7月8日旧作前半「最後部に二作掲載」。フィッシングメール。ノンフィクション作家 広瀬 隆氏の安部君に

7月8日旧作前半「最後部に二作掲載」。フィッシングメール。ノンフィクション作家 広瀬 隆氏の安部君に


 フィッシングメール四件

1) 三井住友 お支払日のご案内

2) 【au PAY アプリ】強制アップデートのご案内(7/27より順次)

3) 今週のオススメ/【2%還元】富士通WEBMART Tモールメール(Tポイント<ptmag@tsite.jp>

4) 『2023 6月・小烏さんちの台所(野…』など今週注目の小説 カクヨム<noreply@kakuyomu.jp>


 勿論、本物を利用しているので、ロゴや絵柄は同じになるが其れで騙されない様に。
 必ず送信専用との記載がある筈で、兎に角何もクリックをしなければ問題にはならない。
 即、削除が賢明と言える。
 尚、以上4件は全て契約をした事が無く、randomに纏めて送信している。


 歴代ワースト総理・安倍晋三が犯す
日本史上最大の犯罪
――担当編集による著者インタビュー【中篇】
広瀬 隆:ノンフィクション作家
東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命
2015.10.7 5:03
『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第5刷となった。
本連載シリーズ記事も累計216万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者に、担当編集者が直撃インタビュー。
8月11日の川内原発再稼働後、豪雨による鬼怒川決壊、東京で震度5弱、阿蘇山噴火、南米チリ沖マグニチュード8.3地震による津波余波など、日本列島を襲う自然災害が続出している。
これを受け、10月23日(金)に、広瀬隆氏の「緊急特別講演会」を開催することになった(先着100名様限定)。
今の日本列島、何かおかしくないか?
そんな不安を抱いた担当編集が著者の広瀬隆氏に、「今、最もコワイこと」を聞いた。

「歴代ワースト総理」の
あまりにも貧困な知性
歴代ワースト総理・安倍晋三が犯す<br />日本史上最大の犯罪<br />――担当編集による著者インタビュー【中篇】
広瀬 隆
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。
広瀬 最近は、「クレージー」を通り越して「マッド」になった安倍晋三が、世論が強く反対している秘密保護法、集団的自衛権、安保関連の戦争法、沖縄基地問題、そして原発再稼働強行と、次々に愚策をくり出してくるので、私もこのまま死ぬに死にきれません。
 武器輸出と原発輸出によって、世界中に大悲劇と混乱を引き起こそうとしているのが、安倍晋三という稀代の犯罪者です。
 孫の世代までこの問題を引き継いでは絶対ダメ! という決意で書いた本が『東京が壊滅する日』です。 

 私はこの原発問題に取り組み、30年以上、「反原発」を主張しつづけ、『私物国家』(1997年、光文社)などでも歴代総理を固有名詞で断罪してきましたが、その中でも、最も知性がないのが安倍晋三です。

編集 歴代内閣総理大臣ワースト1位ですか!? 

広瀬 誰が見てもそうでしょう。
 A級戦犯となった近衛文磨と岸信介がいます。それぞれを祖父に持つ細川護熙さんと安倍晋三。この2人の違いが何か、わかりますか?

編集 うーん。何でしょう……。

広瀬 細川さんは東日本大震災を見て、一から考え直し、小泉純一郎元首相とともに、精力的に「原発反対」を訴えています。細川さんが理事長として進めている津波防止のための「森の長城プロジェクト」は、江戸時代の浜口梧陵を思い起こさせる偉業です。

 ペリー提督が来航した翌年、1854年に梧陵の郷里・和歌山県広村を安政南海地震が襲い、紀伊半島一帯を大津波が襲ったのですが、彼が津波の前に広村の村民を山に導いて救済したのです。

 そのあと彼は、数年がかりで高さ5メートル、長さ650メートルにもおよぶ防波堤を完成させ、松林の植林で堤防を強化しました。この堤防は、ほぼ90年後の1946年に再び広村を襲った昭和南海地震の津波の被害を防ぐのに大いに役立ちました。細川さんがなさっていることは、同じです。

 対する安倍晋三は、思考力ゼロですから、祖父の岸信介が日米安全保障条約を強引に締結して全国民の怒りを買って退陣した時代からまったく進歩がなく、変わらない! こいつは人間以下だ。猿にも劣る。

 過去の過ちを真摯に反省して、明日への光を見出そうとする細川さんや小泉さんの姿を見ていると、「人間は変わることができる!」という人間の可能性と、希望をひしひしと感じることができます。人間は、失敗をしたら、そこから大きく変化することが大切なのです。フクシマ原発事故で、初めて原発のおそろしさに気づいた人こそ貴重なのです。

編集 なかでも、小泉元首相は、「(原発再稼働は)間違っている。日本は直ちに原発ゼロでやっていける/原発がCO2より危険なものを生み出しているのは明らかで、ぜんぜんクリーンじゃない。原発は環境汚染産業なんです」(「朝日新聞」2015年9月13日付)とか、9月16日の伊方原発の当地・愛媛県での講演でも、
「伊方原発であろうがどこであろうが、再稼働すべきではない」
「政府は『世界一厳しい新規制基準だから大丈夫』と言っているが、どうして世界一と言えるのか。どこの国とも比べていないのに世界一と言うのはおかしい」
 と、かなり激しくほえておられます。当分、小泉節はおさまりそうにありませんね。

広瀬 1966年7月25日、わが国最初の商業用原子炉・東海発電所が茨城県で運転を開始し、安倍晋三が尊敬する祖父・岸信介が1959年に決定したこの東海村原子炉によって、現在まで続く原子力発電の時代に突入したのです。
 安倍晋三は「世界で最も厳しい原子力規制委員会の基準に基づく審査をパスしたから安全」と言っていますが、本連載第15回の田中三彦氏との対談でも明らかになったとおり、それはデタラメです。『東京が壊滅する日』の102~104ページに「長州藩歴代犯罪の系譜」を紹介したので、ぜひ読んでください。

