「狂ったオルゴヲル」

 お魚ひらひら揺れてます
 揺れる姿は芒でせうか
 風に吹かれる白芒
 あゝ、夕焼けです
 何を火にくべたのだろう
 一つ?
 いいえ二つでせう
 ご覧なさいな
 夜の前に空はこんなに燃えるのです
 赤いゆらぎ
 芒を金魚に変えた
 胡蝶の片羽が金魚のおひれ
 いたましい惨虐の痕
 その滴った血で赤いのだろう
 蝶の羽をもぎって何とする
 誰だ!誰だ!
 うつくしい蝶をなぶるは何処の狼藉者だ
 ほめてやろう
 そして憎しみで殺してやろう

 獣の眼はらんらんと見開かれる
 その眼は闇の中のきいろい月
 病気の月
 まっきいろな濃いい月
 うつくしいものにルージュの苦しみをらくがきする眼だ
 月は細って
 また肥えて
 闇夜に寝静まる気配も無い
 酒も呑まないしらふのままで
 清らかな丘に赤いクレヨンのぐりぐりと
 薄幸の頬に虫も寄らない白い涙をべちゃべちゃと
 ふるえる四肢は
 その網膜にきいろな月を焦げつける
 燃えた
 燃えた
 涼しい南京錠の風鈴の音
 白々しい朝は
 此処に二度と来やしない
 狂ったオルゴヲルは
 ほら、遠くの夜の通りに聞えて…

「狂ったオルゴヲル」

「狂ったオルゴヲル」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-13

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