Border Line
プロローグ ― Life Game Start ―
俺の名前は、枯葉 柘榴だ。高校二年生で、偏差値は55くらいと普通。
そう、普通の高校生(ヲタク)なのだ。
だが最近、俺の周りで奇妙なことがよく起こる。例えば、アレ。
空中に浮いてて、建物をすり抜ける変な犬っぽい化け物。たまに、人を喰ってる。
他にも、今日はいないが、化け物を魔法?で倒してる人。
たまに、化け物に喰われてる。
そして、もう1つ。誰も、この現象に気付いていないということ。
何がどうなっているのか分からないが、このような現象が起こっている。
もちろん、中二病がどうとか、そんなものは無い。
幻聴や幻覚というのも・・・多分、無いはずだ。
この前、大親友の田中君に話したら、
「お前、それ、勉強のしすぎだよwもっと、気楽に行こうぜ!俺なんか、高校終わったら、ニートになる予定だしさww」
と、言って笑ってた。
本当にそうなんだろうか。あと、田中君の将来は大丈夫なんだろうか。
しかし、悩んでいても何も変わらない。だから俺はいつも、あえて無視する。
まあ、あの化け物も、魔法使いも俺を無視するから問題ないんだけどな。
しかし、今回は、そうも行かなかった。
あの化け物を見始めてから、慣れてくるまで、約半年。
ついに、化け物が俺の存在に気づきやがった。
1ターン目、にらんでくる、化け物。逃げる、俺。(全力疾走)。
2ターン目、壁をすり抜けて追いかけてくる化け物。姿を眩ますために、曲がり角を曲がりまくる、俺。
3ターン目、化け物は仲間を呼んだ!化け物B、化け物Cが現れた!枯葉は逃げた!しかし、逃げきれなかった!
「うわああああああああああああああああああああ!!!」
もうゲームオーバーじゃねーかよ!俺の人生!早いよ!もっと楽しみたかった!
化け物AとBとCが睨みつけてくる。もうダメだ。
走馬灯のように、今までの人生が蘇る。初めて見た、アニメ。初めてやった、ゲーム。Gogg○e,Y○hoo,yout○be,ニコニ○動画、なんで、画面の中のことしか蘇らないんだよ!俺の人生って何!
・・・終わった。
そう思った時、絶望している俺の前に、人が、現れた。
やけにかっこいい、ヒーロー。
ではなく、やけにだるそうな、アホ毛で白衣の少女だった。髪は黒く、目が死んでるとまでは行かないけど、だるそう。どう見ても小学生な、その身長には似合わない目をもっている。
それを見て思ったこと。
えぇー。(絶望)
「何だよ!俺の幻覚!せめて、最後くらいもっといい展開にしてくれよ!俺、別にロリコンじゃねーよ!」
先刻よりも絶望しながら、叫ぶと、目の前の少女から声が聞こえた。
「えぇー。私の存在、幻覚扱い?私ってそんなに生気感じない?いや、もう分かってるよ。私、いつもこんな感じだし。1日に10回くらい、大丈夫?生きてる?って真顔で言われたこともあるけど。その時はさすがに泣きたくなったからね。うん。私、大丈夫だから心配しないでほしいんだよ。泣くから、私、メンタル弱いから。別に、死なないし。生きてるし。」
えぇー。(困惑)
何これ?幻覚?幻聴?確かに、最近不健康な生活送ってきたけどさ。
何これ、死ぬ間際で愚痴聞かされるって何これ?
「おーい。聞いてる?無視するの?泣くよ?私、無視されると泣いちゃうよ?・・・あれ?やっぱ無視するの?ほら、今、私、涙目だよ?・・・無視しないで、お願いだから。・・・グスッ・・。ううぅ・・・。」
えぇー。(困惑、2倍)
何これ?というか、化け物がまだ睨んでるんですけど。よし、選択肢を考えよう。
1.逃げる。2.化け物に立ち向かう。3.少女をなぐさめて、助けてもらう。さて、予測してみよう。
1の場合。化け物と少女のダブルパンチ。ダメだ。死ぬ。
2の場合。おりゃー。がぶっ!ぎゃああああ!ダメだ。死ぬ。
3の場合。無視しないから助けて!うん!てやー。がぶっ!・・・。
「全部、だめじゃねえかあああああ!!」
「・・・グスッ・・。やっと・・反応してくれた・・・」
えー。これ、3のルートに行ってる?もういいや・・・どうにでもなれ。
「無視しないから助けてください。いや、本当に。」
「・・うん。約束するならいいよ。助ける。」
とりあえず逃げる準備しとくか、と思っていたが、しかし、その必要は無かった。
なぜなら、化け物が、切り刻まれたからだ。一瞬で。
俺は驚いたが、考えてみれば簡単なことだった。非常識的なことではあるが。
おそらく、この少女も魔法使いなのだ。だが、何をしたのかは、見えなかった。
化け物は灰に変わり消えていった。それを見ていたら、少女が話しかけてきた。
「私は、『Υ』三番隊、『鸚鵡』の隊長、影色 桜霧。あなたを勧誘するために来た。私と契約して、『鸚鵡』の隊員になってよ。」
えぇー。(困惑、180倍)
というわけで、俺は助かった代わりに、普通に人生を楽しめなくなった。
第一章 ― Border Line ―
今、俺は、よく分からないところを歩いていた。助けてくれた少女と一緒に。
最初、俺たちは街中にいたはずだ。なのに、何の予兆も無く、急に、見渡す限り真っ白な世界に訪れていた。ほんとに何も無い。地面も空も、前も後ろも右も左も、全て真っ白な世界に来ていた。魔法はよく分からん。
「あの~。影色・・ちゃん?」
「隊長と呼べ。カレハ、お前は隊員なんだから。」
小さいのに偉そうだなこの子。まあ、俺は別に気にしないタイプだからいいけど。
というか、隊員になった覚えないし。でも、一応隊長って言っとくか。
めんどくさいことになるよりはマシだろう。
「じゃあ、影色隊長。ここはどこですか?」
「本部。もしくは、境界線。」
うん。なるほど、分からん。本部はまだいいとして、境界線って何の境界線だ。
中二病設定でいくなら、魔界とかあの世とかその辺だろう。
まあいいや。考えるのめんどくせぇ。
ぼーっ、としていたら影色隊長は、歩くのを止め、話しかけてきた。
「カレハ、着いたよ。」
「着いたって何にですか?」
「本部。もしくは、境界線。」
前を見ると、色は無いが、形のある建物が建っていた。めっちゃでかい。
目測で、高さ700m、横に2kmほどあるだろう。適当だけど。
「とりあえず、入って。」
「入ってってどこにですか?扉、どこにも無いですよ?」
「うん、扉は無いけど、入れる。壁にぶつかればいいんだよ。ハリー・○ッター的なアレだから安心していい。」
なるほど、魔法か。納得。
とりあえず、壁に向かって手を伸ばすと、すり抜けた。
半分、関心。半分、不安。という感じだ。しかし、隊長が普通に入って、先に進んでしまったので、慌てて入っていった。
抜けると、普通の建物になっていた。色がある。物もある。人がいる。
部屋が多いところを見ると、いかにも本部という感じがする。
その中をさらに歩いていった。
*
「影色隊長~。どこ行くんですか~?」
もう本部に着いたはずなのに、まだ歩いているから、質問した。
「ん、3番目に偉い人のところ。許可を貰いに行くから、急いでついてきて。」
なるほど、確かに許可は要るだろう。しかし、疑問があったから、聞いてみる。
「なんで急ぐんですか?」
「疲れたから。お菓子食べたいから。その他いろいろ。」
「キャンディーありますよ?」
「本当に?わーい!あとでちょーだい!」
「え!あぁ、別にいいですよ。」
意外だった。可愛いところあるじゃないか、目はだるそうだけど。
「さあ!着いたよ!3番目に偉い人の部屋!」
うん、確かにそんな感じの部屋だ。扉が無駄にでかい。扉を観察していると、隊長が、思いっきり扉を蹴った。バゴン!といういやな音がして、扉が開く。
「何やってるんですか!隊長!」
「いや、だってさ、ムカつくんだもん3番目のくせに偉そうだから、アイツ。」
「・・・隊長は何番目にえらいんですか?」
「12番目だけど・・・」
「・・・・・・・行きますよ。」
「・・・・うん」
なぜか立場が逆転してた。が、気にせず、部屋に入る。
