CAT File 1 :おみくじダルマとサイレント・ミャウ
・章のズレ、ヌケがあったのでアレコレ修正しました。
000. CAT: Chasm Adjustment Taskforce
この世界には、現実と齟齬が生じるような別種の現実やもうひとつふたつ向こうの世界の秩序との折衝が生じさせる境界性の強い大小様々な事象が多々ある。その境界をなんとなく適当にうまく現行の現実に馴染ませてとりあえず凌ぐための組織がCATである。CATはネコビトと呼ばれる、人間の世界向けには人もしくは猫の姿を取り、気を抜いた時には猫と人の間のような姿を取る、ネコ・サピエンス達によって運営されている。これは彼女達の物語である。
Scene:001. 殺ダルマ事件
「うわあ、凄惨だわね」
丸い体格の沼田署長が現場を覗き込みながら言う。足元でつぶれた赤い小さいダルマは、アルファベットの見える芯材と薄茶の粘土らしきものをそこらに撒き散らしている。神社兼寺院の入り口の門の辺りだ。門の柱は朱に塗ってあり、それが故に視界に赤が多くなるので、必要以上に惨たらしく見える。
「せいさんって何ですか?」
新人のちゃる捜査官がメモ帳を手に質問する。ちゃる捜査官は最近、「黒猫かぞえ」事件で人間界からCAT入りした期待の新人だが、ネコビトになったのがうれしいので、猫に寄りがちなことが多い。
「ちゃる、猫爪が出てるよ。うーん、凄惨、せいさん…難しいな…」
先輩の遮無捜査官は真っ青な瞳と目元のアイラインが美しいクール系の女性だ。油断すると目が猫に戻りがちなので、銀縁の、軽く色のついた眼鏡をかけている。
「遮無ちゃんは真面目だから。難しく考えないでいいの、せいさんは…うん、こんな感じで、ぐちゃぐちゃでひどいなって感じよ。」
対して、CAT日本支部署長の沼田は、ボリュームのある体格に経験と威厳を漂わせている。凄惨という漢語をまだ子供であるちゃる捜査官に、具体的に易しく説明するやり方に、遮無捜査官は感嘆する。やはり大物は違う。
「さすが署長、分かりやすいですね…。しかし、なぜ今日はこちらに?」
「新人の人間の仔の様子を見に来たのよ、どう?ちゃるにゃん。」
ちゃる捜査官は光が当たると黄金に輝く毛の持ち主だが、今日は新人の常で、黄色いCAT帽子をかぶっている。これは人間の小学校1年生が使用するものによく似ているが、CATの物には耳飛び出し防止機能が付いている。
「まだ爪の出し入れが難しいです。」
「そうよね、人間からCATに入った仔は、最初は大体そうなのよ。大丈夫、すぐ慣れるわ」
沼田署長の優しい励ましに子供らしい笑顔で応えるちゃる捜査官。そこへ、遠くから呼ぶ声がする。
「遮無さん!大変だ!」
遠くから三色の髪色の小柄な女性が駆けてくる。
Scene:002. サイレント・ミャウ
「三ツ池ちゃん、どうした?」
細身の遮無捜査官が素早く小柄な三ツ池捜査官に駆け寄ると、三ツ池が息を切らせながら報告する。
「サイレント…サイレント・ミャウがまた…」
「ああ、ここ数週間巷を騒がせている、あれね…」
ちゃる捜査官の後ろからぬっと沼田署長が立ち上がると、三ツ池は毛を逆立たせて敬礼する。
「沼田署長!なぜここに。」
「で、ガイシャは?」
「例によって、オスビトです。39歳会社員、人間、男性。長期にわたる徘徊で極度の睡眠不足と栄養失調、ひどいもんです。」
「生きてはいるんだね」
「はい。先刻、雨所捜査官が人間の病院へ搬送しました。」
「うむ。で、三ツ池ちゃんは病院から走ってきたの。」
「いえ、署に帰る雨所さんにそこまで送ってもらいました。」
「あら、じゃ、なんで走ってきたの。」
「それっぽくなるかなと思ったからです。」
「にゃるほど。」
ネコビトたちはそれで納得し、三ツ池は沼田に詳しい報告を始め、遮無はその隣で手持ちのタブレットに情報を入力する。そのうちに、あちらからのんびりと二人のネコビトが現れる。
「遮無ちゃーん、三ツ池ちゃーん、おつかれさまぁ。」
ロングヘアをふわふわに巻いて白衣を着た丘斜検視官は独特の間合いで優雅に手を振り、署長に会釈をする。隣で明るいオレンジの髪をショートカットにした阿日分析官が沼田に気づいてサングラスをずらす。
「おや、沼田署長!珍しいですね。」
「まあ、ちゃるにゃんも今日は現場なのねぇ、新人帽子、かわいいわぁ。」
丘斜検視官は、ちゃる捜査官の頭を帽子の上から撫でると、ゆったりとダルマの方へ歩を進める。阿日分析官もそれに続く。
「二人とも気が早いわね。」
「実は、さっき話したニンゲンのオスが死んだかと思って呼んじゃったんですよ…」
「ねーえー、もうご遺体回収してもいいかしらぁ?」
山門から丘斜が、三ツ池と遮無に声をかける。
「あ、ちょっと待って。現場写真を撮っとかないと。」
遮無が言うと、阿日が独特のアクセントで言う。
「ああ、写真な。もうこっちで撮ってますよ。」
「ほんと?じゃあ、あとはお願いできるかな。」
「はーい」
「ダルマを殺したのは誰なんだろうねえ」
「死んでません!」
壊れたダルマが声を上げた。
「ああー」
「ねーえーしゃべったぁー」
丘斜検視官が声をかけると、遮無と三ツ池が山門に駆け寄る。
「死んでません!」
ダルマが叫び声をあげると、CATの面々は、顔を見合わせる。そして、共通の冗談でも言い合った後であるかのように笑う。
Scene:003. よみがえったダルマ
遮無捜査官が沼田署長を振り返り、冷静に報告する。
「署長、ダルマ氏、死んでないそうです。」
「そうねえ、では、ちゃる捜査官、どうしたらいいと思う?」
「事情聴取でしょうか。」
「そうね。」
「あ、でも、事情聴取は犯人でしょうか。」
「よく覚えてるわねえ。」
「署長、新人を甘やかさないでください。」
遮無捜査官はダルマ氏に年齢と職業を聞き、人間ではない旨の確認を取っている。ダルマはその通りですと神妙に返答する。
「しょうがないじゃない、人間の時もまだ子供なのよ。かわいいわあ。」
「にゃあ」
「ちゃる、猫に戻っているわよ。」
「すみません、まだ猫加減がわからなくて。」
「ええと、まだ死んでないんで、助けてください。」
ダルマは一同ののんびりした様子に困惑するが、ネコビトの秘密警察はこんなものかもしれない。一般的な人間から見れば一同は境内入り口の朱色の山門の横でくつろぐ猫の一団にみえる。一方で、境界にいる人間やその他の処々の事情のある者には、仕事のできそうな警察関係者にも見える。その実は、境界の世界の事件を取り扱う国際組織である。
「すみません、手当てしてください。あれ?」
「もう応急手当てはしたわよぉ?」
検視官の丘斜がのんびりとした口調で言う。彼女は仕事は早いが性格はのんびりしている。
「手、ないのに手当て?」
「そうね、うまい」
