短編
夕日が強まる。視線を外し、眼の痛みを抑えながら、成功した世界の様子を先に思い浮かべる。失敗が先ということはない。何事にも順序があり、適切な手順が用意されているはずなのに、人はしばしば間違える。秩序を乱すのはルールが分からないから。いや、さっき通ったコンビニで屯していたヤンキーでも規範を持っている。真面目というモラルを理解しているから、順守したり、逸脱を行える。そういった意味で優等生とヤンキーは同類に属するはずだ。しかし僕はどちらでもなかった。ガリ勉するなり、グレるなりすれば、こんな妄想に取り憑かれることはなかった。朝から行われている高校の合格発表。自分の番号はなかった、そんな悲劇を数十分前から頭の中で繰り返し上演している。駅のプラットフォームで降りたとき、戻って海まで行ってしまおうか。そんな誘惑にかられた。今はネットでも合否を知ることができる。わざわざ学校で結果を知って項垂れるより、夕方の砂浜で散歩しながら、スマホを片手に合否をTwitterで報告した方がよっぽどネタになる。だが僕は西洋風のレンガ作りの校門に背中を預けながら、ざくざくする胸の辺りを何度も押さえては唸っていた。この受験を一大行事と捉えていた。この学校を受けると聞いたクラスメイトからは茶化されることもあったが、僕なりに心持ちは真剣だった。ネタにはしたくなった。風が強い。早咲きの桜が空に舞う。裏表を華々しく見せる花弁に少し憧れをもった。鼠色の地面が頬を染めたように明るくなる。花弁が絨毯になるまでその光景を見ていたかったが、そろそろ閉門の時間。諦めたように掲示板に向かう。ふと肩がぶつかった。
「っと、すみません」
すれ違いに綺麗に整えられた髪が揺れた。まるで夜の空を全て集めたような髪が不思議だ。顔は見えない。ただ、こんなに髪を長くしているなら、美のこだわりがありそうだった。まだ冷える風が少し途絶えたくらい、鼻を啜る音が聞こえた気がした。彼女は落ちてしまったのだろうか。風邪をひいていたり、嬉し涙だったりはしないだろうか……。ただ、なんとなく受かっていて欲しいと思った。やはり気になり後ろを振り向くと、彼女は横顔を少し見せるような形で口にした。
「まっすぐいくと夜ですよ」
そうか、太陽が落ちたんだ。僕は彼女に別れを告げて少し走った後、静かに時計塔を見上げた。
短編