中はすごく殺風景で、白い部屋に机と、いすがいくつか置いてあるだけだった。
そして、机の前に人が立っていた。背が高く、年はおよそ5、60歳くらいだろう。葉巻を吸っている。なんとなくヤクザっぽい。
そして、俺たちを確認すると、葉巻を手のひらに押し付けて、話しかけてきた。
「よぉ!よくきたな、ちびっ子!あと・・あんた誰だっけ?俺の知り合い?」
雰囲気のわりに、声は軽い感じだった。なんとなくだが、良い人って感じがする。
「・・・えっと多分初対面だと思いま」
「こいつはカレハ!私の部隊の新入り!許可貰いにきただけ!終了!」
隊長が割り込んできた。どんだけ早く終わらせたいんだこの人。
「なるほど。ああ、いいぜ。許可する。」
「早っ!!」
「あぁ、でもカレハくん・・だっけ?お前はまだ残っていてくれ。ちびっ子はもうかえっていいぞ」
「ちびっ子って言うな!私は影色桜霧だ!」
そういい残して、帰っていく。これが隊長クオリティー。普通だったら、名前をちゃんと呼ばなきゃ絶対に帰らないもん!とかそういうのあってもいいと思うのだが。会って2時間もたってないのに分かりやすい子だなと思った。
まあ、それは置いといて話に戻る。
「あーカレハくん?お前、あのちびっ子から何か話を聞いたか?あー、いや、警戒しなくてもいい。別に、知ってもらっちゃ困る秘密なんかは特には無いからな。
逆だ、逆。何も知らないっていうのが一番困るから聞いただけだ。」
「えーっと、何も知らないです。知ってるのは、魔法のようなものと、変な化け物。あとは、それに気付いてる人が全然いないってことくらいです。」
「なるほど。じゃあ、1から説明しておこうか。」
この後、話は続いた。それはもう、とっっっっっっても、・・・・・短く。
1,2分くらいだった。1から説明してもらったはずなのに。
話によると、この世界は、『Xworld』とかいう場所と俺たちが住む人間界の境界らしい。『Xworld』は簡単に言えばあの世。正確には、人間界の終焉の姿と言っていた。
そこを隔てているのが、『Y』、ここである、らしい。
そして、それを良いものと思っていない連中がいるらしくその連中と戦うために魔法が使用されている。魔法についての説明は、後で隊長から聞けといわれた。
化け物はその連中(『∑』と言うらしい)が使っているようだ。
俺が襲われたあの化け物は、探査用で基本戦闘能力は無いらしかった。
そこまで聞いたところで話を終わらせようとした。が、まだ聞いてないことがあったから尋ねた。
「あの、何故俺たちは化け物や魔法を認識できて、一般の人は認識できないですか?」
「ああ、いうのを忘れていた。まあ、それも魔法の一種と考えてくれればいい。
この世界も同じなんだが、基本的には、魔力のある人にしか見えない。」
「じゃあ、俺は魔力があって、魔法も使えるんですか?」
「まあ、例外もあるからなんとも言えないが、おそらく、というか、あのちびっ子がつれてきたんだから使えると思うぞ。もういいか?あとはちびっ子が教えてくれる。魔法に関しては俺よりもあのちびっ子のほうが詳しいからな。」
「はあ、なるほど。ありがとうございました。」
「いや、礼には及ばん。ここから、右にずっと行けば三番隊の部屋がある。そこへ言ってみればいい。」
「分かりました。そういえば、名前なんでしたっけ?」
「ああ、まだ言ってなかったな。十道 月歩だ。さあ、話は終いだ。じゃあな」
十道という苗字に若干違和感を覚えたが、気にせずに、ありがとうございました、と言って部屋を出た。
*
言われたとおりみぎにずっと進む。すると扉があった。扉には十字架がデザインされている。しかし、デザインの感じがアレだった。
「・・・・うわぁ、中二病だぁ・・・。」
軽く引きながらも扉を開けると、そこには人が2人いた。一人は隊長。そして、もう一人は灰色の髪に、猫目、灰と黒のカッターシャツ、そして、六角形のペンダントをつけた、・・・どこか見たことが・・・・クソ!見覚えがある!何故だ!
「何故ここにいるんだ!Luck!・・・・・あ。」
思わず叫んでしまった。隊長は驚いたのか目を丸くして、涙目になっている。
そして、俺が出来れば会いたくなかったランキング一位に指定してる、中学生のころの友人(俺は人生で友人が2人しか出来ていない)十道 幸多(あだ名はLuck)は、一瞬驚いた後、蔓延の笑みを見せてきた。
「やあ!新入りって柘榴のことだったんだね!久しぶり!僕の唯一の友人!」
「十道っていう苗字を聞いた時から、違和感あったんだよ!嫌な予感したんだよ!予想的中しちゃったよ!・・・・はぁ。」
「どうしたんだい?柘榴。もしかして、高校が別になったせいで、また友達が0になった?安心してよ!僕も友達いないから!」
「はっはっは!残念だったな、Luck!俺は高校で友達を作ったぞ!」
「へー、よかったじゃないか!柘榴!で、その友達はどんな変人なんだい?」
「俺の友達は変人確定かよ!まあ、変人だけど。」
「あのさー、私を無視しないでよー。どういう状況なの?これ。」
「すいません、隊長のこと忘れてました。」
「え!何それ!ひどい!」
「桜霧ちゃん、安心していいよ。僕もよく無視されるから。」
「うるさい!十道!なれなれしくするな!あとお前と一緒にするな!腹立つ!」
「それ、ひどくないですか!?理不尽でしょ!」
「諦めろ、Luck。お前はそういうやつなんだよ。」
「何その運命!僕は絶対諦めないからね!諦めないからね!大事なことな」
「ところでカレハ~。」
「何ですか隊長?」
「かぶせるな!言わせろ!最後まで!」
「ん、じゃあ言っていいよ。はい」
「いや、そう言われ」
「カレハ~、アメちょうだい~」
「はい、どうぞ。」
「言わせろおおお!かぶせるなああああ!」
「カレハ、助けて、十道が怖い。」
「おい、Luck!お前ロリコンだからって興奮してんじゃねーよ!」
「違うだろおおおお!確かに僕はロリコンだけど、それは違」
「あ、そうだ!隊長!魔法について教えてください!」
「えー、まあ、アメ貰ったしいいか。」
「・・・・・・・もういいよ。」
「どうした?Luck、なんで体操座りなんてしてんだ?」
「・・・・・・・だって、柘榴も桜霧ちゃんもいじめてく」
「魔法についてだけど、まず、魔法って言うのは簡単にいえば能力みたいなものなんだよ。個人個人で使うものも違ってくるし、まず、属性が違う。」
無視して説明を続けた!隊長、メンタル弱いから、いじめると強い!Lackが少し可哀そうに思えてきたから、体操座りしていたほうを見る。しかし、いなかった。どこにいるか探していたら、普通に正面に立っていた。
「属性は12種類あって、まず、四元素の火、水、風、地、次に、製造系の電、熱、樹、無、最後に異能系の光、闇、空、人があるんだ。ちなみに隊長は闇、僕は人だ。人は世界に13人しかいなくてレアなんだよ!」
「Luck、復活早ッ!」
「3秒落ち込めば、前向きになれる!」
「ところで、説明の続きなんだけど、まず、カレハがどんな属性なのか知る必要があるんだよ。属性が分からなければ、使える能力も分からないからね。」
「どうやって調べるんですか?」
「紙を使う。」
「紙?」
「私が開発した紙。今までは、適正実験とかいって散々やり続けてきたけど、長いし無駄も多かったから、私が簡単に調べれる紙を作った。」
「すごっ!隊長って意外に天才なんですね。」
「意外には余計だよ!」
「ところでどうやって使うんですか?これ。」
「紙をくしゃくしゃにして、広げる。それだけ。」
「なるほど。すごく簡単ですね。」
言われたとおりに紙をくしゃくしゃに丸める。そして広げると、風車のようなかたちが見えた。
「うーん、これは風だ。柘榴、残念だったね。レア度でいくと星3くらいだ。」
「大丈夫だよ、カレハ!たとえ星1でも、使い方しだいでは星5に勝てるのが魔法ってやつだから!」
「で、技ってどうするんですか?」
「それは、明日でいい。あ、武器決めといてね!四元素は武器が要るから!」