ダルマはこの扱いの軽さに憤りを覚えてよいものやら、気安さに気を許してよいものなのか測りかねている。そこへ、泣いて駆け寄る水色のダルマがいる。
Scene:004. 悲劇の付喪神カップル
「赤ダルマさまぁぁ!」
現場を保全しようと制止する捜査官達に阻まれ、水色ダルマは悲痛な叫びをふり絞る。沼田が頷いて指示を出し、阿日が水色ダルマにかぶせた虫取り網をはずすと、水色ダルマは泣きながら赤色ダルマとその破片へ駆け寄る。
「ああ、赤ダルマさま!」
「ああ、水色ダルマさん!愛しい人!」
「こんなになって…半分、崩れているではありませんか…」
「あらあ、なんか素敵」
丘斜検視官が嬉しそうに言い、じっと2体を観察する。丘斜捜査官の趣味は観劇だ。一方、悲劇的な二人に興味をなくしたのか仕事が終わったのか、阿日は最後に無言で全体の写真を撮ると、ふらりと去ってゆく。
「ああ、阿日ちゃん、まってぇー車、私も乗るのよぉ」
阿日を追って丘斜が立ち去った後も、ちゃる捜査官は興味津々に寄り添うダルマたちを見ている。
「ダルマさん達、目がないのにどうしてお互いの様子がわかるんでしょうか?」
「そうねえ。ちゃる、猫になっていいわよ。」
「やった」
ちゃる捜査官は嬉しそうに仔猫に姿を変え、2体のダルマの匂いを嗅ぐ。
「何かわかる?」
沼田が遮無と共にちゃるの様子を見守る。仔猫は金色の毛並みに金色の瞳で、おびえた様子のダルマたちの匂いを丁寧に嗅ぎ、小さな手でつつく。
「うーん、二人は…ただのだるまさんではありませんね…わかった、付喪神なのですね。」
「GOOD GUESS, ちゃる。おそらくは…」
教育係の遮無の言葉を遮って、水色ダルマが声を張り上げる。
「ええ、その通りです。わたくしたちはダルマ御籤のダルマに生じた、付喪神なのです。いつも三百円を払っておみくじを引く人間の手を避けて、二人で寄り添っていましたのに…それが、こんなことに。」
言葉に詰まって水色ダルマは泣き崩れ、赤ダルマもそれに続く。
「仕方がにゃいなあ。」
三人が泣き崩れるダルマに手を焼いているところに、今度は大きな影が差す。
「あ!人間ビト接近!いったん引きましょう。」
猫に戻った沼田署長は、仔猫サイズのちゃるの襟首を咥えて物陰へ隠れる。
Scene:005. 大型のオスビト
一方、逃げる時間がないと判断した遮無は、スーツにポニーテールの美しい女性の姿でその場にとどまる。人間の姿で背筋を伸ばし、きちんとした姿勢でしゃがんでいる。
「こんにちは。」
警備員詰所から出てきた、大きな男性が笑顔で声をかける。彼は沼田署長のように恰幅がよいが、背も非常に高い。かなり大型の人間だ。
「こんにちは。このダルマは、こちらの神社のものですか?」
「ええ、ありゃりゃ、かわいそうに…」
優しく高めの声で温和な大型動物のような男性は言うと、遮無のとなりにしゃがむ。そして、飛び散った赤ダルマの破片を大きな手で拾い集め、転がった赤いダルマに黙礼をしてから片手で十字を切る。それを銀縁メガネの向こうのから観察していた遮無に気が付くと、小声でこういう。
「ああ、この仕草。」
「相撲の…?」
「あ、あはは。似てますが、相撲はこうですよ。」
警備員の男性は左、右、真ん中と大きな掌を動かし、それから改めて十字を切りなおしてその差を伝える。遮無はその差を後で再現できるように小さく指先で真似る。男性は人好きのする笑顔でこっそりと言う。
「僕、神社勤めだけどカトリックなんです。あ、でもここ、神社兼お寺です。」
「成程。そして、ダルマはどちらに属するんでしょうか。」
「さあ…僕もよくわからないんです。おや、この赤いダルマさん、マスキングテープが張ってある。可愛い花柄ですね…あなたが?」
「いいえ、さっき白衣を着た人が貼ってしてました。」
それは実際、丘斜が貼ったので嘘ではなかったが、警備員の男性は奇妙な顔をした。白衣の丘斜が、この人間の男性にはヒト姿には見えなかったのだろう。
「さっき、猫が何匹かいたのは見たんですが。白衣…?お医者さんかな。」
「医者ではないかと。」
「そうか…では、コスプレの人もいたんですね。困ったなあ、コスプレ写真は境内ではご遠慮くださいって、僕、言わないといけないのに。」
それから、男性は大きな手で2体のダルマを拾い上げ、立ち上がるともう片方の手でポケットを探る。ジャラジャラと音がして、小銭がポケットからつまみ出される。それを、小さいとはいえダルマ2体を持ったままでより分け、正確に600円を取り出すと、男性は近くのダルマみくじの販売箱に歩み寄り、小銭を料金箱に入れる。
「僕、ずっとこのおみくじ、やってみたかったんです。」
「新しいダルマみくじじゃなくていいんですか。こちらだと、ダルマに運勢を占う紙が付いていないようですが。」
「うーん、いいんです。かわいいから欲しかっただけだから。では、失礼します。」
そう言って、男性は爽やかに笑うと、大きな手に赤と水色のダルマを持ったまま、詰所へ戻ってしまった。
Scene:006. 沼田署長の贔屓力士と緊急出動
CAT本部に戻ると、沼田署長は興奮で逆立った毛でますます丸くなっていた。そして、物陰から撮られた遮無と神社の警備員の男性の写真を拡大し、モニターいっぱいにその笑顔を表示させる。
「やっぱり大熊丸よ、引退した大熊丸だわ!」
沼田署長は人間の大相撲のファンだが、そのなかでも昨年突然引退した大熊丸のファンだった。他に、海獅子と白虎山のファンでもある。
「しかし…彼、引退力士にしちゃ、ちょっと若くないですか?」
「大熊丸は若くして引退したのよ、もったいなかったけど…田舎のお母さまがご病気だったのよ!」
「こっちにいるってことは、お母さん治ったんですかね」
「さあ…でもきっと、都会で住んでも平気なくらい良くなったのよ…」
沼田署長が曖昧な返答を大きな机の上のモニター一杯に拡大された笑顔の前で呟き、三ツ池捜査官と雨所捜査官が真面目な表情を作りながらそれぞれの机に戻る。そして、大急ぎでキーボードを叩き、大熊丸について検索し始める。そんな中、遮無は香箱を組んで宙を見つめている。
「シャムさん、何か気になることでも?」
「いや…あの赤ダルマ、連れていかれたが大丈夫だろうか。」
「大丈夫よ、大熊丸は優しいのよ!」
と沼田署長が自分の机から主張する。
「そうですが…ダルマが壊れていると、付喪神が憑いていられなくなる可能性もあるかなと…」
「ふむ、そうね。そうしたらダルマ傷害事件ではなくて、やはり殺人事件…いえ、殺ダルマ事件になってしまうわね。」
沼田署長は逆立てた毛を寝かせ、思慮深い表情に戻る。
「とはいえ、人間からしたら、単なる壊れたダルマです。些末なことで私が何度も行くと怪しまれるかもしれない…」
