草かばね

草かばね

 

ほとほと、厭になる。

文字は、書いた瞬間から腐っていく。図書館の本が読まるる度に汚れていくように。

青魚の如く疾く劣化す。

少し格好を付けて言って了えば、文字とは「花」である。

誰にも名を知られず、勝手都合に人様のベランダへ種を飛ばし、芽を出す無名の草。

図鑑にも載せる価値の無い花。

咲くには長けるけれども、結実することは稀で或る。徒花。

此の考えを延ばすと、図書館とは森、森で或る。

其の森には、様々、方々の草、果実、花どもが生い茂って居る。

艶やかな花の後、美しい実を付け、人口に膾炙されるもの。

日蔭でコケの如く、呼吸するもの。

果実と一口に云っても、無論、毒の果実だって有る。

併しそれは、アレルギィのやうなもので、コアラがユーカリの葉(ヒトにとって猛毒である其れ)を嬉々として食卓テーブルの真ん中に置いて、馳走とするように、云わば、体質のやうなものだと思ふ。

仮令きみが「この果実はおいしいぞ、」

と誰かに勧めてみれど、勧められた其の彼は嘔吐を催し、腹を下すかも知れ無い。

けれど悲しいかな、口にするまで、其の果実が毒なのか薬なのか分から勿いのだ。

ヴィヴィッドな桃色で、とげとげの、奄美でも無くば異邦の物であらふ、植物が、存外誰かのメランコリィの特効薬であることさへ有る。

西洋弟切草(せいようおとぎりそう)なんて物騒な名前の植物が、安楽作用が認められる様な事も有るのだから。

草かばね

草かばね

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-06

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