「分かりました。・・で、今日はもう帰っていいんですか?」
「あ、いや、まず基本魔法を教える。反転と透過、あと魔力の使い方。まずは、はい、カード。生徒手帳みたいなものだからもっててね!」
渡されたのは、黒いカードだった。表には10:00と書かれていて、裏にはゲージのようなものがある。
「まず、そのタイマーは透過できる時間。透過って言うのは、他の人に見えなくすることを言います。それを使えば、一般人や物を壊さなくてすむ。」
「なるほど、それであの現象を起こしてたのか。」
「起動方法は、カードをかざして、詠唱すればいい。言葉は自分で設定できるから。3文字以上なら何でもいいんだよ。『あああ』とかでも。」
「なるほど・・・よし、決めた!」
「早っ!柘榴ってそんなに決めるの早かったっけ?言っとくけどこれ、変更不可だよ?」
「大丈夫だ、問題ない。」(ドヤ顔)
「あと、反転は人間界と境界線を行き来する呪文で、基本、一人じゃ出来ない。いや、出来るけどやらないほうがいい。理由は、境界のどこに行くかわからないから。あの時は、カレハのイメージが無かったから本部から離れたところに着いた。1人でやると、大抵、本部まで2,3時間かかる。」
「じゃあ、一人のイメージなのに数十分で着いたのは運がよかったんですね。」
「どっちかというと、奇跡に近い。で、起動方法は、2人の片方がイメージして、2人ともが目を瞑ると移動できる。あ、でも、帰る時は一人でもできる。」
魔法は意外と簡単に出来るものなんだと思った。結局はイメージすればできるということだろう。
「で、最後に魔力の使い方だけど、まあ、イメージが基本だ。魔力の流れ、動き、大きさ、強さ、ほとんどはイメージで決まる。まあ、他にも体力とか精神力とかいろいろあるけど、基本はそれだけ。」
「柘榴なら簡単にできるよ!中二病はイメージが得意だかガハァ!」
一瞬で、拳を腹にめり込ませる。そして、Luckがうずくまる。
「アッハッハ!面白いことを言うな、Luck!・・・・死ぬぞ?」(笑顔)
「ごめんなさい。」
即答したLuckを視界からはずすために横を見ると、隊長がおびえていた。
「隊長?大丈夫ですよ。アハハハハ」
安心させるために笑顔のままで言ったらさらにおびえられた。なぜだろう。
「え、えーっと。まあ、こんな感じで。魔力のイメージはできるようにしておいてね。明日、カレハの家に行くから。その時に、技とかいろいろ決めよう」
「え!家にくるんですか!?」
友達が田中君しかいないから、部屋に人を呼ぶ準備は出来ていない。と言うより、結構散らかっている。片付けるのがめんどくさい。だから、断ろうと口を開いたら、隊長が「・・だめ?」と、上目遣いで見てきた。さっきまでずっとだるそうだった目を開き、きらきらと輝かせて。・・・・・反則だろ、これ!断れるわけねーじゃん!いや、俺、別にロリコンじゃねーけど。じゃねーんだけど!・・・無理だ。断れん。ていうか、何故そこまで俺の家に行きたいのか分からんけど。
「いや、いいですよ。でも、部屋散らかってますけど・・」
「大丈夫だよ!私の部屋も散らかってるし!全然気にならないよ!」
「柘榴の散らかってるって細かいんだよね。床歩ければ十分片付いてるって言えるのに」
「頼むから、いろいろ残念なお前の基準で比較しないでくれ。っていうか、Luckはともかく、隊長は俺の家知ってるんですか?」
「知ってる。」
「いつのまに!?」
「私の家の裏だった。回覧板にのってる」
「近所だった!」
「じゃ私、帰る。そろそろ5時だし」
「なら、俺も帰ります」
「そういえば一日先輩こなかったよね、桜霧ちゃん」
「ツイタチは今日は学校の居残りがあるって言ってたから。あと、隊長と呼べ」
「一日さんって誰ですか?」
「我が三番隊『鸚鵡』のメンバーであり、副リーダーの、一 日向だ。まあ、それは置いといて、明日は土曜日だし、朝の10時に行くね。」
10時って早くないか?いや、でも普通遊ぶのはそれくらいなのかも知れない。
友達がいないって、いろんな面で不便だな。
しょうがない。今日やる予定だった名作ゲームはやめとくか。
さようなら、メタル○ア。まあ、たまには早く寝るのもいいだろう。
「じゃあ、明日の10時に来てください」
黒いカードを手に取り、目を瞑る。
何も感じなかったが、目を開くとそこは、自分の家だった。
魔法を使ってる実感がそこにはあり、わくわくしてる自分もそこにいた。
第二章 ― Magic Battle ―
今日、不思議な出来事がとてもあった。
変な化け物ににらまれたと思ったら、近所に住んでるらしい、白衣の少女に助けられて、気がついていたら、異世界に連れて行かれて、歩いたら、やけにでかい建物があって、そこに中学校のころの友人がいて、俺は魔法を使える素質がある人だと知らされて、急に家に訪問される予定つくられて、・・・・・・はぁ。
「・・・・・武器、どうしよう・・・」
武器を決めておけと言われて、俺は困っていた。
武器が、ありすぎて。
普通の家には、そう武器なんて無いだろう。しかし、俺の家は、武器がものすごくある。父親がよく出張に行くから、護身用の銃や、旅先で貰った、様々な武器があるのだ。しかし、父親は、いらないと言うので、代わりに俺が貰っている。
もし、この家を見られたら、十中八九、銃刀法違反で捕まる。
しかし、所詮は貰い物。そこまで良いものがあるわけでもない。探してみるが、重たそうな銃ばかりで、ハンドガンも・・・・そういえば、デザートイーグルがどっかにあったな。探すか。
ゴソゴソ、かチッ、「うわっ!」、バン!、パリーン!、「・・・・はぁ」
見つけたが、部屋に硝煙が・・・・・・もういやだ。
そう思ってると、父親が部屋に来た。まあ、銃声がしたら来るに決まってるよな。
「柘榴、何してるんだ?」
「んー、武器探してる。」
「あー、じゃあ、これやるわ。剣型、魔除けのお守り。」
「いや、いらないけど。何それ、お守り?武器じゃないじゃん。」
「安心しろ。これは、父さんの友達が作った物だ。神話に出てる、レーヴァテインを・・・いや、違ったかな?エクスカリバー、いや、やっぱレーヴァテインだった気が・・・・」
「どっちでもいいよ!」
「あー、多分レーヴァテインであってる。それをモチーフに・・・いや、参考につくったものと言ってた。つまり、これは、多分、微妙にすごい剣の形をしたお守りと言うことだ。というわけで、これを使え。」
「いや、そんな微妙な、武器でも何でもないもの、使わないよ?」
「安心しろ!これは殺傷力0だから、絶対に捕まらない。つまり、警察におびえる心配は無いということだ。あと、魔除けだから、運もおそらく良くなる!」
「分かった。一応、貰っとく。部屋に飾るよ。魔除けだし。」
「ああ。それなら問題ない。」
・・・・使わなくてもいいんだ。
父親は、満足したのか、そのまま帰っていった。
・・・・飾るか。よくみると、なかなか綺麗な剣(お守り)だ。重たいけど。
壁に飾ると、俺は、寝ることにした。武器は銃を見つけたから、もう十分だろう。
*
翌朝、土曜日ということもあり、寝過ごした。
朝、10時、起床。
「・・・・やべぇ!」
一階に降りて急いで着替える。そして、昨日忘れていた掃除をしようと二階までの階段をかけ上がったところで、ピーンポーンとチャイムが鳴った。
「・・・・タイムオーバー。」
しょうがない、居間に呼ぶかと思ったが、やめた。よく考えたら、今日、家族が昼に帰ってくる。汚い部屋に人を呼ぶか、変人や少女と仲が良いということを家族に知られるか、天秤にかけたら、ものすごい勢いで後者が下がった。気を落として、扉を開ける。
すると、アホ毛で白衣の少女と、カッターシャツの変人がいた。
「・・・・・いらっしゃい。隊長。」
「僕は!?」
「どーした?カレハ!元気ないじゃん!もっとシャキッとしようぜ!」
「・・・・・は?」
今の誰だ!あれ!?隊長はもっとだるーんとしてた気がするんだけど!