「にゃんだ、そいなら、ちゃる捜査官に見てきてもらえばいいじゃない。見た目が子供ならダルマに興味があっても無理な感じもしない、かわいいし。心配なら、アタシ連れていってあげるよ?」
三ツ池が言うと、遮無もちゃるの方をちらりと見て小さな声で言う。
「そうだな…しかし、まだ訓練中…大丈夫だろうか」
「にゃあに、任せるのも訓練の内さ。」
「そうだな。ちゃる、とんぼ返りで申し訳ないが、おやつを食べたら行ってきてくれるかな?」
「らじゃですっ!」
「はい、おやつ」
遮無がちゃるにおやつ煮干しを渡し、実は煮干しが好きではないちゃるはそれを三ツ池の白いジャケットのポケットに隠し、二人は事務所を後にする。
「さて、報告書でも書くかな」
遮無が机に向かい、眼鏡を外したときに、黒電話がなる。
「はい、CAT」
受話器の向こうから、サイレント
の唸るような音と、外国なまりの日本猫語が聞こえる。
「青木です、誰もアプリみてないんですか!重度のサイレント・ミャウ症状の人間男がコンビニを襲撃!現場に急行てください!」
「何?!皆、緊急出動だ!沼田さん、指揮を頼みます!」
「よし。遮無、雨所、繰津、佐備!出動だ!青木、お前は現場で待機、決して一人で行動するな!」
「了解です!」
事務所はにわかに慌ただしくなり、CATメンバーはそれぞれに飛び出していく。
Scene:007. チャイルドシートとカーナビ
三ツ池は愛車の青いクラシックカーを運転している。狭いバックシートでは、チャイルドシートに座ったちゃる捜査官が、古い型の腕時計型スマートデバイスを確認している。
「三ツ池さん、アプリに呼び出しがかかっています。」
「おや。」
三ツ池はダッシュボードにおかれたスマホに向かってシャッと威嚇音を発し、スマホはそれを合図に集合司令と指定の住所をナビに表示する。ナビには他の車両の位置も表示される。
「うーん、どれどれ。皆あっちに行ってるのか。とはいえ、アタシらはダルマへ行こうよ、コンビニ立てこもりじゃできることがにゃいもん。ダルマ事件の聞き込みするよー」
「ええー」
「あははー」
まだ新人のちゃる捜査官はお母さんが行っちゃダメと言いそうな危険な現場に行ってみたくて仕方がないのだが、ちゃる捜査官のお母さんに怒られたくない三ツ池捜査官は、笑って誤魔化す。するとバックミラーの中でちゃる捜査官があからさまにがっかりした様子で肩を落とすので、三ツ池はやさしく続ける。
「うーん、気持ちはわかるんだけどね。それに、あんまり集まっても、サイミャウの患者じゃどうしようもないよ。それに、ダルマの犯人見つけたら、きっとダルマ喜ぶよ。」
「ダルマくん、大丈夫かなぁ」
三ツ池は緑の多い界隈でハンドルを切りながら、ダルマの事件も危険だったら困るなと考える。それから視界の隅をさきほどかすめていった喫茶店に思考は移り、それから、ちゃる捜査官の声で我に返る。
「三ツ池さん、サイレント・ミャウって何ですか?」
「ああ、知らないのかあ。サイレント・ミャウってのはね、猫が声を出さずににゃあってする、一撃必殺の奥の手ことさ。食らった側はその猫のことが頭を離れなくなる。」
「声を出さないにゃあ。こんな風にですか」
ちゃる捜査官は、運転する三ツ池の後ろで黙って口を開け閉めする。三ツ池はバックミラーでそれをみながらにこにこする。ちょうど赤信号に行き当たったので車を止めると、振り返って、まだ無言で口を開け閉めしているちゃるをみてつい吹き出す。
「ひゃはは、かわいいねえ、ほんとにかわいい。でも、サイレント・ミャウの破壊力がない、でも、そこがいい。」
「サイレント・ミャウの破壊力ってなんですか?」
「うーん、…胸をかきむしる哀れさ、圧倒的な弱さが求める助力。そしてそれを拒否することによって生じる自己嫌悪…まあ、教科書的なとこだと、そんなところかな。でも、サイレント・ミャウは最後の手段なんだ。身寄りのない仔猫、体が弱って動けないような猫、そういった、本当に助けの必要な猫が使うべき必殺技なんだ。これがなきゃ、生き延びられないような。健康な心優しい人間を陥れるのに使うべき技じゃない。」
信号が青に変わり、三ツ池捜査官は向き直ってアクセルを踏む。
「ま、これはアタシの意見さ。サイミャウが通じない人間もいるし、サイミャウで人間を狂わせる猫もいるんだろう。でも、今日はダルマ傷害事件の捜査。さぁ、聞き込みだ。」
「そうなんですね。」
後部座席のちゃる捜査官はメモ帳から目を挙げ、小柄な三ツ池捜査官の後頭部を見つめる。童顔で可愛らしい容姿の向こうに、元野良の大人の気配を感じる。後頭部への視線に気づいて三ツ池は「あはは」と笑うと、「ほれ、ナビの暗号は解けるかい?」と言う。
カーナビには、略語を多用した連絡事項が流れている。
「沼/ヒトケイMTG、Aok短ヤネウラ、SabRainTk(G㉜K別件聞)」
「沼田署長は人間の警察と会議、Aokは青木さん、短はクルツさんTKは…わかんにゃいです。」
「わかんにゃいよねえ…TKは待機だよ。普通に書いた方が手間は少ないと思うんだけどね…それ、着いた。」
駐車場に着くと、黒いスポーツカーが停まっている。
「遮無さん、コンビニ行かなかったんですか?」
「んー行こうと思ったんだけど、つまんなそうかなって。」
「遮無さんてたまにそういうとこありますよね。」
「そうねーあと、ちゃる捜査官に何かあったら、ちゃるママに殺されちゃうからねー」
遮無捜査官は、にっこりと笑うと神社兼寺院へ続く通りを歩きだす。
Scene:008. 大熊警備員
午後も遅い時間になった神社兼寺院の境内は、観光客の波も引いてのんびりとした空気が流れている。警備員の大熊は、のんびりと境内を一周し、小さな雑草の花を摘んで詰所に戻った。入り口に三毛猫と金色の仔猫がいたので、詰所の冷蔵庫に何かなかったか、覗いてみる。
「すみませーん」
ドアのところに、小さな女の子が立っている。黄色い帽子をかぶっているので、小学校1年生かもしれない。
「はいはーい、どうしたの?迷子?おとしもの?」
「あのですね、こちらのダルマみくじについてお聞きしたくて。」
「うーん、僕じゃなくて、あっちの巫女さんに聞いた方が…」
大熊が高めの優しい声で答える。適当に話題をでっち上げながら、ちゃる捜査官は素早く警備員詰所の中を見回す。事務机2脚、折りたたみ椅子2脚、折りたたみ椅子に腰かけて昼寝中のおじいさんビト1名、冷蔵庫1台電子レンジ1台、テレビ1台。おじいさんがビトが寝ていない方の机の上に、赤と水色の色彩が見える。
「あ、ダルマさん!」
ちゃる捜査官が子供らしく元気よく言うと、大熊警備員はにっこりしたあとちゃる捜査官をその机の前まで通す。ダルマは、花柄のマスキングテープがはがされ、代わりに砕けても粉砕されなかった部分が何か茶色っぽい樹脂でつないであり、それを支えるような形で置かれた新聞紙の上にいる。そして、目には動かすと目玉が動くシールが貼ってある。隣には水色のダルマが、同じように目玉シールを張って置いてあり、こちらにはまつ毛も描き足してある。
