私の街
これは、私の夢の一節であります。
私の街も夕暮れの太陽の真っ赤に染め上げられ、あれよと国道を歩いていました。私は、ただただ憂いと戸惑いを感じながら、ねっとりとした排気ガスに吐き気を覚えていました。この街の空気はとてもいいものではありません。人間の欲と嘘にまみれた、鉄アレイのような重い感触です。私もその街の一員なのです。街の中にひっそりと…いや、目立っていないだけではっきりと、私の暗い影は映し出されました。まるで、演劇に使われるハリボテの木でありました。街のど真ん中ではしゃぐ人達は一体どうやって、なんのためにここにやってきたのでしょうか。ヒップホップを鳴らしながら街を一望しています。
私の前に、バスが留まりました。なぜでしょう。はっと気がつくと私はバス停にいました。いつの間にか、国道の端まで歩いていたみたいです。喉は乾き、腹は空いて、死にかけの私を水溜まりが鮮明に映し出しています。私は何も考えることなく、バスのドアに飛び乗っていきました。発車するベルがなった途端、何となくホっとした気がしました。景色は、森、山を行きます。バスの中は人は居ず…と思いましたが、ただ1人白い服の着た少年がいましたね。どこに向かうかも分からないといった恐怖がだんだん高くなってきました。しかし、それにしたがい喉が潤い、腹は満たされ、ボロボロだった体は回復していきました。
窓に映る季節が移り変わります。気持ちのいい春から陽炎差す夏、紅葉の舞う秋から降り積もる冬の景色へ…...。そしてまた春へ繰り返されます。すると、白い少年が急に、ふわふわした様子で話しかけてきました。
「あなたもまた、不安を持ったひとなのですね。」
私は言います。
「どうしてわかったの?僕は何も話していないだろう?」
「このバスに乗る人は皆、何かを抱えて乗ってくるんです。その名も『救済バス』。このバスは記憶の中で走るんです。行く先もよくわからない。それはあなたの決断によって変わるのです。」
「では、君は一体?」
「私も記憶なのです。あなたの見る今の景色全ては記憶です。」
そう言われたとき、夢だと気づきました。
「あなたの悩みや不安を聞かせてください。」
見ず知らずの少年にそんなことを言われたのであります。ですが、当の私には彼に話す抵抗感というものは一切なかったのです。
僕には悩みがある。高校に入学して、少し経った頃だ。僕はクラスに馴染めずにいた。彼らには心が無かった。何か背中に闇を感じる。彼らを信じると痛い目に遭うかもしれない。そう思っていた。初めてで唯一高校の友達が出来たのは9月の体育祭。彼の名前は…そうだな。皮肉にもKとしておこうか。彼は成績優秀、そして何よりモテた。いつも彼の周りには人だかりが出来ていた。そんな彼が僕に、リレーを待っている時に話しかけた。
「君、あんまり話したことないよね。趣味とかあるの?」
恐る恐る答えた。
「僕は…。強いて言うなら音楽が好き。ギターをやっている。」
「え!マジで?俺もやってる!なんの曲弾いてるの?」
こういった出会いだった。僕は有頂天だった。彼の背中に闇があるとは到底わからなかった。その後、彼とセッションをする日々が続く。彼よりギターが出来た僕は、教える事が多かった。彼の友達とも形上はギターを楽しんだ。青春という言葉が似合わなかった僕に、確かにあの時は青春という文字が当てはまっていた気がする。
ある時、ふと彼に言われた。
「好きな人とかいる?」
僕はその時、前の席の女の子と仲良くなって好きになっていた。彼のバンドメンバーであるので、話す機会は元々多かった。だが、次第に彼女の良さに気づいてしまった。純粋で素直な彼女は、僕の心を満たしてくれた。背中に闇を持った人はいくらでもいるのに。
「あの子だよ。」
僕は指さして答えた。
「あいつか。俺は応援してる。」
やっぱりKはいいやつだ。
しかし、次の言葉で僕の心は打ち砕かれた。
「おいみんな〜!こいつ、俺の彼女を盗ろうとしてるぜー!意味わからないよな!」
クラスに闇が生まれる。彼から教えて貰ってた彼女は嘘だった。本当の彼女は、僕の好きな人だったのだ。
「残念!俺はお前の事が気に食わない!ちょっとギターができるからって調子に乗りあがって!彼女にはお前に優しくするように言ってたからな!そしたら…ほら見ろ!お前は全てはめられたのさ!馬鹿が!」
その日から今日の卒業まで僕は誰とも関わりを持たなかった。人間が嫌いさ。大学に行くけど、誰とも話すつもりはない。でも、本心は話したい。人間を好きになりたいのだ。
少年は私の話を落ち着いた表情で、時々相槌を打ちながら聞いていました。夜は深まり、そろそろ夜が明ける時間です。
「大変でしたね。僕はあなたに1つ助言をしたいのです。」
少年は拳を握りしめて言いました。
「この世界は広い。あなたの高校が全ての世界ではない。勇気を持ってもっと色んな人に会ってみてください。必ず、あなたの心を満たす人はいるはずですから。卒業という岐路に立った今、あなたは一番踏み出しやすいのです。」
彼の言う言葉は確かにありきたりな言葉でありました。しかし、彼は泣きながら切実に訴えかけてきました。私はその姿勢に感動したと共に、こう誓いました。
「ありがとう。踏み出してみる。」
そう言ったとたん、季節は3周し、バスが停車しました。バスの扉が勢いよく開き、私はバスを降りました。
目が覚めました。私は立てかけた子供の時の写真を見て気づきました。あの少年は、私の子供の姿でした。
私の街