フィッシングメールと誇大広告。認知症患者の暴挙に、文豪の作品。

フィッシングメールと誇大広告。認知症患者の暴挙に、文豪の作品。


 先ずはフィッシングメールから。

 此処のところ、Tポイントに関するものが続けざまに送られている。
 ポイント如きでつられないようにした方が良い。
 更に、三井住友カードも連続して送られてきている。
 ただ、内容がお粗末過ぎ、例えば、
「・・お支払日・・」
 メールが到達した当日が支払い期限になっているというもので、明らかに高齢者を狙ったメールと言える。
 一般的には当日の支払いという事は有り得ないので無視をし即削除をすれば良い。
 次に、カードが使用できなくなった、というメッセージが来る。此れは全くいい加減であり、特に実際にカードを持っている方は、即削除をした方が良い。
 又、何千pointを進呈するとか、旅行が当たるも同じ者の犯行で、Tポイント「Q&Aメールも本物そっくりなものが送られて来るが、明らかに偽物である。
 要は、ポイントのような僅かばかりの価値については飛びつかないに越したことは無いという意味」



 次。
 TVの通販も非常に多くなっているが、いい加減な内容のものも少なくない。
 特に、「ショップJapan」については法人の実態も分からず、顧問弁語士の記載があったので電話をしてみたが、心当たりは無いとの弁。
 他にも、被害に遭ったという苦情の記載も見つかる。確か、TV東京やTV神奈川等で毎日放送をしていると思う。
 扱っている商品については良いものかどうかは不明。
 問題は放送終了後30分以内に電話をすると、割引価額が適用されるなのだが、30分以内が其の日だけで終わるのならまだしも毎日のように、「30分を強調する」のは、或る意味「強迫観念」を植え付ける事になりかねなく、決して好ましくはない。
 架電をし、やめるように警告をしたが、相変わらず毎日放送されている。パソコンで調べた結果も、ちゃんとした法人名が出て来ず、やはり、かなりいい加減な組織と言える。
 誇大広告にあたる可能性があるコマーシャル先には、片端から架電をしているが、殆どは・・特に一部上場の大手会社はすぐに止めている。
 くれぐれも、コマーシャルには注意をして戴きたい。


 さて、時間も無くなったので、世界情勢から二国の争いについてを簡単に挙げてから、文豪の作品を載せてお終い。
 尚、以前から何度も申し上げているのだが、「MSNニュースはMicrosoftの系列だが、世界中のニュースから自分達が選んだものをピックアップしているに過ぎない。中には明らかに「右翼の記事や宣伝」もあるし、何と言ってもUSAの系列なので、偏った記事が多く見かけられる・・大体がUSAという国は・・自由主義をうたっているが・・規律の無い何でも自由主義であり・・民主主義とは異なるいかさまが多過ぎる。此のニュースに接触をしないに越したことは無い。」