「根田のおじいさんが、金継してくれるんだって。キンツギって知ってる?」
警備員が椅子で寝ているおじいさんビトを大きな掌で示して静かな声で言う。ちゃる捜査官は自分のメモ帳を素早くめくり、キンツギのページを開く。
「キンツギ…あった。食器などの壊れた部分を漆でつないで金をのせる修繕方法ですね。古くは大名物、茶入つくしナス…つくも?よめにゃいや。有名な何かが壊れたのを直したと。」
「へえ、よく知ってるねえ。」
その時、ふがっと音を立てて根田さんが起きる。
「ありゃ。迷子かい。」
「どうも、根田さん、あなたが継いだダルマさんを見たかったようで。」
「そうかい。まだしばらく乾かないんだよね。乾いてきたら金粉載せるよ。」
「最近壊されたのは、このダルマさんだけですか?」
「うーん、最近はあんまりないかな。前は、立ち入り禁止のところに上がって足跡つけたり、木にぶら下がって枝を折っちゃった人がいたみたいですよね。」
「ああ、そうだな。でも最近は、ないなあ。こないだも変な男を追い払ったし。さすが、サー・ナイトベアーだ。」
おじいさんビトの根田さんは、なぜかとてもうれしそうに大熊の肩を叩く。大熊は慌てた様子で根田さんに向かって人差し指を立てる。
「サー・ナイト・ベアー?」
ちゃるが素早く根田さんの机の前に張られたポスターへ眼をやる。ずらりと、屈強そうな半裸のオスビトが並んだポスターが貼ってある。ちゃる捜査官は、それが沼田署長の好きな「相撲」という競技というかもしれないと考える。
「こんにちはーすみません、妹が…あ、いた。もう、おいでーダルマおみくじあっちだってよー」
「はぁーい」
三ツ池はちゃるに出て来いといいながら、半歩足を中に入れてぐるりと一回り、見渡す。それから、「ありがとうございましたぁー」と言って、ちゃる捜査官の手を引く。ちゃる捜査官は、大熊が追い払った「変な男」についてもう少し聞くべきではなかったか、と考える。
Scene:009.コンビニ・コモーション
「こちらもね、もう同じ質問を何度もしたくないんですよ。ええ?僕の白助はどこですか。ねえ、どこへやったんですか、どこへ隠した!言え!!」
焦燥した様子の痩せたオスビトが、カウンターの中のメスビトの髪をつかみ、彼女をカウンターに押し付けて怒鳴り散らしている。そのすぐ隣に出刃包丁が置いてある。午後のコンビニの駐車場は人間とネコビトの警察車両で埋まり、人口密度を上げている。そのコンビニの屋根裏では、遮無と繰津が天井に穴をあけ、オスビトに向けて麻酔銃を向けている。
「青木G、OKです。」
「オーケー、ではいつでも撃てるように…」
「待て、撃つって何だ?」
無線の向こうで、人間の機動隊が心配そうに口を出す。
「あ、いや、麻酔銃です。」
「麻酔銃?効くのに時間が…」
「大丈夫です、CATの麻酔は人間にも安全でしかもすぐに効くので…」
「しかし、どうやって人間に麻酔銃を使ったと言い訳すればいいんですか?おたくらは非公式の組織だから責任取ってくれとも言えないし…」
「大丈夫です、CATとしても…」
イヤホンの向こうでは沼田署長と人間との政治的なやり取りが続く。遮無はうんざりしたようにため息をつき、繰津は面白そうにニヤリと笑う。
「また署長のグレイな毛並みが白っぽくなるにゃあ。」
そして、繰津は最近新しくしたネイルアートを、下から漏れてくる光に透かして眺め始める。
「Oh、その水玉、かわいいね」
「ありがと。蛸の吸盤柄にゃ。」
「え…?」
と、にわかに天井の下の店内が騒がしくなり、すさまじい物音と共に一台のバイクが店の正面のガラスを突き破って入ってくる。大量のガラス片と共に飛び込んだバイクには、白とピンクのライダースーツを着た人間が乗っている。
「にゃに!?」
「バイクだと!雑誌の棚も全滅だ!運転してる奴は大丈夫か…?」
雑誌棚の上に倒れていた人間はぴくりと動き、それから、足を器用にバイクの下から引っ張り出す。体を覆った革製の白いライダーススーツには、所々ガラスが刺さっている。
「小柄だな…メスビト?」
立ち上がったメスビトはヘルメットをかなぐり捨て、大声で「メレンゲ!助けに来たよ!」と叫ぶ。ライダースジャケットに刺さったガラス片を抜き、それをカウンターの中へ移動した男性へ向けてそちらへ進む。
「てめえかアタシのメレンゲちゃんを捕まえたのは!?あんな小さな仔猫ちゃんになんてことしやがんだ!返せ!!」
「んだとこらぁ!俺の白助ちゃんだ!!どこへやった!?」
「やめて、助けてぇ!」
男性に人質にされた女性が必死に泣き声を絞り出す。
「そのバイト女子を放しな。」
重度のサイレント・ミャウ患者の二人は、人質の女性を挟んでじりじりとお互いの距離を詰める。
「こちら青木G,このままじゃ人質が危ない!」
「繰津も撃てます!」
「ええい、仕方ない!FIRE!」
青木の銃が男性を、繰津の銃が女性の首筋を確実にとらえ、吹き矢状の注射が大人のニンゲン2名の意識を奪った。呆然とする人質の女性のもとへ、毛布を持った沼田署長が走り寄る。ネコビトの姿の署長のモフモフの腕に抱かれたとたん、女性は緊張の糸が切れたのか、わんわんと大声で泣き始めた。
「いいのよ…泣きなさい、怖かったわね…」
「ネコビトさん…はじめてみました…もふもふ!可愛い!あったかい!」
「あら、そう?ウフフ…ほめられるのは嬉し…」
「オジサンなのにこんなに可愛いなんて…」
「オジサン!?」
「あら、沼田署長、爪出てる」
「手に汗握ったものねー」
「…あれ? Hum、あの人間…」
気を失ったまま救急車まで担架で運ばれる人間を眺めながら、青木捜査官は何か思うところがある様子だった。
「どうしたの?」
「あのメスビト…なんか、知っている気がシマス…」
Scene:010. 根田さんへの聞き込み
「すみみゃせーん」
小さな警備員詰所の入り口に、小さなちゃる、小柄な三ツ池、すらりとした遮無と三人が並ぶ。ふがっと音がして、奥から根田警備員が出て来て、扉を開ける。
「大熊さんは、いらっしゃいみゃますか。」
「おや、こないだのお嬢さん。と、猫2匹。」
根田のおじいさんには、今日は三ツ池と遮無は猫に見えるようだ。
「大熊さんは、いらっしゃいみゃすか。」
「ああー大熊君ねえ。今日は、お休みの日だよ。」
「ほう、それは休暇ですか、それとも欠勤?」
突然、人間モードになった遮無がちゃるの後ろから根田の方へ身を乗り出し、根田は大慌てで椅子の上に座りなおす。
「こりゃあ、べっぴんさんだ…」
「シャムさん、けっきんってなんですか?」
