その井戸

諏訪6市町村のどこかの山の一帯を切り開いて、デカい町を作って諏訪7市町村にしてみよう。いつか、お金が溢れ出て困ったらやってみよう。さて、その「お金が溢れ出て困る」とは、どんな状況だろうか?

町内に家を建てた時に、水源がすぐ近くにあったので井戸も掘った。建設も終わり、引越しも済み、生活が始まった。最近地震が各地で多く、ここら辺も少し揺れた。引越しの日も、荷物を運んだトラックは、色んな方向に揺れていた。
生活が始まり、早速井戸水を汲み上げてみた。欲張って大きめの桶を付けたので、汲み上げる水はなんとも重たかった。「うーん、欲張らなければ良かったな。水って重いなぁ。」しかし引き揚げた桶を見ると、中身は水ではなく、無数の100円玉だった。
私たちは驚いたものの、すぐに目の色を変え、その日は体力の限りに100円玉を引き揚げ、銀行で両替をした。数日、そんなことを続けていたが、また地震が起きた。朝起きて、「なんか夜中揺れてたね」「結構揺れてたね、目が覚めちゃったもん」など言いながらも支度をし、今日も100円玉を集めようとしたが、出てきたのは10円玉の山だった。何だか愕然としてしまったが、お金であることに間違いは無い為、その日も作業を続けた。しかし収入が減った分、徒労感が生まれたので、徐々に飽きてしまった。蓄えは充分と思い、そのうちお金集めを止めてしまった。
それから数日後、また地震があった。揺れたんだか揺れなかったか曖昧な程度の揺れだった。ふと、予感があり、井戸水を汲み上げてみた。次は何円玉だ?恐る恐る桶を引き揚げる。桶に詰まっていたのはなんと、ヒヨコだった。
途方に暮れた。20羽のヒヨコに囲まれ、困っていた。育ったらニワトリになることを考えると、養鶏場に引き取ってもらうのがベストだと考え、近隣の養鶏場を調べ、電話をかけ、引き取って貰えないかと打診をする。「頂きものの卵を放置してたら生まれてしまった」と嘘の言い訳をした。心苦しいが、井戸水の代わりにヒヨコが揚がってきたなんて口が裂けても言えなかった。養鶏場のおじさんは、怪訝そうだったが「10羽程度なら、うちで引き取らせてもらおうかな、一応、知り合いの養鶏場に私から連絡してみましょう」と申し出てまでくれた。そして折り返しの電話の中で「買い取る」とまで言って貰えたが「無尽蔵に湧くので、お金は要りません」と返事をし、その日の夕方に、ヒヨコたちは貰われて行った。なんだか沢山の電話の受け答えをし、疲れてしまったし、しかしヒヨコたちの安全が保証され、安心してしまい、なんだかその日はすごく眠ってしまった。
その後、怖くなったので井戸には厳重に蓋をし、しばらく考えないようにしていた。その数ヶ月後、また大きめの地震があった。怖くて、井戸の方を見ることが出来なかった。

その井戸

その井戸

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-06-09

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