「じゃあ、早速入れさせてもらうよ!お邪魔しまーす!」
「Luck、今のだれだ・・・?」
「桜霧ちゃんだけど。」
「だよな・・・・俺の知ってる隊長じゃないんだが。」
「それはオレが説明するッス!」
「誰!?」
後ろに背の高い男性が立っていた。茶髪で、フードをしている。にもかかわらず、クセ毛が半端ないのが分かる。
「自己紹介してなかったッスね。オレは一 日向ッス。副リーダーッスけど、
まぁ、普通にため口で接してくれると嬉しいッス。」
なるほど、一日さんか。
「よろしくおねがいします。一日さん。」
「一日じゃなくて日向ッス。あとため口でいいッス。」
「よろしくおねがいします。一日さん。」
「・・・・・・・」
「説明してくれないんですか?」
「ああ、隊長は多重人格なんスよ。だるそうな時がデフォルトで、好戦的な元気の良いとき、冷静で天才的な時、あと稀に純真無垢なときがあるッス。それぞれ、
5:2:2:1くらいッスね。」
「なるほど。じゃあ、今回は好戦的で元気な性格なんですね。」
「カレハ?入るよ?」
「あぁ、いいですよ。二階に行ってください。」
もう、部屋が汚いことは諦めるか。一応、スペースはあるし。
*
「おー、ここがカレハの部屋かー」
「なんで、俺より先に入ってるんですか?隊長」
「柘榴の部屋、思ってたより綺麗だね。どんだけ掃除がんばったんだ?」
「掃除はしてない。忘れてた」
「デフォルトでこれなんだ!僕の部屋の386倍綺麗じゃないか!」
「いや、もう、本当に、お前と比較しないでくれ!」
ぞろぞろと部屋の中に入って行き、それぞれ、適当に座った。
「ところで、本日の用件はカレハが魔法を使いこなせるようにすることだった気がするけど、武器選んだ?」
「はぁ、一応選びましたけど・・・」
「何選んだんだ?柘榴」
「デザートイーグル」
「何それ?」
「銃だよ、ハンドガン。家にある武器で多分一番強いと思う」
机の上に置くと、隊長が興味を持ったのか、手に掴んで見てた。
「危ないですよ、隊長。それ、セミオート改造してありますから」
「エアガンなのに本格的ッスね」
「えーと、エアガンじゃないです。本物です」
「へー、これ本物なのかー・・・・本物!?」
急に隊長がでかい声を出すから、びっくりした。
「だから危ないって・・・」
「いやいやいやいや、危ないってレベルじゃないっていうか、銃刀法に・・・」
「引っかかりますよ」
「だよね!やっぱそうだよね!で、何で持ってるの?!」
「親が、そういう職業なので・・・」
「へー、ここってそんな家だったんだねー・・・」
なんか、距離が遠くなってない?心の。
「まあ、それは置いといて、武器、どうすればいいんですか?」
「ああ、改造する。ちょっと貸して!」
言われたとおりに、渡す。すると、急に銃に油性ペンで描きはじめた。
「何やってるんですか?落書きしないでくださいよ・・・」
しかし、無視して描き続けている。反応が無いので、ずっと待ってると、急に「できた!」といい、銃を渡された。
「これに、魔力をこめて!」
「いや、魔力って言われてもわかんないんですけど・・」
「銃に魔方陣を焼き付けるイメージをすればいいッス!」
なるほど、イメージね。
イメージ。魔方陣を、焼き付ける、イメージ。魔法を、想像。想像。創造。
創造する、イメージ。イメージ。イメージ。イメージ。イメージ。―――。
「もういいってば!柘榴!」
「・・・・・・・は?・・・アレ?」
なんか、無の領域に入っていた。銃を見ると、確かに変わっている。
魔方陣が、手で持つところの近くに書かれてるし、銃口が異様にでかい。
「どうなってんの?これ」
「一発撃ってみれば属性も性質も性能も全て分かるんだけどね」
「じゃあ、撃つわ」
「いや、せめて透過してから撃てよ。部屋がボロボロになることが見えてる」
「そういえば、カレハは呪文何にしたの?」
「じゃあ、いくぜ!パーフェクトエフェクトインビジブルロックホーリーフィルターインビジブル!!」
「長っ!しかも、インビジブル二回言ってるし!」
「・・・・・・・・あれ?なにもおこらない?」
「ああ、言うの忘れてたけど、3文字以上6文字以下だから」
「今頃っ?!うーん、じゃあ、フィルタ、オン!」
「インビジブルじゃないんだ!」
「本当は15文字ッスけど・・・まあ、いいか」
足元に小さい円ができ、広がって周りを次々と覆っていき、町を歩いていた人は見えなくなった。
「おお、これはすごい」
「これをつかうと、壁とか破壊しても、現実には影響しなくなるんだよ!」
「いや、よく分からないんですけど・・」
「透過が終わったら、壊したものは全て修復されてると考えればいいッス。ただ、これを使うと、魔力が干渉していない武器は使えないッス。例えば、銃だったら引き金が引けないみたいな、・・・あ、あと、範囲は基本100m以内ッス」
それは透過というより結界なのでは?と思ったが、めんどくさいので無視した。
「剣とかハンマーだったらどうなるんですか?」
「そういうのは、掴むことが出来ないッス」
「あれ?じゃあ、なんでこれは普通に持つことができるんだ?」
お守りである。剣の形をした、殺傷力0の。
「多分、魔力の干渉を受けたんだろうね。魔法陣が無いのが気になるけど。武器として使ったら?神の贈り物かもよ?はははは」
「いや、多分あれ、魔力をもってないッス。逆に、魔法から影響を受けないみたいな物なんじゃないッスか?」
「うん。魔法関係ないし、殺傷力ないし、武器じゃないし。使えないな、これ」
「まあ、それは置いといて、銃を撃ってみたら?僕の予想だと、柘榴は風だから、性質は『災害』か『切断』だと思うよ」
「説明すると、災害は全体攻撃、切断はそのまま、切断攻撃って感じだよ!」
「よし、撃つぞ!」
引き金に指を引っ掛ける。銃弾は抜いたから、普通なら何も無いはずだが、魔法が存在することは俺のなかで確定している。
どうなるのか、ワクワクしつつ銃を壁に向け、引き金を引いた。
すると、まるでレールガンでも撃ったような音が響き、急に、風が、いや、暴風が吹き出した。そして、撃って弾があたった場所に、集まり、球体になった。
「おお!・・・・・・ん?・・・・・何これ?」
集まって、・・・・・・集まった・・・だけ?何も起こらない。
はっ!そうか、力を溜めてるんだ!
「爆ぜろ!ストームブラスト!」
「もう技名つけたの!?早っ!」
そして、風が収縮されてできた球がはじける。その衝撃で壁が砕けた。
「おお!・・・・・でも、範囲狭っ!」
「・・・・・どうゆうことなんスかね、影色隊長?」
「うーん、私の推測だとおそらくアレは、狭い範囲で吹っ飛ばす、『打撃』系の魔法だと思うけど。着弾時に発動して、おそらくはじけさせるタイミングは自分できめれる。でも、力を蓄積してるとか言うのは、無いと思うよ!」
「つまり、微妙な能力ってことだね!ドンマイ!柘榴。はははは」
・・・・・えぇー。なにこれ。マジで微妙すぎる・・・。
「大丈夫だよ!おそらくだけど、多分、やろうと思えば、応用できるはずだから!」
「いや、でもそれ、微妙ってことッスよね」
「・・・・・・・・うん」
「いや、でも隊長言ってましたよね!想像力で強さは何とかなるって!」
「あ、それは属性の話であって、強さとは別なんだよ・・・・ハハハ」
「チクショオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
*
結局、どうしようもなかった。
そのまま時は過ぎ、みんな帰り、俺は、一人ボーッ、としていた。
時計の音がカチ、カチ、と響く。もう外は真っ暗だった。
「このままでも仕方ないな。とりあえず飯食うか」
今日、家族が帰ってきたと思ったら、またどっかへ行ってしまった。
父は出張、母は仕事、姉はいるが、部屋に籠もってる。大方、最新作のゲームでもやってるのだろう。あの、中二病ゲーマーめ!
そう思っていたら、ある異変に気付いた。つかもうとした携帯が触れなくなっていた。すり抜けて掴むことができない。
「・・・・・これは・・?」
そうだ。透過だ。誰かが使ったのか?