 其れでは・・。

 「人類は敵わない相手にはごちゃごちゃと味方を募る。しかし、敵わないから故の・・所詮、「烏合(うごう)の衆」なのである。小国が何をやったところで・・今まで・・テロぐらいしか出来ないのだから、何も案ずる必要は無い。西側と東側が協調し合い平等に、人類社会を発展させていくまでは私達が見ている。 実際、人類が最も脅威に思う核についても何処の国が突出しているのか・・考える余地もない。
 要は、潜在意識に呼びかけ実力の無い烏(からす)ならぬスズメ・・恰も歌舞伎然(ぜん)~此の国の歌舞伎では見せ場には大見えをはる~正にその現象である。
 だが、歌舞伎は芝居に過ぎなく役者は素晴らしい・・が・・争いの実力は・・実戦で示される・・。
 つまりは実力に自信が無いUSA~というのも他国には散々残虐行為をしてきたのだが・・残念な事に自国本土が消滅した事は無く・・今回が最初で最後の体験となる・・。
 みっともない事に・・バイデンは既に認知症の極めて初期症状と思われる言動を多発しており、USAは少なくとも向こう十年以上は構造不況により・・何とも動きが取れず・・下手に何をしたところで・・増々国が傾くばかり。
 最後の芝居が・・西側諸国に呼びかける・・しかし、其れは過去既にやってきた結果世界中が大不況に陥ってしまったという隠しようも無い事実が存在する。
 短期決戦に固執する必要も無ければ・・相手の出方をじっくりと見定めてから・・ゆっくり王将は動くべきである・・。只、物事には時期というものも有り・・決する時には一時に行動に移す事は必須と言える。
 軍師諸葛孔明曰く・・【「事機」が有利に展開しているのに、それを生かせないのは、智者とはいえない。「勢機」が有利に展開しているのに、それに乗ずることができないのは、賢者とはいえない。「情機」が有利に展開しているのに、ぐずぐずためらっているのは、勇者とはいえない。】
 まあ、焦る必要は毛頭ない。
 既に勝敗は決まっている。
 EUもNATOも本部はベルギーのBrussels所在であるから、其処を叩いても初戦としては良いとも思える。
 既に、事は小国と大国のみの争いではなくなってきている。世界中を巻き込んだ東西の決戦となっており、此の国で言えば史上「関ヶ原の戦」状態ともいえそうだ。
 容赦はいらない。
 やるべきことはやるに過ぎず、USAの基地がある、此の国・Germany・韓国も目標にされるだろう。
 折角、世界の均衡を図ろうとしたところで・・最早・・時すでに遅し・・バイデンのpropagandaはあまりにもみっともなく「・・は既に負けている・・」なのだが、此れは破産寸前のUSAの泣き言に過ぎず、たかが、クラスター如きで何がどうなるわけではない。
 且つてUSAがベトナム戦で使用し敗北を喫したが、お陰でラオスは未だに不発弾による被害が絶えず・・国際的な大問題になっているのにも拘わらず・・再び禁止兵器を供与するという間の抜けたバイデンには一笑に付すが相当である。
 元々、NATOはUSAがUSSRから文壇をさせた謀にまんまと乗ってしまった無力な手段に過ぎない。
 キエフに限定核を落とすのも一考ではあるが・・小国よりはUSA本土やNATO諸国に落とした方が手っ取り早いと言えそうだ。
 基地のある三国等も滅亡するのは言うまでもないが・・人類は均衡を図る事が苦手である。
 私達は、二国の争い時代に、China案の和解が最も懸命だと思ったが・・其れも過去の事・・。
 やるのなら・・高見の見物と・・決め込みたい・・均衡が図れるまでは私達はバランスをとるつもりであるが他の生命や生命体を傷つける事は禁止されているが・・恒星の数十倍もある宇宙空間のEnergyは仮称レンズの類で一面を焼却するだけでなく、別途新たなる災害を招くかもしれない・・・また、温度差上下500度の各空間も存在する・・」

 世界の核保有数~22年現在

 大国 約6000
 USA  約5500  
China 約350 
 France約290
 UK  約230
 Pakistan・India 各約160
 Israel 約90
 NK 約30 

 内、ICBMについては・・?
 尚、USAが昨年開発した(実際には戦後Israelの学者などにも研究者の存在した。核融合による水爆は・・凡そ、長崎方の原爆を破壊力4とすると7程度となる・・・が、自然災害の、台風や大型地震は其れと比較する事も出来ない巨大なEnergyと言える。
 更に、宇宙空間のEnergyは最早・・予兆level範疇どころではない・・。
 まあ、何とかカードも少子化も・・原発排水も・・一切問題で無くなるのは良いのでは・・。

 

 では、文豪の作品から・・。

 
 