編集 日露戦争を開戦し、特高警察を設置した桂太郎から、秘密保護法を成立させた安倍晋三まで、広瀬さんの最も強みと言える「人物の系図」は衝撃的ですね。

 取り敢えずここ迄で終わらせておく。
 彼が自害をしたと同じ結果になったのは、「統一教会」との密接な関係以外にも、桜など夫婦で係わった汚職事件も絡んでいる。
 国民は真っ二つに分かれており、知識人や二世信者等は「安部君は犯罪者」としての認識を持っている。
 其れに、岸田君事件は未だに何も進展しておらず、政権としても「困ったな・・・バレてしまっては・・謝礼を口座に支払って・・刑に服して貰うかな・・いや、参った・・」で頭が痛いのが現状。
 更に、昨日の河野の態度は正に醜悪且つ教養の無さを見せつけた。
「・・自主返納?五件しか確認していない。全国は分かる訳無い・・」
 大体この男は、人類として常識である、「ミスを犯した時に深くお辞儀をする」という事を知らないという、教養の無さ・・知らなければ教えよう・・全国では千人を超え・・考慮中のものも含めれば約一万人以上・・来年秋までには更に数十万人に上るだろう。
 官房長も同様の自惚れた態度しか窺えない。
 其れでは、国民投票で憲法改正は・・しんどいのでは・・?
 国民主権なのだから・・ポーズだけでも愛想を振りまいておいた方が無難だと思うが・・まあ、子供が其のまま大人になったような連中では・・仕方も無いか・・(笑)。



 次。
 USAのクラスター弾については、USA国内でも批判の声が高まっている。
 此れで、国内の分裂が一層激しさを増すが、此の国・・人口は多いのだが・・対抗する大統領候補がいないという・・お粗末さを露呈している。
 此れで、他国に対し「戦争犯罪」を唱える事は出来なくなったUSAのひっ迫した情勢は、既に構造不況として向こう十年以上元に戻すことが困難である事に一層拍車をかけた。
 昨日この記事で、債務不履行を、デポジットと敢えて申し上げたのは、Defaultどころか、債務に関しての保証が不可能という意味で使用をした。此の国では破産という手があるが・・(笑)
 バイデンは法律屋の筈なので、余り知識が無いと思われる。
 一方、昨晩のNHKのニュースでは民放他局どころか新聞社さえも報道管制~箝口令下~の様で何処も報道をしなかった事。
「ロシアで、国家転覆罪を企てた者・・此の国では応仁の乱とか名付けたようだが・・ベラルーシ大統領に敬意を表し「死罪」は免れた者の、世界中何処にも逃げる場所が見つからなかった・・ああそう・・此の国の自公なら歓迎をしてくれたのに(笑)」
 小銃で武装をした特殊部隊が・・驚くべき広大な敷地内の邸宅を捜索した結果・・ヘリにプール・金の延べ棒やら山と積まれたドル紙幣の束・・が次々に押収された。
 更にプーチン大統領が国民を官邸に呼び幼児にkissをするsceneも公開されていた。
 他の報道管制局では・・只管亡安部君の一周忌の宣伝にいとまがない様子が対照的な印象を与えていた。



 さて、時間も無いことであるし・・最近は蒸し暑いので2~3度風呂に入るが・・・鉄筋の最上階は表に比較すれば・・風邪が涼しく感じられる・・気になるのは未だに昆虫の姿が見当たらず・・まあ、7月から8月には出て来るとは思うが・・何せ昨年は結局夏が昆虫不在で終わったから。
 旧作からショートショート「許可」と「京 綾乃と1」を相変わらず再々々放送で・・。文字数がオーバーするかどうかがブログでは最も問題で・・明日の予定は綾乃series2及び3・・其れにプラスを予定・・。


 「許可」

  宮下礼は天才曲芸師と言われている。
  今、千代田区のビルの屋上にいる。
  建物の前は桜田通りだが、観客人が何千人と集まって、礼の綱渡りを見ている。
  此の通りを挟んだ反対側の建物まで太いロープが張ってある。
  此方の建物から反対側の建物までロープの上を歩いて渡ろうとしている。
  ロープの長さは、つまり建物同士の距離は三十メートルばかりある。
  今日は、特別サービスで、万が一落下した時用の網は張って無い。
  だから、落下すればどうなるかは子供でも分かる。
  礼はバランスを取る為に長い棒を持って渡っている。
  幾ら慣れているとは言え、必ず成功するとは限らない。
  観客は其のスリルを楽しんでいるが、本人にとっては、曲芸とは言え命懸けだ。
  礼は、顔全体を覆ていたマスクを取り捨て、宇宙服の様な服を脱ぎ、曲芸用の衣装を着た。
  少しづつバランスを取りながら慎重に歩いて行く。
  綱は揺れて、礼の邪魔をする。
  揺れればバランスがとりにくいし、大きく揺らしたら、バランスをとれる限度を超えて、真っ逆さまだ。
  観客の中には、礼がプロだから何とか無事渡れるものと思っている人間と、落下したら面白い事になると、楽しみにしている人間もいる。
  礼は、神をMagicで創造し、人類が誕生をした際に心のよりどころとして、其の頭脳にpresentをしたのだが、その後人類は勝手に悪魔というものを考え出した。
  この世は実力次第、運は自分で創るものと思っている。
  礼の心の中に悪魔の姿が浮かんだ。
 突然、風が吹き始めた。
 ロープは揺れが激しくなって、危うく足を滑らせて落ちそうになった。
 まだまだ、十メートルくらいしか渡っていない。
 礼の心の中に神の姿が浮かんだ。
 風は止み始めた。
 半分程渡った辺りで、疲れが出て来た。
 天才と雖も、人間だから、神経は使うし、体力的にも疲労が襲って来る。
 此の辺りからが根性だが、力んでは駄目、バランスを取るには、気を紛らわす柔軟性も必要だ。
 観客の数は次々と増えて来る。TV中継車もアップで、礼と、ワイドで見ている群衆を映している。
 生中継だから、家にいながらTVで見ている人間も含めたら、東京中の何分の一か分からないが、相当の数の人間が見ている事だろう。
 礼の額からは汗が落ち、棒を握っている手にも汗が。
 ロープを三分の二くらい渡った辺りで、また悪魔が心の中に現れて来た。
 礼に不安と恐怖をもたらすのだ。
 バランスがとりにくくなってきた。
 神が現れて来た。
 礼は、目を瞑り、恐怖から逃れようとする。
 動揺し始めた時には、目を瞑った方が雑念を掃える。
 真下のモノは見たら最後だから、目を開けた時には正面しか見ない。
 もうじき反対側に辿り着く。
 そう思ったら、バランスが崩れるから、先の事は考えない様にする。
 おっと・・拙い!不安がきた、成功の確率は・・など、余計だ・・。
 身体が揺れ始めた、礼の身体が落ちる。
 辛うじて、ロープを両手で掴んだ。
 悪魔は、「どうだ、もう限界だろう。諦めるんだな」と、神が、「足を使え!」。
 礼は、あらん限りの力で、思い切って身体を振り子の様に振って、足をロープに引っ掛けた。
 何とか、ロープに跨る様に座れた。
 神が、「其のまま力まないで、立ち上がれ」と言った。
 ゆっくり・・ゆっくり・・立ち上がれ。 

