「哀れな鼠」
震える涙は
真珠の髪かざりとなろう
唇の傷は
火事を呼ばぬ炎となろう
重い肉体は
引力からほどいて軽くなろう
小さな心は
日に照る海原となろう
剝き身の心は
あたたかな衣を知ろう
鼠のやうに全神経を震わせて
鼓動はばくばく脅えています
暴れ馬の無慈悲な鉄の爪に殴り殺されないように
じっと息をおとなしくさせて
瞼の裏でうつくしい景色を見るのです
此処は小さな馬小屋
隅にまりやがいらっしゃる
誰かのお守りであったろう
ちりめんの布の小さなうさぎもようの袋に
すうすう寝息を月夜の横笛のやうにさみしく奏でて
子守唄を聞かせています
哀れな鼠は
明日の月夜を見たいと
それまで生きていようと
今日もさう思えたやうです
ほら、やさしい音色と眠っている…
「哀れな鼠」