 アグニの神
 
 芥川龍之介



      一

 支那シナの上海シャンハイの或ある町です。昼でも薄暗い或家の二階に、人相の悪い印度インド人の婆さんが一人、商人らしい一人の亜米利加アメリカ人と何か頻しきりに話し合っていました。
「実は今度もお婆さんに、占いを頼みに来たのだがね、――」
 亜米利加人はそう言いながら、新しい巻煙草まきたばこへ火をつけました。
「占いですか? 占いは当分見ないことにしましたよ」
 婆さんは嘲あざけるように、じろりと相手の顔を見ました。
「この頃は折角見て上げても、御礼さえ碌ろくにしない人が、多くなって来ましたからね」
「そりゃ勿論もちろん御礼をするよ」
 亜米利加人は惜しげもなく、三百弗ドルの小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。
「差当りこれだけ取って置くさ。もしお婆さんの占いが当れば、その時は別に御礼をするから、――」
 婆さんは三百弗の小切手を見ると、急に愛想あいそがよくなりました。
「こんなに沢山頂いては、反かえって御気の毒ですね。――そうして一体又あなたは、何を占ってくれろとおっしゃるんです?」
「私わたしが見て貰もらいたいのは、――」
 亜米利加人は煙草を啣くわえたなり、狡猾こうかつそうな微笑を浮べました。
「一体日米戦争はいつあるかということなんだ。それさえちゃんとわかっていれば、我々商人は忽たちまちの内に、大金儲おおがねもうけが出来るからね」
「じゃ明日あしたいらっしゃい。それまでに占って置いて上げますから」
「そうか。じゃ間違いのないように、――」
 印度人の婆さんは、得意そうに胸を反そらせました。
「私の占いは五十年来、一度も外はずれたことはないのですよ。何しろ私のはアグニの神が、御自身御告げをなさるのですからね」
 亜米利加人が帰ってしまうと、婆さんは次の間まの戸口へ行って、
「恵蓮えれん。恵蓮」と呼び立てました。
 その声に応じて出て来たのは、美しい支那人の女の子です。が、何か苦労でもあるのか、この女の子の下しもぶくれの頬ほおは、まるで蝋ろうのような色をしていました。
「何を愚図々々ぐずぐずしているんだえ? ほんとうにお前位、ずうずうしい女はありゃしないよ。きっと又台所で居睡いねむりか何かしていたんだろう?」
 恵蓮はいくら叱しかられても、じっと俯向うつむいたまま黙っていました。
「よくお聞きよ。今夜は久しぶりにアグニの神へ、御伺いを立てるんだからね、そのつもりでいるんだよ」
 女の子はまっ黒な婆さんの顔へ、悲しそうな眼を挙あげました。
「今夜ですか?」
「今夜の十二時。好いいかえ? 忘れちゃいけないよ」
 印度人の婆さんは、脅おどすように指を挙げました。
「又お前がこの間のように、私に世話ばかり焼かせると、今度こそお前の命はないよ。お前なんぞは殺そうと思えば、雛ひよっ仔この頸くびを絞めるより――」
 こう言いかけた婆さんは、急に顔をしかめました。ふと相手に気がついて見ると、恵蓮はいつか窓際まどぎわに行って、丁度明いていた硝子ガラス窓から、寂しい往来を眺ながめているのです。
「何を見ているんだえ?」
 恵蓮は愈いよいよ色を失って、もう一度婆さんの顔を見上げました。
「よし、よし、そう私を莫迦ばかにするんなら、まだお前は痛い目に会い足りないんだろう」
 婆さんは眼を怒いからせながら、そこにあった箒ほうきをふり上げました。
 丁度その途端です。誰か外へ来たと見えて、戸を叩たたく音が、突然荒々しく聞え始めました。

