山頂と遊泳

ここからは海が見えないから空を眺めている。
北の空に、シロナガスクジラが浮いていた。
オレンジ色に光る太陽へ向かって進んでいくけれど、
まるで夜につかまらないよう泳いでいるみたいだ。

湿度が高いせいで呼吸がすこし重たかった。
道路脇には、ニセアカシアの花殻が落ちていた。
あの蜜の香りを吸いこんだらあのときの気持が、
嬉しいって気持が分かるようになるかな。

電波時計をリセットしても過去には行けないらしい。
あともどりできないことばかりだから、こらえるよ。
今度は伝えたいからね。
泣くのはどうして、って、嬉しいからだよ、って。

いつのまにか、クジラは灰青の中にとけている。
次は別の空を泳いで、月を隠しているのかもね。
大きな尻尾に引きずられ、波の雲がかき混ぜられている。
あふれたしぶきが、合図のような雨になる。

山頂と遊泳

山頂と遊泳

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-06-08

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