可能性としては、三つ。
1、誰かが、他のヤツと戦うために使った。
2、誰かが、俺と戦うために使った。
3、俺が、ミスって使った。
「まあ、3つ目はないだろうから、1か2だな」
1だったら、無視すればいいが、2だったら、非常にまずい。
なんせ、まだ俺はあの微妙な能力しかもっていないのだから。
しかし、2の可能性のほうが高いのも事実だ。
先日、魔力を探知する偵察化け物が3匹殺されて、その上、今日、魔法を使い慣れた者が3人も集まっていたのだから。
そう思った瞬間、壁がぶっ壊れた。おそらく、というか、絶対俺を狙いに来てる。
「・・・・絶体絶命。・・・・・逃げるが勝ちだ!」
逃げた。偉い人が見たら、なんと無様な、と嘲嗤うだろう。
しかし、俺はこのような自論を持っている。
『あらゆる物事には適任者が必ず存在する。無理をする必要は無い。』
・・・分かってるよ!そうだよ!結局は他人任せだよ!
でも、逃げる。銃を持ち、壁に向かって引き金を引く。
「ストームブラスト!」
壁が吹っ飛ぶ。すると、土煙が舞った。その隙に、移動する。
視界が見えない状況では、俺のほうが有利だろう。
なんたって地の利がこちらには存在してるのだから。
しかし、その余裕は一瞬で消えた。土煙が吹き飛ばされたのだ。
「・・・・クソッ!だれだ!」
土煙を吹き飛ばした風の出所の方向を見ると、少年が立っていた。
白髪に近い灰色の髪に、ゴーグル、左目は、髪に隠れている。背は俺より少し低いという感じがする。
「ボクは柊。君と同学年だね♪まあ、歳でいくと1歳ボクが下だけど♪」
「・・・何故、俺を知っている?俺はお前と会った覚えが無いんだが」
「ボクだって初めて君の顔を見たよ。知っているのはボクの上司が教えてくれたから♪ずっと魔力を持っているくせに、何故か名簿表に上がらなかった人間とね」
「名簿表?何を言ってるんだ?お前」
「おっと、口が滑っちゃった!アハハ♪」
・・・・絶対わざとだ。・・・・俺を悩ませて楽しんでやがる。
「まあいいや。お前は何故、俺を狙う」
「あれ?柘榴クン思ったより自意識過剰なんだね!」
「じゃあ、狙ってないのか?」
「いや、戦ってみたいなーと思ったから、攻撃しただけだよ?」
「お前絶対、俺を混乱させて楽しんでるよな!」
「うん♪」
即答だった。マジで腹立つ!が、絶対負ける気がしたから、逃げることにした。
「あ!ちょっと!逃げないでよ!」
ハッハッハ!ざまぁみやがゴブッ!
「痛ぇ!!超痛い!」
走りながら余裕こいてたら、何か壁のようなものにぶつかった。
「あーあ。今、結界魔法使ってるから、半径50m以内からは逃げれないのに」
100mって直径だったのか・・・。・・・しょうがない。
「クソ!こうなったら戦ってやるよ!この野郎!」
「アハハ、そう来なくっちゃ♪」
くそ、俺の直感は当たるんだ。そして、俺の直感はこう告げている。
絶対負けると。
ただ、逃げれない以上、戦うしかない。
「そうだ!ルールをつけるぞ!殺すのは無しな!」
「えー、ガッカリだなー♪ビビリすぎだよ、柘榴クン♪」
「・・・いや、これはお前を助けるために設けたルールだ!ビビったわけではない!・・・・・さっきまで逃げてたのも、そのためだ!」
クソ!こうなったらとことんハッタリかましてやる!想像力と設定作りなら勝つ自信がある!・・・言っておくが、中二病ではない!
しかし、そのハッタリが裏目に出た。
「そうなんだ・・・。じゃあ、本気で行かないと、ねっ!」
空間がゆがみ、柊の手元に3m以上の大剣が現れる。身長の倍はあるだろう。
「『武器創造』これがボクの魔法だよ。言っておくけど、ボクは最弱の『無』属性だから、手加減してね♪」
そういうと、大剣を振り回してきた。範囲がものすごく広い。
「・・・・ふ、ふざけんなあああああ!」
俺は走った。全力疾走。ヤバイヤバイヤバイ!あれで最弱とか、俺のはどうなるんだ!・・・ 1いや、しかし、この銃でも使い道はある!
「あれ?逃げてばっかしだね♪」
「目に物見せてやるよ!」
銃口を地面に向け、連射する。風が吹き荒れ、球体が出来る。
「爆ぜろ!」
球体が弾けて、地面が壊れる。すると、柊は、バランスを崩し大剣を落とした。
今だ!と思い逃げようとしたが、失敗した。今回は、マジでビビったのだ。
柊がヴァルキリー(追尾ロケットランチャー)を2丁持っていたからである。
「・・・・それって、そうやって持つものだったっけ?」
ピッピッピという音が、止まり、完全にロックオンされた。
「アハ♪まあ、普通は違うかもね♪」
そういうと、躊躇い無く引き金を引いた。バシュッ!という音がなる。
確かに、銃なら、近づく必要はないし、地面を崩しても意味は無いだろう。
しかし、実は俺、集中力が半端ない。
集中すれば、直線で向かってくる、銃弾程度なら、狙える!
「爆ぜろ、ストームブラスト」
撃たれた追尾ミサイルは爆破した。
「ワオ♪」
驚いたように見ている。見返してやったような気分だ。嬉しい。
しかし、すぐに相手は持ち直す。銃は、無理だと判断したようで、今度は、太刀だ。おそらく、無理な重さでバランスを崩さないためだろう。
案の定、地面を破壊しても、ジャンプして飛び越えた。範囲が狭いというのは、なかなか辛いものだ。
そこで気付いた。銃の別の機能に。
「あ、アレ?なんだこれ?」
銃に、ダイヤルのような物がついていた。1,2,3,4,5、と書いてあり、
最後に、Χと書いてある。今は、おそらく、3だ。それを、1に変えると、銃口が細くなった。
「何やってるのかなっ!」
太刀で斬りかかってきた。だが、それを、間一髪避ける。そして、1に設定した銃を撃った。すると、暴風は吹き荒れなかったが、疾風と言うべきだろうか。
物凄い速さで、風の弾が飛び、太刀を貫いた。
「すげぇ!・・・痛ぇ!」
ただ、反動が半端ない。数字を小さくすると、弾が細く早くなり、数字を大きくすれば、弾ける時の、範囲が広くなるのだろう。
それを確かめるために、数字を5に変える。すると、銃口が広がった。
「太刀が砕かれるなら、鈍器だね♪」
ハンマーを思いっきり振りかぶってきた。撃つと、球体にはならず、ハンマーを覆うように風が吹いているような気がする。見た目では分からないくらい薄い。
「爆ぜろ!」
すると、ハンマー全体が反れた。範囲は広いが、威力は弱いのだろう。ハンマーに傷は無い。だが、避けることはできた。そこで、一発、撃っておく。
「ハンマーも銃も剣も太刀もダメなんだ、すごいんだね。その能力♪」
「追い詰められているのに気付いていないのか?何故、そんなに余裕なんだ?」
「残念ながら、まだ序盤だよ♪メインはこれからさ」
また、手元の空間がグニャリと歪み、今度はレールガンが出てきた。
「レールガンは流石に狙えないよね♪」
「うん、無理だ・・・・・絶対無理!」
そう叫ぶと同時に撃ってきた。異様な音がし、亜音速で空間を蝕む。
だが、俺は避けれた。先刻撃った一発の弾を弾けさせたのだ。その風圧で俺は高くジャンプした。レールガンの重みでは、素人が上を狙うことは不可能だろう。
「どうだ!避けれたぜ!」
「うん、気をつけてね♪」
なにが?と思った瞬間に、目の前に手榴弾が現れた。
「ふざけんなあああああ!」
投げるために掴もうとしたが、間に合いそうに無かったから、叩いた。
そして、爆発する。
「・・・・っ!熱い!」
叩いた時に、距離を離したから、ぎりぎり火傷ですんでいる。
そして、着地。体勢を立て直す。
「まだ続くよ♪」
「ガトリング2丁とか!無理だ!」
集中でどうにかなる物でもないだろう。上に跳ぶのも無理だ。
そして、撃ってくる。だめだ、これは避けれない。
乱射された銃弾が、俺に向かってきて、・・・弾かれた。
「ワッ♪まだ何かあるんだ!」
目の前にシールドのような物ができた。A○フィールドに物凄く似てる。
「・・・まさか!」
ポケットに手を入れて、黒いカードを出すと、赤い文字で防御結界と書いてあった。そして、その下にあるゲージがどんどん減少する。
「・・・・今のうちにっ!」
逃げた。家の中に隠れたから、ガトリングは追ってこなかった。
*
「・・・はぁ、はぁ、・・・危ねぇ・・」
シールドは消えて、ゲージの減少もなくなったが、回復しない。
残り、10分の1しかない。銃のダイヤルを『Χ』にしようとしたが、動かないし、それどころか、3と4までしか動かなくなっていた。そして、理解する。
「このゲージは俺の魔力か・・・。無限じゃなかったんだな・・・」
おそらく、消費の激しい魔法はもう使えないということだろう。
そして、俺は成す術なし。最悪、殺される。
「どうしようもねぇのかよ・・・・」
「そうだね♪」
「・・・っ!」
急に後ろに現れた。そして、薙刀で斬りかかって来る。一閃。
「ぐあっ!・・・・ぐうっ・・!」
脇腹を斬られ、血が出てくる。
「アレ?もう立てないの?ザンネン♪」
柊は笑顔のままだ。もうダメなのかな・・・クソッ!最近、命が危険に晒されすぎじゃないか?何度も走馬灯のようなものが駆けるんだが、オイ。
その時、ふと脳裏に映像が浮かぶ。・・・・小さい頃の俺?