     二

 その日のかれこれ同じ時刻に、この家の外を通りかかった、年の若い一人の日本人があります。それがどう思ったのか、二階の窓から顔を出した支那人の女の子を一目見ると、しばらくは呆気あっけにとられたように、ぼんやり立ちすくんでしまいました。
 そこへ又通りかかったのは、年をとった支那人の人力車夫です。
「おい。おい。あの二階に誰が住んでいるか、お前は知っていないかね?」
 日本人はその人力車夫へ、いきなりこう問いかけました。支那人は楫棒かじぼうを握ったまま、高い二階を見上げましたが、「あすこですか? あすこには、何とかいう印度人の婆さんが住んでいます」と、気味悪そうに返事をすると、匆々そうそう行きそうにするのです。
「まあ、待ってくれ。そうしてその婆さんは、何を商売にしているんだ?」
「占い者しゃです。が、この近所の噂うわさじゃ、何でも魔法さえ使うそうです。まあ、命が大事だったら、あの婆さんの所なぞへは行かない方が好よいようですよ」
 支那人の車夫が行ってしまってから、日本人は腕を組んで、何か考えているようでしたが、やがて決心でもついたのか、さっさとその家の中へはいって行きました。すると突然聞えて来たのは、婆さんの罵ののしる声に交った、支那人の女の子の泣き声です。日本人はその声を聞くが早いか、一股ひとまたに二三段ずつ、薄暗い梯子はしごを駈かけ上りました。そうして婆さんの部屋の戸を力一ぱい叩き出しました。
 戸は直ぐに開きました。が、日本人が中へはいって見ると、そこには印度人の婆さんがたった一人立っているばかり、もう支那人の女の子は、次の間へでも隠れたのか、影も形も見当りません。
「何か御用ですか?」
 婆さんはさも疑わしそうに、じろじろ相手の顔を見ました。
「お前さんは占い者だろう?」
 日本人は腕を組んだまま、婆さんの顔を睨にらみ返しました。
「そうです」
「じゃ私の用なぞは、聞かなくてもわかっているじゃないか? 私も一つお前さんの占いを見て貰いにやって来たんだ」
「何を見て上げるんですえ?」
 婆さんは益ますます疑わしそうに、日本人の容子ようすを窺うかがっていました。
「私の主人の御嬢さんが、去年の春行方ゆくえ知れずになった。それを一つ見て貰いたいんだが、――」
 日本人は一句一句、力を入れて言うのです。
「私の主人は香港ホンコンの日本領事だ。御嬢さんの名は妙子たえこさんとおっしゃる。私は遠藤という書生だが――どうだね? その御嬢さんはどこにいらっしゃる」
 遠藤はこう言いながら、上衣うわぎの隠しに手を入れると、一挺ちょうのピストルを引き出しました。
「この近所にいらっしゃりはしないか? 香港の警察署の調べた所じゃ、御嬢さんを攫さらったのは、印度人らしいということだったが、――隠し立てをすると為ためにならんぞ」
 しかし印度人の婆さんは、少しも怖こわがる気色けしきが見えません。見えないどころか唇くちびるには、反って人を莫迦にしたような微笑さえ浮べているのです。
「お前さんは何を言うんだえ? 私はそんな御嬢さんなんぞは、顔を見たこともありゃしないよ」
「嘘うそをつけ。今その窓から外を見ていたのは、確たしかに御嬢さんの妙子さんだ」
 遠藤は片手にピストルを握ったまま、片手に次の間の戸口を指さしました。
「それでもまだ剛情を張るんなら、あすこにいる支那人をつれて来い」
「あれは私の貰い子だよ」
 婆さんはやはり嘲るように、にやにや独ひとり笑っているのです。
「貰い子か貰い子でないか、一目見りゃわかることだ。貴様がつれて来なければ、おれがあすこへ行って見る」
 遠藤が次の間へ踏みこもうとすると、咄嗟とっさに印度人の婆さんは、その戸口に立ち塞ふさがりました。
「ここは私の家うちだよ。見ず知らずのお前さんなんぞに、奥へはいられてたまるものか」
「退どけ。退かないと射殺うちころすぞ」
 遠藤はピストルを挙げました。いや、挙げようとしたのです。が、その拍子に婆さんが、鴉からすの啼なくような声を立てたかと思うと、まるで電気に打たれたように、ピストルは手から落ちてしまいました。これには勇み立った遠藤も、さすがに胆きもをひしがれたのでしょう、ちょいとの間は不思議そうに、あたりを見廻していましたが、忽ち又勇気をとり直すと、
「魔法使め」と罵ののしりながら、虎とらのように婆さんへ飛びかかりました。
 が、婆さんもさるものです。ひらりと身を躱かわすが早いか、そこにあった箒ほうきをとって、又掴つかみかかろうとする遠藤の顔へ、床ゆかの上の五味ごみを掃きかけました。すると、その五味が皆火花になって、眼といわず、口といわず、ばらばらと遠藤の顔へ焼きつくのです。
 遠藤はとうとうたまり兼ねて、火花の旋風つむじかぜに追われながら、転ころげるように外へ逃げ出しました。