  かなり時間が経った様な気がしたが、何とか反対側のビルの屋上に足を踏み入れる事が出来た。
 冷汗が流れて、衣装はびしょびしょだ。
 観客は礼を神様扱いして、拍手喝さいをするモノ、悪魔の様にがっかりするモノなど様々だ。
 屋上にもTVカメラが用意されていて、インタビュウワーがいろいろ質問をして来る。
「どうして、こんな凄い事をやろうと思ったんですか?」
「途中でどんな事を考えたんですか?」
 屋上から一階に降りる。
 観客の歓声の中、塊の中を掻き分けて何とか自分の車まで辿り着くと、笑顔を見せながら車を運転して行く。

 礼は運転をしながら呟いた。「だから・・奇跡の曲芸の許可を出してくれるよう頼んだのに・・」



 礼が渡る前に屋上に上がっていた建物の住所は、「東京都千代田区霞が関2丁目1-1」
 建物には「警視庁」の表示がある。



 翌日の各社新聞の一面を飾ったのは下記記事であった。
「Majic!一体?」
「警視庁でテロか?生存者は一人もおらず。死因は人類史上極めて不可解且つ全く謎と言えるが・・。青い惑星空間と宇宙空間の瞬間差し替えによる大気不全死・・って?なんだ其れ・・?」



 

 「京 綾乃と1」

 年末年始、四日間京都に出掛けた。
 特に、何処に行きたいとかいう宛があった訳では無い。
 ただ、気になる事が・・、夢で美しい女性を見た。
 それが、只の美女だとは思えない、不思議な糸に操られている様なおかしな気がした。
 ただ、それだけだが、何とはなしに足は京都に向かっていた。
 新横浜から新幹線に乗ろうとしたが、関が原が雪で、東京折り返しの電車が遅れている。おまけに、用も無い私を除いて、ホームに並んでいるのは、帰省客ばかり。
 十五分位の遅れでひかりやのぞみが遅れながらも到着するのだが、駅員のアナウンスが無いから、自分の乗る電車がどれなのか分からない。
 そんな事をしている内に、駅員に「どの電車ですか、私が乗る電車は?」と、尋ねたら、
「ああ、今、発車したあの電車ですよ」
 との事。
 私は駅員に、
「どうして、何番線に何号が来たというアナウンスをしなかったのか?」
 と問い詰めたが、駅員は、一言、
「払い戻しは出来ませんからね」。
 折角、一か月も前に指定席を取ってあったのに、仕方ないから適当に来たのぞみに乗った。
 当然、満席だったが、デッキに二時間座って京都まで意外と早く感じた。
 私は混みあっている車内を見ながら呟いた。
「着いたら、何か良い事でも有ってくれれば良いが」
 昨晩の夢が気になった」
 京都駅には三時頃着いた。
 荷物(パソコンなどと衣服などが入った二つのバッグ。)が邪魔に感じたから、都ホテルのフロントに預けた後夕食でも取ろうかと思いホテルに向かったが。駅の周りの状況には詳しくないので迷ってしまった。
 八条に在る筈のホテルに行くのにスマホのナビを参考にしていたのだが、何時の間にか九条辺りにある東寺まで来てしまっている。
 おまけに、雪が降っているから寒いし疲れた。
 やっと、ホテルにチェックインできたので手ぶらになり、「さあ、これから何か美味しいものでも」と思い駅の北側の繁華街にある飲食店、主に京都風の居酒屋などを中心に回ったが、店の数は幾らもあるものの何処に行っても玄関先で追い払われた。
 12月30日だったから、忘年会などの団体で占拠されており満席なのだろう。仕方が無いから、地下鉄の切符を買い四条通り迄出掛けた。
 しかし、此処にしようと納得する程の店は見つからない。此れは困ったと、木屋町辺りをウロウロしている時だった。