「おいおいおいおい!ふざけんな!走馬灯見せんじゃねぇよ!」
「うわっ!びっくりした・・・・」
俺は見逃さなかった。驚いた時の隙を。銃を即座に構えて叫ぶ。
「形勢逆転だ!」
「おお!なかなかやるじゃん柘榴クン♪」
なんで笑顔なんだよ・・・。逆に怖い。しかし、その理由はすぐに分かった。
地面に仕込んでいたのだ。武器を。
右手にナイフが刺さり、銃を落とした。痛みは麻痺しているのか感じない。
「形勢逆転逆転♪」
薙刀を構えなおす。
なにか、何か無いのか?この状況を覆す一手!
薙刀が振り下ろされる。
ん?これは、なんだ?黒い・・・結晶?これに頼るしか!
手を伸ばす。左手で掴む。すると、あの剣型のお守りが形成された。
「うおあああああああああああ!」
真上に振り切る。薙刀にあたる。
そして、薙刀が消滅した。
「・・・ッ!消滅?何それ?まだあったんだ!奥の手が!」
何故か喜んでいる。
「・・・柊、・・・俺は、まだ・・・負けないぜ・・・。安心・・しろよ。ルールは・・守る。・・・・殺しはしないさ。・・ハハッ」
「アハハ♪急に上から目線♪じゃあ、逆にボクが守ろうか?そのルール♪」
「・・・ハハッ。ハハハハハ!やれるものなら!」
何故か笑えて来た。ハハハハハッ抑えられない。
その態度が気に障ったのか、止めを刺すためか、槍を出し、向かってきた。
が、効かない。剣で迎え撃つ。そして、槍は消えた。
「・・・また消滅?アハ♪おもしろいね、ソレ♪」
次は10連ミサイル。しかし、これも当たる寸前に消える。
そして、俺は、走った。
「ハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
いつも前髪で隠れている右目で、相手を見る。
新しい情報が次々と目に入ってくる。ハハハハッ!面白い!
「う~ん、リミッター外れて狂ってるね♪」
「なんとでも言えよっ!」
柊が武器を出す。が、どれも効かない。いや、効かないというより、使えない、と言ったほうが正しい。武器を出す瞬間に、ほぼ反射で消しているのだ。
「消滅、消滅、消滅。アハハ♪ボクもう打つ手がなくなってきちゃった♪」
柊は少しでも時間を稼ごうと後ろへ下がるが、すぐに追いつく。
そして、追い詰めた。首元に、剣を突き立てる。
「・・・・ふぅ。ようやくチェックメイトだ。柊」
「確かに、詰んだかもね♪」
そういいながらも、まだ笑顔のままだ。
「なんで、まだ、そんなに余裕があるんだ・・・?」
「ボクはいつも、念のためにナイフを一つ持ってるんだよ。さっきのヤツがそうなんだけどね♪」
そして、なんとなく分かった。背後に気配がする。
「・・・・なるほど、そういうことか。・・・一本とられたよ。まさか、武器としてクローンを作れるなんてな」
振り向くと、後ろには、柊と全く同じ見た目のナイフを持った人がいた。
そのナイフは俺の首元に突きつけられている。
「さて♪本当に詰んでたのは君だったようだね♪チェックメイト♪」
「・・・おい、ルール覚えているか?」
「何の話かな♪」
そして、ナイフが振り下ろされる。
俺に体力はもう残っていなかった。
もう、抵抗はしない。というより、出来ない。
そして、首に冷たい感触がして、吹っ飛んだ。・・・俺が。
「・・・ガハッ!」
ナイフが首に当たる直前に第三者の手によって吹っ飛ばされたのだ。
土煙が舞い、第三者の顔がよく見えない。
「・・・・あれ?誰かな・・・・?」
柊は、驚きと、邪魔された怒りによって笑顔ではない。
しかし、また、道化師のような笑みを見せた。
「まあいっか♪・・・どうせ、殺すだけだし!」
柊の手に、一番初めに使ってきた大剣が現れる。
しかし、その剣は一瞬にして溶けた。突如現れた、黒い炎によって。
「・・・っ!・・・なかなかやるね♪」
柊は笑っている。しかし、おそらく、奥底では恐れているのだろう。
また、土煙の中から黒い炎が飛んできた。柊はそれを回避する。
「アハハ♪前に出てこないところを見ると、ビビリなんだね♪」
柊があからさまな挑発をすると、土煙に中から声が聞こえた。
「・・・そうでもないよ。なんなら、剣で戦おうか?」
なんだか聞いたことのあるような女性の声だった。
柊は、チャンスと思ったのか、挑発を続ける。
「じゃあ、剣での勝負だね♪」
手元に2mほどの太刀を出すと、走った。
すると、土煙の中からも、1.5mほどの大剣を持った人影が現れる。
その人影は、俺の知っている人物だった。
そして、太刀と大剣がぶつかった。ガギィン!と重い金属音が鳴る。
そのあと、柊が押し負けて、吹っ飛ぶ。
「・・ぐうっ!」
「残念。アタシの方が強いみたい。さっさと『逃げる』のコマンドでも使ったほうが身のためだよ。『レベル上げして戻って来な』」
「・・・分かったよ。ボクの負けでいい。もう疲れた。・・帰るね♪」
そういうと、柊は結界を解き、帰っていった。散々に壊れた町並みが修復していく。俺の右手の血も止まり、治っていった。
「・・・大丈夫?『弟』」
そう、この人物は、俺の姉なのだ。
「・・・なんで?いるんだ・・?」
突然の事態に困惑する。魔法の存在は案外早く理解できたが、今回は信じられなかった。が、それは姉も同じ様だった。
「アタシも聞きたいよ。柘榴が何故ここにいるのか。まあ、『昔から予兆があったから、不思議じゃない』って言えばソレまでなんだけどね」
「・・予兆?なんのことなんだ?」
「アタシは、『∑』のAランク兵士。簡単に言えば、柘榴、『お前の敵だ』」
予想以上に俺の周りに魔法は影響していたようで、俺の知らないところで俺に関係のある人が関わっていたようで、その事を俺は知らなかったようで。
頭に理解不能な情報が入り込んでくる中、俺は、気を失った。
その後の会話
扉を開くと中に人がいた。ボクの従兄であり、上司である人物だ。
「よお、どうだった?枯葉と戦ってさ」
「うん、普通に強かったよ♪初めてにしては素晴らしいって賞賛できるくらい」
「まあ、お前が芽を摘むようなことをしなくて良かったよ、マジで」
それに対して、軽く言葉が詰まる。
「・・いやあ、殺すところだったよ♪邪魔が入ったから良かったけどね♪」
「ん?邪魔?」
「うん。黒い炎を使う人。強かったよ♪少なくとも、今の状態で戦うのはもったいないって思うくらいには♪」
「そうか。でも、まあ、俺たちは基本アイツに協力する側なんだからさ。敵対関係を持つのは良くないと思うぜ」
「アハハ♪協力と利用は別でしょ♪」
「利用じゃねえよ。アイツの力が必要なだけでさ、俺たちもがんばる予定なんだから。少なくとも、お前は枯葉と協力してくれないと、未来が変わるからさ」
「はいはい♪」
「さてと、俺はそろそろ『寝る』からさ、しばらく、任せたぞ」
「学校は?」
「俺は休む。お前は行けよ」
「りょーかい♪」
「ん、じゃあな。多分来月くらいには帰れるから」
そういうと、彼は、消えた。
「・・・・明日は流石に学校来れないだろうから・・・明後日会いに行こう♪」
少しワクワクした。
第三章 ― Mission Start ―
「・・・・・・・・うぅ・・ここは・・・居間?」
目を覚ますと、俺はソファに寝転がっていた。
戦いの後、俺は、どうしたんだっけ?