     三

 その夜よの十二時に近い時分、遠藤は独り婆さんの家の前にたたずみながら、二階の硝子窓に映る火影ほかげを口惜くやしそうに見つめていました。
「折角御嬢さんの在ありかをつきとめながら、とり戻すことが出来ないのは残念だな。一そ警察へ訴えようか? いや、いや、支那の警察が手ぬるいことは、香港でもう懲り懲りしている。万一今度も逃げられたら、又探すのが一苦労だ。といってあの魔法使には、ピストルさえ役に立たないし、――」
 遠藤がそんなことを考えていると、突然高い二階の窓から、ひらひら落ちて来た紙切れがあります。
「おや、紙切れが落ちて来たが、――もしや御嬢さんの手紙じゃないか?」
 こう呟つぶやいた遠藤は、その紙切れを、拾い上げながらそっと隠した懐中電燈を出して、まん円まるな光に照らして見ました。すると果して紙切れの上には、妙子が書いたのに違いない、消えそうな鉛筆の跡があります。

「遠藤サン。コノ家うちノオ婆サンハ、恐シイ魔法使デス。時々真夜中ニ私わたくしノ体ヘ、『アグニ』トイウ印度ノ神ヲ乗リ移ラセマス。私ハソノ神ガ乗リ移ッテイル間中、死ンダヨウニナッテイルノデス。デスカラドンナ事ガ起ルカ知リマセンガ、何デモオ婆サンノ話デハ、『アグニ』ノ神ガ私ノ口ヲ借リテ、イロイロ予言ヲスルノダソウデス。今夜モ十二時ニハオ婆サンガ又『アグニ』ノ神ヲ乗リ移ラセマス。イツモダト私ハ知ラズ知ラズ、気ガ遠クナッテシマウノデスガ、今夜ハソウナラナイ内ニ、ワザト魔法ニカカッタ真似まねヲシマス。ソウシテ私ヲオ父様ノ所ヘ返サナイト『アグニ』ノ神ガオ婆サンノ命ヲトルト言ッテヤリマス。オ婆サンハ何ヨリモ『アグニ』ノ神ガ怖こわイノデスカラ、ソレヲ聞ケバキット私ヲ返スダロウト思イマス。ドウカ明日あしたノ朝モウ一度、オ婆サンノ所ヘ来テ下サイ。コノ計略ノ外ほかニハオ婆サンノ手カラ、逃ゲ出スミチハアリマセン。サヨウナラ」

 遠藤は手紙を読み終ると、懐中時計を出して見ました。時計は十二時五分前です。
「もうそろそろ時刻になるな、相手はあんな魔法使だし、御嬢さんはまだ子供だから、余程運が好くないと、――」
 遠藤の言葉が終らない内に、もう魔法が始まるのでしょう。今まで明るかった二階の窓は、急にまっ暗になってしまいました。と同時に不思議な香こうの匂においが、町の敷石にも滲しみる程、どこからか静しずかに漂って来ました。

