「彼岸花」
昔どこかの兵隊さんと
藝者の女が惚れあった
兵隊さんは 死んじゃった
母は坊やを一人抱いて
小川の近くに暮らしてた
雀おはなし
蝶子守唄
花は夜道の松あかり
子どもも死んだ
強盗が来て
母の前で坊やは死んだ
母は叫んだ
彼女は泣いた
女は吼えた
まばゆいばかりの白が照る
あの三日月の玉の緒に
ああいといらへを仰ぎ望みて
をんなは赤いおべべの我が子に水を含ませた
赤い頬も
小さな唇も
かあさま、と笑って駈け寄る
あの姿と何一つ変らじ
水の身体に
なみだそそがれ
枯れることなく白露のそそがれ
もう二度と飲み水に飢えぬよう
母は子の身体にかぶさった
包む姿は真綿の花
愛しいあの人と
我が子のみを温めんと
燃ゆる焚火の火粉の心天高く蝶になり
赤い宴
赤い宴
いとしめやかなる内輪の宴
痕には煤ヒトツマミも産れず
彼岸の花のみ咲いたと言ふ
あたかも誰れかが抱えるやうに
彼岸の花束咲いたと言ふ…
「彼岸花」