 薄暗い路地に、和服姿の女性が少し大きめの和傘を持って立っている。
 私も、疲れてイライラしていたから、多少ぶっきらぼうに女性に声を掛けてみた。
「何処かこの辺りで落ち着いて飲み食いできる店は無いですか?」
 女性は、傘越しに此方を振り返ると、微笑んだような表情でぼそっと言った。
「お困りのようどすなぁ。うちん知ってるところで良かったら案内させて貰えるけど・・」
 私は、京都の人に案内して貰えるならと期待し、
「そうですか。何処かありますか、助かります、お願いします」
 と、縋るように女性の顔を見ようとした。
 丁度傍らにある、京都らしい風情の建物の表の薄灯りで女性の顔が浮き上がって見えた。
 小野小町の顔は謎だが、ひょっとしたらこんなでは無かったろうかと思った程、私は驚いた。
 実に美しく、何か神秘的な感じのする京女性の細面が・・目の前に。
 私は、全身から今までの疲れが何時の間にか消えて行くのを感じた。
 雪はさほど降ってはいなかったしと、私は傘を持って来るのをすっかり忘れていた事に気が付いた。
 女性の後を少し間をおいて歩き出すと、女性は振り返り、
「一緒に入ったらどないどすか。寒いし、濡れるやろう」
 と言うと、傘を私の身体がおさまるようにと、私の小雪が積もっている肩越しに傾けた。
 私は、両の手で肩の雪を払い和傘に納まる事にした。
「暮に小雪続きで、傘は手放せんで。旦那はん、もうちょい中に入らな」
 私は、親切だなと思いながら、
「有難う、もう大丈夫。二人すっぽり入れますね」
 と笑みを浮かべた。
 先程、詳しくも無いくせに、勝手に小野小町などと想像してみたが、「小野小町の時代と現代とでは、かなり違っているに決まっている」と思いながら、何気なく女性の足元から頭まで目を遣る。
 髪は短めに結ってあるようで、懸衣(かけぎぬ)は淡い黄色地に何の花か分からないが枝分かれした花の柄、控えめの赤の帯に、下駄を履いており、左手には薄い桃色の布袋を持っている。
 やや下向き加減で歩く姿は如何にもというか、実は私は京女性については全く知識は無いが、私なりに京女性とはこんなものかなと思った。
 一軒の、料理屋と思われる店の灯りが見えて来た。
 その灯りに照らされた女性の顔がこちらを振り返ると、
「さあ、中に入りまひょ。寒いさかい、中は温かいどすえ」
 と、傘の雪を振り落としてから、店の戸を開け私を先に内に入れた。
 こじんまりとした和風の店の中には、古風なテーブルに添え職布で覆われた椅子が幾つか並んでいる。
 私は、それを見ただけで、京都らしい風情とはこんなものかなど思う。
 店員から、
「おいでやすおおきに」
 と言われ、女性と並び椅子に腰を掛ける。
 店員が目の前に置いてある品書きに片手を傾けながら、
「何宜しいどすか」
 と聞く。
 私は、自分でも分かるお晩菜を一つ二つ頼んだら、女性が、
「汲み上げ湯葉や京野菜に鳥肉が入った水炊きやらも美味しいおすえ」と教えてくれた。
 それと、私の好きなビールを頼んだ。
 店員が女性の顔を見ながら、
「外はまだ雪ですか?」
 と、声を掛けた。
 私は、女性の目を見ながら、
「私は、芥川澄夫と言います。失礼ですが貴女は?」
 と聞くと、女性は私に、
「うちは、香月綾乃言う、宜しゅうお願いします」
 と、言いながら軽く頭を下げる。
 途端に、何とも言えない良い匂いが漂ってきた。
 綾乃が、香水とはまた違う香りのする何かを・・付けているのかと思った。
 少し間が開いてから、私が、
「特に宛も無く京都まで来たのですが、今日は夕食も食べられずと、困っていたところを助かりました。この辺りは表通りから少し外れていて、如何にも京都の路地という感じが味わえますね」。
 私は、こんな寒い日は熱燗が似合うのだろうがと思いながらも、根からのビール党なので、洒落た薄めのグラスの中で小さな気泡を浮かべている琥珀色の液体を喉に流し飲む・・生き返ったような気がした。
 綾乃にも、
「若し良かったら、乾杯しませんか?それとも、やはり熱燗の方がいいですか?」
 と聞いてみたら、
「なら、お一つ戴く」
 と、おちょぼち口に似合わぬように、一気に飲み干し、
「乾杯、美味しい」
 と微笑んだ。
 二人でお晩菜を摘まみながら、私は、綾乃の表情が気になって何気なく顔を窺うように尋ねた。
「此方のお店はよく来るんですか?」
 綾乃は首を横に振ると、
「えらい前に・・来た事があるだけどす」
 と言いながら私のグラスにビールを注いでくれる。
 私は、其れなら偶然運良く・・というようなものだなと思った。
 私は、芸妓の知り合いがいる訳でも無く良くは分からないが、綾乃は芸妓なのだろうかと考えたが、そんな派手さは窺えず清楚な感じがするからやはり違うのかなと思った。
 無粋かとも思ったが、
「偶然でもお会いできて助かりましたが、暮に何か用事があって、此方迄いらしたんですか?」
 と尋ねてしまってから、綾乃の横顔が気になった。
 綾乃は、笑みを浮かべ、
「どないどすか?お晩菜のお味は?」
 と、聞いてから、
「何とのう八坂の塔を見とうなって来たんどす。何どすか自分でも此れちゅう用があった訳では無かってんが・・」
 と言われてから、私は、折角勧めてくれたお晩菜の事も話さず失礼だったと気付き、
「この料理、皆、美味しいですよ。済みません、ぶっきらぼうに要らぬ事を聞いてしまって」
 と付け足した。
 実際、どの料理も世辞抜きで美味しいと思う。
 料理にあわせビールのピッチが少し早くなったが、綾乃は、グラスが空になると酌をしてくれる。
 綾乃は途中から燗酒に変えたから、私も、綾乃の猪口に酌をした。
 私の気分が、二人で仲良くお晩菜を摘まみながらお酒を飲むという事を望んだからだ。
 気のせいか、綾乃の頬がほんのりとピンク色になったような気がした。
 元々は透き通るような色白で、と、私は呟く。
「これ程の美しさに色香が窺えるなんて・・」
 綾乃は、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、先程の私の言葉をなぞらえる様に、
「なんとはなしに人に会いに来た言うたらおかしいでっしゃろう?」
 と言い微笑む。
 私は綾乃の言っている意味が良く分からなかったが、不思議な事なのだろうか、そんな事、何かあるのかも知れないと思った。
 私は、綾乃が会いに来る人とはどんな人だろうと思ったりもする。
 綾乃が私に、
「京都は・・」
 と呟くように言った。
 どうして、中途半端な問いかけのようなのかと思いながら、次に、「何の御用事で来たのですか」と聞かれるのでは無いかと思い、何て答えようかなと考える。
 しかし、答えは浮かばない。何の目的も無く、ただ足が向くから来たのだから。
 まさか彼方此方の店に断られたお陰で、綾乃の様な京女に会えるとは夢にも思わなかった。
 おかしな事に、綾乃が、私の事をお見通しであるかのような気がするのは何故かと思う。
 綾乃が私の目を見、
「今晩は何処かお泊り先があるんどすか?」
 と聞いた。
 私は、旅行に来るのに宿泊先も決めないで来る人間なんていないのではと思ったから、どうしてそんな事を聞くのかなと思った。
 私は、八条にホテルを取ってある旨、と宿泊日まで話したのだが。
 綾乃はカレンダーも見ずに指を折り勘定をしている。
「30・31・1・2にはお帰りどすか?」
 私は、何となくそう言った綾乃の表情が寂しげに思えたが、気のせいかなとも思う。
 綾乃は私の目を見、
「若し、宜しかったら、私、案内しまひょか?」
 私は、その言葉を聞いた時に心底驚いた。
 酔いも回っており揶揄われたのかとも思う。
 普通、大抵の人間はそう思うのが当然だろうに。
 しかし、私はこれといって見たいものが有って来た訳では無いから予定も何も無いし、過去に殆どの寺社は見ているから、今回は何処を見て廻ろうかと遅まきながら考える。
 私は、自分からそんな言葉が出るとは思っていなかったが、綾乃の目を見つめ、
「此れといって何処も行く所は無いんだが、貴女は暮から正月に向けていろいろ忙しいだろうからそんな事は無理でしょう?」
 と、本心からそう言った。
 最初に綾乃に会った時から、不思議な美女だなとは思っていたのだが、まさか、こんな事などあり得ないと思ったから、つい、そんな言い方になってしまった。
 綾乃は唇を結ぶようにした後、
「こないな事言うて、おつむがおかしいか思われるやろうが、うちとあんたさんは、遥かな時代に・・お会いするちゅう約束があったんどす」。
 私は、それを聞いた時に、最初は、そんな馬鹿な・・と思い眩暈がするような気がした後、何か訳の分からないというか、微かな記憶の様なものに自分が支配されている様な気がした。
「ひょっとしたら、古都には、そんな事が有ってもおかしくは無い・・」
 とも思い始める。
 私の頭を、一瞬「泉鏡花の荒野聖」という言葉が過った。私も、不思議な事だからとそんな風に思ったのかも知れない。しかし、すぐに、其れを消し去る。
 関連性が無い事なのだから勝手に余計な事などと、何か恥ずかしさの様なものを覚えた。
 増してや、例え、綾乃が私を騙したり、極端な冗談、或いは全くの嘘を言う理由などある訳は無い。
 あるとすれば、本人が言っている様に、気が触れている、としか考えようが無いが、綾乃の瞳の奥からは、そうでない事を訴える強さが窺える。
 それに、私自身、何が目的で古都に来たのかというものを、何も持ち合わせていないのだから。
 次第に、私の頭の中では「この清楚で、澄んだ瞳をしている女性と・・」いつの日か分からないが、元から契りがあったのでは無いかという思いが、再び自分を支配していくのを感じる。
 店での食事も終わる頃、私は綾乃に、
「分かった。で、明日はどうすればいいのだろう?」
 と尋ねた。
 綾乃は、頬に笑窪を付け足し如何にも人柄の良い優しそうな笑顔を浮かべ、
「八坂神社の手前の西楼門で待ってます。時間は十時位でもええどすか?」。
 私はどうせ何も用は無いし、ホテルの朝食は九時には終わるから丁度いいと思い、
「それでいいよ。宜しくお願いします」
 と、綾乃に笑顔を・・。
 店を出ると、雪は殆ど振っていなかった。
 二人で大通りまで出てから、綾乃は中腰で挨拶をし私は片手を挙げ別れた。
 私は地下鉄に乗り、京都駅から歩いた。
 歩きながら思う。
「古都に来て良かった。一人では無いし・・何よりも旧友に会ったような、気がする・・」