     四

 その時あの印度人の婆さんは、ランプを消した二階の部屋の机に、魔法の書物を拡ひろげながら、頻しきりに呪文じゅもんを唱えていました。書物は香炉の火の光に、暗い中でも文字だけは、ぼんやり浮き上らせているのです。
 婆さんの前には心配そうな恵蓮が、――いや、支那服を着せられた妙子が、じっと椅子に坐っていました。さっき窓から落した手紙は、無事に遠藤さんの手へはいったであろうか? あの時往来にいた人影は、確に遠藤さんだと思ったが、もしや人違いではなかったであろうか?――そう思うと妙子は、いても立ってもいられないような気がして来ます。しかし今うっかりそんな気けぶりが、婆さんの眼にでも止まったが最後、この恐しい魔法使いの家から、逃げ出そうという計略は、すぐに見破られてしまうでしょう。ですから妙子は一生懸命に、震える両手を組み合せながら、かねてたくんで置いた通り、アグニの神が乗り移ったように、見せかける時の近づくのを今か今かと待っていました。
 婆さんは呪文を唱えてしまうと、今度は妙子をめぐりながら、いろいろな手ぶりをし始めました。或時は前へ立ったまま、両手を左右に挙げて見せたり、又或時は後へ来て、まるで眼かくしでもするように、そっと妙子の額の上へ手をかざしたりするのです。もしこの時部屋の外から、誰か婆さんの容子を見ていたとすれば、それはきっと大きな蝙蝠こうもりか何かが、蒼白あおじろい香炉の火の光の中に、飛びまわってでもいるように見えたでしょう。
 その内に妙子はいつものように、だんだん睡気ねむけがきざして来ました。が、ここで睡ってしまっては、折角の計略にかけることも、出来なくなってしまう道理です。そうしてこれが出来なければ、勿論二度とお父さんの所へも、帰れなくなるのに違いありません。
「日本の神々様、どうか私わたしが睡らないように、御守りなすって下さいまし。その代り私はもう一度、たとい一目でもお父さんの御顔を見ることが出来たなら、すぐに死んでもよろしゅうございます。日本の神々様、どうかお婆さんを欺だませるように、御力を御貸し下さいまし」
 妙子は何度も心の中に、熱心に祈りを続けました。しかし睡気はおいおいと、強くなって来るばかりです。と同時に妙子の耳には、丁度銅鑼どらでも鳴らすような、得体の知れない音楽の声が、かすかに伝わり始めました。これはいつでもアグニの神が、空から降りて来る時に、きっと聞える声なのです。
 もうこうなってはいくら我慢しても、睡らずにいることは出来ません。現に目の前の香炉の火や、印度人の婆さんの姿でさえ、気味の悪い夢が薄れるように、見る見る消え失うせてしまうのです。
「アグニの神、アグニの神、どうか私わたしの申すことを御聞き入れ下さいまし」
 やがてあの魔法使いが、床の上にひれ伏したまま、嗄しわがれた声を挙げた時には、妙子は椅子に坐りながら、殆ほとんど生死も知らないように、いつかもうぐっすり寝入っていました。