「おはよう、柘榴。『眼は覚めたか?』」
「・・・っ!」
体に衝撃が走り、即座に身を構えようとしたが、右手が動かなかった。
「無理をしないほうがいい。傷は治っても、感覚は残るから、多分動かせるようになるまでまだ時間がかかるよ。『まずは、休憩しろ』」
「・・・・・・ああ」
確かに、右手は、変な感覚が残っている。握ることが出来なかった。
「・・・姉さんは、敵じゃないのか?」
「敵だと言えば、敵だし。敵じゃないと言えば敵じゃない。アタシは、柘榴が『Υ』に入ってくれてよかったと思う」
言ってる意味が分からなかったが、深く追求するのもめんどくさいから止めた。
「今日、学校は休み貰っておいたから。あと、今度は死に掛けないようにな」
「・・・ありがとう」
「『どういたしまして』」
そういうと、姉は出て行った。
「・・・さて、どうしようかな」
ポケットには、黒い結晶があり、左手には、銃を握っていた。
おそらく、姉が持たせておいたのだろう。
「とりあえず、寝るか」
そう思い、ソファに寝転がった瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
タイミングの悪さに苛立ちを覚えながらも、玄関に向かう。
そして、扉を開けると、影色隊長がいた。
「どうしたんですか?あれ?学校は?」
「カレハ、緊急事態だ。だが、その前に一発殴らせろ」
「いや、何故殴られなきゃガハッ!」
腹にクリーンヒット!予想外に痛かった。
「隊長!何するんです・・・か・・?」
泣いていた。
「・・・・ごめん。・・・・隊員が死に掛けているというのに、隊長の私が何も出来なくて・・・グスッ・・・本当に・・・ごめん・・」
「・・・隊長・・」
何て言おうかと思った。しかし、思いつかない。
『誤る必要は無いですよ』?違う。
『すいませんでした』?違う。
『もっと強くなります』?違う。
いま、かけるべき言葉は・・・。
「隊長!もう一発殴ってください!」
「・・・・・は?」
ミスったああああああ!これじゃただのMじゃねえか!
絶望していると、隊長が急に笑い出した。
「ハハハハハ!分かったよ、殴る!」
「ゴブゥァ!」
く、くそ。地味に強い!隊長は、まだ笑っている。
まあ、でも、これで良かったのかもしれない。
そう思っていると、隊長は無邪気な笑顔を見せて言った。
「ありがとう、カレハ」
よく考えたら、何に対してありがとうと言っているのか分からないが、まあ、いいか。
とりあえず、本題に戻そう。
「ところで、緊急事態ってなんだったんですか?」
「ああ、討伐任務が出された」
「討伐?」
「化け物だよ。正式名称、『⊿』。話によれば、透過を使わずに来てるらしい」
「透過を使わなくても魔法って使えるんですか?」
「ああ、可能だ。まあ、現実への影響をなくすために開発した魔法だからな。人間界と魔法は、離れていたほうがいいんだよ。これは、魔法を使うものなら誰もが思うだろうし、『Υ』でも『Σ』でも義務付けられているルールなんだ」
「じゃあ、ソレを使わずに来てるってことは、何も知らない魔法使いか、よほどのバカかどちらかってことですね。あれ?でも、あの化け物って確か、『Σ』の偵察みたいなものじゃありませんでしたっけ?」
「そう、それが問題なんだよ。『Σ』のやつだったら、そんなことをするはずが無いという考えがあるし、事実、『Σ』の連中も討伐するために動いているから」
「じゃあ、『Σ』以外の別の組織が使ってるってことですか?」
「まあ、ソレが一番可能性が高いかな。でも、問題はそこじゃない。数なんだよ。」
「数?」
「本来、三番隊は開発、もしくは救助を専門していて、単独の討伐任務は来ないはずなんだよ。つまり、『Σ』と『Υ』、それぞれ、全体で動かなければ殲滅できない数ってことだよ」
「だから、そこに行けと」
「そう」
「でも、俺、昨日の件で、右手が動かないんですけど」
「その点は心配ない。全員収集の目的は、三つあって、1つが早く殲滅するため、2つ目が多くの武力を持つため、そして、三つ目が透過の範囲を増やすためなんだ。」
「ああ、だから、最悪、透過するだけでも問題ないってことですか」
「まあ、戦えるなら戦うに越したことは無いけどね」
「急いだほうがいいんですか?」
「無論」
手をつなぎ、眼を閉じる。すると、白い部屋の中にいた。
部屋の隅から音声が入り、『転移します』と聞こえる。
急なことで理解できずに、ぼーっとしているうちに、目的地についていた。
*
建物がたくさんあり、一部壊れている。しかし、誰もいない。
「カレハ!透過しろ!」
隊長はそういうと、消えた。
「フィルタ、オン!」
そして、もう一度町を見る。すると、そこは地獄絵図だった。物凄い数の、ゴーレムのような化け物と、十数人の人が各々魔法を使って戦っているせいで、町はほぼ崩壊している。
「分割するぞ!『Υ』は正面から応戦してくれ!そのうちに我ら『Σ』は横から
攻撃する!」
前にいる一人がそう叫ぶと、その周りの5,6人が移動した。
「カレハ!私たちも行くぞ!」
隊長がそういい、前に出る。すると、Luckがいた。
Luckは俺らに気付くと、近づいてきた。
そして、状況を説明してきた。
「今、『Σ』の連中が移動したから、ここは俺ら3番隊と7番隊のやつしか居ない。そして、一日先輩と7番隊の隊長と副隊長はいないから、A以上の人は桜霧ちゃんしかいない。柘榴は確か負傷してるんだよね」
「まあ、左手は使えるから、戦力にはなると思うぞ」
「Ok.じゃあ、桜霧ちゃんは操縦者を倒しに行ってきて。前線は僕と柘榴で倒しているから」
「命令されるのは癪だけど、分かったよ。じゃあねカレハ、十道」
そういうと、前のほうに走っていった。早っ!もう見えなくなった!