「うーん、だいたいは、来ることになってたけどお休みになったときかな。病気とか。」
「おおくまさんは、病気なのですか?」
「ああ、違うんだ、今日は…試合なんだ。」
根田さんは嬉しそうに、机の前に張ってあるポスターを指差す。屈強そうな半裸のオスビトが並び、そのうちの幾人かは覆面をしている。
「へええ、大熊さん、プロレスファンなんだ。」
先ほどまで猫姿で顔を拭いていた三ツ池も、人間モードで入り口から中に足を踏み入れる。
「いやいや。でも、言うと嫌がるんだよね、まだ弱いからって…だから、秘密なの。」
「弱い?」
「彼ね、覆面レスラーなの。そのポスターでも、熊のマスクしてるでしょ?でも、優しいからねえ、弱いんだよね。」
「いやあ、優しくても強いレスラーもいるよ。」
三ツ池の鼻息が荒くなったところを見ると、プロレスが好きなようだ。
「グレートボブクィーンなんて小柄なのに…あ!」
三ツ池は何かを思い出したようだ。
「すみません、ちょっと野暮用!」
とあわてて駆け出していく。
「トイレかにゃ?」
「もう、三ツ池ったら…で、すみません、では、大熊さんはプロレスラーなんですね?」
「ああ、はじめたばっかりらしいけど。なんでも、子供のころからあこがれのスターがいるらしいよ。お嬢ちゃん方、お団子どう?さっきあっちのお店で買ったの。」
「いただきます。」
「ちゃる、蜜がいいー」
「ベタベタに気を付けて」
人間の警察組織では接待を受けるのはご法度だが、ネコビトの秘密警察は全く気にしない。人間の接待を受けるのは猫の当然の権利であり、猫姿でなくてもその感覚は常に一貫している。おじいさんビトの根田さんは、可愛い子供と美しい女性がお団子を食べるのを嬉しそうにみている。
「僕の孫もこんなだったなあ…もう中学生なんだけどね。ほんと、あっという間。先生みたいに美人になるかねえ。」
根田さんは遮無を学校の先生だと思っているようだ。
「校外学習かな?生活科ってやつかい?こないだも色の白い男の子が、境内で座っててね。迷子かなと思って声をかけたんだけど、おじさん怖かったのかな、逃げちゃった。」
「おじさん?」
「ちゃる、おじさんはおじさんだよ。で、その男の子は、どういった特徴で…?」
「うーん、これと言って…色が白くて、可愛い顔をしてて、何か言うようなそぶりを見せて、裏のお墓の方へ逃げちゃった。」
「根田さんは、その子の事が気になって夜も眠れないといった症状はありますか?」
「ないねえ。だって、この辺は安全だし、今どきの子供はしっかりしてるからねえ。なんだい、まさか、行方不明とか?」
「いいえ、そういったことはないんです。ただ、そういった…」
「よーかいです。そういう妖怪の話が流行ってるのです。」
「ああ、学校の七不思議みたいな。そういえば、妖怪と言えば…お嬢ちゃん、妖怪見る?」
根田さんはあちらの隅にあった箱をこちらに持ってくる。
Scene:011. ダルマとつけまつげ
「あけるよ、いいかい」
「根田さま!どうぞどうぞ!」
中から水色ダルマの声がして、根田は箱を開ける。そこには、立体のまつ毛が張られた水色ダルマと、樹脂が固まるまで新聞紙のうえで固定された赤ダルマと、隅に水の入ったお猪口が置いてある。
「わぁ、水色ダルマさん、まつ毛伸びたね」
「ええ、根田さまが貼ってくださいました」
「孫がつけまつ毛、分けてくれてねえ」
「ありがとうございます」
「いいのいいの。」
根田と水色ダルマが当然のように会話を交わし、さらにそこちゃるも加わるのに根田も驚かないので、遮無は状況を解釈しかねている。若干の動揺が瞳孔をタテに狭めるが、すぐにまた人間の瞳に戻る。ちゃる捜査官はあまり動揺もせず、素直に聞く。
「根田さんはダルマがしゃべるの、わかるのー?」
「はじめはびっくりしたけどねえ。赤ダルマがうめき声とかあげるから。そこから、喋るようになってね、慣れたらハムスターみたいなもんだよ。」
「ほんとにハムスターサイズだね。でも、ダルマはもふもふじゃないね。」
「君はちゃるちゃん?っていうの?ちゃるちゃんはもふもふが好き?」
「うん。でも虫も好き。」
遮無は楽しげに会話する根田とちゃる捜査官とダルマ達の状から、根田さんは境界受容能力の高い人間ビトだ判断する。
「では、根田さんは私たちが…」
「はいはい?」
「私たちが実は…」
「あ、やっぱり大熊君のファンなの?」
「うーん、たぶん違いますが…」
根田さんは境界受容能力は高いが、CATについてはまだ知らない様子だ。
「でもさ、署長、大熊丸のファンじゃん。根田さん、大熊さんのサイン頼めます?」
先ほどから壁のポスターを熱心に見ていた三ツ池が口を挟み、遮無が「でも色紙持ってないし」と止め、根田が棚から別の菓子箱を取ってきて、嬉しそうに手形とサインの入った大量の色紙を取り出す。
「え、1枚くれるの?」
「外で売ってるお焼きを買ってきてきれたらあげるよ」
「ほいきた、何味?」
「高菜」
「私はあんこ」
「ちゃるもー」
机の上では、青ダルマは新しいつけまつげを瞬かせて、ネコビトと人間の会話を見守る。ちゃる捜査官は一瞬お焼きの話題に奪われた関心をダルマ達に引き戻す。
「青ダルマさん、まつげかわいいね。」
「きゃ、ありがとうございます。」
「赤ダルマさんの具合はどう?」
「もう少し、漆が乾くまでじっとしてないといけませんが…ふふ、金粉、かっこいいでしょう?」
水色ダルマは、鼾をかいて寝ている赤ダルマを自慢げに見やる。睫の下のシールの目玉がきらきらしている。
「治ってよかったねえ。どうしてこうなったのかは、見てないの?」
「ええ、私は箱の底の方にいたので…」
「そうなんだね」
ちゃる捜査官が『ぶるーのだるま→はこのそこ、みていない』とメモ帳に書き付けていると、詰所のドアが開いて三ツ池が戻って来る。
「ただいまー買ってきたよん。ほい、根田さん、これが高菜。こっちがあんこ。アタシはシャケ。」
「シャケあったの?そっちがよかったな。」
「裏メニュー、よく知ってたね。」
「へへへー」
「ああ、忘れてた。いいかい、大熊くんがサー・ナイトベアーだっていうのは、僕らだけの秘密だよ。」
根田さんは真面目な顔でそういい、それから、「このダルマ達がしゃべるっていうのもね。」と付け加えてほほ笑む。
Scene:012. 大熊さんとボブいの1993
秘密警察CATは、その秘密を守るために警察病院ではなく、一般の病院を使うことが多々ある。三ツ池は、昨夜のコンビニ・コモーションで逮捕された鬼ヶ首花梨容疑者(42)が入院している市立病院にいた。入り口のバス乗り場で、ぽつねんとすわる大きなオスビトを見つける。彼は今日は特大サイズのスーツを着ている。
「もしかして、大熊さん?」
「あ、アナタは…昨日のおかあ…」
「昨日は妹がお騒がせしました。」