 翌日、モーニングを食べ京都駅に向かって歩き、地下鉄に乗ると四条で降り、四条通りを祇園に向かって歩き門に向かった。約束の時間より15分程早く着いたが、綾乃は既に待っていてくれた。
 残念ながら、この日も雪交じりの雨だった。鞄に折り畳み傘を入れて置いたのだが使う事は無かった。
 私は、京都というと五重塔が好きだ、特に東寺が。
 理由は分からない。綾乃の言葉の様に何か縁が有ったのかも知れないと思う。
 東寺と言えば、平安時代なら都の外れ朱雀門の近くにあった筈だと覚えていた。
 綾乃は八坂の塔を見ながら、
「何処がええどすか?言うても、何処も見たーる言うてましたなぁ。今日は晦日で夜から明日に掛けて詣での人で一杯になるさかい、今日神社を廻っとくるのん」。
 私の希望を考慮して貰い、清明神社から廻って貰う事にした。
 私は小説を書いているので、清明が十二天将を隠していたという一条戻り橋の下を覗いてみたが、当然ながら、それらしきものは何も無かった。
 車は渋滞するからと、毎日、地下鉄と市営バスのフリー切符を買い、そのエリア内を回った。
 次に北野天満宮に行く。北野天満宮、通称として天神さん・北野さんとも呼ばれるが、詣で客が多いらしい。
 私も菅原道真の事は知っていたが、綾乃が更に説明を、
「かの菅原道真が左大臣藤原時平の讒言にあって左遷されてしまい、大宰府で亡くなった後、都では落雷などの災害が相次いだんどす。これが道真の祟りだとする噂が広まり、御霊信仰と結びつき恐れられたんどす。ほんで、没後20年目、朝廷は道真の左遷を撤回して官位を復し、正二位を贈ったんどす。現在地の北野の地にあった朝日寺の最鎮(最珍)らが、朝廷の命により道真を祀る社殿を造営し、朝日寺を神宮寺としました。後、一条天皇から「北野天満宮天神」の勅号が贈られました。正暦4年(993年)には正一位・右大臣・太政大臣が追贈された。以降も朝廷から厚い崇敬を受け、二十二社の一社となったんどす」
 空いている昼間の内に回れる所を一緒に歩いた。
 その後は、上鴨神社・下鴨神社・平安神宮と廻ったが、昼間はそんなに混んでなかった。
 綾乃が其々の神社について、
「下鴨神社は賀茂御祖神社ちゅうのが正式名称で、上加茂神社、賀茂別雷神社ととともに賀茂氏の氏神を祀る神社であり、両社は賀茂神社(賀茂社)言われる。両社で催す賀茂祭(通称 葵祭)で有名おすえ」
 と説明してくれる。
 途中の茶屋で遅めの昼食を取る。
「平安神宮は広々しとって、平安京の大内裏の正庁である朝堂院(八省院)を縮小(長さ比で約8分の5)して復元したものどす。大きゅう赤う光る朱色の特徴的な正面の門は、朝堂院の應天門を模してるのやで。白虎楼を初め、6つの建物や平安神宮神苑の泰平閣があり、時代祭りも有名おすえ」
 と説明を。
 綾乃は、やはり詳しい。
「古から火災やらがあったけど、未だに、権威を示してるかのようなぁ」
 私は歩きながら、「それでも、適度に人がいた方が淋しく無くていいかな」など思う。
 八坂神社は、全国にある八坂神社や素戔嗚尊を祭神とする関連神社(約2,300社)の総本社であると言われる。通称、祇園さんとも。
 しかし、綾乃は、何故か初詣客が多いと言われる伏見稲荷には行きたがらなかった。
 初詣、今晩は人の山が出来るという。
 綾乃が、特に一般の人と変わったところがあるとは思わなかったが、時々、大路や大内裏の館の名称を使う事が有った。また、歌人でもあったらしく、歌を詠んで見せたが、私には詳しい事は分からなかった。
 当時は私も歌が詠めたのかもしれないが、現在は分からない。ひょっとしたら、綾乃は、紫式部・清少納言・小野小町などの何れかでは無かったのかと思ったりもする。
 私は綾乃に、「私は、何という名前だったのかと聞いた」。
 綾乃はそれに対し、「そら、御存じあらへん方宜しいか思うさかい、申し上げまへん」と笑った。
 二人で歩きながら、綾乃は歌を詠み意味も教えてくれた。
 私は、やはり古の人だったのかと改めて感心するばかりだ。
 綾乃は地元の人間であるし、古くからいたようであるから、全て任せた。
 昼見る綾乃は、夜とはまた違い、美しさを二度見せてくれた。
 昼間、人が大勢いる中で見る綾乃は美しい上に上品で、私は、二人並んで歩くのが小恥ずかしくて仕方が無かった。
 よく古の私は恥ずかしくなかったなと思う。
 本当に二人は古からこんな風に逢瀬を繰り返していたのかと思った。
 私は綾乃といるだけで古都を十分に満足できたのだが、茜色の空が斜めに傾いて来る頃綾乃に、
「今晩、夕食、君と楽しく戴きたいんだが、何処か心当たりはある?」
 と聞いてみた。
 綾乃は、
「今宵は、懐石でも行きまひょか」
 など言いながら、祇園丸山方面に向う。
 どんなに混んでいようと綾乃には関係無いようだ。
 私も並んで歩くが、綾乃は細い路地に入って行く。
 私は此れは高級な感じだと思いながら、路地の奥まで進む・・料亭があった。
 古風な店内に、綺麗な器に品が窺える美味しそうな料理が出てくる。
 暖簾を潜って個室に案内される。
 私は、京都の懐石料理については全く分からないから、出されたものはどれも美味しく感じた。
 蟹味噌豆腐 数の子 龍皮昆布 旨味出し松葉蟹・河豚などをお席で炭火で焼いたもの、最高級のとろける贅沢フィレ肉、その他(魚介類 海老 蟹 海老芋 鱧 肉類)
 君と一緒に食べられるだけで美味しく感じない訳は無いと、私が、そう言ったら、
「そう思て下さるだけで十分どす。うちも嬉しいどす。こうしてあんたと一緒にお食事ができるなんて。明日もまだ一日あるけど・・」
 と、淋しそうな顔をする。
  私は、料理を味わいながらも、綾乃の横顔を見ながら、
「一生会えないかも知れないなんて、無いよ。そんな事があるのであれば私も悲しくなるから、言わないでくれ」
 と言ったら、
「わたしかてそないな事信じとうあらへんけど、どないなるやら・・」
 と言葉を濁した。
 私が、住まいはと聞いたがはっきりは言わない。
 嵯峨野辺りに住んでいるという事だけだ。
 私は、本当は、古の都の事も尋ねたいと思ったのだが、綾乃は今、私に会う事を楽しんでいるような気がする。




