浅い眠り
浅い眠りの中で、漂う人影を追っている。
生暖かく甘味があり、少し緑がかって滲むように不明瞭な映像の中で、自分だけがはっきりした役割を何も与えられていない。ただ力無く時間と共に人影を追い、我に復れば所が・季節が移り変わっており、秩序無く登場して来る幼い頃の遊び仲間・古い友人・同僚や、とうに失った調度の品、何となく見覚えのある風景の数々が、捕えようとする掌から擦り抜けるように幾つも眼前を駆け抜けては、こうして広い野に独りきりになり、吹き渡る風の中に佇む。
やがて目覚めて起き上がった時の・温もった・整理のつかない虚脱感。物を眼に焼き付けておくことは案外侘しい。その遣り切れぬ虚脱感も日常の雑事に追われる中で徐々に薄らぎ暫くすればほぼ完全に忘れ去られる。必要に応じて眼を開き、その時に取り込めば良い情報だけですべてが成立する・機能するのであれば生涯この虚しさを知ること無く果てるのだろう。
人は時空を生き抜き、やがては老いて浅い現の中を歩むようになる。肉体の衰えが人生を加速させ、来るべき未来に対する集中力を増大させるだろう。
加速する、乾いた五体は心の臓を目指して漸次凝縮する。
尚一層、辺りは浅い現に霞む。
そうして物思う侘しさが行き場を失う頃、真の眠りは次第に深められて、未知へのベクトルに導かれて行く。
浅い眠り