三ツ池は元気のない様子の大熊が手に小さな花束を持っていることに気が付く。
「お見舞いですか?」
「ええ、でも...僕、ただのファンなので…どうにかして届けられたらなあって思うんですが。」
大熊は色白な頬に寂し気な笑みを浮かべる。と、大熊の携帯が鳴る。
「はいはい、ああ、ボブ様いのち1993さん。」
「ちょっと!おおくまさん!その名前で呼ばないでください!」
すぐあちらの物陰から仕事のできそうなスーツ姿の男性が慌てた様子で現れた。
「すみません、他にお名前を存じ上げないもので…」
「ああ、すみません、わたくしこういうもので…」
ボブ様いのち1993と呼ばれた男性は革製の名刺入れから名刺を取り出し、腰を折りながら大熊にそれを差し出す。大熊は「今は手持ちが…」と言いながら名刺を受け取り、それを確認してスーツの胸ポケットにしまう。
「まさかカリンさんが…」
二人は心配そうに呟いて病院の入り口を眺める。
「ちょっと待って!あんたら、ボブクィーンのファン?!」
三ツ池が問いただすと、二人はきょとんとした顔をした後に思いついたようにえがおになる。
「あ、もしかして! アナタは…BBQ22さん?」
三ツ池は BBQ22ではなかったが、グレートボブクィーン・かりんの古参のファンではあった。しかし、職業上、関連する事情は明かせない。加えて、最近は仕事に追われて情報もチェックしていない。
「ち、違うけど、なぜこの病院に?」
「SNSで拡散されたんです、コンビニ強盗の人質を助けるためにグレートボブクィーン・かりんがバイクで突っ込んだって。」
「大丈夫かなあ、ボブクィーン、大事にしてた猫ちゃんが亡くなってから、ずいぶん落ち込んでたから…」
「そうにゃのか…」
つい猫語尾が出てしまった三ツ池は、慌てて咳ばらいをする。
「その、猫が亡くなったというのは?」
仕事ができそうな男性がカバンからタブレットを取り出す。
「その説明は、この『ボブいの』にお任せください。」
「あれ、名刺には田中と…」
「ここでは『ボブいの』です。」
田中は眼鏡を直し、タブレットを三ツ池に向けてプレゼンを始める。
Scene:013. グレートボブクィーン・かりん
「謎の覆面女性レスラー、グレートボブクィーン・かりん。彼女が活躍したのは今から20年から15年前。デビュー当初はその強さと悪役っぷりで多くのファンを熱狂させました。ところが突然、敵味方関係なく好き勝手に攻撃し、常に一番強い獲物を狙うというスタイルに変身。男性プロレスにも参加。これで一部のファンは離れ、逆に熱狂的なファンも付いた。女性ファンが一気に増えたのはこのころです。この後、3年ほど活躍した後、現役引退。鬼ヶ首花梨の本名を名乗り、護身術教室やヨガ教室を主宰し、時々チャリティーイベントで戦っています。一方で15歳になる愛猫、メレンゲを溺愛し、猫関係の活動もいろいろと…」
「メレンゲ、そうか、猫はメレンゲ…」
「ところが、このメレンゲちゃんが1か月ほど前に、長い闘病生活ののちに亡くなってしまったんです…」
「このメレンゲちゃんですが、ボブクィーン・かりんがスタイルを変えるきっかけではなかったいう噂が…」
「わかった、ありがとう、『ボブいの』。申し訳ないが、行かねばにゃらん。大熊ちゃん、アタシ、ちょっとコネがあるから届けてあげるよ。」
三ツ池が大熊から白い花束を受け取るのと、病院の自動扉が開いてグレーのスーツを着た青木が現れるのと、ほぼ同時だった。
「ミズ・ミツイケ、単独行動は控えてくださいととあれほど…」
「青木さん!なぜここに?!」
「I cannot tell. 彼らは…?」
「大熊さんと、えっと…『ボブいの』さんです。」
「ああ…『ボブ様いのち1993』さんですね。」
「青木さん、なんでしってんの?」
「Shh, follow me.」
青木は足早に病院の廊下を歩み去る。三ツ池は、心配そうなオスビト二人を振り返り、笑顔を残して、そのあとを追う。
Scene:014. 地下のキャットピープル・ホスピタル
三ツ池が追いつくと、青木は「こっちですよ」と言ってブルーグレーの猫姿に戻り、廊下の隅の狭いCAT専用扉をすり抜ける。三毛猫姿の三ツ池は、その扉を過ぎるときにヒゲがビリビリと震えるのを感じた。
「ここから先はCATとCIAの領分です。」
「さすが青木さん、アメリカ帰り…」
「それを雨所の前で言わないでくださいね、落ち込むから。」
青木はアメリカ育ちであり、一方の同僚の雨所は品種にも関わらず、アメリカに住んだことがないのを気にしている。青木はそれを気にしている。青木は通路を抜けると再び人間の姿に戻り、今度は薄暗い部屋の隅にあるボタンを押す。機械音がして部屋全体が揺れる。青木の向こうに、エレベーターのボタンらしきものがある。
「しかし、市民病院の地下に、にゃにが…」
「まあ、大したものではないですよ。Cat peopleの病院です。それで、ミツちゃんは上でどんな葉梨を?」
「グレートボブクイーンのファンが心配してお見舞いに来ているだにゃ。」
「その花束はOHKUMAさんからですか。心優しい人間ビトもいるのですね。しかし、GBQの方は…」
「グレート・ボブクイーン、彼女もサイレント・ミャウの犠牲者でしょうか?」
「我々もそう思っていたんですが…」
ガタンと音がしてエレベーターが止まり、扉が開く。白い廊下に置かれた丸いクッションの上で、沼田署長と雨所捜査官、遮無検査官、ちゃる捜査官がのんびり待っていた。
「署長、遮無さん、ちゃるちゃん!」
「ちゃるは置いてきたかったんだけど、根田さんが交代しちゃったもんだから…」
「知らないニンゲンに預けるのもねえ。」
「ですよねえ。」
「でね!大熊さん、やっぱり大熊丸よ!お母様も完治しているわ!」
「へえ、そりゃよかったですねえ。」
「でもにゃんで引退…」
「ふふふ、夢よ!彼には追いたい夢があったのよ!」
「ああ、もしかして…」
三ツ池が丸い椅子の輪に加わり、プロレス、言いかけたとき、あちらで轟音が響いた。真っ白い廊下に煙が流れ、少し先の扉が爆風で吹き飛ぶ。
「ああ!」
「まずい、目が覚めたようね…」
沼田署長が緊張した面持ちで立ち上がる。
Scene:015. ボブキャットにしては大きい
もうもうとした白煙の向こうに、大きな猫型の影が見える。その猫は轟くような唸り声をあげている。
「あれは…」
三ツ池が呟くと、沼田署長が声を張り上げる。
「そうよ、GBQカリンよ。彼女もネコビトよ、しかも大型の…報告では品種はボブキャットの筈だけど…大きいわね。リンクスじゃないかしら。」
煙の向こうのリンクスは、廊下のベンチを易々と持ち上げて、あちら側でサスマタを構えた人間の警察に投げる。煙の向こうで大きな音がし、オスビトの悲鳴と退避命令が聞こえる。
「署長、麻酔銃の使用許可を。」