 次の日も、同じ場所で待ち合わせをした。何故かそこに因縁があるような気がする。
 元旦は何処も人で一杯だろうと思い神社にはなるべく近付かないようにした。駅から近い三十三間堂を見る。
 以前も何回か来ているが、兎に角仏像の多さにはびっくりする。
 私が綾乃に、
「此れだけ多いと、どれも同じ様に感じてしまうし、全部見たら目が疲れるよ」
 と言ったら、
「冬は足元も冷えるし、手前の仏像はんを見て行けばええんじゃ無いどすか。本尊千手観音・雷神・風神・帝釈天・毘沙門天 は、仏教における天部の仏神で、持国天、増長天、広目天と共に四天王と言われてもいます。阿修羅と言えば、奈良の興福寺の仏像はんも有名どすな。疲れんように、ゆっくりおみになって下さいね」
 私は、言われたとおりに見て廻った。流石に裏側まで廻った時には疲れた。
 次に、空いているからと言われ壬生寺を廻った。新選組の風情は漂ってこないが、何とはなしに開放的な感じで拝観料もいらない。
 綾乃が境内を歩きながら、
「木屋町辺りでいろんな事が有ったんどすよ。でも、平安の都は、中心で無くなっていき、次第に東、あなたのいる江戸の方に移って行ったんどすね」。
 私が、
「東京は良い所もあるが、やはり、古都の良さはまた格別なんだな」
 というと、
「そうどすか。あたしは、東は知りませんから、でも、ええトコではおまへんどすか」
 私がバス通りに出た所で、
「折角京都に来て詣でないのも詰まらないかな?でも、空いているところがあればいいけれどな」
 と言ったら、綾乃が、
「御苑の中に小さな神社がおおすから、行ってみましょうか」
 と、白雲神社に連れていってくれた。私が、
「小さくても小奇麗ないい神社だね、御利益がありそうだな」
 と言えば、
「御利益、きっとありますよ」と綾乃が笑う。
 二人は、渡月橋を眺めてから、茶屋で一休みした。
 二人並んで腰かけ、「蕎麦でも食べる」と聞いたら、「お蕎麦ええどすな。頂きましょう」と、笑窪を見せる。お茶を戴き休んだところで、私が好きな仏像があるからと、「広隆寺に行ってみない」と誘ったら、綾乃は、「お好きな物が有って結構どすな。行ってみましょう」と弥勒さんを拝観する事になった。
 私が「以前来た時に較べると薄暗くてよく見えないな。近くで見る事も出来ないし。まあ、保存の為だと思うけれど」
 と少し不平を言ったら、綾乃は、
「薄暗くてもええものはええどすから、寧ろ、その方がええ場合もありますでしょう?よくおみになって下さいね」
 とほほ笑んだ。
 太秦天神川から地下鉄に乗って二条城前で降り、二人で暫く辺りを散歩する事にした。
 古の、朱雀門の辺りから、応天門を右に見る形で、豊楽院から宴の松原辺りまで。
 何となく、綾乃は、考え事をしている様に、ゆっくりと歩いた。
 私は良く分からないが、今で言うと、千本通りを中心に、平安京朝堂院跡や平安宮内裏宣陽殿跡、建礼院跡などを通り過ぎ、再び地下鉄に乗る。
 私が駅の階段を降りながら、
「今晩は、夕食は何処にする?元日で何処も休みでは?」
 と聞くと、綾乃は笑みを浮かべ、
「大丈夫どすよ。あたしの知っとるお店が鴨川のねぎに有りますから」
 と、鴨川沿いに向かった。