前にはゴーレムのような化け物、もうゴーレムでいいや。ゴーレムが10体ほどいた。おぞましい。
「柘榴、まずは僕からいくね。それで、失敗したら、後は任せたよ」
「了解」
そういえば、他の人の魔法は見たことがあまり無かったな。
「『分断廻盤』!」
時計のような、ルーレットのような円盤が出現し、中にある三つの針が回転する。
Luckが「ストップ!」と叫ぶと、針が止まった。針は、『10×』と『円』と、『切断』を指していた。
「当たり!『分断廻盤』発動!」
そう叫ぶと、円盤が前に飛んで行き、分裂した。そして、刃が飛び出し、回転する。すると、でかい、ゴーレムを約30体。一気に灰にした。
「強いなLuck!」
「今のはたまたま運が良かっただけだよ。さあ、道を開いたよ、僕の技は準備に時間がかかるんだ。柘榴、頼んだよ」
「りょーかい!」
黒い結晶をポケットから取り出し、剣に変える。
「零、テンペスト!」
後ろから、何ソレ!と言う声が聞こえたが無視。殴りかかってきたゴーレムの腕に、剣を当てる。すると、ゴーレムの腕が一瞬で灰になった。そして、連撃。
腕、足、胴体と灰にしていく。すると、他のゴーレムが物凄い集まってきた。
一勢に殴りかかってくるが、全て、剣でなぎ払う。一気に灰になる。
「はああああああ!」
攻撃を全て剣で受け止めて、一体、二体、三体と次々と灰にしていくが、きりがない。何度も何度も斬るが、すぐに涌き出てくる。
「・・・はぁ、はぁ」
疲れてきた。右から、ゴーレムが両腕で殴りかって来るが、それを剣で斬り、胴体も切断する。その瞬間、足を滑らせた。
「しまった!」
後ろから、ゴーレムが3体殴りかかってくる。が、それが当たることはなかった。
雷の矢がゴーレムを貫いたのだ。7番隊の人だ。
その人は、何も言わず、グッと親指を立てると、戦闘に戻っていった。
そして、気付く。さっき滑った時に、右手が動いたのだ。
「よし!」
銃を持ち、ダイヤルを1に変える。
「穿て!ストームブラスト!」
引き金を引くと、直線上のゴーレムが全滅した。しかし、無理があったようで、右手がまた、痺れてきた。が、まだ動く。
「うおらああああああ!」
次々と撃っていくと、明らかに数が減ってきた。が、まだ、終わらない。
魔力の減少量とゴーレムの減る量が比例していないのだ。
ゴーレムは最初と変わらず、涌き出てくる。
「ぐぅ・・!」
ふらふらしてきた。ヤバイ。物凄く疲れてきてる。そして、ゴーレムが殴りかかってきた。それを、剣で受け止めようとするが、避けられた。
「ガハァッ!」
吹っ飛ぶ。血を吐く。とてつもなく痛い。そして、ゴーレムが追撃してくる。間一髪でかわすが、体力がもうなくなってきた。
「うああああああ!」
ゴーレムを斬り、灰にする。が、まだ沸いてくる。7番隊の人が助けてくれているが、それでも、まだ、ダメだった。
「くそっ!」
「柘榴、よくやった。あとは僕に任せろ」
Luckが前に立ってきた。そして、叫ぶ。
「『五番勝負』!全額賭け!」
すると、五枚の盤が現れた。
そして、Luckはナイフを取り出した。
「何する気だ!Luck!」
Luckはナイフを自分の腕に突き立て、叫ぶ。
「『確率操作』!代償は、『手首』!」
そういうと、Luckは手首を切り落とした。
血が吹き出す。しかし、Luckは涼しい顔をしていた。むしろ、笑っている。
「勝率100パーだよ。柘榴。さあ、コールだ」
盤が正面に出される。その盤には、『You Win』と書かれていた。
そして、ゴーレムが全停止した。その場で崩れ、岩の塊と化す。
「柘榴、任務完了だ。よくやったな。初にしては上出来だと思うよ」
そういう、Luckは軽く苦しそうだった。
「・・・お前に全部取られたけどな。早く、透過を解除しようぜ、直るんだろ?その手も」
そういうと、Luckは軽く笑い、「そうだな」と言った。
カードをとりだし、『フィルタオフ』と言う。すると、散々壊れていた、風景も、目の前に落ちていた岩の固まりも、殴られたときに吐いた血の痕も全て戻った。
「おつかれ、Luck。助かったよ」
座ってるLuckに手を出す。Luckも手を出すが、ほとんど、腕を上げただけだ った。Luckの手は戻っているが、まるで力が入っていない。
ゴーレムが全滅したタイミングで、隊長が戻ってきた。
すごく、疲れたような顔をしている。
「カレハ、十道、スマン。倒せなかった」
「・・・それはすごいね。桜霧ちゃんでも倒せない敵がいたんだ?」
「いや、あと少しってところで妨害を受けた。白髪の少年に」
昨日会った人物を思い出す。
「・・・!あいつか・・・」
「え?何?柘榴知ってるの?」
「ああ。おそらく、昨日戦ったやつだと思う」
「名前は、柊 針華。稀に見る、無属性でも最強ってタイプだった。閃光手榴弾投げられまくったから、私の魔法使えなかった・・・」
「ああ、そういう弱点あったんだね。桜霧ちゃん」
話していると、カードからアラームが鳴った。
「もう帰ろうか。『転送』頼む」
隊長がそういうと、地面が光った。そして、移動する。家に着いた。
「疲れた。寝よう」
家の鍵を開けて、中に入る。すると、中に、あいつがいた。
「やあ♪待ってたよ、柘榴クン♪」
第五章 ―United Enemy―
反応が遅れる。
銃口はすでに向けられていた。
姉はいない。
透過も、してない。
俺の腹に風穴が開けられるのだろう。銃声が響いた。
一瞬の躊躇いもなく。
引き金は引かれていた。
そして、痛みが。・・・・・来ない。
外れたのだろうか、それは無い。では、殺すつもりはないということなのか。
分からないが、これはチャンスだった。
一気に体を屈めたまま突進する。
そこで、気が付いた。何故、痛みがなかったのか。
「うわっぷ!!」
・・・国旗が顔に絡まった。
そう、おもちゃだったのだ。国旗が飛び出る、クラッカーみたいなあれ。
目の前にいる少年は、腹を抱えて笑っていた。
・・・うぜえ!!なんだこいつ!何がしたいんだ!
「ハハハハ・・ハ・・ハハ・・・ハハハハハハハハ!」
ツボに入ったらしい。軽く涙目になっている。
と、ここで気づいた。少し、冷静になったせいか、いや、笑い声を聞いたせいなのだろう。ものすごいことに気付いた。やばい。
ありえない。何故気づかなかったのだ。後付じゃないのか?まじで?
「・・・・お前、女だったのか」
服装が、明らかに違った。男が着るようなものじゃない。というか、男だと着ようとしても着れないだろう。
いや、最近は男の娘とかいうのがあるのか。
まあ、それは関係がない。
それに、声。
なんというか、可愛らしい感じだった。俺と同い年なら、こんな声にはならないだろう。
変声期がないのかもしれないが、少なくとも、気づいた理由の一つではある。ちなみに。
「・・・え?」
柊は固まっていた。どうやら、俺が少年だと思っていたことに気付いてなかったらしい。
ていうか、前の時はゴーグルで目が隠れてたからな。
体型も、少し幼い男だと思ってたし、少年ってイメージにぴったしだったんだよ。
そうか、少女だったのか。今見ると、そう思えるんだよ。
「ということで、すまなかった。この通りだ許してくれくださいお願いしますマジで!」
はじめは、なんとなく謝罪の言葉を言っただけだったのだが、予想外の威圧感があったので。
頭を軽く下げ、頭を深々と下げ、ついに、土下座になり、勢い余って命乞いになった。
やばい、この展開はやばい。
次に何を言うか、分かってしまった。
かなりキレてるわー。足で頭を踏みつけてきた。
こいつスカートはいてるんだぞ。絶対キレてるわ。
そして、予想できてた、あのセリフ。
「本当にすまないという気持ちで・・・・・・胸がいっぱいなら・・・・!どこであれ土下座ができる・・・・!たとえそれが・・・・肉焦がし・・・・骨焼く・・・・・・鉄板の上でもっ・・・・・・・・・・!」
「いやいやいやいや!マジで勘弁してください!それはジャンキーな会長だから言えることであって!エリートだから成し遂げれたことなんですよ!」
冗談じゃない!ふつう死ぬわ!無意識に敬語だし!
そもそもこいつの頭はそこまでジャンキーじゃないはずと思ったけど、意外とダメだわこいつ!
笑いながら殺そうとする殺人鬼だったわ!
その時…!圧倒的閃きっ…!! それほどの閃光…光が…俺の脳を刺す…! 閃く…!この土壇場で…! 悪魔を殺す悪魔的奇手っ…!
頭を・・・あげる!!
「うわっ!」
俺の頭にのせていた足は外れる。そのせいで柊はバランスを崩した。
一瞬スカートの中が見えたが気にしない。ついでにいうと、スパッツだったし。
「さあ!どうする!」
いや、どうしよう。柊に向かって叫んだが、もはや、ただの自問だった。
ああ、どうしようもないわ。
気づいたらまた土下座をしていた。無意識に。
そもそも、転倒させて、相手が恥じらうことが目的だったんだよ。あいつ、まったく気にしてないよ。
柊はなんか、あきれたような顔をしていた。
助かったのだろうか。ただ、相手に敵意がなくなってることは確かのようだ。
「・・・柘榴クン・・・ボクはふざけるために来たんじゃないんだ。君らの目的を果たすために来た」
「何がしたいんだよ」
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