沈黙時間

多分、恵まれているんだろうな、そう思いながら口を噤む細やかな記憶

 例えば特定の誰かと通話をしている時、ふとした拍子に会話が途切れた際に生まれる心地よい沈黙時間が好きだ。間を埋めようと思えば埋まるくらいのタイミングで、電話の向こう側にいる人が何も話さなくなり、僕も無理に会話を繋げようとせず、次第に二人の間に広がっていく沈黙と、リラックス、それらを飴玉を口の中で転がすように味わっている時間が好きだと思う。そこには会話を繋げるための努力も、責任感も緊張感もないし、いくら黙っていていも誰からも、それこそ先ほどから会話を楽しんでいるはずの相手からすらも咎められないし、嘲笑もされない。とても贅沢な時間だと思う。

 同じような理由で、複数人で集まっている時に、自分が話さなくても会話が成立する場面において、意図的に黙っていられる瞬間も面白く感ずる。その場の空気感で僕自身が沈黙を作らされているのではなく、自分が沈黙することを選択できている瞬間が嬉しい。そんな状況に長らく恵まれてこなかったからか、こうした一見何気ない瞬間に大変な幸せを見出すことができる自分は得だと思うこともある。

 多分、恵まれているんだろうな、そう思いながら口を噤む細やかな記憶。今日から少しずつ書いていければいいなと思う。自分の言葉で。

沈黙時間

沈黙時間

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-06-14

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