  夕陽が潤んで、街のビルのガラスに傾くように反射しながら移動していく。
  街は、すでに青い影の中にすっぽりと飲み込まれ、次第に濃い紫色に変わると、いつの間にか街灯やネオンが灯り街は夜の顔を覗かせている。


 綾乃と並んで、高級そうな店に入った。
 暖簾を潜ると、今まで賑やかな通りの喧騒は何処かに行ってしまって、二人だけの個室が待っていた。
 綾乃が品書きを見るまでも無く、
「懐石でもしゃぶでも、適当に見繕いますから、御口に会いますかどうか」
 とまた、笑窪を笑顔に付け足す。
 私は、喧騒から遠のいて行く自分を感じると共に、本当なのかなと、綾乃の着物姿を頭から足元まで確認せざるを得なかった。
 今日は、酒で通す事にした。やはり、その方が料理に合いそうだったから。
 目の前に並んだお晩菜や鍋や小鉢などを箸で頂きながら、綾乃の目を見る。
 どれもこれも美味しい、楽しい。
 小一時間も経った頃、綾乃が私の顔の表情を窺うように、
「今晩は、あたしの所に泊まっていって下さい。荒れ果てていますが、宜しかったらで結構どすが」
 私は、ホテルに未練がある訳では無いからチェックアウトを依頼した。支払いは済んでいるが荷物があるから、この後とりに行く事にした。
 幸い、店とホテルは地下鉄で近かったから、綾乃には店で待っていて貰い急いで帰って来れた。不思議な事に、来る時にはあれ程迷ったホテルがこんなに近いとは思わなかった。
 息も切らせずに帰って来られた私は、綾乃に、
「私と貴女はどういう関係だったのか」
 と聞いて見たくなった。
 綾乃は、以前と同様に、
「あんたはなんも御存じ無い方がええどすから、でも、あたしとは縁から結ばれとる。そやし、ちびっとだけお話をしますね」
 と言い、料理が並んでいるテーブルに文字を書くように話し出した。
「あなたは、歌を通じて付き合っとる女性がおりました。とっても仲が良かったさかいすが。トコが、同じ様にあたしとも、歌を通じて会う様になり、あたしとあなたは愛し合うようになったさかいす。凡ての名は申せません。あたしとの関係に気付いた彼女は、あたしを憎みました。結局、彼女は、あんたを殺めてしもたさかいす。ほんで、自らもこの世の哀れを感じ亡くなってしまいました。残酷な話やので、あんたには聞かせたくなかったし、御自分でも命まで失ったのに、何故、今、こうして生きとるのかと不思議に思われるのは当たり前どす。
 でも、神様は、こうしてあたし達二人が出会う事をお許しになったさかいす。
 お覚えへんでしょうが、あんたは歌が上手かった、それも、悲劇の一つの原因となったのかも知れませんが、人の愛情などというものは、むちゃ簡単に理解でけるものではおまへん」
 私には、綾乃の目が嘘では無い事を語っていると分かる。だから、それ以上は深く聞こうとは思わなかった。
 話の女性にしても、綾乃や私にしても、一体誰だったのかはわからずじまいだ。
 ただ、八坂神社の手前の西楼門を待ち合わせの場所にするのは、そこで、二人に関係する何か大変な事が起きたのではという気がする、間違い無いだろう。
 一体、そこで、何が起きたのか、今更、分かる訳も無いが。
 ただ、私が綾乃を今も愛している事は間違い無い。私と付き合っていた女性も哀れで仕方が無いが、おそらく、その女性よりも綾乃の方が好きだったから、悲劇になってしまったが、今も、こうして時を越え、出会いを重ねているという事は、私が綾乃を愛しているという事実に相違無い。
 綾乃は、名は明かさなかったが、幾つかの歌を詠んでくれた。
 私は、歌を聞いている内に、誰の歌か気になった。
 綾乃は、何故か、
「それは・・私が知りませぬどなたかの歌・・」
「うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふものは頼みそめてき」
 私は、歌については分からない。
 綾乃は説明をしてくれた。
『あの人のことを思いながら寝たので、現実に逢っているように見えたに違いありません。それが夢とわかっていたら醒めないでいましょうものを。』
 更に、もう一つだけ、実際には、数多くの歌が飛び交った事だろうが。
「限りなき思ひのまゝに夜も来む夢路をさへに人はとがめじ」
『際限なく続く恋の思いにまかせて、うたた寝の夢の中だけでなく夜の夢でも私の方からこちらへ来ましょう。夢の中の道でまで邪魔だてして人が咎めるということはないでしょう』
 綾乃は、私の顔を見ると、
「こら、彼女の歌ではおまへんが・・。ただ、おなぐちいうものは、同じように思う心を歌うものどすから、別の方の同じ気持ちを歌ったものどす」
「言の葉はつゆ掛くべくもなかりしを風に枝折ると花を聞くかな」
『あだっぽい言葉を交わすなど、まったく思いも寄りませんでしたのに、今あなたが、女たちを残らずなびかせていると、まあ、花やかな噂を耳にしましたよ。』