遮無が冷静に既に構えた銃を手に許可を求めるが、青木が鋭く言う。
「NO!これ以上打ったらオーバードースしてしまう!」
「しかし、あのサイズなら…」
「テーザーにゃ!」
「ちゃる、ニャイス!持ってる!?」
「にゃ…」
ちゃるはポケットからニンゲン対応用の小さなテーザー銃を取り出す。
「む、ちゃんと持っているのはえらいぞ!だが…」
「10こ、あります!」
ちゃるが肩から掛けたカバン外してをひっくり返すと、さまざまシール貼り付けてキラキラ仕様になったテーザー銃がいくつも床に転がる。
「えらいわ。」
「Oh,アオキって書いてある!How sweet!」
「みんなの分作ったよ、雨所さんのもあるんだけど今いないから…」
それぞれにデコられたテーザー銃を選んでいると、次第に煙が晴れてくる。入院患者用の病院服を着せられた大型のネコビトが立っている。その服をはぎ取ると、柔らかな毛におおわれた大きな肩があらわれる。彼女は大きな反り返った耳の先に生えた黒い毛を震わせ、金色の瞳で捜査官たちを見下ろす。捜査官たちは一斉に小さなテーザー銃を構える。
「…ああ、ここにいた。心配したんだから。」
大型のネコビトは思いのほか優しい声で言う。一同が一瞬虚を突かれ、その間に大型のネコビトは目にもとまらぬ速さでちゃる捜査官を抱き上げて走り去る。
「撃て!」
その背中が大きいので、捜査官は躊躇せずにテーザー銃を撃つが、豪華な斑模様がちりばめられた毛足の長い背中はそれをものともせず走り去る。
「まずい!ちゃるが!」
「ここにほかの出口は?!」
「奥に人間用の階段があります!」
「よし、青木、遮無、行け!」
「らじゃ!」
青木と遮無が人間用階段へ駆け出し、沼田署長と三ツ池は元来たエレベーターに飛び乗る。
Scene:016. 猫用エレベーターと院内美容院
エレベーターの中で三ツ池が沼田に質問する。
「すみません、いまいち掴めないんですが…」
「一人で行くから聞き逃すのよ、でも、ここにたどり着いたのはいいカンね。グレートボブクィーン・かりんは元ネコビトよ、といっても、今はもうネコビトに戻っているわね…」
「元、とは?」
「私たちネコビトはもともと不安定な存在だから…バランスが崩れたの。猫部分を封じたのが、鬼ヶ首花梨、彼女のニンゲン部分よ。ネコビトの彼女より小さかったでしょ?」
「封じた…?」
三ツ池はさらに質問を続けたかったが、エレベーターは地上階に着いた通知音を鳴らす。三ツ池が駆け出し、猫用通路へ向かうのに対し、沼田署長は部屋の奥へ悠然と進む。
「署長!そちらは壁…!」
「じゃにゃいのよ。」
人間の姿の沼田署長は、余裕の微笑みでドアを開ける。当然、その向こうは院内美容院であり、素敵なグレイヘアのカーヴィヘヴィーなマダムの姿でその中を笑顔ですり抜ける。
「こんにちは、沼田さん!」
「あ、沼田さん!見て、真似してみたの。」
中高年のニンゲン女性たちから声がかかる中、入りかねている三ツ池を沼田が振り返る。
「はやく、ちゃるが危ないわ。」
どこか病院の別の場所から、何かが壊れる音と叫び声がする。
Scene:017. 白い階段の白い猫
真っ白な階段を階段を駆け上りながら、遮無と青木は状況を整理する。
「グレートボブクィーン・かりん、元プロレスラーで慈善活動家、サイレント・ミャウの被害者。」
「サマンサ・リンクス・オニガクビ、元CATのUS支部、NYC支局長です。暗殺未遂後、猫と人のバランスを崩し、やむなく猫部分を封印したと聞いています。」
「猫部分を封印?」
「ひどいですよね。しかし、さきほどの部屋の爆発…空間が歪んで被害が出るんです…苦肉の策というやつです。」
「それで持て余したエネルギーをプロレスに…」
「ええ…しかし、どこまで続くんでしょうか、この階段は…」
二人は体力のある方であったが、いつまでたっても地上にたどり着かないことに焦りを感じ始める。
「署長は楽な方を選んだな…」
「全くその通りですね…」
二人がスピードをゆるめたとき、かすかな仔猫の声が響く。
「にゃーーーーん」
上方の階段の踊り場に、小さな真っ白い仔猫が座っている。その綿菓子のような毛並みが吸い込むように、声は響かず消えていく。遮無と青木がお互いを見かわし、それに心を奪われていないことを確認する。
仔猫はもう一度小さく鳴き、角を曲がって消える。そして、また小さな鳴き声が聞こえる。遮無と青木はもう一度視線を交わしてから、再び走り始める。
「サイレントじゃないな…」
Scene:018. 大熊さんの猫だまし
大熊は久しぶりに緊張感に満ちた土俵の上を思い出していた。塩を撒くと、周囲の喧騒が消える。土俵に手をつく瞬間、相手の力士の真剣な目、あとは思考と身体の動作が完全に一つになる。しかし、今日は思考ばかり先走って体が動かない。それは、まだ体がプロレスの動きに慣れていないからでもなく、目の前の相手が大きな猫であるからでもない。猫のような、女性のような、その生き物がいる。そしてその生き物は、あこがれ続けたヒーロー、グレートボブクィーン・かりんの声で抱いた金色の仔猫に話しかける。
「Stay there, メレンゲちゃん、ちょっと待っててね。」
グレートボブクィーン・かりんよりも何周りか大きなそのネコビトは、ベージュの毛並みの可愛らしい仔猫をバス停の椅子の上に置くと、グレートボブクィーン・かりんと同じ構えを取る。
「も、もしかして、カリンさん!?かっこいい着ぐるみですね!!」
「ボブいの」田中さんが、大きなネコビトに話しかけるが、一撃で跳ね飛ばされて伸びる。粉々に砕け散った玄関のガラスを避けて沼田と三ツ池が飛び出すと、ネコビトはフルキャットモードへ移行し、巨大な山猫に姿を変える。
「やっぱり、リンクス、オオヤマネコね…」
沼田が呟き、三ツ池はちゃるがデコったテーザー銃を両手に構える。頭上では、ヘリコプターの羽音が響き始める。
「かりんさん!なぜ暴れているんですか!」
「うるさい!もうメレンゲちゃんは渡さん!お前か、お前も狙っているのか…!!」
かりんがバス停標識を地面から抜き、それを大熊に投げる。
「危ない!」
大熊を押しのけようと飛び出した沼田にそれが当たる。
「ああ!母さん!」
「かあさん?!」
「すみません、そっくりで!!」
分厚い毛皮に守られてさしたるダメージもうけなかった沼田だが、なぜか動きが止まる。
「なんてことを…かりんさん、あなたはいつも強い者だけに向かっていったのに…」
「うるさい!メレンゲちゃんは渡さん!」
かりんが大熊に飛び掛かる。大熊がその目の前で大きな掌を叩く。
「猫だまし!!」
そして、得意の寄り切りに持っていこうと組んだところに、三ツ池が二丁構えのテーザー銃を浴びせ、我に返った沼田もそれに加わる。そこに、息をきらせて今にも倒れそうな遮無と青木が加わり、こっそり人間に戻ったちゃるも加わる。