     五

 妙子は勿論婆さんも、この魔法を使う所は、誰の眼にも触れないと、思っていたのに違いありません。しかし実際は部屋の外に、もう一人戸の鍵穴かぎあなから、覗のぞいている男があったのです。それは一体誰でしょうか?――言うまでもなく、書生の遠藤です。
 遠藤は妙子の手紙を見てから、一時は往来に立ったなり、夜明けを待とうかとも思いました。が、お嬢さんの身の上を思うと、どうしてもじっとしてはいられません。そこでとうとう盗人ぬすびとのように、そっと家の中へ忍びこむと、早速この二階の戸口へ来て、さっきから透き見をしていたのです。
 しかし透き見をすると言っても、何しろ鍵穴を覗くのですから、蒼白い香炉の火の光を浴びた、死人のような妙子の顔が、やっと正面に見えるだけです。その外ほかは机も、魔法の書物も、床にひれ伏した婆さんの姿も、まるで遠藤の眼にははいりません。しかし嗄しわがれた婆さんの声は、手にとるようにはっきり聞えました。
「アグニの神、アグニの神、どうか私の申すことを御聞き入れ下さいまし」
 婆さんがこう言ったと思うと、息もしないように坐っていた妙子は、やはり眼をつぶったまま、突然口を利きき始めました。しかもその声がどうしても、妙子のような少女とは思われない、荒々しい男の声なのです。
「いや、おれはお前の願いなぞは聞かない。お前はおれの言いつけに背そむいて、いつも悪事ばかり働いて来た。おれはもう今夜限り、お前を見捨てようと思っている。いや、その上に悪事の罰を下してやろうと思っている」
 婆さんは呆気あっけにとられたのでしょう。暫くは何とも答えずに、喘あえぐような声ばかり立てていました。が、妙子は婆さんに頓着とんじゃくせず、おごそかに話し続けるのです。
「お前は憐あわれな父親の手から、この女の子を盗んで来た。もし命が惜しかったら、明日あすとも言わず今夜の内に、早速この女の子を返すが好よい」
 遠藤は鍵穴に眼を当てたまま、婆さんの答を待っていました。すると婆さんは驚きでもするかと思いの外ほか、憎々しい笑い声を洩もらしながら、急に妙子の前へ突っ立ちました。
「人を莫迦ばかにするのも、好いい加減におし。お前は私を何だと思っているのだえ。私はまだお前に欺される程、耄碌もうろくはしていない心算つもりだよ。早速お前を父親へ返せ――警察の御役人じゃあるまいし、アグニの神がそんなことを御言いつけになってたまるものか」
 婆さんはどこからとり出したか、眼をつぶった妙子の顔の先へ、一挺のナイフを突きつけました。
「さあ、正直に白状おし。お前は勿体もったいなくもアグニの神の、声色こわいろを使っているのだろう」
 さっきから容子を窺っていても、妙子が実際睡っていることは、勿論遠藤にはわかりません。ですから遠藤はこれを見ると、さては計略が露顕したかと思わず胸を躍おどらせました。が、妙子は相変らず目蓋まぶた一つ動かさず、嘲笑あざわらうように答えるのです。
「お前も死に時が近づいたな。おれの声がお前には人間の声に聞えるのか。おれの声は低くとも、天上に燃える炎の声だ。それがお前にはわからないのか。わからなければ、勝手にするが好いい。おれは唯ただお前に尋ねるのだ。すぐにこの女の子を送り返すか、それともおれの言いつけに背くか――」
 婆さんはちょいとためらったようです。が、忽ち勇気をとり直すと、片手にナイフを握りながら、片手に妙子の襟髪えりがみを掴つかんで、ずるずる手もとへ引き寄せました。
「この阿魔あまめ。まだ剛情を張る気だな。よし、よし、それなら約束通り、一思いに命をとってやるぞ」
 婆さんはナイフを振り上げました。もう一分間遅れても、妙子の命はなくなります。遠藤は咄嗟とっさに身を起すと、錠のかかった入口の戸を無理無体に明けようとしました。が、戸は容易に破れません。いくら押しても、叩いても、手の皮が摺すり剥むけるばかりです。