 
 綾乃と私は、四条から地下鉄に乗った。
 ところが、私の記憶はそれから先の事は、夢の様に途切れてしまっていた。



 綾乃は嵯峨野の自分の館を目指している。
 地下鉄を烏丸御池で乗り換え嵯峨野方面に向かったまでは何とか記憶に残っている。
 綾乃の館というか庵というか?如何にもその時代らしいものだった。
 竹林の中に、忽然と現れた。
 嵯峨野というのは、綾乃の和服姿と相性が良いようだ。
 その姿が、余計に美しさを際立たさせる。
 この辺りの空には、宝石箱から飛び出た様な、星が散りばめられている。
 流れ星が、幾つも筋を描いて落ちてくる。
 私は、こういう経験は無いので戸惑ったが、靴を脱いで畳に上がると、蚊帳の様な帳が張られた中に寝所があった。
 帳を持ち上げ中に入ると、どちらとも無く添い寝をした。
 月の薄灯りの中で見える綾乃の肌は、白いと表現できない程透き通っていた。
 丸い形をした小窓から鹿威しの音が聞こえていた。
 私は言葉にあらわない程、綾乃の事を愛している自分に気付くとそれを分かってくれたのか、綾乃が微笑みを浮かべる。
 其れに気付いたかのように・・薄紫の空気が揺れていた・・。




 京都駅まで綾乃は送ってくれた。何事も無かったように、笑窪の微笑みを静かに投げかけてくれた。
 私は、電車のデッキから、
「若し来月雪が降ったら、或いは夢に現れたら、必ず、また来るから。待っていてくれ。忘れないでくれ」
 と、此れ以上作りようも無い、真剣な顔を・・。
 綾乃は、
「夢で申しますが、。八坂神社の手前の西楼門で、朝、十時に。忘れいでね・・」
 私は、忘れるもんか、一度死んだ身だから、例え死霊に取りつかれたとしても、何も怖いものは無いと思った。



 私が、何も考えないのに、思わず、「名にしおはばいざ言問はむ都鳥我が思う人はあり・・・」『その名を持っているならば、さあ尋ねよう。都鳥よ、私の思うあの人は無事でいる・・』。




 電車は、何事も無かったように、ホームを離れて行く。
 バッグの中から、資料を出してみた。
 昨晩、綾乃が話した歌は、小野小町と清少納言の有名な歌だ。
 しかし、その二人が生きていた時代は異なる。
 そして、誰とは言わずとも同じような事情が有れば、似た気持ちを歌うのではないかと思った。
 いにしえの事は一切分からない、どんな事情が有ったかなど。
 綾乃が誰だろうと私が誰だろうと大した事では無い・・。
 私は確信している、雪の日、或いは、夢に現れた綾乃に会いに、また、八坂神社の手前の西楼門に来る事を、綾乃に会う事だけを思って・・。



 電車は加速して行く。別れを誘う様に、しかし、私は、「もう、本当の別れはやって来ないだろう」と呟いた。

 



「死ぬまで進歩するつもりでやればいいではないか。作に対したら一生懸命に自分のあらんかぎりの力をつくしてやればいいではないか。後悔は結構だが、これは自己の芸術的良心に対しての話で、世間の批評家やなにかに対して後悔する必要はあるまい。夏目漱石」

「阿呆はいつも彼以外のものを阿呆であると信じている。芸術のための芸術は、一歩を転ずれば芸術遊戯説に墜ちる。人生のための芸術は、一歩を転ずれば芸術功利説に堕ちる。芥川竜之介」

「自分に才能を与えてくれるなら、寿命を縮めてもいい。くだらなく過ごしても一生。苦しんで過ごしても一生。苦しんで生き生きと暮らすべきだ。志賀直哉」



「by europe123 」
https://youtu.be/TibQnxeGdPc

7月8日旧作前半「最後部に二作掲載」。フィッシングメール。ノンフィクション作家 広瀬 隆氏の安部君に

7月8日旧作前半「最後部に二作掲載」。フィッシングメール。ノンフィクション作家 広瀬 隆氏の安部君に

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-08

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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