かりんがついに気を失い、倒れる。と、同時に、大熊も倒れる。
「ああーごめんにゃさい…」
よく見ると、ちゃるのテーザーは大熊の額につながっている。
「やれやれ、気絶した大山猫にニンゲンの男性二人…どう言い訳するかな…」
沼田署長は人間の病院長に電話を掛ける。
「あ、沼田ですぅーすみません、表のですねえ…」
ちゃるに遮無が駆けよる。
「ちゃる、よくやったな。守ってやれず、すまない。」
「大丈夫です、オオヤマネコかりんさん、混乱していたけど、優しかったです。」
「肝の据わった仔猫ちゃんだにゃ。」
三ツ池もちゃるの頭を撫でならいう。
「わたしは白くないのに、にゃんで間違えたんでしょう?」
「仔猫だからだろうな。」
「混乱してて、可哀そうでした。」
ちゃるは、折り重なってちょっとした山のようになっているヒトビトを眺める。
「あ…」
白っぽい影が気絶した大熊の上に立っている。と、すぅと消えた。
「見ました?」
「何を?」
「そういえばあの白猫はどこ行ったんでしょう?」
「探す?」
「んにゃ…」
Scene:019. ダルマと少年
「ダルマさん、ごめんなさい。」
色白の少年は、金継ぎですっかり格好良くなった赤ダルマに、深々と頭を下げる。
「や、その…今後は気を付けてください。」
赤ダルマは照れながら謝罪を受け入れる。根田さんが笑顔でお団子を差し出す。
「さ、コータ君もちゃるちゃんも、どうぞ。ダルマ君たちは、お神酒ね。」
「コータ君がダルマ落としたの?」
「うん…僕も落ちたけど」
少年は膝に大きな絆創膏を貼っている。根田さんが語るところによると、高い木の枝におみくじを結ぼうとして落ちたそうだ。その時に、赤ダルマはポケットから落ちたらしい。そして、それに慌てたコータ君も木から落ち、大泣きし、手当てに連れていかれてダルマを拾い損ねたそうだ。
「でも、私たちは決して離れないと誓ったのに…おみくじとして引かれてしまったなんて…」
「いや、すまぬ。あの時はつい昼寝をしてしまい…ひかれたことすら知らなかった…」
「ひどい!」
水色ダルマが赤色ダルマの失態を許すのには少し時間がかかりそうだ。
「それで、大熊さんは?」
「それがねえ、相撲に戻ろうかなって…」
「ええ?やっぱり、カリンさんの事がショックで…?」
「いやね、カリンさんがトレーナーについてから、けっこうしごかれてるみたいでね。」
根田さんが嬉しそうに語るが、ちゃるには事情がわからない。
「にゃあ…?」
「やったぁ!サー・ナイト・ベアー、もっと強くなるの?」
ご近所のコータ君は、大熊のファンのようだ。
「そうだといいけどねえ。そうそう、新しく、パンダマンって名前を変えるんだってよ。」
根田さんは大きめのタブレットを手慣れた様子で操り、パンダマンの画像を一同に見せる。そこには、熊のマスクを外し、目の周りを黒くぬった大熊がいる。見出しに、パンダマン勝利の文字が見える。
「ああ!ここにいた。ちゃる、一人で見えないところに行っちゃだめ!根田さん、こんにちは。」
「ああ、遮無さん、三池さん、こんにちは。煮干しあるけど、食べる?」
「いただきます!」
「ちゃるちゃん、大熊君のこと知らなかったみたいだけど、話してないの?」
「ああ、署ではちょっと、難しくてですね…」
Scene:020. 終わり良ければたぶんよし
「考えすぎです、沼田署長。大熊さんのお母さんにはみえませんよ。」
「大熊丸のお母さまは高齢出産だったからかなりのお年…やっぱりグレイヘア、やめようかしら…」
「私もグレイヘアですが」
「青木ちゃんは若く見えるからいいじゃない!ブルーグレイだし!」
「にゃんだ、母親が人間って、大熊は本当にただのニンゲンなのか。」
かなり大きめの山猫が、来客用のソファから沼田署長に声をかける。
「そうよ、だから相撲取りに戻るように説得を…」
「ふむ、Sumoも悪くない。あの『猫だまし』は見事だった。だが、彼はもうPANDAマンだ。目の周りを黒く塗ってから、女性ファンも付いた。もっと強くなる。」
「嫌よ、横綱大熊丸が見たいわ!」
興奮に毛を逆立てる沼田署長に、青木がそっと耳打ちする。
「署長、ここは抑えて…鍛えるべき大熊さんがいれば、しばらくはカリンさんも落ち着きますから…」
「うう、ネコビトのペットロスに贔屓力士を奪われるなんて…」
「ミズ・カリン、もうNYCには戻られないんですか?」
雨所が目を輝かせながらカリンに聞く。雨所は先ほどから猫英語に関する疑問点をカリンにぶつけまくっている。
「うむ、私はあの街では無理をしすぎた。元がカナダの山猫なのに、ビルの谷間で人間のように捜査や政治や…しまいにはたかが銃弾ごときでバランスを崩し、人間になりきろうと自ら猫を封じてしまった。サイレント・ミャウ現象もメレンゲちゃんが代替していた猫要素が漏れ出したのだろう…猫は猫らしく、が一番だ。」
「で、ここに通うの?」
「そうだな。ネコビト姿に戻れる場所もあまりないし。隣にジム用のスペースを借りようと思う。」
「猫英語の教室も開いてください!」
「うん、そこはおいおい実行に移す…」
沼田署長はグレイヘアが増えそうな予感を感じる。
「ただいみゃー」
三ツ池と遮無がちゃる捜査官の手を引いて扉を開ける。
「あ!」
一瞬、ちゃる捜査官の毛が逆立つが、すぐにカリンに駆け寄る。
「またジャンプでポイやってー」
どうやら、二人はすでに仲良しのようだ。
「ジャンプでポイ?ああ、でもここは狭いから…」
「やってよー」
「だーめ」
「ちゃる、ここでは猫投げ遊びは…」
遮無も止めるが、三ツ池は楽しげに笑いながら様子を見ている。
「やーだー!ねこなげー!やってー」
そこから2分ほどちゃる捜査官は鳴きまくり、皆が耳をふさぐ。そこでちゃる捜査官は必殺のサイレント・ミャウを繰り出す。
「ああーもう、仕方ないなあ。」
「みんな、周りを片付けて!」
CATチームは一体となり、ちゃる捜査官の「ジャンプでポイ」を安全に遂行すべく準備をする。新人は初めての事件で、最強の必殺技を手に入れた。
CAT File 1 :おみくじダルマとサイレント・ミャウ
子供と話しながら書きました。
アメリカの刑事ドラマみたいに展開を早くしたくて、細かいことは気にしない感じで書きました。
子供と、児童書の某探偵シリーズの警察は犬のオジサンばっかりでかわいくないね、話していたあたりから、女の子の猫ばかりの警察っぽい組織の話を作ろうかとなったのはじめです。
追記
去年書いたこの話…
さきほどニュースを見ていたら、綺麗なお姉さんが強盗を捕まえてました…カリンさんって名前の…!!
どうしよう、偶然の一致とは言え、名前かえようかな…
この話のカリンさんはあんなに美人じゃないからなぁ…