     六

 その内に部屋の中からは、誰かのわっと叫ぶ声が、突然暗やみに響きました。それから人が床の上へ、倒れる音も聞えたようです。遠藤は殆ど気違いのように、妙子の名前を呼びかけながら、全身の力を肩に集めて、何度も入口の戸へぶつかりました。
 板の裂ける音、錠のはね飛ぶ音、――戸はとうとう破れました。しかし肝腎かんじんの部屋の中は、まだ香炉に蒼白い火がめらめら燃えているばかり、人気ひとけのないようにしんとしています。
 遠藤はその光を便りに、怯おず怯ずあたりを見廻しました。
 するとすぐに眼にはいったのは、やはりじっと椅子にかけた、死人のような妙子です。それが何故なぜか遠藤には、頭かしらに毫光ごこうでもかかっているように、厳おごそかな感じを起させました。
「御嬢さん、御嬢さん」
 遠藤は椅子へ行くと、妙子の耳もとへ口をつけて、一生懸命に叫び立てました。が、妙子は眼をつぶったなり、何とも口を開きません。
「御嬢さん。しっかりおしなさい。遠藤です」
 妙子はやっと夢がさめたように、かすかな眼を開きました。
「遠藤さん?」
「そうです。遠藤です。もう大丈夫ですから、御安心なさい。さあ、早く逃げましょう」
 妙子はまだ夢現ゆめうつつのように、弱々しい声を出しました。
「計略は駄目だったわ。つい私が眠ってしまったものだから、――堪忍かんにんして頂戴よ」
「計略が露顕したのは、あなたのせいじゃありませんよ。あなたは私と約束した通り、アグニの神の憑かかった真似まねをやり了おおせたじゃありませんか?――そんなことはどうでも好いいことです。さあ、早く御逃げなさい」
 遠藤はもどかしそうに、椅子から妙子を抱き起しました。
「あら、嘘うそ。私は眠ってしまったのですもの。どんなことを言ったか、知りはしないわ」
 妙子は遠藤の胸に凭もたれながら、呟つぶやくようにこう言いました。
「計略は駄目だったわ。とても私は逃げられなくってよ」
「そんなことがあるものですか。私と一しょにいらっしゃい。今度しくじったら大変です」
「だってお婆さんがいるでしょう?」
「お婆さん?」
 遠藤はもう一度、部屋の中を見廻しました。机の上にはさっきの通り、魔法の書物が開いてある、――その下へ仰向あおむきに倒れているのは、あの印度人の婆さんです。婆さんは意外にも自分の胸へ、自分のナイフを突き立てたまま、血だまりの中に死んでいました。
「お婆さんはどうして?」
「死んでいます」
 妙子は遠藤を見上げながら、美しい眉をひそめました。
「私、ちっとも知らなかったわ。お婆さんは遠藤さんが――あなたが殺してしまったの?」
 遠藤は婆さんの屍骸しがいから、妙子の顔へ眼をやりました。今夜の計略が失敗したことが、――しかしその為に婆さんも死ねば、妙子も無事に取り返せたことが、――運命の力の不思議なことが、やっと遠藤にもわかったのは、この瞬間だったのです。
「私が殺したのじゃありません。あの婆さんを殺したのは今夜ここへ来たアグニの神です」
 遠藤は妙子を抱かかえたまま、おごそかにこう囁ささやきました。



「のどかな春の日を鳴き尽くし、鳴きあかし、また鳴き暮らさなければ気が済まんと見える。その上どこまでも登って行く、いつまでも登って行く。雲雀はきっと雲の中で死ぬに相違ない。登り詰めた揚句は流れて雲に入って漂うているうちに形は消えてなくなって、ただ声だけが空の裡に残るのかもしれない。夏目漱石」

「人生は地獄よりも地獄的である。芥川竜之介」

「幸福は弱く不幸は強い。志賀直哉」

「大将というものはな、家臣から敬われているようで、たえず落ち度を探されており、恐れられているようで侮られ、親しまれているようで疎んじられ、好かれているようで憎まれているものよ。徳川家康」

「事を謀るは人に在あり。事を成すは天に在り。軍師諸葛亮孔明」




「by europe123 」
https://youtu.be/N6mykOAclrI 

フィッシングメールと誇大広告。認知症患者の暴挙に、文豪の作品。

フィッシングメールと誇大広告。認知症患者の暴挙に、文豪の作品。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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