初恋

 外は久しぶりに雨だった。草木から雨のしずくが滴り落ちる。まるで誰かさんの涙のように途切れなく、それは落ちる。宇宙開闢以来、何度目の宇宙かと創発した記憶を辿ると私はこの涙の記憶を∞と記憶の片隅から呼び起こした。そう、無限大なのだ、この記憶は。記憶とは厄介なものだ。過去、現在、未来の矢を生きている人間は負のエントロピーを食べて生きている。未来永劫に続く、と思われる、このサイクルを宇宙は何回やれば気が済むのだろうか。私は疑問に思う。
 私は恋が好きだ。人を思う、その時に感情が爆破し肉体が破裂し、粉微塵になる肉体と心、しかし、すぐさまに再生し新たな肉体と心を手に入れる、その瞬間に私は生まれ変わる。本当の恋とはそのような経験を踏むものだと思う。心も体も爆発し視界から瓦解する情景と手にしたい欲望を、もう手に入れられない事に失望して午前五時に走り出す肉体。終わらない思考との対決。きっと僕は負けるだろう。空を見上げた、雲が途切れてきた。西の空を見ると夕焼けが綺麗に見える。きっとあの夕焼けは、私の恋を終わらせてくれるには格好の景色だった。

 夕焼け、この日の終わり、そして僕の恋の終わり。涙が流れる。無限の涙が。僕は歩き出す。そして涙が乾く、この涙が雲になって雨になって降れば、また、誰かの涙を癒すことができるだろう。この無限の宇宙と無限の記憶から解放されるために。

初恋

初恋

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-09

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