジニーはホットドッグに喰いつく。
「これは。・・小学校のころ移動販売で食べたホットドッグ思い出す。おいしいなーこれ」
二人は互いにシェアして、旨いを連発しながら食べた。最後にホットコーヒーを分け合って飲む。
「ジニー、今日はどうだった?」
「どうって?」
「私は博物館が良かったかな。後楽園はイメージ違ってたし、岡山城はお城の外観をした近代的な資料館だったし」
「後楽園は確かにイメージとは違ったかな。何というか兼六園とか、足立美術館の庭とかとは違ってたね。第一印象が芝生広場だったからね。カルチャーショックだった。これもありなんだってね」
「でも、ずっと気になっていた後楽園が見れて、私は満足したわ。次は岡山の古墳巡りをしてみたいな。博物館見てたら、結構あるみたいだった」
「そうなんや」
「さて、帰りますか。ガソリンは?」
「R2で入れる」
「了解」
ジニーととリンは岡山城を後にして、駐輪場まで歩く。数百mの距離だが、ジニーは疲れ切っていてとぼとぼと歩いた。
「ジニーなんだかおじいちゃんみたい」
「うん。足痛くてたまらん。早くバイクに乗りたい」
「もう少しだから、がんばれー」
「リンさんは元気だなあ」
ジニーはよたよた歩いて、やっとバイクにたどりついた。すぐに準備して、15時50分、後楽園を出発した。
「来た道帰るん?」
「いや、本来なら来るとき通る予定だった道を帰る」
「もう迷うなよ」
「うん」
二台のバイクは県道400号を走り、R50との交差点を左折する。R50を南下してR30に乗り換える。
「リンさん、岡山って、路面電車あるんだ。知らなかったよ」
「そうね」
さらに走ると、円になった歩道橋があった。その下を抜けてさらに行くと、R2と交差している所に来た。
「リンさん右折して、2号線に乗るよ」
「はいはい」
R30からR2に乗り換え、早島I.Cを目指して走る。
「ジニー確か、I.Cの近くに出光があったと思う」
「それ、反対側じゃない?」
「ううん、来るとき見たから間違いない・・筈」
「そうなん?じゃあ」
ジニーは目前のエネオスのスタンドを素通りした。やがて早島I.Cまで2Kmの案内が出てきた。出光本当にあるのかと、二人ともひやひやしながら走る。
「あった!」
I.C手前200mに、出光があった。二人がなぜ出光にこだわるかというと、いつも使っているのが旧シェルのスタンドだからだ。その時のシステムがそのまま使えるので、できるだけ出光を使っている。ジニーはガソリンは出光(シェル)派なのだ。
「さて、ガソリンも入れたし、後はどこかでご飯食べたいな」
「S.Aしかないけど、どこ寄る?」
「今何時だっけ?」
「16時30分」
「うーん。鴻ノ池で食べて帰ろう」
「了解」
スタンドを出てすぐに早島I.Cから瀬戸中央道に乗る。しばらく走って鴻の池S.Aに寄り、フードコートに向かう。食券販売機の前でジニーはしばらく悩む。
「私、キツネうどん」
「え?リンさんそんなんでええん?僕はミソラーメン半チャーハンにする」
「チャーハン少し頂戴」
「いいよ」
がらんと空いている席に座り、しばらく待つ。やがて出てきた料理をもらって、おもむろに食べ始める。
「お茶あるよ」
「ありがと」
ジニーはリンが給水所から取って来た紙コップの中のお茶を、一気に飲み干す。さらに別に取ってきていた水も、一気に飲む。
「はあ、どうやら一夜干しになりかけていたみたいだ」
リンは空になったコップを持って再び給水所に行き、水とお茶を汲んで帰って来る。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
二人はお互いの料理を味見しながら、のんびりと食事を済ませる。食事を終えてから売店に移動して、今度はお土産を物色する。
「リンさんはきびダンゴやろ?」
「うん。このシンプルなやつね」
リンはいつも買うきびだんごを一つ取った。ジニーは他に串ダンゴとタコせんを買う。
「お土産も買ったし、行こう。家まで直行で大丈夫?」
「うん、平気。さっさと帰ろう。暗くなる前にね」
バイクに戻って準備を整え、17時50分出発した。瀬戸大橋を渡り、高松道に乗り換え、快調に走る。川之江JCTを過ぎて松山道に入り、一気に松山I.Cまで走る。高速を降りて市内を抜け、19時15分家に到着した。
「やれやれ、お疲れ」
「お疲れ様」
二人はヘルメットを脱いでバイクを車庫に片付ける。
「リンさん、岡山って、思ったより近いね」
「まあね。350Kmくらいかな。橋と高速代がちょっとね」
そうだよなあ。もっと安くしてほしいなあとつぶやくジニーだった。
還暦夫婦のバイクライフ 18